登入ディリアンは深く息を吸い込んだ。ひどく息苦しく感じられる。それは怒りからではなく、直視するにはあまりにも困難な「ある事実」に気づいてしまったからだ。謝罪という行為は、彼が普段から慣れ親しんでいるものではない。それは彼が常に正しいからではなく、全てを一人で背負い込み、沈黙を選び、時間が残りの問題を解決してくれると思い込む悪習が染み付いていたからだ。しかし今夜、生まれて初めて、彼は自身の沈黙が中立なものではなく、相手を傷つける決断であったかもしれないということに気づかされていた。彼は言葉を切り、顎をこわばらせた。「俺は……俺からの謝罪に、何かの意味があるのかどうか分からない」セレーネは小さな苦笑を浮かべ、静かな声で諭した。「時にはね、謝罪とは、意味があるかないかの問題ではないの。私たちがかつて間違っていたと認めるための、勇気の問題なのよ」再び沈黙が二人を包み込んだ。冷たい城の階段は、それぞれ異なる形で傷ついた二人の大人の姿を静かに見守っている。ディリアンはこれほどまでに多くの嵐を共に耐え抜いてきたセレーネを見つめた。その夜の彼には、いつものようにすぐ答えを出すことができなかった。そしておそらく、権力や論理、あるいは断固たる決断だけでは解決できない事柄があるのだと、彼が初めて思い知った瞬間でもあった。ある種の事柄には……感情が求められるのだと。翌朝、レヴェンティス城は滅多にない完全な平穏に包まれていた。食堂の高い窓から柔らかな朝日が差し込み、何年にもわたってこの家族と共にあり続けた長い木製のテーブルの表面に反射している。そのテーブルは、幾多の笑い声や言い争い、そして多くの人々の人生を変えた決断の数々を見届けてきた。セレーネはテーブルの端に座っていた。背筋は伸びていたが、その肩はいつもより少しだけリラックスしているように見える。彼女の目の前では、ダグニーとディヴリオがオデットと共に朝食を楽しんでいた。ディリアンの席は空だった。彼はまだ眠っている。決して終わることのない数多の執務を夜通し片付けていたため、疲労困憊していたのだ。セレーネはわざと彼を起こさなかった。重苦しい会話も、下すべき決断も、説明を求めるような眼差しもないまま過ごす方がいい朝というものもあるのだから。ディヴリオはスプーンを握ったまま、長いこと何も口に運ば
ディリアンが戻ってきたちょうどその時、ジェイとビョルンが中庭を横切っていくのが見えた。二人はそれぞれ、ヴィヴィエンヌの荷物が入った木箱や鞄をいくつか抱えている。荷物の量はひどく少なかった。この城でそれなりの期間を過ごした人間のものとしては、あまりにも少なすぎたのだ――そしてまさにその事実こそが、ディリアンの胸に重苦しいものをのしかからせていた。彼は足を止めた。胸のつかえを少しでも和らげようとするかのように、長く、深く息を吐き出す。ディリアンは無言のまま踵を返し、城の中へと戻ろうとした。距離を置くことこそが、最も簡単な逃げ道だった。「ディリアン」背後から呼び止めるその声は穏やかで、決して声を張り上げたわけではなかったが、彼の足を止めるには十分だった。ディリアンは立ち止まった。自分を呼んだ者の顔を確認できるだけの角度に、ほんの少しだけ顔を向ける。冷ややかな目で一瞥するだけだった。それが、彼の長年の習慣だった。彼は抑揚のない声で尋ねた。「何の用だ」ヴィヴィエンヌは彼から数歩離れた場所に立っていた。夕暮れの風が彼女の髪を揺らしている。顔色は蒼白だったが、背筋は真っ直ぐに伸びていた。涙もない。爆発するような怒りもない――ただ、それらよりも遥かに深い疲労の色だけがそこにあった。「あなたって本当に、血も涙もない人間ね」ディリアンの眉間が寄る。「どういう意味だ」ヴィヴィエンヌはひどく苦い、小さな笑い声を漏らした。まるでその問い自体が答えであるかのように、静かに首を横に振る。そして、静かだがはっきりとした声で言葉を紡いだ。「私に謝るべきだとは思わないの?」その言葉には、重々しい非難が込められていた。ジェイとビョルンは反射的に歩みを緩め、ヴィヴィエンヌから数歩後ろの位置で立ち止まる。二人は振り返らなかったが、今の会話は確かに聞こえていたようだった。ディリアンはヴィヴィエンヌを長く見つめ返した。問いかけられてすぐには答えを見出せなかった。そんなことは久しぶりだった。目の前に立つ女は、何かを強要するでもない。哀願することもない。声を荒げて非難することもない。その揺るぎない平静さこそが、理屈で言い負かすことも、権力で押し切ることもできない相手と向き合っているのだと、ディリアンに感じさせていた。やがて彼が口を開く。その
先ほどからヴィヴィエンヌの数歩後ろに立っていたジェイは、ついに耐えきれなくなった。彼が大きく前に踏み出すと、ブーツが庭園の砂利を強く擦る。その声は本人が意図したよりも遥かに大きく、二人の間の空気を切り裂くかのように鋭かった。「ヴィヴィエンヌ。奥様の前で、その言い草は何だ」ヴィヴィエンヌはすぐには答えなかった。彼女は視線を逸らし、葉が黄色く色づき始めた植物の列をじっと見つめる。まるで、目の前にいる二人よりも、庭園の植物に向かって語りかける方を選んだかのようだった。やがて彼女が、抑揚はないが深い疲労を滲ませた声でぽつりと零す。「あんたも、何一つ分かっていないのね」その言葉が、セレーネの背筋をピンと張らせた。彼女の目つきが冷ややかに厳しくなる――それは単なる怒りからではなく、徐々に警戒心へと変貌しつつある「失望」によるものだった。ひどく平静な、あまりにも静かすぎる声で彼女が問い詰める。「つまり、これまでのあなたの行動には全て、何か別の目的が隠されていたということ?」ヴィヴィエンヌが鋭く振り返り、その瞳に強い光を宿した。必死に感情を抑え込もうとしていたが、その声は微かに震えている。「先ほども言ったはずよ。あなたは私のことなど何一つ分かっていない。だから、勝手な言いがかりはやめてちょうだい、セレーネ」セレーネは一歩も引かず、即座に言い返した。「言いがかりなどつけていないわ。私はただ、あなたの言葉を聞き、あなたの行動を見てきただけ。そこから導き出される結論は、自然と決まってくるものよ」ヴィヴィエンヌは短く苦い笑いを漏らした。それは笑い声というよりも、途切れ途切れの呼吸に近いものだった。「違うわ。私が本当に伝えたいことを、あなたが少しも理解していないだけよ」二人の間に沈黙が落ちた。冷たい風がゆっくりと吹き抜け、湿った土の匂いを運んでくる。セレーネは一瞬だけ目を閉じ、心に湧き上がろうとする何かの感情――同情か、あるいは躊躇いか――を必死に押さえ込んでいるかのようだった。だが再びその目を開いた時、彼女の決意はすでに石のように固まっていた。一切の交渉の余地を与えない低い声で、彼女が宣告する。「もういいわ。それなら、荷物をまとめなさい。今日からあなたを城の外へ移すわ」ヴィヴィエンヌの表情が強張った。唇をきつく引き結び
その言葉はあまりにもあっけなく落ちてきた――簡潔で、何の装飾もなく。だが、ヴィヴィエンヌを取り巻く世界が完全に動きを止めるには、それで十分だった。スコップが土を打つ音も、庭師たちの行き交う足音も、庭園の葉を撫でる風のざわめきでさえもが、突如として重苦しい静けさに呑み込まれ、ひどく遠ざかっていくように感じられた。ヴィヴィエンヌはすぐには反応しなかった。彼女の唇が僅かに開き、そしてまた閉ざされる。その視線がゆっくりと動き、セレーネの顔を、そして彼女たちを取り囲む庭園を順に確かめるように見回した。まるで、今しがた聞いた言葉が本当に口にされたものなのか……それとも、自分がそう思い込んだだけなのかを、慎重に確かめようとしているかのようだった。一言ずつ口にするのにも違和感を覚えながら、ゆっくりとその言葉を繰り返す。「城を……出る?」セレーネは短く肯定した。その声のトーンは穏やかで、ほとんど起伏というものがない。「ええ。十分に考え抜いた結果よ」ヴィヴィエンヌが小さく吹き出した。短く乾いた、微塵のユーモアも含まれていない笑い声だった。そして彼女が嘲るように言う。「面白いわね。私、ようやく……受け入れられ始めたと思っていたところなのに」セレーネは全く動じなかった。ヴィヴィエンヌの言葉が彼女の内心に何一つ触れなかったかのように、その表情は徹底して平静を保っている。静かだが、断固たる声で反論した。「これは、受け入れられたとかそういう感情の問題ではないわ。全く別のことよ」ヴィヴィエンヌは庭園へと顔を向けた。ちょうど掘り返されている土や、厳しい冬の到来に備えて根こそぎ引き抜かれていく植物たちをじっと見つめる。そして再びセレーネへと視線を戻し、極めて柔らかな声で問いかけた。非難と呼ぶにはあまりにも優しすぎたが、相手を傷つけるには十分すぎるほど鋭い響きを伴って。「それとも、恐怖心かしら?」セレーネの目つきが、ほんの少し険しくなった。「私はあなたを恐れてなどいないわ」ヴィヴィエンヌの声は低いままだったが、氷の針のように冷酷に突き刺さる。「私のことはね。でも、あなたが『起こるかもしれない』と思い込んでいる何かのことは、恐れているのでしょう」セレーネは少しの間押し黙った。遠くの方で、一人の庭師が額の汗を拭うために作業の手を止め
その微かな声が静まり返った部屋に反響し、今のヴィヴィエンヌと、目の前に座る男とを繋ぐ唯一の架け橋となった。男は果たして自分をかつての恋人だと認識しているのか、過去の罪の象徴として見ているのか、あるいはとうの昔に崩壊した生活の幻影としてしか捉えていないのか。それは誰にも分からなかった。彼が振り向いた。ただ首を回すという単純な動作だった。彼の視線がついにヴィヴィエンヌの顔を捉える。だが次の瞬間、男の様子が一変した。虚ろだった目に、怯えと狂気が浮かぶ。見知らぬ他人よりもはるかに恐ろしいものを目にしたかのように、瞳孔が大きく開いた。彼は口を大きく開け、生々しい恐怖と狂気に満ちた、耳を劈くようなヒステリックな絶叫を部屋中に響き渡らせた。「――アアアアアッ!」ラファエルは勢いよく立ち上がり、その拍子に椅子が後ろへ倒れた。腕を振り上げて身を乗り出す。ヴィヴィエンヌに掴みかかろうとしているのは明らかだった。ヴィヴィエンヌは反射的に後ずさり、心臓が激しく打ち始めた。同時に、付き添いの看護婦が慌てて悲鳴を上げ、大声で助けを呼ぶ。数秒のうちに扉が勢いよく開け放たれた。何人かの職員が駆け込んできて、激しく暴れ回るラファエルを取り押さえようとする――だが、とうに理性を失っている男の力は驚くほど強く、容易には押さえきれなかった。ヴィヴィエンヌはその場に釘付けになり、息を呑んだ。ほとんど声にならない微かな呟きが唇から漏れる。「ラファエル……」職員の一人が、慣れた手つきで素早く注射器を取り出すのが見えた。ラファエルの静脈に鎮静剤が注射される。薬の効果が現れるまでの時間が、ひどく長く感じられた。絶叫は意味を持たないうわ言へと変わり、次第にフェードアウトしていく。強張っていた肉体は力を失い、首がだらりと垂れ下がり、半開きの目のまま、彼はついに完全に静かになった。職員から退室を促す合図を受け、ヴィヴィエンヌはさらに一歩後ずさった。足が床に縫い付けられたかのように重かったが、彼女は大人しく従う。すでに診察室には医師が入り、深刻な面持ちでラファエルの容態を確認した後、ヴィヴィエンヌへと顔を向けた。その声は医師らしく落ち着いていたが、明らかな警戒の色が混じっている。「患者様は、重度のトラウマ性精神障害を患っておられます。見知らぬ人物を前にすると、この
イラルドは押し黙った。最後の書類を机の端に置くと、半歩だけ距離を詰めた。今は慎重に考えを巡らせている様子だった。ただの執事長や腹心の従者としてではなく、この城壁の内で幾多の陰謀と、それによって残された傷跡をその目で見てきた者としての思慮深さだ。ゆっくりと彼が口を開く。「城の人間としてお答えするならば。ヴィヴィエンヌ様を城の外へ移すことは、多くの噂話を鎮めることに繋がるでしょう。全ての貴族が、彼女がここにいることを受け入れているわけではありませんし、騒ぎを大きくするための口実を待ち望んでいるだけの者もおりますゆえ」彼は言葉を切り、さらに真剣な眼差しでセレーネを見つめた。「ですが、奥様のことをよく知る人間としてお答えするならば……この決断は、奥様ご自身にとって重い負担となることでしょう」セレーネは口を挟まなかった。イラルドが言葉を続ける。「ヴィヴィエンヌ様は、若君とお嬢様を、そして奥様ご自身をお救いになりました。その事実は決して消し去ることはできません。もし間違ったやり方で彼女を追い出せば、世間はこの城の人間を恩知らずだと非難するでしょう。しかし、明確な境界線を引くこともなくこのままここに留まらせれば、必ずや別の衝突が起きるはずです」彼は息を吸い込んだ。「ですから私の考えでは、もはやこれは『問題があるかどうか』ではなく、『奥様がそれをどう実行なさるか』という段階のお話かと存じます」セレーネは机を見つめ、冷たい木の縁を指先でなぞりながら問う。「貴方は、どうすべきだと思う?」イラルドが、微塵の迷いもない声で答えた。「もしその決断が下されるのであれば。全ての者の顔が立つような理由を以て、実行なさるべきです。ヴィヴィエンヌ様に相応しい住まいと十分な護衛を与え、決して追い出されたようには見えない、公式な名目をご用意ください。そうすれば、奥様はご自身のお心を裏切ることなく……かつ、公爵閣下のご意志に真っ向から逆らうことも避けられるはずです」部屋は再び静まり返った。セレーネは一瞬目を閉じ、再び開いた。その顔に迷いが消えたわけではない。ただ、「どんな選択をしようとも、必ず代償を支払わねばならない」という冷徹な認識だけがそこにあった。一方その頃。乾燥した葉の温かな香りに満ちた静かな小屋の中で、ラミアはちょうど、淹
その朝、空気は凍えるほど冷たかった。いつも通り、セレーネはディリアンの姿を見なかった。もはや慣れきっている。夫が屋敷に戻らないことなど、今に始まった話ではない。かつては、城の執務が忙しいのだと自分に言い聞かせていた。だが真実を知ってしまった今、胸に残るのは嫌悪だけだった。心の傷はまだ癒えていない。それでもセレーネは、時間が自分を強くしてくれると、必死に信じようとしていた。しかし、その朝は違った。突然、公爵邸に父、モロー伯爵が現れたのだ。「ヴィヴィエンヌに、いったい何を言った?」低く、重たい声。逃げ場のない問いかけだった。「何を?あの娘が、何か
食堂の空気が凍りついた。セレーネの言葉は氷のように落ち、ヴィヴィエンヌの顔色を奪い、ディリアンを立ち尽くさせる。まるで、初めて彼女を知ったかのように。「これは、お前らしくないな」ディリアンが低く呟く。セレーネは薄く微笑んだ。「わたくしのほうこそ、驚いておりますわ。ようやく、あなたがわたくしを見てくださったのですから」「その言い方、恥ずかしくないの?」ヴィヴィエンヌが堪えきれずに割り込む。セレーネの視線は平坦だった。「お二人に合わせているだけですわ。それで動揺なさるのは、なぜでしょう?」ヴィヴィエンヌは顔を引きつらせ、勢いよく立ち上がる。そのまま足
――流産したばかり?混乱しているだけ?ヴィヴィエンヌは一瞬、言葉を失った。不快感を押し殺すように表情が強張る。ディリアンは彼女の手を無造作に振りほどき、そのまま振り返りもせずに歩き去る。取り残されたヴィヴィエンヌは、その場で静かに目を細めた。唇が歪み、怒りを噛み殺すが、やがてその端に、かすかな笑みが浮かぶ。――セレーネが本気で、離婚するつもりなら……胸の奥で、期待が膨らむ。「レヴェンティス公爵夫人、ね?」その称号を、舌の上で転がすように囁く。ずるりとした笑みが広がり、低く喉を鳴らして笑った。そして何事もなかったかのように、ディリアンの後を追う。…
外では、馬の蹄の音が次第に遠ざかっていった。一方、部屋の中では、セレーネが背筋を伸ばして立っていた。まるで、自分の心の壁に決意を打ち付けたかのように。今日から、この結婚は、もはや牢獄ではなく、戦場だ。セレーネは冷たいベッドの上に身を投げ出した。唇が震え、声はかすかな囁きになる。「わたくし、何か悪いことをしたのでしょうか」彼女は五年間、公爵レヴェンティスの妻として生きてきた。五年間、完璧な公爵夫人であろうと努力し続けた。怠けたことなど一度もない。学び、管理、準備、すべてを尽くした。夫の食事から領地の仕事まで、すべてを整えた。ただ一つ、認めてもらいた