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2-50.蘇芳家(1/3)

last update Last Updated: 2025-08-26 06:00:22

 千福家の土蔵のある竹林で鞠野フスキに会った後、ホンダ・バモスTN360の後部座席に乗せて貰った。

「全速力で行きましょう」

 と言って低速力で走り出したバモスくんは、しばらくしてN市へ向うバイパスに乗った。大曲大橋を越えて辻沢のさらに南部へ向う道へ入る信号待ちをしているとき、

「これから山椒農家さんを訪ねるよ」

 鞠野フスキが教えてくれた。山椒農家さんといわれたので、てっきり冬凪が親しくしているの四ツ辻の紫子さんのところだと思ったけれど、そうではなく別の場所だった。

「蘇芳家というんだよ。千福家や調家とも縁のある旧家で、南辻沢の山間地のほとんどを所有している大地主さんだけど、ご当主は女性で、年齢も君たちとそんなに変わらない方なんだ」

 また辻沢の旧家が出てきた。冬凪を見ると、

「蘇芳家も六辻家の一つだけど、調、千福より格下」

 注釈を入れてくれた。あたしの頭には冬凪のヴァンパイアの権力闘争説があったから、調・蘇芳連合VS千福家的な構図をつい考えてしまう。

「その人が爆弾を作った人なんですか?」

「それは僕にもよくわからなくてね」

昨夜、千福まゆまゆさんに土蔵に呼ばれて、明日冬凪とあたしが来るから蘇芳家に連れて行って爆弾を作った人に会わせるように言われた。それが誰かは聞いてないとのこと。

今回の辻沢は前回から一ヶ月経った6月の下旬ということだった。ルーフなしドア板なしでボディーはポールとバーで出来たバモスくんは吹きさらしだ。それなのに鞠野フスキは半袖半ズボン姿で流石に寒いんじゃないか。

「その格好、寒くないですか?」

 冬凪も同じ事を思ったらしい。運転席の鞠野フスキに声を掛ける。

「僕はね。ちょっとでも長く夏を感じていたいんだよ。だから隙があったら夏の装いをするんだ」

 と青い顔をして言った。後部の荷台を見ると幌らしき布が畳んで置いてある。

「これ、掛けましょうか?」

「そうしよう」

 途中のコンビニに寄って鞠野フスキがバモスくんに幌を掛ける間、暖かい飲み物を買いに入る。冬凪とあたしはどの季節に来ることになるかわからなかったので夏冬両方の着替えを持って来たけれど着いたばかり
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