「今日は窓《そっち》から来たのか」
「“来てくれたのか”でしょ? さぁ、早く脱いで」 「お前、雰囲気も何も無いな」 「まったくです。品位の欠片も無いですよ、ノーヴァ」 「あぁそう、それは悪かったね。そんなのどうでもいいから、おいで」俺はノーヴァの言葉に逆らえず、すたすたと歩み寄る。
「良い子だね」
そう言って、ノーヴァは俺の首筋に吸い付いた。
「うっ、くっ······」
「あぁ····。やはり、ノーヴァに血を吸われているヌェーヴェルは唆りますねぇ」 「うるせぇよ変態。それより、こいつが飲み過ぎないように、注意くらい··ンンッ、しろよ。またお預け、くらうぞ··んあっ」 「ぷはぁ····大丈夫だよ。今日はこれだけにしておいてあげるから。ヴァニル、昨日のお詫びだよ。好きなだけ楽しんでいいからね」 「おや、いいんですか? じゃぁ、お言葉に甘えて──」俺は完全にモノ扱いだ。ノーヴァはヴァニルと入れ替わり、椅子に座ってじっとこちらを見ている。
足を組み背もたれに身を預け、なんとも我儘放題な王子の如くふんぞり返っている。が、その優美な様《さま》に見惚れてしまう自分に腹が立つ。“待て”を解除されたヴァニルは、タガが外れたように俺の首へ喰らいつく。このまま肉身まで食べられてしまうのではないだろうか。そう思わせるほどの激情をぶつけてくる。
血を吸われている間、より深い快楽に堕ちるのは、ノーヴァよりもヴァニルの時なのだ。この差は一体何なのだろう。 そんな事をふわふわする頭で考えていると、ヴァニルのデカブツが俺の穴を押し拡げながら入ってきた。いつの間にやら、しっかりと解し終えられていたようだ。「おい、血を吸うだけじゃなかったのか!?」
「すみま「はぁんっ、ふぅ··んぉ゙っ──なっ····ヴァ··ニル····?」「気がつきましたか? 意識を失いながらも、ずっと可愛い声が漏れていましたよ」「知らねぇ··よ····ちょ、待へ、お願いらから」「おや、焦らして欲しいんですか? こうですか? ゆっくりがいいんですか?」 興奮しきったヴァニルは止まらない。ギラついた深紅の眼なんて、瞳孔が開いてるんじゃないか? 何より、俺を喰い殺してしまいそうな牙がチラついて怖い。 俺が息も絶え絶えに声を漏らしていると、意地悪くゆっくりと引き抜き、押し込むように静かに最奥へねじ込む。奥すぎて少し痛みを感じるが、おそらく痛みさえも快楽へと変えられているのだろう。快感へ変換しようと、脳が身体を狂わせる。「んぐっ、あ゙ぁ゙っ! も、ホントに、無理だ··って····」「あと少しだけ、いただきますよ」「はぁ゙っ····ん゙ん゙っ、やらぁぁっ!! ぃあ゙っっ!」「くっ、んっ──」 この絶倫バカめ。奥に射精しながら、飲み干す勢いで血を吸いやがる。「ヴァニル、その辺でやめておきなよ。ヴェルがまた壊れるよ」「····んはぁ······ん? おや、いけませんね。夢中になりすぎてしまいました」 口端に付着した俺後を、親指で拭って舐めとるヴァニル。俺を惑わせる、麗しい容姿と言動に反吐が出る。 それにしたってまったく、毎度毎度この吸血鬼共は! 快楽に身を委ねすぎだ。 俺も人の事は言えんが、限度というものがあるだろう。なんだ
***──バァァンッ 2匹の吸血鬼を叩き出し、ヌェーヴェルは力一杯に扉を閉めた。 しょぼくれた顔のヴァニルと、終始無表情のノーヴァ。2人が一体何を考えているのか、理解できないヌェーヴェルは苛立ちを抑えられなかった。「ノーヴァ、何故あんな事を?」「だって、ボク隠し事なんてできないし、事実に反する事は言えないもん。それにボクの感情なんて関係ないでしょ。それは非合理だよ」「昔から貴方は、クソがつくほど真面目ですよね」「真面目じゃないし。お前みたいに、器用になんてできないだけだよ。悪い?」「いいえ、貴方の良い所です。ですが、本当に良いのですか? ノウェルとヌェーヴェルが交えても」「············嫌だよ」「そうですか。わかりました。では、どうにかしましょう」「どうにかって、どうするの?」「任せてください。ノーヴァ、貴方に悲しい思いはさせません」 そう言ってヴァニルは屋敷を飛び出して行った。──カタンッ、カタカタッ 、カチャッ 今夜は風が強い。ノウェルは自室に篭もり、学院の課題を進めている。 すると、突然窓が開き蝋燭の火が消えた。それと同時に、チクッとした痛みが首筋に走る。その途端、ノウェルはふわっと意識を飛ばしてしまった。 次にノウェルが目を覚ました時、両の手脚が麻紐でベッドへ繋がれていた。藻掻けば藻掻くほどキツく絞まり、擦れて痛みが伴う。「なんだ、これは····」 警戒しながら辺りを見回すノウェル。すると、脚元に人影が見えた。「だ、誰だ!」「ふぅ····静かにしてください。あまり騒がれると都合が悪いので。言う事を聞いていただけないなら、力づくで黙
「貴方は本当に、ヌェーヴェルにそっくりですね。顔も体つきも、ここも」 ヴァニルは、ノウェルのイチモツを強く握った。「うぁっ····痛いだろ! やめろ! 何と淫猥な化け物だ!」「本当はヌェーヴェルにもこんな風に酷くしたいのですが、ノーヴァに叱られますからね。ああ見えて、ノーヴァはヌェーヴェルを大切に扱っているのですよ。私はついついヤり過ぎてしまって。ですから今、実はとても興奮しているんです」 恍惚な表情《かお》でヴァニルが瞳に写しているものは、眼前のノウェルではなくヌェーヴェルだった。「私は別にね、貴方を傷つけたいわけじゃないんですよ。ですから、ちゃんと解してあげますし、快《よ》くしてあげますからね」 ヴァニルはノウェルのナカを指で掻き乱し、自分のモノを収めんがため拡げた。ノウェルの苦痛に歪む顔は、ヴァニルをさらに高揚させる。「も、やめてくれ····これ以上は、んぅ····おかしく、なってしまう」「そうですか、早く欲しいですか。指では物足りないと? いいでしょう。では、早速いただきましょうか」「違っ··──んぐぅ····」 心積りなどさせる間もなく、ヴァニルはずっぽりと半分ほど押し込んだ。 「ん゙あ゙あ゙あぁぁぁっ!! 待てっ! 大きいっ····それ以上は、入らな·····んぐぅぅ····」 ノウェルの制止など無視して、ヴァニルは容赦なく根元までねじ込む。 「本当に煩い口ですね」 そう言って、ヴァニルは煩わしそうにノウェルの口を手で塞いだ。「ヌェーヴェルは獣のような汚い声で喘ぎません
屋敷に戻ったヴァニルは、まっすぐヌェーヴェルの部屋へ向かった。そして、自らの穢れを拭わんと、寝ぼけ眼のヌェーヴェルを一心不乱に犯す。 あまりにも夢中になっているヴァニル。制止を懇願するヌェーヴェルの声も届かない。「ヴァニル! ヴァニル!! もっ、やめっ、て、くれ····死んじゃ··う····」「ダメです。まだまだこれからですよ。ふふっ、こんな事で死にゃしませんよ」「イキ··っぱなしで····息、できなっ······」「仕方ありませんね。ほら、休憩させてあげますから息してください」 ヴァニルはそう言うと、腰を止めてヌェーヴェルの血を啜り始める。「んっ····」「甘い声を漏らしてないで、呼吸を整えてくださいよ」「は··、じゃ、吸うなよ。つぅかなんっなんだよ、お前。どうした、何かあったのか?」 明らかに様子のおかしいヴァニル。ヌェーヴェルは、好き勝手に犯されている腹立たしさよりも、理由が気になってしまった。「貴方はどうして、そう他人の事ばかり気にするのですか? 今、貴方が何をされているかわかってますよね?」「え、なんで俺怒られてんの?」「ふっ··、息整いましたね? はい、じゃぁ再開しますよ」 ヴァニルは再びリズム良く、かなり早いテンポで腰を打ちつけ始めた。 ヌェーヴェルが失神してもなお、腰を止めることができず犯し続ける。ヌェーヴェルは意識を飛ばしながらも嬌声を零し、枯れることなく潮を噴き続けた。 朝食を求めて部屋を訪れたノーヴァがそれを発見する。ノーヴァの来訪にも気づかず腰を振り続けるヴァニルは、重い一撃を顔面に喰らい漸く正
ところで、ヴァニルはどうして突然あんな狂行に出たのだろう。「おい、ヴァニル。俺はどうしてあんなに、その、手酷く犯されたんだ? 何かあったのか?」「いえ、それは、そのーぅ······」 長く尖った爪で、頬をポリポリ書いて明後日の方向へ視線を逸らすヴァニル。隠し事をしているのは明瞭だ。「何かやらかしてきたんじゃないの? ヴァニル、言って」 ノーヴァの高圧的な言葉尻と眼光に負けたヴァニル。観念したのだろう、重い口を開いた。 「実は──」 ヴァニルはノウェルへの蛮行を洗いざらい白状した。「で、俺とノウェルを重ねて乱暴にシたが、俺ではないから満足できなくて上書きするために俺を犯しに来たと?」「まぁ、そんなところです」「おい、ノーヴァ。こいつをどうしてくれようか」「そうだなぁ····これはキツめのお仕置きが必要だよね」「はい、甘んじてお受けします。さぁノーヴァ、私に罰を下してください」 申し訳なさそうな表情とは裏腹に、頬を赤らめ拳を握り締めて言いやがる。どう見たって、何かを期待しているじゃないか。「こらこらこら。こいつ、ノーヴァからのお仕置きだと喜んじまうぞ」「じゃぁ、ヴェルが決めなよ」「俺が? ん~、そうだなぁ······そうだ、生殺しの刑なんてどうだ?」「いいね。それ採用」 生殺しの刑、それは文字通り。ノーヴァの食事を見るだけで、許可がおりるまで血の一滴も飲めず、俺に指一本触れる事さえ許されない。 念の為、ノーヴァはヴァニルが暴れないよう椅子に縛り付けた。だが、これが問題だった。お預けを食らう事は勿論、縛られた事に興奮し始めたのだ。「んっ····待て。おい、ノーヴァ。あいつ色々とヤバいぞ」
「んぁ····動くな、ケツが裂ける。奥、それ以上は、ダメだって。ン゙ゥッ、もぅ、入らないぃ····」「甘い声····艶めかしいですねぇ。可愛いアナルが傷つかないよう、あまり大きく動かないようにしましょうね」 ヴァニルはそう言って、奥の奥まで余すところなくねじ込むと、グリングリン抉るように腰を押しつけてきた。「やめ゙っ··ダメだって、お゙え゙ぇ゙ぇ····そこ、入っちゃダメなとこぉ····」「あぁ、またお漏らしして····。そんなに良いんですか? こぉ〜こっ」「ひぎぃあ゙ぁ゙ぁ゙ぁっ!!! 腹ぁっ、裂《しゃ》げる゙っ!! 死゙ぬ゙ぅ゙ぅ゙ぅ!! ゔえ゙ぇ゙ぇぇ······」 容赦なく限界を超えてくるヴァニル。奥の口を開ききって、腹の奥を突き破らんとしているようだ。 込み上げる吐き気が止まらない。顔から出る汁が全部同時に溢れてくる。この俺に、汚く無様な顔をさせるなんて、コイツはどこまで鬼畜なんだ。「あぁ~、可愛い。吐いて漏らして、貴方の全てで私を感じてるんですね。こんなに酷くされても、貴方は快感を手放せない。どこまでも欲に忠実だ。そして、ぐしゃぐしゃになって歪んでいてもなお美しい」「ハァー··ハァー····ったく、よく喋るな····。さっさとイケよ。イッて、そろそろ解放して──んぐぅぅあ゙ぁ゙ぁっ!!!?」 ヴァニルは再び、俺の最奥をさらに進み、本当に腹を突き破る勢いで突き続けた。「ははっ。まだまだこれからですよ。貴方に
*** かれこれ数時間、ノーヴァの呼び掛けを無視して部屋に閉じこもっていたヴァニル。ノーヴァは一蹴りで扉をぶち破り、ベッドに潜りこんでいたヴァニルから毛布をひっぺがして詰め寄った。「いつまでそうしてるつもり? いい加減出てきなよ」「ノーヴァ····。私は今、少し傷心しているのです。もう暫く、そっとしておいてもらえませんか」「そんなの知らないよ。勝手な事シて勝手に傷ついてヴェルを抱き潰して、ホント馬鹿だよね。くっだらない。そんな事より、ノウェルはどうなったの?」 ノーヴァはヴァニルの胸ぐらを掴み、ずいっと顔を引き寄せた。「どう、とは?」「やるからには、ちゃんと壊してきたんだよね?」「貴方は少し言動が過激すぎますよ」「どの口が言ってんのさ」「うっ····」 返す言葉のないヴァニル。渋い顔を見せ、ノーヴァに呆れられる。「あ! そう、アレです、品位を持ちなさいと言っているでしょう」「チッ··。品位なんて社交の場だけでうんざりなんだけど。そう言えば、あの頃は散々つまらないダンスを舞わせてくれたよね。ま、あんなバカみたいな場はもう無いだろうから、品位なんてあっても仕方ないでしょ。··で?」「····はぁ。わかりました、降参です」 まったく上手く誤魔化せなかったヴァニルは、観念してノーヴァに語る決意をした。「元々、本気で壊すつもりなんて無かったんです。発散ついでに、ヌェーヴェルを忘れさせようかと思っただけで。しかし、これがどうにも頑なでしてね。思っていた以上に一途なようで····」「そんな事はどうでもいいんだよ。ボク達の間に邪魔者が入ってこなければね。ヴァニル、やっぱりノウェルは····邪
バカ共が大人しくしてくれていたおかげで、予想よりも早く回復できた。 せっかく体調が戻ったのだ。ヴァニルとノーヴァがコソコソしている事には、暫く触れないでおこう。そう決めて、俺は片付けるべき事を片付けてゆく事にした。 まずはノウェルを見舞わなければ。そう思い、俺は分家の屋敷へ赴いた。ノウェルの母上に用があったので丁度いい。 屋敷の静けさに、俺は色々と察した。思っていたよりも、事態は悪くなかったようだ。 ヴァニルの愚行はおろか、侵入にすら気づいていないのだろう。周到なアイツの事だから、ノウェルの記憶さえ弄ったのかもしれない。 ノウェルに直接聞けば早いのだが、もしも記憶がなかった場合、これまた厄介になる。余計な事を言って、事を荒立てたくはない。 どう探ろうか思案していると、廊下の果てから小走りで寄ってくるノウェルが見えた。なんつぅ鬱陶しい笑顔だ。「やぁ、ノウェル。調子はどうだ?」「あぁ、ヌェーヴェル! 君がわざわざ分家《こっち》に来るなんて、一体どういう風の吹き回しなんだい?」「いやなに、お母上に少し用があってな。先んじて、お前の顔でもと思っていた。どんなに息を潜めても、お前はどうせ集ってくるからな。····で、なんだ··その、変わりはないか?」 俺は、言葉を選びながら慎重に探りを入れる。「至って好調だよ」「そうか、それは良かった」「君こそ、少し顔色が良くないようだけど····またあの2匹かい?」「お前は本当に敏いな。けど、原因はアイツらだけじゃない。少し忙しいだけだ」 俺とした事が、顔に出ていただろうか。確かにここ数日、学院の課題や父の使い走りで多忙だった。バカ2人の事も気掛かりで、神経がすり減っていたかもしれない。 しかし、それはこれまでと変わらない日常だ。特別、疲労感を覚えた事はない。なんならバカ共が大人しい分、身体的な負担は軽減されていたように思う。 「そうかい。な
俺はすぐさまヴァニルを連れタユエルの店へ向かう。 最悪の事態──それはきっと、タユエルが食料としてではなく無作為に人間を殺めた、という事なのだろう。「ヌェーヴェル、大丈夫ですか?」「あぁ。こういう事態に備えて最低限の訓練はされている。お前に説明するまでもないだろうが、ヤツが暴走していればその時は····」「それは私が。貴方が太刀打ちできる相手ではありません。それに、彼を手に掛けるのは辛いでしょう」 俺とタユエルが長い付き合いだと知って、ヴァニルなりに配慮してくれたのだろう。しかしそれを言うならば、ヴァニルのほうが関係としては深い。「お前の方がやりにくいんじゃないのか。師匠みたいなものだったんだろう? ましてや、同胞を手にかけるなんて気持ちの良いものではないだろ」 ヴァニルは俺に口付けて、それ以上言うなと黙らせる。仕事だと割り切っている····そういう事なのだろう。 俺は気の利いた言葉を見つけられず、黙って銃の確認をした。あくまで念の為だ。 タユエルの店の前に立ち、腰に忍ばせた銃へ手を添える。息を殺し、ゆっくりと扉を開く。 隙間から中を覗くが、真っ暗で何も見えない。しかし気配はある。耳を澄ませると荒い息遣いが聞こえた。 思いきって一歩踏み入れた瞬間、耳を劈くような怒声が響く。「来るな!! ヴェルなんだろ? 絶対に入ってくるなよ!」 明らかに様子がおかしい。手遅れだったのだろうか。「····そうだ、俺だ。タユエル、何があった。何故、立ち入るのを拒む」 タユエルからの返答がないので、ゆっくりと扉を開ききる。陽の光が差し込み、その奥にタユエルの姿を目視した。「入るぞ」 俺はまた一歩踏み込む。タユエルの出方を窺いながら、一歩一歩慎重にカウンターへ向かう。 古い木造の匂い。その中に、血の様な鉄っぽいにおいを感じる。 胸騒ぎ
「ヴェル、起きて。ねぇ大丈夫?」 いつの間にか子どもの姿に戻っていたノーヴァに、柔らかく頬を抓られて目が覚めた。「ん····大丈夫··だ。ぁ、は、腹····」 腹の痛みが消えている。けれど、あの熱さだけは残っている感じがしてズクンと疼く。きっとこれは腹じゃなく、脳にこびりついた感覚なのだろう。 そして、熱さの理由はもうひとつ。ヴァニルが申し訳なさそうに俺の腹をさすっているのだ。こいつの手は冷たいのだが、気持ちは伝わってくる。「ヴァニル、大丈夫だ。もう痛くない」「いえ、そういう事では····。優しくするという約束だったのに、すみません」 ヴァニルは眉間に皺を寄せ、なんとも苦しそうな表情《かお》をしている。 まだ身体を起こせないが、俺はそっとヴァニルの頬に手を添えて微笑んだ。「ヌェーヴェルが私に優しい顔を向けてくれるなんて、出会って随分経ちますが初めてですね」「俺だって、こんなに穏やかな気持ちになったのは初めてだ」 ノーヴァが俺の額を撫で、啄むようにキスを落とす。「ノーヴァ、くすぐったい。なんだ?」「気絶する前に言ったこと、憶えてる?」 そう言えば、とんでもない事を口走った記憶がある。「······憶えてない」 俺は、ふいと目を逸らして言った。耳まで熱い。「嘘だ。憶えてるでしょ」「憶えてねぇよ。あの時は頭の中が真っ白だったからな」 必死に誤魔化したが、下手な嘘など通用しなかったようだ。 ノーヴァにじっと見つめられ、俺は観念して白状する。跡を継いで、全て終わらせてからにしようと思っていたのだが、あんな事を口走った後なのだから仕方がない。「俺は、お前たちを大切に想ってる。ずっと身
ほんの数秒で唇を離し、ノーヴァの目を見ながらそっと離れる。ノーヴァの唇へ視線を落とすと、自分でわかるほど瞬時に頬が紅潮した。「次は舌、絡めて」 そう言って、ノーヴァはベッと舌を出して見せた。触れるだけのキスで心臓がイカれてしまいそうなのに、そんな破廉恥な事を自分からできるのだろうか。 このヤワな心臓が根性を見せてくれることを期待して、少し開けて待っているノーヴァの小さな口に、ええいままよと舌先を差し込んだ。 いつもはされるがまま舌を絡めていたが、自分で絡めにいくとなると想像以上に難しい。「ヌェーベル····ソレ、後で私にもシてくださいね」 振り返ることができないので確証はないけれど、きっと嫉妬に歪んだ顔で言っているのだろう。 「ん、んぅ····」 俺のたどたどしい舌遣いに焦れたのだろう。ノーヴァは俺の両頬を手で抱え、こうやるのだと言わんばかりに激しいキスをしてきた。 いつも通りの、息ができなくなるやつだ。酸欠で意識が朦朧としてくる。「ふ、ぅ····ノー、ヴァ····待へ、ぅふ、は、ぁっ····ふぇ゙····」「アナタたちのキスを見てるだけで、なんだか苛つきますね····もう動きますよ」 突くのを待ってくれていたヴァニルだが、堪らずに動き始めた。 突かれるリズムに合わせ身体が前後する。けれど、頭が固定されている所為で衝撃を逃がしきれず、腹の奥に快感となって留まって苦しい。 ヴァニルが結腸口を叩く度に噴いてしまうので、ノーヴァとベッドがびしょ濡れだ。いつもなら、ぶっ掛けてしまうと嫌味の一つや二つ言うくせに、今日はお構いなしにキスを続ける。「ノ
ノーヴァは優しいキスを繰り返す。徐々に激しさを増し、早速約束を破って大人の姿になった。 そして、大きくなった手で俺の頬を包み口内を隈無く舐めまわす。「んっ、おま····大人になるなって··んんっ」「ん······ふぅ。こっちだと、ずっと奥まで犯せるもん。それと、血···もうガブ飲みはしない。これからは、ヴェルを危険な目に合わせるのは控えるよ」 優しさを見せているつもりなのだろう。俺に譲歩すると言いたげなノーヴァを愛らしいと思う。「控えるという事は、やるときゃやるんだな」「だってヴェル、好きでしょ? 死ぬほど犯されるの」「······嫌いじゃない」「あははっ。素直じゃないなぁ」 ノーヴァは再び俺の口を塞ぐ。ケツを弄っていたヴァニルは、潤滑油《ローション》が乾かぬうちに滾って反り勃ったモノをねじ込んだ。「んぅ゙っ、ん゙ん゙ん゙っ!!! んはぁっ、デカ····待っ、デカ過ぎんだろ······」「デカいの好きでしょう? ほら、もうイきそうじゃないですか。まだ挿れただけですよ」 確実にいつもより大きい。圧迫感が凄いのだ。なのに、容赦なく奥へ進んでくる。「ひぅっ、あぁっ!! ふっゔぁん····アッ、やだ、奥待って」「大丈夫。まだ奥は抜きませんよ。もう少し、ここを解してからです」 ヴァニルは下腹部を揉みながら、期待を持たせるような事を言う。そして、ぱちゅぱちゅと音を立てて俺を煽る。「ヴァニル····
集まった視線に、俺は直観的な苛立ちを覚えた。「な、なんだよ」「お前がそれ言うの? ヘタしたら、ヴェルが誰よりも我儘だし欲深いよ」「そりゃまぁ、俺だしな。それくらいの気概がないと、ヴァールスの名を継ごうなんて思わないだろ」 俺の言葉に、全員が耳を疑ったらしい。揃いも揃って、イイ面がマヌケに口を開けている。「貴方、もしかしてまだ継ぐ気なんですか? てっきり、私たちを選んだ時点で諦めたものとばかり····」「諦めてたまるか。嫁の件は父さんに上手く言って白紙に戻した。子供の事は追々考えるからいいんだよ」「そういえば、よくあのパパさんを言いくるめられたよね。なんて言ったの?」「····内緒だ」 うまい言い訳が思い浮かばず、バカ正直に『好きな人ができたから見合いは無かったことにしたい』と、子供の駄々みたいな理由を告げただなんて言えるか。しかし、あのクソ親父がよくそれで許してくれたなと俺も思う。 正直、もう出家覚悟で言ったのだ。それだけは、絶対にこいつらにはバレないようにしなければ。「貴方が言いたくないのなら聞きません。私達を優先してくれた事実だけで充分です」「そうだね。まぁ、ボクは暇だし、我儘坊やの復讐手伝ってあげてもいいよ」「私も、協力しますよ」「あぁ、頼りにしてるよ。って··おいこらノーヴァ、誰が我儘坊やだ!」 ノーヴァとヴァニルに手伝ってもらえば、いとも容易く父さんを屈服させられるだろう。勿論、物理的に。ヴァニルの場合、まずは容赦なく精神的に殺《ヤ》りそうだ。 協力してもらえるのは助かるし、頼りにしているのも本心だ。けれど、なんだこの漠然とした不安は。 この2人の際限のなさ故だろうか。あまり関わって欲しくないのが正直なところだ。「あの、ちょっといいですか。ヌェーヴェルさんに聞きたいんですけど」「なんだ、イェール」「その復讐ってのを達成したら、アンタは吸
説明を終えるなり、ノーヴァとイェールに笑われた。ノウェルはふんぞり返って鼻を高くしている。「ヌェーヴェルには僕が色々教えてあげるよ。心の機微を、こいつらが教示できるとは思えないからね」「ボクだってできるよ! 人間の事はローズに教えてもらったからね」「こら、人様の母君を呼び捨てにするんじゃない。失礼だろうが」 やはり、ノーヴァはノーヴァだ。まだまだ礼節を弁えきれていない。所詮、余所行き用の付け焼き刃と言ったところか。「ちぇー····人間ってなんでそういうトコ煩いの? 面倒だなぁ」「ノーヴァがガサツ過ぎるんですよ。誤解のないように言っておきますが、吸血鬼が皆、ノーヴァのようにガサツな訳ではありませんから」 知っている。ローズやブレイズ、ヴァニルのように礼儀正しい者が多い事は。 それは人間とて同じ事だ。住む環境や性格によるところだろう。「お前を見てたらわかるよ。ノーヴァのもまぁ、度を越さなきゃ可愛いもんだしな」「えへへ。ねぇヴェル、ひとつ聞いておきたいんだけど」「なんだ?」「ヴェルはさ、子供のボクと大人のボク、どっちが好き?」 究極の選択じゃないか。愛らしい子供の姿で背徳感を感じるか、大人の姿でヴァニルとは違った美形に支配されるか····なんて言うと図に乗るのだろう。とてもじゃないが、正直な気持ちは伝えられない。「子供で充分だ。大人になるのは禁止だしな。お前ら3人に血を吸われる俺の身にもなれよ」「それぞれ遠慮してるじゃありませんか。ちゃんと“不死の吸血”の約束は守っていますよ」「当然だ。俺が死んだら元も子もないだろうが。そうだ。イェールはノウェルの血を飲むのか?」「許した憶えはないんだけどね、興奮すると時々吸われるよ。嫌かい?」「嫌だな。けど、ヤッてる最中だけは許してやる」「随分と寛大なんだな。ノウェルさんがアンタに執心してるからって余裕じゃないか」「あぁ
約束の夜。全員が俺の部屋に集まった。「結論から言う。俺は、お前たちの中から1人を選ばん。全員、俺のモノでいろ」 俺が高らかに言い放つと、ヴァニルとノウェルは予想通りと言った顔で項垂れた。ノーヴァは呆気にとられた顔で口をパクパクしている。餌を待つ魚か。 そして、黙って聞いていると約束していたイェールが喚き始めた。「アンタ本当に狂ってんのか!? どれだけ欲張りなんだよ! ふっざけんなよ····ノウェルさんだけは渡さないからな!!」「イェール、黙って聞いてろ。できないなら追い出すぞ」 俺の言葉を受けて、ヴァニルがイェールを睨む。「······クソッ!!」 なんと説明すれば良いものか、俺だってそれなりに悩んだのだ。しかし、ノウェルに言われて“恋”だと知った時点で、俺の中では結論が出ていたのだと思う。 結論が出ているものに、思い悩むのは性に合わない。「お前らが俺を想ってくれている事は、正直嬉しかった。けど、俺はノウェルに言われるまで、恋というものが分からなかったんだ。その····症状に当てはまっていて初めて、お前らに抱いていた感情に“恋”という名がある事に気がついた」「症状って、ヴェル····病気か何かだと思ってたの?」 ノーヴァが憐れむような目で俺を見て言った。 「恋なんて病気みたいなものだろう。鼓動が早まったり身体が熱っぽくなったり、息苦しくなったり情緒が不安定になるんだぞ。まともな状態じゃない」 俺の意見に首を傾げるノーヴァ。俺は、何かおかしな事を言っているのだろうか。「そう····だね? ねぇ、人間って皆こんなにバカなの? ノウェルは人間の中で生きてきたんでしょ? 人間っ
「そうかそうか、なら話は早い。ヴァニル、お前だろ? ヴェルの相手してんの」「はぁ····そうですが」「俺にも喰わせろ」 タユエルはニタッと笑い、圧《プレッシャー》を掛けて言った。一瞬たじろいだヴァニルだったが、すぐに毅然とした姿勢で断る。「いくらタユエルさんの頼みでも、それは承服致しかねます」「ハッ····頼んでんじゃねぇだろ。喰わせろつってんだよ、なぁ?」 タユエルは、ヴァニルの肩を壁に押さえつけると、もう片方の手で俺の首を掴み牙を見せた。「なっ!? タユエル····どうしたんだ!? 来た時から様子がおかしいとは思っていたが、何かあったのか」「や~、別にこれと言ってねぇけどな。お前がイイ匂いふり撒きながらウチに来る度によぉ、溜まるんだよ、色々とな」「はぁ!? 甘い血の匂いか? 俺にはわからんのだから仕方ないだろ! 溜まるって何が····あぁ!! 今まで誘ってたのって本気だったのか」 タユエルとヴァニルの溜め息が地下にこだました。「ヌェーヴェル、タユエルさんにも狙われてたんですか。この人、昔は手当り次第好みの人間を食い散らかしていたんですよ。よく無事でいられましたね」「俺だって理性くらいあるわ。流石に、ヴァールスに手を出すと厄介な事くらいわかってるっつぅの」 脳筋なのだと思っていたタユエル。意外と冷静にものを考えられるのだと感心してしまう。「だと思ってたから、ずっと揶揄われているだけだと思ってた。まぁ、タユエルも吸血鬼だからな。いつ理性が飛んで襲われるかわからんから、常に警戒はしていたが」「そっちの警戒だったのかよ。お前、鈍感だとか言われねぇか?」「言われた事はない。俺は鈍感じゃないからな」 自慢じゃないが、母さんには気が利くとよく褒められた。それに常日頃、細事にも気を配っているつもりだ。
ほとんど眠れずに、俺はタユエルの店へ赴く。人使いの荒い父さんから、先日の銃を仕入れてこいと仰せつかったのだ。「ヴァニル、相手が俺に何を言おうと、たとえ何をしようと、絶対に口も手も出すなよ」「事と次第によりますよ。それより貴方、あんな事の後でよく私を護衛につけましたね」「これは仕事だ。私情は挟まん。だから、馬車《ここ》でシようとか考えるなよ。約束は今夜だろ」 俺は書類に目を通しながら言った。チラッとヴァニルを見ると、むくれた顔で窓から外を眺めている。「キ、キスくらいならいいぞ。軽いヤツな」「····子供じゃあるまいに」 気を遣って言ってやったのに、無下にするとは腹立たしい。「そうか、ならもういい。指一本触れるな」「わかりましたよ。······ヌェーヴェル」「なんだよ」 やらしい声で呼ばれたので、鬱々とヴァニルを見る。ヴァニルは恍惚な表情で俺を見て、滾らせたイチモツを見せつけてくる。「バ、バカか!! こんな所でナニおっ勃ててるんだ!」「シィー····声が大きいですよ。御者に聞こえてもいいんですか?」 唇に人差し指を当てて言う。無駄にエロい所為で、こっちまでその気にさせられてしまうじゃないか。「夕べ、途中で終えてしまいましたからね。で、どっちの口に欲しいですか? 今なら優しくしてあげますよ?」 俺の話を聞いていなかったのだろうか。いや、聞いた上での愚行か。 これに逆らったら、きっと御者に気づかれてしまう程度には激しく犯されるのだろう。そうなれば厄介だ。「······くそっ。資料に目を通さにゃならんから、し、下の口にしろ」 おずおずとヴァニルにケツを差し出す。到着まで1時間足らず。間に合うのだろうか。