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22・幼馴染達の密談と、大きな誤解

Author: 揚羽渓名
last update publish date: 2026-09-24 16:00:34

 手紙を送った3日後、リリアナは定期検診の為と偽ってアルフレッド邸を出ると、その足で昔よく母とセレスティアとフィンと行った馴染みの喫茶店へと向かった。

 喫茶店には既にセレスティアが待機していて、店に入ったリリアナを見て笑顔で手を振ってくる。

「こっちよ! ごめんね、窓際しか空いて無かったの」

「いいのよ。私よりも今はティアの方が危ないんじゃないの?」

 リリアナは久しぶりに会う親友にハグしながら言うと、セレスティアは苦笑いしながら答えた。

「そうね。ほとんど毎日、誰かの婚約者さんの側近の人が追いかけてくるの」

「えっと……良い人なのよ?」

 それは間違いなくルークだ。思わず笑ってしまうと、セレスティアがホッとしたような顔をする。

「リリーが笑ってると安心する。良かった、元気そうで」

「私もティアに会うと元気になる。ありがとう、ティア。迷惑かけてごめんね」

 テーブル越しに手を握って感謝を伝えると、セレスティアがはにかんだ。その時、テーブルの上に影が落ち
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  • 一夜の相手は、私から奪われた婚約者でした   22・幼馴染達の密談と、大きな誤解

     手紙を送った3日後、リリアナは定期検診の為と偽ってアルフレッド邸を出ると、その足で昔よく母とセレスティアとフィンと行った馴染みの喫茶店へと向かった。 喫茶店には既にセレスティアが待機していて、店に入ったリリアナを見て笑顔で手を振ってくる。「こっちよ! ごめんね、窓際しか空いて無かったの」「いいのよ。私よりも今はティアの方が危ないんじゃないの?」 リリアナは久しぶりに会う親友にハグしながら言うと、セレスティアは苦笑いしながら答えた。「そうね。ほとんど毎日、誰かの婚約者さんの側近の人が追いかけてくるの」「えっと……良い人なのよ?」 それは間違いなくルークだ。思わず笑ってしまうと、セレスティアがホッとしたような顔をする。「リリーが笑ってると安心する。良かった、元気そうで」「私もティアに会うと元気になる。ありがとう、ティア。迷惑かけてごめんね」 テーブル越しに手を握って感謝を伝えると、セレスティアがはにかんだ。その時、テーブルの上に影が落ちる。ハッとして上を向くと、そこにはフィンが人好きのする笑顔を浮かべてこちらを見下ろしていた。「よう! 外から見たら木が邪魔でリリーが一人で喋ってるみたいに見えて不気味だったぞ」「フィン!」 リリアナは立ち上がって昔のようにハグしようとすると、フィンが両手を上げて一歩下がった。「おっと、気をつけてくれよ? 誰かさんの婚約者どのは怖いからな」「もう! 事情はティアに聞いた?」 冗談混じりにそんな事を言うフィンを小突いて座り直すと、フィンはリリアナの正面に腰掛けた。「大まかにな。で、一体何がどうなってるんだ? ちょっと委員会の資格取りに大陸行ってる間に何があったんだ?」「それがね——」 リリアナは起きた事を全て包み隠さずフィンに話した。特にリリアナの妊娠を知った時の彼の顔は、驚愕を通り越して青ざめていた。「ちょっと待ってくれ! なんだよ、その急展開! おまけにフォン・ハインリヒっつったら大陸でめちゃくちゃ悪名高い投資家だぞ⁉ 言いたかないが、ヴィンス

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     アイリーンはアルフレッドからの予想もしていなかった問いかけに息を詰まらせた。この隠し口座は万が一の時の為にフィオナがアイリーンの名で作ったものだ。 まさかこの口座がアルフレッドに知られているとは、夢にも思っていなかった。「どうなんだ? それとも君が一人で考えてやったのか?」 アルフレッドはさらに強い口調で問い詰める。ここで何かしらの情報を聞き出さなければ、また巧妙に隠されてしまうだろう。それだけは避けたい。「こ、こんな口座、私知りません。誰かが私の名を騙って勝手に作ったんですわ!」「勝手に作った? それは誰だ? 母親か? 父親か? それとも、勝手に君の名を使う事が出来るほどの近親者か?」 畳み掛けるように言うと、アイリーンがふと視線をサンドラに向けたかと思うと、僅かに唇の端を上げる。「もしかしたら、姉かも……」「姉?」「ええ! きっと逃走資金に困って勝手に私の名を使ったに違いありません! そこに入金されたお金もきっと汚いお金に違いありませんわ!」 アルフレッドがどこまで事件の事を知っているのかは分からないが、どうにかして逃げ切らなければならない。ここは全ての責任を今は逃亡していると思われているリリアナに押し付けてしまおう。 我ながら良いアイディアだと思っていたのに、ふとサンドラが口を開いた。「それは少し難しいのでは?」「何故だ?」 それまで黙っていたサンドラが唐突に口を挟んでくるが、それを止めようとは思わなかった。普段のアルフレッドからは考えられない事だが、あの発表会の一件からアルフレッドはサンドラに尊敬にも似た気持ちを抱いている。「口座を作るためには偽装出来ないよう、必ず本人が居なければなりませんよね? もしくは委任状ですが、それには個人のサインと印章が必要です。あなた、お姉様に印章を預けているのですか?」「確かにその通りだな。君たちの仲は決して良くなかったようだが、そんな物を姉に預けていたのか?」 サンドラの指摘にアイリーンが笑みを完全に消した。どうやら失踪した姉に全てを擦り付けようとしたらしい。どこまで性根が腐っているんだと

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     あの発表会で『霧の果て』が調香委員会に認められた事で、リリアナの盗作疑惑は払拭された。それどころか、エバンズ家の新ブランドは盗作を覆した新ブランドだとして大いに注目され始めたのだ。 おまけに陰謀だらけの発表会を乗り越えた事で、ラボの仲間たちの士気は上がりっぱなしだ。「サンドラ様! 次のテーマなんですけど、凄いの思いついちゃいました! でもまだ香りのイメージが出来ないんです」 「それじゃあこの紙にまずは瓶のイメージを書いてみて。それから名前をつけてあげるの。そうしたらきっと、どんな香りにすれば良いか自然と分かると思うわ」「なるほど! やってみます!」 若い調香師はそう言ってリリアナの手からペンと紙を受け取って自席へと戻る。彼の周りにはあっという間に人だかりが出来て、気がつけば皆が彼の真似をしている。 その光景は幼い頃に母の側で調香をしていた自分の姿と重なった。「もうすっかり皆の先生だな」「アルフレッド様! どうでしたか? 何か分かりましたか?」 アルフレッドはあれから誰がサンプルを取り替えたのか、側近のルークと共にあのホテルで聞き込み調査をしていた。「ああ。どうやらすり替えた人物は誰かに偽物のサンプルを渡されて、こちらが本物だから至急取り替えて欲しいと言われたらしい」「その方は突然そんな事を言われて不思議には思わなかったのでしょうか?」「俺もそう思って問い詰めると、どうやらサンプルはお祖母様の署名が入った封筒に入っていたらしい」「シャルロッテ様の⁉」 なんという大胆な事をするのだ! 思わず声を上げたリリアナにアルフレッドも肩を竦める。「それを聞いて思ったんだ。叔父ではないな、と」 流石の叔父もシャルロッテの名前を偽造するなどという馬鹿な真似はしないだろう。「では誰が?」 リリアナには犯人の目星がついているが、それを不用意に告げるとサンドラがリリアナだとばれてしまう可能性があるので言えないでいると、アルフレッドが困惑したように眉根を寄せた。「アイリーン・ヴェールだ」 彼女の事はよく知らないが、何せサンドラの作品を自分の作品だと意気揚々と紹

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     アルフレッドの雰囲気がそれまでの穏やかな物から一気に怒りへと変わっていく。ふと見るとアルフレッドの拳は硬く握りしめられ、微かに震えていた。 ちらりと壇上から客席に視線を走らせると、アイリーンとフィオナの目が弓なりに弧を描いている。 その表情がまるでこの事態を楽しんでいるようにも見えて背筋に冷たいものが流れていく。あの二人はやはり、リリアナの正体に気づいているに違いない。 ケースを開けたのにいつまで経っても説明を始めないアルフレッドに皆がざわめき始め、アルフレッドの横顔には絶望の色が浮かんでいる。 その横顔に彼のこのブランドに対する思いが全て詰まっていた。「ご安心ください、アルフレッド様。こんな事もあろうかと実は私、こんな物を用意してきたんです」 リリアナは小声で囁いてアルフレッドの怒りに震える拳を優しく包み込み、バッグから二つのサンプルを取り出して会場内を見渡し毅然とした態度で言った。「皆様、お騒がせいたしました。どうやら手違いで試作段階のサンプルが用意されてしまっていたようです。ラボからいくつかの試作品が無くなっている事に気づいて完成品を持ってきましたが、どうやら正解でしたね。調香委員会の皆様、登録されているのはこちらです。どうぞ確認をお願いします」 リリアナが澄んだ声で言うと調香委員会の調香師が二人、前に進み出てくる。「では確認します。こちらが『霧の果て』、そしてこちらが『花の都』ですね」「はい」 一連の騒ぎのせいでリリアナを疑っている調香委員の目つきは鷹のように鋭かったが、いざ『霧の果て』を嗅いだ瞬間、彼らの表情が一変した。「……驚きました。提出されたサンプルと全く同じ、いえ、むしろさらに洗練された香りに仕上がっているようです。そちらは?」「……『花の都』も同じです。レシピを変えた訳ではなさそうですが、これはどういう事ですか?」「温度と湿度を限りなく人肌に近い環境で保管しました。香水は人が肌に付けるものなので、それを再現したんです」「そこまで計算されて作られていたという事ですか?」「はい。調香師として、それは

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