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九の蝶〜夏妃の章〜

Penulis: 士狼かずさ
last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-28 22:16:06
 俺は「死化粧師しけわいしの一族」の長男として、生まれた。

 父さんも、母さんも、兄弟もみーんな

 死にゆく者の声が、聞けたんだ────

 「どうして兄ちゃんは、死人の声が聞こえないの〜?」

 弟の無邪気な問い。

 釜の飯が炊ける音。

 家の前を流れる、川のせせらぎ。

 囲炉裏をかこむ家族だんらんの時間の、残酷な問いかけだった。俺はその頃、9歳だったな。あの頃はまだ、自分の才能が、これから目覚めるんだと……信じてたんだ。

 俺は飯をガガッとかき込み、勢いよく答える。

 「さあな、そのうち才能が開花すんじゃねーのかな?」

 「僕は5歳やけど、もう聞けるよ〜」

 「そうだな」

 そんな時、母上はいつだってかばってくれたっけ。

 「千年兄ちゃんだって、すぐ聞けるようになるわ。今はまだ目覚めてないだけよ〜」

 「そうだよねー!」

 息を吸うように、死人の声を聞く弟や妹たち。

 「いつになったら、死化粧師の才能に目覚めるんだろう?」

 そんな違和感を抱えながら、俺は年を重ねていったんだ。

 俺は長男だ。

 つまり一族の長だ。

 なのに10才をすぎても、15才をすぎても……一向に死人の声は耳に届かなかったんだ。16歳の誕生日を迎えた日、父上は憂いを帯びた瞳で、俺にこう告げた。

 「お前は才能の開花が遅い。だから、相方をつけることにしたぞ」

 「は、相方!?」

 突然の相方宣言である。え、相方って誰!?

 俺は素直に、疑問をぶつける事にした。

 「あの、死化粧師の相方って……」

 「心配するな、もう来てもらってる!」

 父上は囲炉裏から、土間の玄関を指さした。雪が花びらのように静かに降っている。庭の木々も、屋根も地面もうっすらと白い雪を纏って、白銀の世界に彼女は立っていた。

 そこには大人男性よりデッカイ、大剣を

 握りしめた少女が佇んでいたんだ。

 え、ちょっ、かわいくない!?

 「死化粧師の夏妃なつひだけど。千年って、あんた?」

 「えっと、俺だけど……」

 なんか背がちっちゃい。

 大剣にはおよそ不釣り合いな、チビチビの彼女。

 あんた呼ばわりで声はクールだが、顔はつり目で童顔だ。陶器のように白い肌、唇は椿のような真紅の色をして、目尻は花びらのように朱色に縁取られていた。

 翡翠色の髪が陽に透けて、肩でパツンと切り揃えられている。

 浅葱色の短い着物
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