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第6話

Auteur: 雛咲レイ
美夕の両親は早くに亡くなっており、幼い頃から祖母の手で育てられた。近頃は認知症を患い療養院に入居していたが、つい数日前も面会に行ったばかりだった。その時は、祖母を研究所がある街へ転院させる準備をしていたところだったのだ。

それなのに、なぜ「もう長くはない」だなんて。

どうしてそんなはずがあるのか。

電話の向こう側は混乱に包まれていた。病床に横たわる桜庭美和(さくらば みわ)が、うわ言のように美夕の名を呼んでいる。

「美夕……美夕はまだ来ないのかい?お祖母ちゃんは会いたいよ。美夕と凛はいつ……ここへ来てくれるんだい?」

「お祖母ちゃん、美夕だよ!今すぐ行くから!」

美夕は泣き叫び、着替えもそこそこに部屋を飛び出したが、玄関先で即座にボディガードたちに阻まれた。

「美夕さん、社長のご命令がない限り、お通しすることはできません」

焦燥で身を焦がす美夕は、震える手で何度も何度も凛に電話を掛けた。

一度、二度、三度……

何十回掛けたか分からない。絶望に心が折れかけたその時、ようやく電話が繋がった。

「凛、お願いだから出して!お祖母ちゃんが危篤なの。最後のお別れをさせて!」

電話越しに泣き崩れる声を聞き、凛は勢いよく立ち上がって車の鍵を掴みかけた。

だが、不意に何かが脳裏をよぎったのか、湧き上がった慈悲の心を一瞬で押し殺し、冷徹に言い放った。「美夕、あの男に会うためなら、祖母が危篤だなんて嘘までつけるのか?俺を騙して外に出ることばかり考えて、あの男はそこまでお前にとって大事なのか?」

その言葉に、全身を圧倒的な絶望が駆け巡る。

「凛、違うの、そんなことじゃない……!」

騙しているなんて。

言葉の途中で、玲奈の甘ったるい声に遮られた。

続けて、唇を絡め合うような生々しい音が響き、唐突に電話が切れた。

再度掛け直しても、凛の端末は電源が切れていた。

美夕は極限の絶望に突き落とされた。なりふり構わず玄関へと駆け出したが、当然のようにまた阻まれる。

もはやこれまでだと、彼女は果物ナイフを掴むと、真っ赤に充血した目で自分の首元に突きつけた。

「通して!さもないと死ぬわ!」

訓練を受けたボディガードたちは、極めて素早い動きで彼女からナイフを奪い取った。

「お戻りください、美夕さん。我々も命令に従っているだけなのです」

無力感が全身を覆い尽くす。お祖母ちゃんが待っているのに、まだお祖母ちゃんのところに辿り着けない。

美夕は追い詰められ、ボディガードの目を盗んで三階へと駆け上がり、迷いなく窓から身を投げた。

ドサリという重い音と共に芝生に叩きつけられ、全身の骨が悲鳴を上げるような激痛が走る。

彼女が飛び降りるとは誰も予想していなかったのか、追っ手の影はない。

脚が折れているのかどうか、血が止まらないのもお構いなしに、美夕は歯を食いしばって這い上がり、通りかかったタクシーを捕まえて病院へと急いだ。

「運転手さん、お願い、急いで!もっと早くして!」

美夕は涙を必死に堪えながら、何度も急かした。

血にまみれ、擦り傷だらけの彼女の姿を見た運転手は、何も問うことなくアクセルを強く踏み込んだ。

療養院に到着し、病室へと猛スピードで駆け出す。

だが、あと一歩届かなかった。

部屋の入り口に飛び込んだその時、看護師が美和に白い布を被せているのが見えた。

目は閉じられ、口元は少しだけ開いている。会いたかった孫の到着を待たずに、祖母は無念のまま息を引き取ったのだ。

胸の奥から押し寄せてきた悲愴が、一瞬にして全身を飲み込んだ。美夕は崩れ落ちるようにその場に膝をつき、嗚咽を漏らした。

「お祖母ちゃん!!!」

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