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5、妖の住む異世界

Penulis: 架月ひなた
last update Tanggal publikasi: 2026-01-16 20:00:00

 ドムからは虐げられてばかりで、まともにプレイをした試しがない。

 社会に出てからは、ダイナミクスという第二次性をずっと恨んで生きてきた。

 どんなに努力して頑張って成果を上げたとしても、サブだと分かった途端に鼻で笑われ虐げられる。サブという属性を個人としての特徴だと理解して貰えない。これまでずっと耐え忍んで過ごしてきた。

 ——それなのに、どうして?

 白月にはもう慣れてしまったかのように嫌悪感すら抱かない。

 それどころかこうして抱かれていると、今まで感じた事もないくらいの多幸感に包まれていて寧ろ心地良かった。

 思考までふわふわと浮いているようで、眠気に誘われている。

「眠っていていいよ。雨に濡れて体が冷えてしまっている。先ずは体を温めよう。私の屋敷に連れて行っても良かった?」

 無意識にコクリと頷いていた。

「本当に——良い子goodだね、空良」

 ——あ、まただ。

 全身が浮遊感に捉われてしまい、何も考えられなくなっていく。

 初めて通りゃんせを聴いた時と同じ感覚だ。いや、それよりもずっと深い安堵感と高揚感に包まれてしまっている。

 ——気持ち良い。

 本格的に眠くなってきて、意識はそこで途切れた。

 ドム、サブ、スイッチ、ノーマルで区別されるダイナミクスと呼ばれる第二次性が出来たのはもう何百年も前だという。

 小学校高学年の授業で一通り説明され、簡単に説明書きされたパンフレットを貰った。

 七割はノーマルという何の癖も持たない普通の人間に分類され、ドムやサブへの認識度はとても低かった。

 中学生へと上がった頃に第二次性の検査を受け、空良はサブだと医師から説明を受けた。

 ドムは支配力を有してはいるが、庇護欲も持ち合わせている。それとは逆の立場にいるのがサブだった。サブは庇護欲を求めて支配されたいという願望が無意識下にある。

 その一方でドムとサブの性質を持ち合わせていて、相手次第で変化出来るのがスイッチと呼ばれていた。本当に稀な存在だ。

 学生の頃は良かった。分け隔てなく友達もそれなりにいたし楽しかった。自分には底抜けの明るさはないけれど、それとなく仲良く出来ていたと思っている。

 しかし、社会に出て一変した。

 サブへの解釈違いや偏見は空良が思っていた以上に酷かった。

 ドムから実際に受ける扱いは過酷で、コチラの意思を無視したコマンドを発動され、苦痛や辛酸を舐めさせられる。それで何人かのサブが精神を病んで会社を辞めていった。人権を無視した扱いに辟易とさせられる。

 通常はコマンドを発令された後はサブへのケアと呼ばれるコマンドを行使されるものだが、ケアはされた事がなかった。

 これが続くとサブは心身ともに弱ってしまい、錯乱とも言えるサブドロップと呼ばれる状態異常を来たす。

 そんな日々を送っていると、身体的にも精神的にも参ってしまう。段々と生きヅラさを覚えるようになってきた。それもあって、空良はとうとう全般的にドムを受け付けなくなり、ドム嫌いに傾倒していった。

 ——どうして、あんな奴らがいるんだろう。

 半数以上を占めるノーマルになりたかった。

 目を開けると、木目の天井が視界に飛び込んできた。

 二十畳はありそうな畳の部屋に厚みのある上質な布団が敷かれていて、その上に寝かされている。髪も綺麗に乾かされており、身にはやたら手触りのいい着ながしみたいな物を着せられていた。そこでハタッと気がつく。

 ——脱がせられてるって事はもしかして……?

 合わせ目から恐る恐る覗いてみて項垂れる。思っていた通り履いていない。素肌の上に着せられている。

 ——恥ずかしい。

 衣服を全て取り払われていたのは若干恥ずかしく思いつつも、文句を言える立場にはない。寧ろここまで世話をやかれていたのに、全く気がつけなかった事に驚きを隠せなかった。

「初対面の人に何をやらせてるんだ僕は。こんなの最悪じゃないか」

 初めて出会ったというのに、何から何まで世話になってしまい、申し訳なくて空良は顔を青くさせた。

 屋敷に連れて行くと聞かされはしたが、ここが何処なのか皆目見当もつかない。当の本人は今のところ不在で、近くには見当たらなかった。

「白月?」

 室内には床に置くタイプの木でできた和室照明が置かれていて、周りに張られている和紙を透過し、暖色系の灯りが点っている。

 一体どれくらいの間寝ていたのだろうか。外はすっかり陽が落ちて暗くなっていた。

 襖は全て開け放たれ、廊下を挟んだ先にある広い中庭にも等間隔で庭園灯が設置されている。形のいい木や砂利、石畳に池など、手入れの行き届いた庭を雰囲気豊かに照らしていた。

 赤を貴重とした柱が続く屋敷内も含めて、何とも名状しがたい風情があった。

 ——凄い。格式高い神社や旅館にきているみたいだ。

 室内から呆然と外を眺める。二十数年余り、これまで生きてきてこんな綺麗な場所を見た事がない。正に狐に摘まれた状態で、しばらくの間動けなかった。

 ——ここって本当に現実世界……なのかな?

 白月が自らを妖と言っていたのと、住んでいる屋敷に行くと言っていたのを考えると、異世界である可能性も捨てきれなかった。

 視界に入ってくる光景が余りにも綺麗で現実離れし過ぎていて、上手く飲み込めずにいる。

 広すぎるこの空間に一人でいるのは心細くて、周りを見渡しながら声を発した。

「白月……」

 見える範囲内には姿が見えなくて左右を見渡す。少し離れた部屋にも行ってみようと思い立ち、体を起こして布団を畳んだ。

「白月?」

 普段よりも大きめの声で名を呼んでみても、耳が痛くなるくらいの静寂に包まれていて何の音もしない。

「白月」

 また白月の名を呼ぶ。どこからも返事は聞こえない。

 ——困ったな。どこへ行ったんだろう。

 一人残されてもどうして良いのか分からない。部屋の中を行ったり来たりと繰り返して、意を決して廊下に出た。

「もう起きて大丈夫なの?」

「ひぅっ!」

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