母も売春婦だったらしい。
幼い頃にこの街に売られ、そして病で呆気なく死んだと、物心がついた時に姐さん達から教わった。
容姿が優れている訳では無く、特に人気の無かった彼女は、生きる為に沢山の客を安く取り、誰の子か分からない私を授かり、産んで数年後、性病にてこの世を去った。
そんな話を聞いた時、最初に抱いたのは怒りだった。
だってそうでしょう?
見た事も無い母親を、子供を同じ売春婦にした張本人を。
どうして庇う事が出来る?
幼かった事も相まって、その頃の私は全てを憎み、そして拒絶していた様に思う。
でも一つだけ感謝出来る事が有る。
それは自分を、母親とは似ても似つかぬ程の美人として産んでくれた事だ。
あの母親からこんな絶世の美少女が産まれるなんて。
大きくなるにつれて、母親を知る人達は皆そう言ってたっけ。
だからそこだけは感謝してる。
私に他の誰にも持ち得ない『美貌』を持たせてくれて。
そう、美しさは武器だ。
私はまだ幼いながらもそれを学んだ。
この街では特にそれが顕著だった。
何もしなくても男は寄ってくるし、意地悪な姐さん達も陰口をたたく事しか出来ない。
何故なら私がこの街で
「ゲホッ!…ハア…ハア…クソ!クソ!クソ!」残る魔力を全て治癒魔法に回し、全力で傷を治療しながら悪態をつくルエル。彼は現在、助けに来た女性に運ばれながら移動中だった。傍から見れば完全なる敗走である。それは彼の高いプライドでは、耐え難い苦痛であった。「絶対に…ただでは済まさねぇ…」ここまで順調に進んできていた人生計画が、たかが少女に壊された現実に。いや、この魔力だけ無駄に消費し、一向に治らないこの呪いに。あの程度の相手に深手を負わされ逃げている現実に。何より傍らの女に助けられている現状に。今起きている全てに、彼は怒りを覚えていた。「本当、珍しいわね。貴方がここまで感情を顕にするのも」彼女の言葉にうるせぇよ、と内心思うルエル。昔から彼女は、ルエルに対する好意を口にしていた。しかしルエルは感じていた。それが普通の人間が抱く恋愛感情とは、まるで別物の感情という事に。そもそも2人は味方でも無ければ、仲間という訳でも無い。むしろ敵としていがみ合っていた時間の方が長いのである。そんな相手に対して、どうして好意を持てようか。彼女が本当に欲しているのは自分
母も売春婦だったらしい。幼い頃にこの街に売られ、そして病で呆気なく死んだと、物心がついた時に姐さん達から教わった。容姿が優れている訳では無く、特に人気の無かった彼女は、生きる為に沢山の客を安く取り、誰の子か分からない私を授かり、産んで数年後、性病にてこの世を去った。そんな話を聞いた時、最初に抱いたのは怒りだった。だってそうでしょう?見た事も無い母親を、子供わたしを同じ売春婦じょうきょうにした張本人を。どうして庇う事が出来る?幼かった事も相まって、その頃の私は全てを憎み、そして拒絶していた様に思う。でも一つだけ感謝出来る事が有る。それは自分を、母親とは似ても似つかぬ程の美人として産んでくれた事だ。あの母親からこんな絶世の美少女が産まれるなんて。大きくなるにつれて、母親を知る人達は皆そう言ってたっけ。だからそこだけは感謝してる。私に他の誰にも持ち得ない『美貌ぶき』を持たせてくれて。そう、美しさは武器だ。私はまだ幼いながらもそれを学んだ。この街では特にそれが顕著だった。何もしなくても男は寄ってくるし、意地悪な姐さん達も陰口をたたく事しか出来ない。何故なら私がこの街で
「お姉様〜!」自分を呼ぶ声に振り返る。見れば自分より2歳年下の妹が駆け寄って来ていた。今日は待ちに待ったピクニックの日。忙しい父と母が、この日の為に予定を空けて連れて来てくれた、家族水入らずの時間。前日に神様にお願いしたお陰か、今日はとても天気が良く、気温も調度良い。正に絶好のお出掛け日和だった。「お姉様捕まえた〜!」「わっ!もう、びっくりした!全く、甘えん坊なんだから…」抱き着いてきた妹を抱き返し、優しく頭を撫でてやる。政務で忙しい父や母の代わりに、幼いながらも面倒を見ていたからであろうか、妹は自分にかなり懐いていた。もちろん、忙しさにかまけて自分達を蔑ろにする様な両親では無い。記念日はもちろんの事、こういった何気ない日にも、自分達の為に予定を空けてくれていた。そんな両親は、少し離れた所でこちらを見ている。自分は恵まれている、幼いながらもそう感じていた。両親から愛情を受けて育てられ、こんなに可愛い妹も居る。そんな妹と共に優れた才能にも恵まれ、それを伸ばせる環境も有る。臣下は自分達に忠義を持って仕えてくれているし、臣民達も家族の様に接してくれている。隣国との関係も良好で、正に平和そのもの。
「ハーッハッハッハッハ!見ろ!てめぇのよく分からん魔法も俺の魔法の前には無力!このまま無限の闇に引きずり込んでやるよぉ!」レイの魔法、『電磁加速魔弾レールガン』がブラックホールに飲み込まれたのを見た時、ルエルは自身の傷の痛みも忘れて笑いが込み上げ、勝利を確信するに至った。それはそうだろう、今も重力に引き摺られ、レイが暗黒に飲まれそうになるのを、剣を地面に突き立て必死に堪えている。しかしブラックホールに飲み込まれるのも時間の問題だろう。この魔法は維持させるのに常に魔力を消費する。魔力を注ぐのを止めればこの魔法は解除されるが、逆に言えば注ぐ魔力を増やせばその分引き寄せる重力が増すのだ。(このまま限界まで魔力を注いで、アイツがどれだけ耐えられるのか見届けてやるぜ)実際のところ、ルエルの方も魔力はほとんど残っておらず、この魔法を維持するだけで精一杯だった。しかし最早レイに打つ手は無し、そう判断し残りの魔力のほとんどをこの魔法に充てる事を決める。しかしルエルは知らなかったのだ。最後まで油断や慢心を捨て切る事が出来なかったその傲慢さ、ソレこそがこの戦いの命運を分けたのだと。(来た!)周囲を視ながら好機だと悟るレイ。ルエルは完全に油断し、障壁以外の魔法を用意していない。残りの魔力量を視るに、どうやら完
明らかに先程までと様子が違う。ルエルが初めに抱いた感想はそれだった。(アイツの放つ圧力プレッシャーが今までのそれと比では無い。もはや俺・達・レベルかもしれねぇ)しかし理解が及ばない。直前にレイが放った言葉、それはルエルが先程も聞いた物と全く同じだったから。(『ギ・フ・ト・』、アイツは確かにそう言っていた。だが何だ?明らかにあれは『神性付与ギフト』の範疇に収まらない力だ。『神性付与ギフト』にそんな力が秘められているなんて事は聞いた事が無ぇ)かつて部下に『神性付与ギフト』を授け、自分も似た力を使う。更にそんなバケモノ共がゴロゴロ居る所で日々渡り合っているのだ。裏社会の秘密と言われているこの力すら、他の人間より詳しいと自負している。しかしそんなルエルですら今の状況は聞いた事がない。(まさかあ・の・力・を神性付与ギフトと勘違いしてんのか?それならそれで問題だが…)
自分の体からミシミシと音を立て、骨が軋んでいくのを感じるレイ。何とか現状から逃れようとするが、上からの重力が動く事を許さない。「ぐう…ううううううう!」降り注ぐ重力に抗い、空いている左手をルエルへと伸ばす。しかし重力に逆らえず、すぐ地面を掴むことになってしまった。そんな様子を見下ろすルエル。先程までの慇懃無礼な所作とは打って変わって、粗野な態度で口を開く。「これ程の傷を負うのは久しぶりだ。てめぇみてぇな小娘がよくもやってくれたな?」その瞳は怒りの炎を湛え、ギラギラとした雰囲気を醸し出している。口調すらも先程とは全くの別物であり、まるで別人の様だとレイは感じた。「…それが…本性って訳?…随分猫を被って…いるのね?」レイが挑発する様に口を開くも、それには答えず代わりに重力が増し、更に地面へと押し潰されていく。「あう!」「口の利き方には気ぃつけろガキ。今がどんな状況かよく考えてから喋るんだな。てめぇの命は俺が握ってんだからよ?」もはや怒りの感情を隠しもしないルエルに内心焦りと、そして未だに計画通りに事が進んでいる事に、笑みを浮かべそうになるレイ。何故ならまだ自分は生きているから。