로그인聖女エララは「運命の番」であるルシアン王太子に妹を選ばれ、偽りの罪で火刑に処された。最期に彼女を抱いたのは、敵国の呪われた竜皇ケイルだった。「次は俺を選べ」という声とともに一年前へ戻ったエララは、今度こそ王太子を自ら拒絶し、竜皇へ契約結婚を申し込む。愛さないはずの夫は彼女の傷を急かさず、触れるたびに許しを求め、やがて誰より激しく彼女を守り始める。しかし二人の結びつきは、教会が隠してきた“運命の番”の偽造を暴き、世界を揺るがす戦いを招いてしまう。これは捨てられた聖女が、与えられた運命を壊し、自分の意思で愛と王冠を選び直す物語。
더 보기第56話 その王冠はいらない白い帯が腰へ食い込んだ瞬間、エララの足元から感覚が奪われた。花嫁椅子から伸びる帯は布ではなく、過去に彼女が口にした誓いを細く撚り合わせたものだった。振りほどこうと力を込めるたび、懐かしいはずのない声が耳の奥によみがえる。――私は生涯、王太子殿下を支えます。まだ運命という言葉を疑うことさえ知らなかったころ、エララ自身が口にした言葉だった。周囲から求められ、期待を裏切れば愛されなくなると怯えながら、それでも最後には自分の声で誓った。そのため、誰かに押しつけられた命令よりも厄介だった。ケイルが帯をつかむと、黒い炎が激しく弾けた。帯の表面に浮かぶセラフィナの告白が、炎を拒む壁となっている。「触らないでください。ケイルまで取り込まれます」「お前に巻きついているものを見ながら、手を放せと言うのか」「力で引けば、私の過去の誓いまで裂けます。何が起きるか分かりません」「では、どうすればよい」苛立ってはいるが、ケイルは勝手に炎を強めなかった。帯をつかんだまま、エララの答えを待っている。その指先から伝わる熱は激しいのに、力のかけ方だけは慎重だった。答えを探そうとしたエララの耳に、苦しげな息が届いた。ルシアンは自分の喉へ両手をかけ、指を食い込ませていた。護衛隊長が背後から腕をつかんでいるものの、胸の印から流れ込む命令のほうが強く、引き剥がすことができない。「殿下、手を開け! 聞こえているなら返事をしろ!」「き、こえて……いる」「だったら力を抜け!」「できるなら……やっている!」顔を赤黒くしながらも、ルシアンは怒鳴り返した。手首を結ぶ黒い炎が青白く燃え、彼の意識が奪われかけていることを告げている。エステルが鎮静薬を取り出したが、すぐには使わなかった。「今、薬で意識を落とせば、身体の主導権を印に渡すかもしれない。ルシアン、自分で呼吸を止めないで。少しずつでいいから息を吐きなさい」「喉を&h
第55話 王妃の罪と告白銀鎖へ流れ込んだ力は、火ではないのに王妃セラフィナの肌を焼いていた。首の輪から流れた血が白い夜着を汚し、胸元へ食い込んだ鎖の下では、皮膚が青黒く変色している。王都中から集められた祈りは持ち主へ返ったはずなのに、祭壇へ残された歪みだけが消えず、十七年前に最初の承認を与えた王妃へ集中していた。「母上から離れろ!」石床へ叩きつけられたルシアンは、よろめきながら立ち上がり、アウレリウスへ向かって駆けた。護衛隊長が止めるより早く、アウレリウスの杖が振り下ろされる。床に刻まれた紋様から黒い光が噴き上がり、ルシアンの正面へ壁を作った。彼は腕で顔を庇ったものの、再び弾き飛ばされ、祭壇の端へ肩から落ちた。エステルが駆け寄ろうとしたが、ルシアンは起き上がりながら片手で制した。「僕より母上を診てくれ」「診るために近づけないから困っているのよ。あなたまで骨を折ったら、患者が一人増えるでしょう!」「骨は折れていない」「医者でもない人間が勝手に診断しないで!」怒鳴り返したエステルの声には、恐怖がにじんでいた。王妃の鎖へ触れられない以上、医者としてできることがほとんどない。その無力感を振り払うように、彼女は薬鞄から布と止血薬を取り出し、いつでも駆け込める体勢を整えた。ケイルはエララの前に立ち、王妃へ流れ込む力を見据えていた。黒い炎が両腕を覆っているものの、それを放つことはできない。炎で鎖を焼けば、行き場を失った力がセラフィナの身体を内側から貫く。「外から壊せないなら、内側からほどくしかない」「ですが、王妃様はあれだけの力を受けています。今、心へ触れれば、私まで引き込まれるかもしれません」エララが答えると、ケイルは彼女を振り返った。「できないと言っているのか。それとも、一人では危険だと言っているのか」問われて、エララは言葉に詰まった。以前の自分なら、危険だと分かっていても黙って手を伸ばしていただろう。できるかどうかではなく、やらなければならないと思い込み、倒れたあとで周囲を悲しませても、それは仕方のな
第56話 その王冠はいらない白い帯が腰へ食い込んだ瞬間、エララの足元から感覚が奪われた。花嫁椅子から伸びる帯は布ではなく、過去に彼女が口にした誓いを細く撚り合わせたものだった。振りほどこうと力を込めるたび、懐かしいはずのない声が耳の奥によみがえる。――私は生涯、王太子殿下を支えます。まだ運命という言葉を疑うことさえ知らなかったころ、エララ自身が口にした言葉だった。周囲から求められ、期待を裏切れば愛されなくなると怯えながら、それでも最後には自分の声で誓った。そのため、誰かに押しつけられた命令よりも厄介だった。ケイルが帯をつかむと、黒い炎が激しく弾けた。帯の表面に浮かぶセラフィナの告白が、炎を拒む壁となっている。「触らないでください。ケイルまで取り込まれます」「お前に巻きついているものを見ながら、手を放せと言うのか」「力で引けば、私の過去の誓いまで裂けます。何が起きるか分かりません」「では、どうすればよい」苛立ってはいるが、ケイルは勝手に炎を強めなかった。帯をつかんだまま、エララの答えを待っている。その指先から伝わる熱は激しいのに、力のかけ方だけは慎重だった。答えを探そうとしたエララの耳に、苦しげな息が届いた。ルシアンは自分の喉へ両手をかけ、指を食い込ませていた。護衛隊長が背後から腕をつかんでいるものの、胸の印から流れ込む命令のほうが強く、引き剥がすことができない。「殿下、手を開け! 聞こえているなら返事をしろ!」「き、こえて……いる」「だったら力を抜け!」「できるなら……やっている!」顔を赤黒くしながらも、ルシアンは怒鳴り返した。手首を結ぶ黒い炎が青白く燃え、彼の意識が奪われかけていることを告げている。エステルが鎮静薬を取り出したが、すぐには使わなかった。「今、薬で意識を落とせば、身体の主導権を印に渡すかもしれない。ルシアン、自分で呼吸を止めないで。少しずつでいいから息を吐きなさい」「喉を&h
第55話 王妃の罪と告白銀鎖へ流れ込んだ力は、火ではないのに王妃セラフィナの肌を焼いていた。首の輪から流れた血が白い夜着を汚し、胸元へ食い込んだ鎖の下では、皮膚が青黒く変色している。王都中から集められた祈りは持ち主へ返ったはずなのに、祭壇へ残された歪みだけが消えず、十七年前に最初の承認を与えた王妃へ集中していた。「母上から離れろ!」石床へ叩きつけられたルシアンは、よろめきながら立ち上がり、アウレリウスへ向かって駆けた。護衛隊長が止めるより早く、アウレリウスの杖が振り下ろされる。床に刻まれた紋様から黒い光が噴き上がり、ルシアンの正面へ壁を作った。彼は腕で顔を庇ったものの、再び弾き飛ばされ、祭壇の端へ肩から落ちた。エステルが駆け寄ろうとしたが、ルシアンは起き上がりながら片手で制した。「僕より母上を診てくれ」「診るために近づけないから困っているのよ。あなたまで骨を折ったら、患者が一人増えるでしょう!」「骨は折れていない」「医者でもない人間が勝手に診断しないで!」怒鳴り返したエステルの声には、恐怖がにじんでいた。王妃の鎖へ触れられない以上、医者としてできることがほとんどない。その無力感を振り払うように、彼女は薬鞄から布と止血薬を取り出し、いつでも駆け込める体勢を整えた。ケイルはエララの前に立ち、王妃へ流れ込む力を見据えていた。黒い炎が両腕を覆っているものの、それを放つことはできない。炎で鎖を焼けば、行き場を失った力がセラフィナの身体を内側から貫く。「外から壊せないなら、内側からほどくしかない」「ですが、王妃様はあれだけの力を受けています。今、心へ触れれば、私まで引き込まれるかもしれません」エララが答えると、ケイルは彼女を振り返った。「できないと言っているのか。それとも、一人では危険だと言っているのか」問われて、エララは言葉に詰まった。以前の自分なら、危険だと分かっていても黙って手を伸ばしていただろう。できるかどうかではなく、やらなければならないと思い込み、倒れたあとで周囲を悲しませても、それは仕方のな