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・Chapter(57) 告白、破綻

last update Last Updated: 2025-07-30 21:53:07

「実は、私。

結婚する事になったんですね。

相手は……、和田さんです。

確か瑞穂さん、和田さんと会社が一緒ですよね?

だから、もうダイちゃんから……。

じゃない、和田さんから聞いてるかもですね。

あの、ここだけの話なんですけど、私。

和田さんの事が、子供の時からずっと好きだったんですね。

初めて和田さんに会ったのは、私が小学生の時です。

野球部の集まりか何かで、ウチに当時の主だった野球部の部員の人が何人か来たんですね。

で、ナギーさんとかに混じって、和田さんを初めて見たんですけど、その時から和田さんって、優しくてしっかりした人で凄く格好いい人だな、って思ったんです。

もう、一目惚れでしたね。

心、ドキドキして止まらない、っていうか。

そして、小学生ながらに思いましたよ。

私、この人と絶対結婚する、なんて。

で、今となっては笑い話なんですけど、小学生だっていうのに、私。

トイレか何かで、和田さんが一人になったの見計らって追い掛けると、その勢いのまま和田さんに告白したんですね。

『和田さん、私と付き合ってくれませんか?』って。

そしたら和田さんは、苦笑いを浮かばせて私の頭に手を置くと、こう返してきたんです。

『ありがとう。

でもね、俺、マイちゃんと付き合う事は出来ない。

マイちゃん、まだ小学生だしね。

まだ、子供だってのに、仮にマイちゃんと付き合ったとしたら俺、マイちゃんのお兄さんから殺されるよ。

あの、誤解しないで欲しいんだけど俺、マイちゃんの事が嫌い、って訳じゃないからね。

マイちゃんは、小学生とは思えないくらい可愛いしね。

多分、俺がマイちゃんと同い年なら、喜んで付き合ってるよ。

でも、俺から見たら、マイちゃんはやっぱり「先輩の可愛い妹」なんだよ。

付き合う事は出来ないけど、マイちゃんのその気持ちだけは受け取っておくよ。ありがとう』

和田さんからこう言われた時は、ショックでした。

そして、なんで私、もっと早く生まれてこなかったんだろう、って思いましたよ」

その時、ウェイトレスがカフェオレを持ってくる。

杉浦マイはそれを受け取り、スティックシュガーを入れると、カフェオレをスプーンでかき混ぜる。

「で、和田さんに振られた訳なんですけど……」

かき混ぜたカフェオレを杉浦マイは一口飲むと、再び語り始める。

「でも、私。

どうしても、和田さんの事が諦めきれなかったんですね
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