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4、空良の望みは全部叶えてあげる

last update Dernière mise à jour: 2026-01-14 20:00:00

「ああ、すまない。気が昂ってつい名を呼んでしまった。実は私は空良の事をずっと前から知っているんだ。私は確かに妖でドムだけれど、空良の嫌がる事だけは絶対にしない。誓うよ」

 体が強張ったのが分かったのか、心を読んだような回答がきた。

「ずっと前って……何処かで会った事ありましたか?」

 自分にはそんな記憶はない。こんなに目立つ男と出会っていれば忘れないとも思う。それだけ圧倒的な存在感があるからだ。

「ふふ、追々話すよ。ただこれだけは覚えておいて。私には空良以上に大切な存在は居ないんだ。だから今の空良を見ているのは正直堪える。空良がツライと私も悲しい。このまま私がケアを続けても良い?」

 白月の表情からは嘘は見受けられないものの、口説き文句にも等しい言葉の羅列はさすがに気恥ずかしくなった。顔が熱い気がして、視線を伏せる。

 先程から心音が早く、掻きむしりたいくらいには胸が苦しい。

 ——何、これ……。

 どうしていいのかも分からなくなってきて視線を彷徨わせた。

「やはり私みたいな妖だと信じられない?」

「…………そんな事ない、です。今までこんな風に扱われたり、気に掛けて貰った事がないので、その……何と言うか、正直戸惑ってしまって……気恥ずかしいと言うか」

 ボソボソと小声で口を開く。

 言葉にすると、主に会社で起きている事を思い出して心の奥が重くなった。

 世の中がこの人みたいなドムで溢れていたらいいのに、と望んでしまう。

「それは嫌なドムに当たったんだね。私がこれからソイツを水底に沈めてこようか?」

「はい……え、え? はい?」

 流れるように返事をしてしまったが、物騒な言葉が混ざっていた気がして即座に聞き返した。

「空良が望むなら今すぐ行って水底に沈めてくるよ?」

「ダメ。ダメです、白月。それは絶対ダメです!」

 首を傾げて「そう?」と不思議そうな顔をしてみせた白月に真剣な顔で「ダメです」と念を押した。

「でも、そのドムに虐げられてサブドロップしていたんじゃないの?」

「そうですけど。でもダメです」

 丁寧さは残しつつ段々砕けた話し方になってきた白月に視線を向ける。言っている事が無茶苦茶だ。

 ——もしかして物騒な妖なのかな……。

 さっきとは違う意味でドキドキしてきた。

「確かに、ざまあみろって言ってやりたいくらいには仕返ししたいとは思ってましたけど、流石にそこまでは……」

 まるで自分の言葉を代弁したような白月の言葉を聞いて、毒気を抜かれる。

 随分と心が軽くなった気がして、フッと表情を綻ばせて口を開けて笑ってしまった。

「あはは、無茶苦茶ですね」

「ふふ、空良が笑ってくれて嬉しい。でもね、ケアを含めたプレイすら出来ないドムが悪いよ。元来ダイナミクスのプレイは信頼関係の置ける相手とすべきだからね。支配しかしない庇護欲の無いドムは相手にしてはいけないよ。どうかそんな奴らの言葉で傷付かないで……。空良が望んで受けたプレイじゃなかったのなら、これからは安心して空良が過ごせるように、ソイツらは寄りつかないようにしてあげよう」

 先程とは違い、悪戯を仕掛けるように白月が笑んだ。

「出来るんですか?」

「他の妖や人の子は分からないけれど、私には出来るよ。空良の望みは私が全部叶えてあげる。空良は私の特別だから」

「っ‼︎」

 心臓の鼓動が早くなり、一音一音が大きく鳴りだした。さっきから心臓が壊れてしまいそうだ。

 たえる間もなく恋情を孕んだ瞳で見つめられると落ち着かない。視線を合わせていられなくてソッと伏せる。

「助かります。可能でしたら、ぜひ……よろしくお願いします」

 願ってもない申し出に、そう言うだけで精一杯だった。

「ふふ、では敬語からやめてくれる? 私は空良と仲良くなりたい」

「わかりまし……。あ、わかっ……た」

 敬語が当たり前になっているので、つい言いかけてまた言い直す。白月は穏やかに笑みを浮かべるだけで咎めたりはしなかった。

 自分でつけといて何だが、本当に月のような男だと思った。

 太陽のように明るく主張するんじゃなく、陰からソッと見守り優しい明りで包み込んでくれる月。満ちたり欠けたりと表情も変わる。

 ——変な妖だ……。

 嘆息した。

 名前をつけろと言ったり、契約してもいいと言ったり、ケアをしたいと言ったり……もしかしてまた今後も出会えたりするのだろうか。期待してしまい、どこか面映い気持ちになる。

「ありがとう空良。——良い子goodだね。それに照れてる仕草がとても愛らしい」

 一般的なコマンドと呼ばれている単語を発せられていないのに、白月に良い子だねと言われる度にフワリと心を持ち上げられる。思わず感嘆の吐息がこぼれた。

 ——また体が楽になった。これ……どんな仕掛けなんだろう。

 やたら甘ったるい吐息になってしまったのは、男の甘い言葉がうつってしまったからだと考える。

 頬が熱を帯びている気がして手を当てた。

 こういうのは初めての経験で、嬉しそうにしている白月の反応が気になったが、気まずくてまだ視線を合わせられない。

 見てしまえばきっと白月の瞳にこもっている熱が伝染してしまう。随分と間を開けて視線を向けたのに、しっかりと視線が絡んだ。

 心臓は脈打ち過ぎてもう息苦しい。感じ慣れない甘い空気がくすぐったくて、つい眉根を寄せた。

 ——なんか……体が変だ。

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