LOGIN怒号と炎の轟音の渦中で、ラミアは釘付けになったように立ち尽くし、荒い息を繰り返していた。先ほどのディリアンの言葉が脳裏に激しくぶつかり、彼女がずっと心の奥底に封じ込めてきた古い記憶の欠片をこじ開けたのだ。水でも、風でも、そして通常の魔法でもない。「おばさん」アイレの声は焦燥に満ちていたが、その眼差しは集中し、周囲の黒く焦げた地面を這い回っていた。「この火、普通の魔法の炎みたいな広がり方じゃないわ」ルナがしゃがみ込み、指先で地面に触れ、すぐに弾かれたように手を引っ込めた。「そうね……熱が上からじゃなくて、下から湧き上がってきているわ。絶対にこの近くに何かがあるはずよ」ラミアの心臓が激しく波打った。今にも崩れ落ちそうな山小屋へ、そしてまるで自らの意志を持っているかのように不自然に這い回る炎の道筋へと顔を向ける。その瞬間、彼女は全てを悟った。「これは魔法の炎じゃない」ラミアは突如として声を上げた。その声は、混沌を切り裂くほどに鋭かった。「悪魔の炎よ」少し離れた場所に立っていたセレーネが、弾かれたように顔を向けた。その顔は蒼白で、煙と涙で両目は真っ赤に充血している。「どういうこと……?」ラミアの声は震えながらも、確固たる響きを帯びていた。「悪魔の炎は、魔力を源としないの。それは召喚の起点――『巣』から生まれる。その巣が存在する限り、この火は永遠に消えることはない」ディリアンがそれを聞いた。彼は即座に振り返り、殺気を帯びた鋭い眼光でラミアを射抜く。「確かか?」ラミアは頷いた。「間違いないわ。私は以前、これを見たことがある」彼女は拳を強く握りしめる。忌まわしい記憶が脳裏を駆け巡った。「このまま水をかけ続けても、徒労に終わるだけよ」一秒の躊躇もなく、ディリアンは即座に行動を起こした。「発生源を探せ!」彼の号令が、炎の咆哮を叩き伏せて響き渡った。「この山小屋の周囲の地面を、隙もなく調べ上げろ!封印、魔法陣、少しでも不自然なものを探し出せ!」騎士や使用人たちが一斉に散開した。彼らは魔術師ではないため、それを見つけ出すのは至難の業だった。肌を刺すような熱気に焼かれながらも、剣や素手を使って泥臭く地面を掘り返す。時間が、ひどくゆっくりと流れているように感じられた。炎は吼え続
ディリアンの返事も待たず、セレーネは再び駆け出した。ディリアンは呆然と立ち尽くしたまま置き去りにされた。山小屋を飲み込むどんな炎よりも恐ろしい、氷のような悪寒が彼の胸を這い上がってきた。ディリアンは我に返り、なりふり構わずセレーネの後を追って走り出した。マントが風に狂ったように翻り、呼吸は激しく乱れていたが、彼の視線は遠ざかっていく妻の背中だけを死に物狂いで捉えていた。彼らが辿り着いた時――全てはすでに、炎に飲み込まれていた。その小さな山小屋は、もはや元の形を留めていなかった。貪欲な炎が這い回り、木の壁を、屋根を、触れるもの全てを食い尽くしていく。木材が崩れ落ちる音に、耳障りな爆ぜる音が混ざり合う。まるで建物そのものが、完全に崩壊する前に断末魔の悲鳴を上げているかのようだった。濃い黒煙が空高く立ち上り、晴れ渡るはずの朝の空を覆い隠していく。「水だ!水を持ってこい!」誰かが叫んだ。騎士や使用人たちが水桶を持って走り回り、絶え間なく水を浴びせかけている。防護を担う数人の魔術師が結界を張ろうと試みていたが、炎の勢いは一向に衰えなかった。浴びせられた水は一瞬にして蒸発し、まるでその炎が全てを跡形もなく飲み込んでしまっているかのようだった。ジェイが先頭に立ち、顔を煤で真っ黒にしながら全員を指揮しようとしていた。「近付きすぎるな!この火は――」彼が言葉を言い終えるより早く、一本の木の梁が轟音と共に崩れ落ち、飛び散った火の粉が山小屋の近くにある大木に燃え移った。数秒のうちに、炎は乾燥した枝を伝って急速に燃え広がり、使用人の宿舎の方へと迫っていく。「火が燃え移ったぞ!」別の騎士がパニックに陥って叫んだ。その場は完全に修羅場と化した。使用人たちが宿舎から飛び出してくる。悲鳴を上げる者もいれば、手当たり次第に荷物を運び出そうとする者もいた。大木に向かって水がかけられたが、炎の勢いはあまりにも凶暴だった。まるで意志を持って生きているかのように動き回り、決して消火されることを拒絶しているかのようだった。セレーネは、その混沌の真ん中に立ち尽くしていた。燃え盛る山小屋に視線を釘付けにしたまま、彼女の体は激しく震えていた。叫び声や炎の轟音にかき消されそうなほどの掠れた声で、彼女は呟く。「ダグニー……ディヴリオ……」
イラルドは深くお辞儀をして応じた。「かしこまりました、奥様。そのように申し伝えます」イラルドが退出し、再び扉が閉まると、セレーネは椅子の背もたれに深く寄りかかった。そして、少しの間目を閉じる。新しい一日はまだ始まったばかりだが、この城の平穏がそう長くは続かないことを彼女は悟っていた。一方で、別の場所ではもっと軽やかな朝の時間が流れていた。ジェイはちょうどディヴリオとダグニーをラミアの山小屋へ送り届けたところだった。二人の子供たちは騎士たちとの朝の鍛錬を終えて疲れているようだったが、その疲れも彼らの顔に浮かぶ活気を消し去るには至らなかった。地に足をつけるなり、ダグニーは腕を思い切り伸ばして大きなあくびをした。山小屋にはラミアの他に誰もおらず、皆それぞれの仕事や活動に出ていた。ラミアはそこで、三人のやり取りを静かに見守っていた。ダグニーは顔を向けて尋ねた。「ねえジェイおじちゃん。騎士たちの訓練を見に行っても、すぐ戻ってきてくれるんでしょ?」ジェイはしゃがみ込み、ダグニーの目線に合わせて微笑んだ。そして優しく頷き、丁寧な口調で答えた。「もちろんです。全て順調かどうか、確認してくるだけでございますから」ディヴリオの目がすぐに輝き、嬉しそうに声を上げた。「じゃあ、後でまた一緒に遊べるね!」ジェイはディヴリオの頭を軽くポンポンと叩いて応じる。「ええ、その通りでございます。今はラミアと一緒に待っていてください。後で必ず戻ってまいります」そして、わざと真面目な顔を作って二人を戒めた。「それから、悪戯はなさらないように。言いつけを破ったら、ラミアに罰を与えられてしまいますよ」ダグニーとディヴリオは顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべてほぼ同時に叫んだ。「約束する!」ジェイはそれからラミアへ視線を向け、元の口調に戻して後を託す。「こいつらを頼む」ラミアはいつものように、ただ短く頷いただけだった。だが、二人の子供を見つめるその眼差しは優しかった。ジェイが立ち去った後も、ダグニーとディヴリオは大人しくしてはいなかった。彼らはボールを見つけ出すと、山小屋の小さな前庭でそれを蹴り合い、楽しそうな笑い声を上げながら走り回り始めた。転びそうになったり、ボールが遠くへ飛びすぎたりするたびに、時折小さな
その問いはひどくシンプルだった。だが、セレーネの心のど真ん中を正確に撃ち抜いた。彼女はこれまでで最も長い沈黙に沈んだ。少し顔を背け、きらきらと瞬くクリスタルのシャンデリアの光を見つめ、やがて静かに微笑んだ。本音と呼ぶには、あまりにも穏やかすぎる笑みだ。彼女は静かに問い返す。「腹立たしい、ですか?」息を吸い込む。「ええ、もちろん腹立たしいですわ」ジェイレスは口を挟まなかった。セレーネは声を落として言葉を継ぐ。「皆が見ている前で、自分の夫が他の女の隣に立っているのです。どうして腹を立てずにいられましょう。それでも私は、胸の内で何が引き裂かれていようと、平気な振りをしなければならないのです」ドレスの脇を握りしめる指先に力がこもる。彼女はさらに言葉を重ねた。「ですが、その怒りは……いつでも表に出して良いものではありませんわ。あまりにも多くの目があり、あまりにも多くの利害が絡んでいます。感情に任せて怒りをぶつけたところで、解決できない事もあるのです」ジェイレスはより一層深刻な表情で彼女を見つめ、真っ直ぐに指摘した。「あなたはまだ、彼を庇っている」セレーネは薄く微笑んだが、今度はその笑みに苦い味が混じっていた。彼女は正直に答える。「そうかもしれませんわね。あるいは、誰が正しくて誰が間違っているのか、もう問いただすことすら疲れてしまっただけかもしれません」彼女は顔を向け、穏やかでありながらひどく脆い眼差しでジェイレスを見つめた。「自分が何を見たのかは分かっています。自分が何を感じたのかも。そしてそのどちらもが、等しく私を傷つけているのです」ジェイレスは沈黙した。宮廷の噂話などより遥かに深い、底知れぬ何かに気付かされたかのように。セレーネはもう一度溜息をつき、静かに吐露した。「私が最も苛立っているのは、モルウェンナに対してではありません。私自身が傷ついているというのに、それでもなお、物分かりのいい人間を演じ続けなければならないという現実に対してですわ」遠くから、再び宴の笑い声が聞こえてくる。ジェイレスは長くセレーネを見つめていた。その穏やかな顔の裏に隠された何かを読み取ろうとするかのように。彼は声を荒らげることはしなかった。このような張り詰めた状況において、彼の口調はむしろ不自然なほどに平坦
ずっとワイングラスを手にしたままだったセレーネが、ついに顔を上げた。顔に浮かべた笑みは崩さなかったが、その瞳の奥の色はより澄み切り、そしてより鋭く変わっていた。彼女は静かに問い返す。「謝罪ですって?私があなたに、一体何をしたというのですか?」広間の空気が一瞬にして張り詰めた。モルウェンナは微笑み続けた。まるで自身が本当に理不尽な被害者であるかのように、忍耐強く、理解に満ちた笑みだった。彼女は柔らかく、しかし的確に急所を突く声で答える。「私を尊重してくださるからこそ、ここにいる全ての淑女の皆様が、皇妃殿下も含めて、私に謝罪してくださいましたわ。彼女たちは私を無視し、孤立させ、さらには不当に差別したのです」全員の視線が彼女に集まった。モルウェンナは少し言葉を区切り、セレーネを真っ直ぐに見据える。「あなたもその全てにおいて、大きな役割を果たしていたのではありませんこと、公爵夫人?」セレーネはすぐには答えなかった。ワインを少しだけ口に含み、それから平坦な声で告げる。「私はそのようなことはしておりません。そして当然ながら、それらは全て、各々がこの社交界でどう生き抜くかを選び取った、個人の決断によるものですわ」モルウェンナは心底失望したかのように、小さく息を吐いた。そして、少しだけ圧をかけるように言葉を継ぐ。「ですが、お分かりになるはずです。私があなたを尊重しているように、あなたも私を尊重する必要があるのだと」セレーネは眉をひそめた。モルウェンナは横へ顔を向ける。「そうは思いませんこと、公爵閣下?」ずっと沈黙を保っていたディリアンが、ついに視線をセレーネからモルウェンナへと移した。短く間を置き、彼はようやく口を開く。「セレーネは、セレーネの好きにすればいい」その一言は、何かが砕け散るような音を立てて広間に落ちた。モルウェンナは絶句した。ほんの一瞬で笑みが完全に凍りつき、それから再びセレーネへと視線を戻す。周囲の客たちは互いに顔を見合わせていた。ディリアンの答えは明白だった。彼はモルウェンナを庇うつもりなど、毛頭ないのだ。モルウェンナはその気まずさを必死に塗り潰そうとした。彼女の声は先ほどよりも明らかに硬くなっていた。「せめて公爵夫人に、振る舞いに気をつけるよう注意を促すくらいはできるはずです
セレーネは薄く微笑み、静かに答えた。「ええ……もしそうしなければならないのなら、好きにさせればいいですよ」その言葉はひどく軽やかで、彼女の胸の奥底には微塵も触れていないかのようだった。周囲の何人かもつられて微笑む。安堵から笑みを浮かべる者もいれば、どう反応していいか分からずに笑う者もいた。エステラはセレーネの顔をしばらく観察し、冗談めかしながらも明らかな探りを入れるような声で尋ねた。「今回は本当に……彼が愛妾を囲うのを許すおつもりなの?」セレーネは一切の迷いなく言い切る。「あの方がそれを望まれるのでしたら」それを聞いた女たちの顔に再び安堵の笑みが浮かんだ。その一言が、最初から澱のように溜まっていた緊張感を解きほぐすのに十分だったからだ。エステラは低くくすくすと笑い、気楽な様子で手をひらひらと振った。「ただの冗談よ。これで全てが終わったのだから、これからは私たちが結託してあの女を排斥してやるわ」セレーネもつられて笑ったが、その眼差しは鋭さを帯びていた。彼女は軽やかに指摘する。「皆様には到底無理なご相談ですわ。この後、彼女が公爵と共に現れたりすればなおさらですもの」エステラは少しも気にした様子もなく肩をすくめる。「私は全く構わないわ。あの女とはもう、これ以上関わり合いになりたくないの」他の数人の女たちも即座に相槌を打ち、頷いて同意を示した。「その通りよ」「私たちもですわ」「もううんざりだわ」セレーネは彼女たちを少しの間見つめ、薄い笑みを浮かべて広間の方へ顔を向けた。「それでしたら、あの方が到着される前に……今のうちにこの宴を楽しんではいかがでしょうか?」ほぼ一斉に、賛同の声が上がった。セレーネが歩き出そうと振り返った瞬間、誰かとぶつかりそうになる。彼女は反射的に立ち止まった。「失礼――」目の前に立つ人物の顔を見た瞬間、その言葉が途切れた。ジェイレスだった。第二皇子は人当たりの良い笑みを浮かべ、温かな眼差しでセレーネを見つめていた。「ちょうど良い時に到着したようですね、公爵夫人」セレーネは少し驚きながらも、優雅さを崩さずに微笑み返した。「あるいは、最も間の悪い時かもしれませんわ」全ての視線が、一点に集中した。セレーネが何か目立つことをしたわけでも、ジェイ
その朝、セレーネは違和感を覚えていた。朝食の席に、ディリアンがいる。しかも、同じ卓に腰を下ろしている。それは、ほとんどあり得ない光景だった。彼が屋敷にいる日でさえ、朝は執務室か自室に籠もるのが常だった。セレーネも、もう近づこうとはしない。どんな言葉も、どんな気遣いも。彼にとっては「邪魔」でしかないと、知ってしまったから。心の傷が、彼女の足を止めていた。「お祖母さんと母上が、後で来る」食器を置き、ディリアンが言う。セレーネは一瞬だけ彼を見た。「わたくしが、まだ療養中だとお伝えしましたか?」「だからこそ、見舞いに来る」淡々とした答え。セレ
その朝、空気は凍えるほど冷たかった。いつも通り、セレーネはディリアンの姿を見なかった。もはや慣れきっている。夫が屋敷に戻らないことなど、今に始まった話ではない。かつては、城の執務が忙しいのだと自分に言い聞かせていた。だが真実を知ってしまった今、胸に残るのは嫌悪だけだった。心の傷はまだ癒えていない。それでもセレーネは、時間が自分を強くしてくれると、必死に信じようとしていた。しかし、その朝は違った。突然、公爵邸に父、モロー伯爵が現れたのだ。「ヴィヴィエンヌに、いったい何を言った?」低く、重たい声。逃げ場のない問いかけだった。「何を?あの娘が、何か
食堂の空気が凍りついた。セレーネの言葉は氷のように落ち、ヴィヴィエンヌの顔色を奪い、ディリアンを立ち尽くさせる。まるで、初めて彼女を知ったかのように。「これは、お前らしくないな」ディリアンが低く呟く。セレーネは薄く微笑んだ。「わたくしのほうこそ、驚いておりますわ。ようやく、あなたがわたくしを見てくださったのですから」「その言い方、恥ずかしくないの?」ヴィヴィエンヌが堪えきれずに割り込む。セレーネの視線は平坦だった。「お二人に合わせているだけですわ。それで動揺なさるのは、なぜでしょう?」ヴィヴィエンヌは顔を引きつらせ、勢いよく立ち上がる。そのまま足
――流産したばかり?混乱しているだけ?ヴィヴィエンヌは一瞬、言葉を失った。不快感を押し殺すように表情が強張る。ディリアンは彼女の手を無造作に振りほどき、そのまま振り返りもせずに歩き去る。取り残されたヴィヴィエンヌは、その場で静かに目を細めた。唇が歪み、怒りを噛み殺すが、やがてその端に、かすかな笑みが浮かぶ。――セレーネが本気で、離婚するつもりなら……胸の奥で、期待が膨らむ。「レヴェンティス公爵夫人、ね?」その称号を、舌の上で転がすように囁く。ずるりとした笑みが広がり、低く喉を鳴らして笑った。そして何事もなかったかのように、ディリアンの後を追う。…







