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last update Last Updated: 2025-10-31 06:00:43

 それから日が経った。

 浅野邸で過ごすようになってから、誰からのいじめもなくなり、体を休めることも自由にできるようになり、食事も十分食べることができるようになった。美朗の周りには、かつてないほど穏やかな空気が流れていた。やせ細っていた美桜は、お腹の膨らみと共に健康的な体を取り戻しつつあった。

 まだ肌寒いが、もう4月に差し掛かる頃。風に流れて花の香りがするようになった。本格的な春の訪れを告げているのだろう。

 美桜は縫い物の針を手に取り、窓辺で陽射しを受けながら静かに布を縫っていた。

 白い布に、薄紅の糸で刺繍を施している。すでに1枚、レースの手袋は完成させた。

 一成に頼まれて、商品を作ることになったのだ。浅野財閥が本格的に洋服を手掛ける店をするらしく、少しずつでいいから商品を作って欲しいと言われたのがきっかけだ。色とりどりの生地、針などが用意されたので、美桜は退屈することなく作品を作ることに没頭している。

「やっぱり、こうしていると落ち着くわ」

 そっと微笑む美桜のもとに、ノックの後、紅茶のポットが載ったトレイを抱えた夕子が入ってきた。

「お嬢様、お加減はもうよろしいんですか?」

「ええ、もう平気。あなたたちがいてくれるおかげね」

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