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31話

Auteur: 東雲桃矢
last update Dernière mise à jour: 2025-12-04 18:13:06

車内は静かだが、気まずい雰囲気はない。雅紀は上機嫌で運転し、敏貴は窓の外を眺めている。本人は隠しているつもりだろうが、ガラスの反射で泣いているのがまる分かりだ。

「修学旅行に必要なの、買いに行こうか」

「ん」

以前は不安になった短い返事も、今は心地良い。

ショッピングモールにつくと、キャリーケースや変圧器。酔い止めなどを買う。

「念の為にトイレットペーパーも持っていったほうがいいらしいな。家にあるのでいいか?」

買い漏れがないか、しおりを見ながらチェックする。

「いいよ」

「分かった。にしても、海外か……」

「行ったことねーの?」

「ねーな。だから、土産話楽しみにしてる」

「そうかよ……」

相変わらずぶっきらぼうな返事だが、以前のような刺々しさはない。

(これでいいのかもな)

敏貴を見て、そう思う。和解したての頃は寂しさもあったが、急にベタベタ来られても、喜びより困惑が勝つだろう。

夏休み終盤、パスポート引換可能の日になり、ふたりで取りに行く。

「良かったな、間に合って」

「うん、正直、ヒヤヒヤしてた」

パスポートを片手に、敏貴は苦笑する。引換書に、引換できる日時は書いてあるが、敏貴の同級生の大半はこれを機に取得する。遅れる可能性も考慮していたが、杞憂だったようだ。

「んじゃ、食材買いに行くか」

「行きたい店あるから、ショッピングモールがいいんだけど、いい?」

「珍しいな、いいぞ」

雅紀はショッピングモールへと車を走らせた。目的地につくと、雅紀は食材の買い出し、敏貴は個人的な買い物をしに行く。買い物が終わったら、1階のベンチで待ち合わせだ。

約3日分の食料品を買うと、待ち合わせ場所のベンチに行く。敏貴は片手にネイビーの紙袋を持って待っていた。

「おまたせ。好きな子へのプレゼントか?」

「ちげーから」

敏貴はそっけなく言い、ふんだくるように雅紀が持っていた荷物を持ち、外に向かって早歩きをする。

「思春期は難しいな」

苦笑し、敏貴の後を追う。

帰宅して冷蔵庫に食品を詰め込むと、ルイボスティーを飲んでひと息つく。

「こういう時間、大字だな……」

しみじみする自分に歳だなと小さく笑う。

「ん」

敏貴が先程持っていた紙袋を、雅紀に差し出す。

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    「敏貴……」 先生の前だと言うのに、涙が止まらない。ぼやけた視界で原稿用紙を見つめる。「お父さん、どうぞ」「すいません……」 差し出されたティッシュで涙を拭うと、先生も泣いていたのが分かった。「本来なら、作文は一定期間保管してから処分するのですが、これはさすがに処分できなくて……。もちろん、他の生徒もそうなんですけど」 慌てて付け足す先生に、笑みがこぼれる。「ぜひ、他の生徒さんの作文も、返してあげてください」「そうですね、そうします」「これ、一旦お返ししますね。敏貴だけ返却されないのは、おかしいでしょう?」 名残惜しいが、作文を先生に返却する。「はい、分かりました。今日はお時間を作ってくださって、ありがとうございます」「こちらこそ、素敵なことを教えてくれて、ありがとうございます」 雅紀は一礼すると、教室を出た。誇らしい気持ちで、帰路を辿る。「ただいま」「ん、おかえり」 帰宅すると、敏貴はスマホゲームをしている。そっけなくしている敏貴だが、本当はあんなに親想いの優しい子だと思うといじらしくて、愛おしくて、思わず抱きしめる。「な、なんだよ!? あー! 邪魔したから負けたじゃん! サイアク……」「ごめんごめん。でも、ありがとね、敏貴」「は? 何が?」「ふふ、別に。今夜は焼肉行くから、お風呂の準備してきて」「よく分かんねーけどやったぜ!」 敏貴はスマホを置いて、風呂を沸かしに行く。そんな息子の後ろ姿を見ながら、雅紀はひとり、幸せを噛みしめるのだった。

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