「明日は百鬼夜行ですものね」 聞いたことのある声──────── 殺気を感じてふりかえると、夕月夜と水鏡さまがこつ然と立っていた。 冬に咲く藤の花、満開のその下で。 今あたしは、捨て猫だった自分を拾ってくれた恩人。 水鏡様と戦っている。「この日をずっと待っていたわ。さあ、一緒に行きましょう。秋華」「水鏡さま、あたしは行けない」 光をうけて、夕月夜の銀の髪が煌めいている。 紫紺の瞳に雪華の肌。 藤色の着物に、瑠璃色の帯。その細い帯布から藤が一輪、かんざしのように揺れていた。 「傾国の美少年」と噂されるだけあって、夕月夜はムラサキの闇から浮かび上がるように美しい。負けない、きっと水鏡さまを取り戻してみせるから……! 夕月夜の隣で、水鏡さまは紅蓮の炎を纏ったような単衣に身をつつみ、あやしく微笑みを浮かべる。腰より下まである銀髪は、さながら流れる河のようだわ。 緋色の瞳を細めると、ゆっくり長い爪を、私に向かって指さした。「夢の中は、まほろば。誰も死ぬ事のない理想郷。さあ、此処にいらっしゃいな」「水鏡さま」「醒めない夢の中でなら、貴方の願いも叶うのよ……」 懐かしい声。 あたし、水鏡様が好きだった。だけど今は、絶対に負けられない理由があるんだ! 刹那、夕月夜の手の平から金色の光が瞬いた。 その光が明滅し、大きな玉となる。何かの秘術だろうか、人の顔ほどの大きさまで膨れ上がると、まるで球遊びのように夕月夜はその輝きを、私に向けてポンと放った……! 「散れ。花火の如く」 「まだ散るわけに、いかねーんだよ!」 「千年!」 ああ、千年だ……! 彼が光の玉を、刀で弾いた! 空へと放たれた球は、空中で花火のように爆ぜた。グラリ、ふらついたあたしを片手で抱き寄せると、千年は夕月夜に向かい、言の葉を紡いだ。 爆風で藤の花びらが……桜のように乱舞する。 紫の花霞に千年の横顔が、クッキリと浮かび上がる。それはこの世の何よりも、美しく見えた。「死化粧師の唐橋千年だ。水鏡さまだっけ、秋華が泣いてるんでね。この戦い、やめてくんねーかな?」 そう告げると、片手で日本刀をチャキ……っと、構えなおす。 千年、あたしが恋した人。 人が死ぬ間際、最期の声を聞くという「死化
Last Updated : 2025-11-18 Read more