Mag-log in同じ空間にいるだけで、璃々子の存在がまるで道化のように霞んでしまうほどの、圧倒的な美貌。それを見た蓉子と大吾は話し合い、方針を変えた。「ミキが成人するまで手出しは我慢しよう。そして時期が来たら、金持ちの好色なジジイにでも愛人として売り飛ばし、莫大な結納金を巻き上げてやろう」と。早川家がミキに対して行ってきた悪逆非道な振る舞いの数々。蓉子と璃々子がそれをすべて語り終えるまでに、たっぷり二時間はかかった。監視と拷問を担っていた屈強な男たちでさえ、そのあまりに陰湿で胸糞の悪い内容に、あからさまに眉をひそめていた。世の中に、これほどまでに底意地の悪い、人間のクズが存在するのか、と。「……言われた通り、隠さず全部話したわ。これで、私たちを見逃してくれるんでしょう……?」すべてを話し終えた蓉子が、縋るような声で命乞いをする。見逃す?別室のモニター越しにその言葉を聞いた澪士の顔に、底冷えするような暗い怒りが宿った。モニターの青白い光に照らされたその横顔は、ギリッと噛み締めた顎のラインが刃物のように鋭く強張っている。早川家の胸糞悪い告白が始まる前から、ある程度の覚悟はしていた。だが、実際に彼女の口からその地獄のような仕打ちを聞かされるのは、まったく次元の違う苦痛だった。澪士の膝の上で組まれた両手が、ゆっくりと、ギリギリと力強く握り込まれていく。限界まで握りしめた拳の傷口が開き、巻かれていた真っ白な包帯に、じわじわと赤黒い血が滲み出していた。秘書の嘉人が止めに入ろうと口を開きかけたが、澪士の全身から立ち上る異常な殺気に気圧され、結局ひと言も発することができなかった。部屋の温度が氷点下まで下がったかのような、息苦しい沈黙。部下たちが誰一人として動けない中、モニターの録画終了のランプが点灯した。ふっと、澪士が拳の力を緩める。そして、極めて低く、冷酷な声で嘉人に命じた。「今撮った映像を編集しろ。そして、ネット上に一斉にばら撒け」「は、はいっ!ただちに手配します、澪士様」指示を出した澪士は、そのまま立ち上がり、どす黒い怒気を纏ったまま部屋のドアを開けた。嘉人はてっきり、澪士がこのまま帰るものだと思っていた。目的は果たした。ミキを陥れようとしたクズ一家を拉致し、その悪行を自白させるという最大
大吾と蓉子は、璃々子が助けを呼んでくれることだけが最後の希望だった。しかし、その娘まで自分たちと同じ境遇で転がり込んできたことで、一縷の望みは完全に絶たれてしまった。頭の袋を乱暴に剥ぎ取られた璃々子は、突然の拉致によるパニックからまだ抜け出せていなかった。だが、隣を見た瞬間、両親のあまりの惨状に息を呑んだ。蓉子は顔面への殴打こそ免れていたが、恐怖と度重なる拷問の苦痛で、全身をガクガクと震わせながらボロボロと涙をこぼしていた。大吾に至っては、原形を留めないほど顔がボコボコにされ、うめき声すらまともに出せていない。「あ、あなたたち、誰なの!?どうして私たちをこんな目に……!」璃々子はガチガチと歯の根を鳴らしながら、上ずった声で叫んだ。「お金が目当てなんでしょ!?いくら欲しいの、言ってちょうだい!私、絶対になんとかして用意するから!だからお願い、乱暴はしないで……!」それは、璃々子が来る前に大吾たちが何百回と喚き散らした言葉だった。だが、男たちは一切耳を貸さず、ただ黙々と暴力を振るい続けてきたのだ。璃々子の心臓が早鐘のように鳴り響く。この男たちが何者なのか、誰の差し金で動いているのか、まったく見当がつかない。極限の恐怖でパニックになりかけたその時――再び重い鉄扉が開き、外から別の男が部屋に入ってきた。男の合図とともに、手下たちが二台のビデオカメラをセットする。レンズが真っ直ぐに、璃々子と蓉子の顔を捉えた。録画の赤いランプが点灯したのを確認すると、後から入ってきた男が静かに口を開いた。「さあ、始めようか」大吾たち一家は、何が起きているのか分からず呆然とする。始める?何を?男は冷酷な目で三人を見下ろし、言った。「お前たちがこれまで、ミキさんに対して行ってきたすべての虐待と悪行。それを一つ残らず、洗いざらいカメラに向かって告白しろ」「え……?」「一つ言い漏らすたびに、指を一本切り落とす」ダンッ!!男が振り下ろしたサバイバルナイフが、三人の目の前にある木机に深々と突き刺さった。「ひっ……!」蓉子が白目を剥いて気を失いかける。男はナイフの柄を軽く弾きながら、震え上がる三人に冷たく念を押した。「いいか。忘れるなよ。――『一つ残らず、すべて』だ」最初は、璃々子
なんだかんだ言って、あの男は以前から璃々子を特別扱いし、庇ってきた実績がある。今回も、借金で首の回らなくなったあの女に泣きつかれ、可哀想に思ってまた助け舟を出したのではないか。私を社会的に抹殺することで、璃々子の憂さ晴らしに協力しているのだとしたら――ミキの推測を聞いた佐伯は、憤りのあまり声を荒げた。「もし本当に由木社長の仕業だとしたら、いくらなんでも悪辣すぎるわよ!仮にも一度は夫婦だった相手を、こんな卑劣な手で陥れるなんて!」「……あくまで私の憶測よ。彼だと決まったわけじゃないし」「でも、あの男の普段の冷酷なやり口を見てたら、疑わざるを得ないじゃないの」「…………」ミキは沈黙した。確かに、佐伯の言う通りかもしれない。一方、由木グループ本社。白彦は広報部のスタッフを会議室に緊急招集し、殺気立った声で指示を飛ばしていた。ミキに関するネット上のデマと悪質なトレンド入りを、今すぐ全力で揉み消せ、と。しかし、広報部が総出で一時間以上も対応に追われているというのに……炎上は鎮火するどころか、さらに勢いを増して拡散され続けていた。「どういうことだ……!なぜまだ消えていない!」白彦が机を叩き、怒声を発する。矢面に立たされた広報部長は、額から滝のように冷や汗を流し、震え声で弁明した。「も、申し訳ありません、社長!ですが、我々も手は尽くしたのです。これはどう見ても、誰かが故意に莫大な資金を投じて、炎上を煽るよう業者を動かしているとしか……」しかも、そのつぎ込んでいる額が尋常ではない。広報部長は恐ろしくて口に出せなかったが、彼の経験から見積もっても、相手は最低でも二十億円は下らない大金を投じているはずだった。いったいミキは、誰の恨みを買ってしまったというのか。これほど途方もない金を使ってまで、彼女を社会的に抹殺しようとする人間など想像もつかない。白彦はギリッと奥歯を噛み締め、怒りで顔を歪ませた。「だったら、こっちも金で対抗しろ!費用はすべて俺の個人口座から引き出せ!」「し、しかし……」「金額はいくらでも構わん!とにかく、今すぐミキに関するすべての悪評をネット上から跡形もなく消し去れ!!」社長の気迫に圧倒され、広報部長はビクッと体を震わせた。「は、はいっ!ただちに!!」
あらかじめミキがすんなり首を縦に振らないことはわかっていたのだろう。冷酷な皮肉をぶつけられても、二人は顔を引き攣らせながら必死に耐えていた。蓉子は愛想笑いを顔に貼り付けたまま、どうにかミキの罪悪感を煽ろうと口を開く。「もう……昔のことをいつまでも根に持って!あれは虐待なんかじゃないわよ。ただの『しつけ』じゃない。ちょっと言うことを聞かない子どもを叱っただけよ。大怪我させたわけでもないし、こうして五体満足で立派に育ってるんだから、いいじゃないの!」その言葉に、ミキは思わず鼻で笑ってしまった。大怪我させなかった?立派な「しつけ」?笑わせないで。あんたたちが私に手を出せなかったのは、単にビビっていたからでしょ。当時、未成年だったミキの様子を見るため、児童相談所の職員が定期的に家庭訪問に来ていたのだ。もし体に痣でも残っていれば、即座に養育の権利を取り上げられ、彼女をダシにして得ていた金まで失うことになる。だからこの夫婦は、あえて証拠の残らない方法でミキをいたぶり続けていたのだ。おかげで、ミキは警察に駆け込む機会すら奪われていた。「ええ、確かにあんたたちは私を殴り殺しはしなかったわね。その代わり、窓一つない物置部屋に私を閉じ込めて、水も食べ物も一切与えなかった」ミキの声は、墓石よりも冷たかった。「一番長かった時で、丸五日間よ」あの時の、胃袋が溶けるような飢え。ひび割れた唇。暗闇の中で少しずつ命の灯火が消えかけていく、あの恐ろしい絶望感。餓死する一歩手前まで追い詰められた記憶が、鮮明に蘇る。「あ、あれはたまたま仕事が忙しくて、つい忘れちゃっただけじゃないの!」蓉子がしどろもどろになって言い訳をする。すかさず大吾も加勢してきた。「お前って奴は、本当に心の狭い子だな!なんだかんだ言っても、俺たちはお前を立派な大人になるまで育て上げてやったんだぞ!それがお前なりの恩返しなのか?どうしてそんなに薄情なんだ!いつまでも過去のことをネチネチと……俺たちだって聖人君子じゃないんだから、完璧な子育てなんてできるわけないだろう!」「そうよ、そうよ!実の親だって完璧じゃないのに、私たちは十分よくやってきた方よ!」蓉子も調子に乗って捲し立てる。「土下座してまで感謝しろとは言わないわ。で
ソファの端に座っていた大吾が、バネに弾かれたように立ち上がった。「どういう意味だ!?由木社長はお前のことを一番大切にしてくれてるじゃないか!たかだか60億だぞ!?」「……一番大切?」璃々子の口から、乾いた笑い声が漏れた。喉の奥から絞り出されたその声は、まるでガラスの破片で鉄板を引っ掻いたような、耳障りで歪な音だった。「アハハッ……一番、大切……ッ」彼女は腹を抱えるようにして身を屈め、ガタガタと肩を震わせて笑い始めた。狂ったように笑うたび、目尻から大粒の涙が飛び散り、膝にボタボタと落ちていく。そのあまりにも異様な姿に、大吾と蓉子は背筋に冷たいものが走るのを感じ、一歩後ずさった。「あの男はね、私が買ったファンドが確実に紙屑になるって知ってたのよ!それでも一言も私に警告しなかった!私が借金まみれで泥沼に沈むのを、ただ冷たい目で見てたのよ!そして完全に追い詰められた私に、二度と国に帰れないのを条件に『海外へ逃げろ』って言ったの!」顔を上げた璃々子の表情は、完全に常軌を逸していた。血走った目で両親を睨みつけ、ヒステリックに叫ぶ。「何が大切よ!何が特別よ!全部嘘じゃない!私の居場所なんて、あの人の心の中に最初から一ミリもなかったのよ!!」彼女はテーブルの上にあった高価な花瓶を両手で掴むと、床に向かって力任せに叩きつけた。ガシャアンッ!!と凄まじい轟音がリビングに響き渡り、鋭い陶器の破片が四方八方に飛び散る。「あの人の目には、あのミキのクソアマしか映ってないのよ!あいつには由木グループの株を25パーセントも渡した上に、1兆円のプロジェクトの配当金まで差し出したのよ!?」「なのに私には、たった60億すら出し渋った!全部、ぜんぶ嘘だったのよぉっ!!」そこからは、完全に狂乱状態だった。璃々子は目に付くものすべてを手当たり次第に投げつけ、壊し、叫び続けた。リビングはあっという間に足の踏み場もないほどに破壊され、大吾と蓉子はただ壁際に縮こまって、娘が暴れ狂うのを見ていることしかできなかった。やがて、すべてを壊し尽くし、泣き叫んで声も枯れ果てた璃々子は、ふらふらとした足取りで自分の部屋へと引き上げていった。嵐が過ぎ去ったあとの、惨状と化したリビング。蓉子は床に散乱したガラスの破片を見つめながら
「え……?」「あなたが社長の名前を騙って、勝手に人脈を広げていたことも。ご両親が闇金に手を出してまでその金融商品に投資したことも。さらには、その商品が確実に暴落して紙屑になることすらも、社長はすべて把握しておいででした」美奈子の口から紡がれる言葉は、あまりにも残酷だった。璃々子の顔から、見る見るうちに血の気が引いていく。「社長はあなたに一度も警告しませんでした。なぜだかわかりますか? ――はっきり申し上げましょう。社長は、あなたが自滅するのを待っていたのです。あなたが取り返しのつかない負債を抱えれば、それを理由に『海外へ追放』できますからね」「嘘……そんなの嘘よ!信じないわ!あなた、私を騙そうとしてるんでしょ!?」事実を受け入れられず、璃々子は半狂乱になって首を振った。しかし、美奈子の眼差しは冷酷な真実を物語っていた。「理由はただ一つ。あなたの存在が、ミキ様との復縁の邪魔になるからです」美奈子はわざと一拍置いてから、璃々子の息の根を止めるように言葉を続けた。「私の見立てでは、社長はミキ様との関係を修復しようと必死です。だからこそ、一刻も早くあなたという障害を排除したかったのでしょう」「あり得ないわ!だってあの二人はもう離婚してるのよ!?」璃々子の声が、恐怖と絶望でガタガタと震え出す。「ええ、離婚は成立しています。しかし、社長はどうにかしてミキ様の心を取り戻そうと、会社の株式の25パーセントをミキ様に譲渡されました。今回の温泉旅行もそうです。一兆円の利益をもたらす大型プロジェクトの配当金と引き換えに、ミキ様と二人きりになる時間を作り出したのです」美奈子の静かな声は、まるで鋭い釘のように、容赦なく璃々子の鼓膜に打ち込まれていった。「……黙りなさいよ」ガタッ!と、璃々子が激しい勢いで立ち上がった。椅子の脚が床を擦り、鼓膜を劈くような不快な音がラウンジに響き渡る。周囲のテーブルに座っていた客たちが、何事かと怪訝な顔でこちらを振り向いた。璃々子の胸は激しく上下に波打ち、その見開かれた両目はすでに怒りと絶望で真っ赤に充血していた。以前、ミキ本人から「白彦から会社の株式の25パーセントを譲り受けた」と聞かされたことがあった。あの時、璃々子はそれを「自分を刺激するための見え透いたハッタリ