LOGIN親友・原田菜緒(はらだ なお)が、私の彼氏・佐々木悠太(ささき ゆうた)の子供を妊娠していると知った。私・星野月子(ほしの つきこ)は、迷わず悠太に別れを告げ、その夜のうちにマンションを出た。 翌朝、兄・星野真也(ほしの しんや)から電話がかかってきた。 「昨夜、悠太と菜緒は車でお前を探していて、崖から落ちた。二人とも助け出せなかったらしい」 さらに狂ったように斎場へ駆けつけた私に、目を真っ赤にした真也は追い打ちをかけるように言った。 「お前の勘違いだ。菜緒のお腹にいる子は、俺の子だ」 それから私は罪を償うため、すべてを捨てて神嶺市の大照寺へ巡礼に向かった。 3年間、私は何度も寺へ足を運び、仏前で手を合わせては、ただひたすら祈り続けた。それで心身共に疲れ切っても構わなかった。 しかし今日、私は見てしまった。3年前に死んだはずの悠太と菜緒が、お揃いのマウンテンパーカーを着て、笑顔で2歳ほどの男の子にお菓子を買い与えている姿を。 私はふと俯き、自分の惨めな姿に目を落とし、自嘲するように笑った。なのに、気づけば頬を涙が伝っていた。 罪を償うためだと思って過ごしてきたこの3年間は、実は二人が一緒になるために仕組まれたものだった。
View More1年後。江原市のある静かなカフェにて。私は窓際の席に座り、窓の外の行き交う人々で賑わう通りを眺めていた。左足の怪我はとうに完治していたが、雨の日になると今でもかすかに痛み、まるで私にこれまで3年間のどれほど滑稽で痛ましい過去を経験してきたかを思い知らせているようだった。だが、もう私は自分を罰することで罪を償う必要はなくなった。向かいの椅子が引かれ、洗練されたスーツ姿の智子が腰を下ろすと、手にしていた判決書を私に差し出した。「最後の判決が出ましたよ」そう言って、彼女は店員が運んできたばかりのコーヒーに手を伸ばし、口をつけた。「悠太さんは保険金詐欺、業務上横領、および不法監禁の罪で、併合罪として懲役7年を言い渡されました。真也さんは主犯格であり、巨額の公金横領だけでなく公文書偽造の罪も加わり、懲役10年です。それから、菜緒さんですが……」智子は少し言葉を止め、声にわずかな皮肉を込めた。「彼女は当初、懲役3年の判決を受けましたが、拘置所で精神状態が著しく悪化し、重度の妄想型統合失調症と診断されました。現在は療養センターへ強制的に移送され、医師の監督下で治療を受けています。彼女の子供は、悠太さんの両親が引き取って育てることになりました」私は静かにそれらの結果に耳を傾け、指先でコーヒーカップの縁をそっと撫でた。すべてに決着がついたのだ。彼らが作り上げた嘘は、やがて自分たち自身を縛る檻となった。一番皮肉なのは菜緒だ。私を陥れるために作った「精神疾患」という嘘が、最後には彼女自身を縛ることになるなんて。「ご両親のほうはどうですか?」と智子は尋ねた。「郊外に庭付きの小さな家を買い、介護士も手配しました」私は淡々と答えた。「最初は真也が服役する事実を受け入れられず、私を冷血だと罵り、親子の縁を切るとまで息巻いていました。揉める気もなかったので、真也の犯した罪をありのままリストにして見せたんです。今はすっかり大人しくなりました。月に一度、生活費を届けに行ってはいますが、それだけの関係です」私はもう、歪んだ家族の関係に囚われないようにすることを学んだ。血縁関係があるからといって、人を勝手に傷つけていい盾にはならないのだ。智子は頷き、その瞳に安堵の色を浮かべた。「この半年のカウンセリ
「月子!助けてくれ!僕は刑務所に入りたくないんだ!」顔中を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにした悠太には、先ほどまでの余裕など微塵も残っていなかった。「全部真也に無理やりやらされたんだ!あの時の偽の事故を起こして保険金を騙し取ろうって言い出したのも、葬儀の偽装や後始末もすべてあいつが手配したんだ!僕は怖くなって承諾するしかなかったんだ!お願いだ、5年間の愛し合った情に免じて助けてくれ!警察に自分は『精神疾患があって、この証拠も全部妄想ででっちあげたものだ』って言ってくれ!」そう言われ、私はこのかつて愛して止まなかった男を見下ろしながら、ただ反吐がでるような気がした。これが、かつて私が生涯を託せると信じた人間だったのか。窮地に追い込まれると、最後の体面すら保てず、へたり込んで許しを乞うようになるなんて。私は彼の手を思いきり蹴り飛ばすと、氷のように冷たい声で言った。「悠太、この3年間、ネットで私をダシにして稼いでいた時、どうして5年間愛し合ったことを思い出さなかったの?精神的に正常な人間を精神疾患がある療養センターに閉じ込めた時、それをなんとも思わなかったわけ?」そうこうしていると、警察官が歩み寄り、強引に悠太を引き離すと、手錠をかけた。一方、真也は完全に取り乱した。彼は2名の警察官に両肩を押さえつけられながらも、私を強く睨みつけ、その瞳には怨念と不服が満ちていた。「月子、勝った気でいるのか?」彼は歯を食いしばり、叫び声を上げた。「俺たちを刑務所に送ったら、両親はどうやって生きていくんだ!世間から後ろ指を指されるんだぞ。死にたくなるに決まってるだろ!この自己中な恩知らずめ、お前が家族もろとも壊滅させたんだ!」だが、私は平静に彼の視線を受け止めた。彼から罪悪感を押し付けられても、私の心は微動だにしなかった。「家族を壊滅させたのは私じゃない。あなたの強欲と執着よ。親のことは心配いらないわ。もう弁護士に連絡したの。あなたが私の名前を使って騙し取ったお金は、すべてあなたから取り戻して、親の老後資金にするつもりよ。あなたは服役しながら、自分の言っていた深い兄妹の絆とやらをせいぜい噛み締めるといいよ」すると、真也は顔から一気に血の気が引き、しぼんだ風船のように、ついにあがくのをやめた。3人の中で、菜緒の状
「焦らないで、もっと面白いのはこれからよ」そう言って、私は再び再生ボタンを押した。今度は、療養センターのベッドで菜緒が私に語ったあの言葉だった。悠太とケンカするたび、どうして私がタイミングよく現れて彼を慰められたと思う?全部、真也が仕組んだことよ。あなたが絶望に沈んでいくのを、みんなから見捨てられるのを横目で見て、心の底から胸をすくわせていたよ」すると、またしても会場全体が一瞬にして凄まじいどよめきに包まれた。これは単にアクセス数を悪用しているだけじゃなく、道徳の最低線を踏みにじる倫理的スキャンダルだ。実の兄が妹の恋人や親友と結託して、実の妹を陥れたというのか?VIP席に座っていた菜緒は、顔から血の気が引いていた。腕の中の陸は周囲の雑踏に怯え、わんわんと泣き出してしまった。彼女は咄嗟に立ち上がって逃げ出そうとしたが、目ざとい記者たちに瞬く間に取り囲まれた。「あなたが録音に出てくる親友の方ですか?」「抱いているお子さんは一体誰の子ですか?3年前の転落事故の真相は何なのですか?」菜緒は顔を必死に覆い隠しながら、甲高い声を張り上げた。「撮らないで!私、あの人なんて知らない!彼女は頭がおかしいのよ!」私は彼女のぶざまな姿を見つめながら、一歩一歩彼女の目の前へと歩み寄った。「私を知らない?3年前、江原市のマンションで私の手を取って、悠太を私に返すって言った時は、そんなこと言っていなかったじゃない」私は彼女の顔を覆う腕を強引に引き離し、不安に泳ぐその目を真っ直ぐに見つめた。「菜緒、あなたが偽の事故で保険金を騙し取ったのを警察が突き止められないとでも思っているの?」保険金を騙し取ったという言葉を耳にした瞬間、真也は完全に動揺した。彼は記者たちの囲みを押し分け、私の胸ぐらを掴み上げると、目を見開いて怒りを露わにした。「月子!お前は今日、俺たち全員を台無しにしなきゃ気が済まないのか!俺はお前の実の兄だぞ!」見慣れた、だが醜く歪んだその顔を見つめながらも、私の心には驚くほど何の波風も立たなかった。ただ、可笑しくてたまらなかった。「実の兄?」私は彼の手首を掴み返し、口の中で血の味がするまで思いっきり噛みついた。真也は悲鳴を上げて私を振り払った。「他人とグルになって私を陥れた
左足のギプスは雨水でふやけて柔らかくなっており、私はどこで拾ったとも知れない木の枝を杖代わりに突きながら、まるで地獄から這い出てきた修羅のように立ちはだかっていた。会場全体が、死んだように静まり返った。私は一歩一歩、痛む足を引きずりながら、最も光の眩しい場所に向かって歩を進めた。本来なら華やかであるはずのレッドカーペットの上に、私の足元から滲み出た泥水と血の混じった跡が刻まれていく。「警備員!警備員はどこだ!なんでこんな正気じゃない奴を中に入れたんだ」真也が真っ先にはっと気づき、顔色を一変させると、トランシーバーに向かって怒鳴り散らかした。その指示で、数人の警備員がすぐさま駆け寄り、私を取り押さえようとしてきた。だが、私は抵抗しなかった。ただ声を張り上げ、かすれた声を広々とした会場に響かせた。「悠太!私を探してたんじゃないの?本人が目の前にいるのに、なんで顔を見ることもできないのよ!」それを聞いた瞬間、会場の記者たちは一斉にざわめいた。「これって動画に出てた、あの巡礼の女の子じゃないか?」「なんであんな格好をしてるんだ?どこから逃げてきたんだよ?」「早く撮れ、撮るんだ!」これで悠太が被っていた愛情という名の仮面は割れてしまった。彼は血相を変え、マイクを握る指の関節が白くなるほど力が込められた。「月子……どうして君がここに?療養センターにいるはずじゃ……」そう言った途端、口を滑らせたことに気づいた彼は、慌てて取り繕って叫んだ。「病気がまだ治っていないのに、どうして勝手に抜け出してきたんだ?」彼は大股でステージから飛び降りると、自らの体でカメラのレンズを遮ろうとした。「皆様、申し訳ありません。元恋人は長年のうつ病のせいで精神的に病んでしまって……現在、私たちは必死で彼女の治療をしようとしているんです……」「精神を病んでいる?」私は冷笑を漏らし、ありったけの力を込めて警備員の手を振り払った。そして私は濡れそぼった病衣のポケットから、智子から渡されたボイスレコーダーを取り出し、高く掲げた。「本当に私が精神的に病んでいるのか、それともただ私を監禁するために、あなたたちが裏で手を回して診断書を偽造させただけなのかしら?」それを見た真也は狂ったように躍りかかり、私の手にあるボイスレコーダーを奪