Partager

第214話

Auteur: 北野 艾
昨日はバレンタインデー。その夜に「寝かせてもらえなかった」と言えば、誰だって情事を想像するだろう。

真田は目のやり場に困り、引きつった笑みを浮かべるしかなかった。「……江崎社長がお待ちですよ」

志帆はそこで初めて詩織に目を向けた。だが、謝罪の言葉一つない。「じゃあ、始めましょうか」

当然のようにノートPCを開く彼女に、真田が慌てて場を取りなそうとする。「あの、まずは私から進行の説明を……」

「必要ないわ。彼女とは顔見知りだし」志帆は冷たく言葉を遮った。「それに江崎さんは元々ウチの社員だったんだもの。事情は飲み込めてるでしょ」

取り付く島もない態度に、真田は口をつぐむしかない。

すると志帆は、獲物を狙うかのように話題を変えた。「昨日の夜、契約内容をざっと見せてもらったんだけど。華栄キャピタルみたいな吹けば飛ぶような会社、ウチの取引基準を満たしてないじゃない。過去にこんな特例、一度もなかったはずよ。ねえ江崎さん、どんな手を使って柊也くんに契約書へサインさせたの?」

真田が息を呑んだ。

まるで正妻が愛人を尋問しているかのような剣幕だ。

こんな修羅場に巻き込まれると知っていれ
Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application
Chapitre verrouillé
Commentaires (1)
goodnovel comment avatar
千代子
本当に志帆ムカつく 譲はもう分かってきたみたいだけど 太一も気付けよ 志帆は学歴だけで中身のない自信過剰なアホで腹黒で性格悪い女だって
VOIR TOUS LES COMMENTAIRES

Dernier chapitre

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1241話

    ルナの破滅は、まさに自業自得というやつだろう。映画のクランクイン前にスキャンダルが発覚したのは、せめてもの救いだ。もし撮影がすべて終わった後にこんな騒動が起きていたら、一体どれだけの人間が巻き添えを食らっていたか分からないのだから。その日一日、スタジオ内はルナの不祥事と降板の話題で持ちきりだった。ミキは特にその輪に加わることはなかった。それよりも、今日の彼女には深刻な問題があった。本来なら今日は激しい立ち回りのトレーニングがいくつも入っていたのだが、昨夜の疲労のせいで、どうしても身体に力が入らないのだ。アクション指導のスタッフも彼女の不調に気づいたのか、「ミキさん、寝不足ですか?」と心配そうに声をかけてきた。ミキが申し訳なさそうに謝罪すると、スタッフは気を利かせてくれた。「無理は禁物です。今日は基礎的な型だけにしておきましょう。誰か相手役を……」スタッフが周囲を見回したその時、航が自ら小走りでやってきた。「オレがミキさんの相手を務めますよ」「おっ、頼む。ちょっとミキさんをカバーしてやってくれ」「任せてください!ミキさんのことはオレがしっかりサポートしますから」航はそう言って、太陽のように眩しい笑顔を向けた。実際、航はトレーニング中もミキを過剰なほど気遣っていた。その分かりやすすぎる態度は、普段は少し鈍感な萌でさえ気づくほどだった。休憩室に戻るなり、萌が興味津々といった様子でミキに耳打ちしてきた。「ねえミキさん、航くんって絶対にミキさんのこと狙ってますよね?」「……」ミキはこめかみを押さえた。頭が痛い。彼女だってアラサーの大人だ。いくらなんでも、若い男の下心に気づかないほどウブではない。ただ、航が決定的な言葉を口にしない限りは、気づかないフリを突き通すつもりだった。普段から一定の距離感を保ち、彼に付け入る隙を1ミリも与えていないのもそのためだ。同じ現場で顔を合わせる以上、変にこじれて気まずくなるのは避けたい。彼が自ら察して、フェードアウトしてくれるのが一番平和なのだ。そんなことを考えていると、当の航が冷たいデザートをふたつ提げて休憩室にやってきた。「ミキさん、お疲れ様です!これ、差し入れです。この前、澪士様が現場に用意してくれたのと同じ、高級ホテルの特製和梨ジュ

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1240話

    あのバカ、結局戻ってきたんだ……!どうせ澪士だろうと思いながら、勢いよくドアを開ける。しかし――そこに立っていたのは、見知らぬスーツ姿の男だった。「……え?」その瞬間、ミキの胸の奥に、自分でも驚くほどの落胆が広がった。男は深く頭を下げ、恭しく口を開いた。「ミキ様。こちらは社長から仰せつかりました朝食と、お贈り物でございます」男は手際よく紙袋と小さな手提げ袋をミキの腕に押し付けると、彼女が何か言う前に「では、失礼いたします」と足早に立ち去ってしまった。ミキは仕方なく荷物を抱えてリビングへ戻り、ソファに腰を下ろした。すると、タイミングを見計らったかのように、スマートフォンの画面が明るく光り、澪士からのメッセージが届いた。【俺を追い出して怒るのは勝手だが、飯はちゃんと食えよ。それにしても、お前は少し体力がなさすぎるな。たった三回で立てなくなるなんて】……っ、このクズ!ミキは顔を真っ赤にして、即座に【ふざけないで。さっさと消えて!】と返信を叩きつけた。澪士からは、一秒で返信が来た。【了解。今、大人しく消えつつあるところだ】……はぁ。ミキはため息をつきながら、朝食の入った紙袋を開けた。中に入っていたのは、彼女がお気に入りにしている有名ホテルのルームサービスの洋食セット。そして、彼女が大好きな専門店の焼きたてエッグタルトと、甘いロイヤルミルクティーだった。昨晩からの激しい消耗戦のせいで、お腹は限界まで空っぽだ。ミキはミルクティーを一口飲み、エッグタルトをかじりながら、もう一つの小さな手提げ袋に手を伸ばした。中に入っていたのは、重厚な高級ジュエリーボックスだ。残っていたエッグタルトを一口で放り込み、丁寧に手を拭いてから、彼女はそっとボックスの蓋を開けた。――その瞬間。中を見たミキの瞳が、ふいに熱く潤んだ。……これ……黒いベルベットの台座に鎮座していたのは、彼女の亡き母親がかつてデザインした、ヴィンテージのジュエリーだった。母の遺した作品を、一つ残らずこの手で集め直すこと。それが、ミキの長年の悲願だった。以前、彼と飲んだ時に一度だけポロリとこぼしたその話を、彼はただの酔っ払いの戯言として聞き流すことなく、ずっと覚えていてくれたのだ。この一年で、彼が独自のルート

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1239話

    しかも一回あたり一時間以上、一切の手加減なしで徹底的に貪り食われたのだ。これ以上やり続けたら、こっちの身がどうにかなってしまう。「ふうん……?その言い方だと、お前自身はまだ物足りなかったみたいだな。なら、続きをやるか?」言うが早いか、澪士は彼女をベッドに下ろすなり、最も敏感な首筋へと熱い唇を這わせてきた。昨夜の濃密な交わりで、彼は彼女の身体のスイッチがどこにあるのかを完全に把握してしまっている。「ちょっと、ふざけないでよ!」ミキは慌てて手のひらで彼の唇を塞ぎ、鋭く睨みつけた。――しかし次の瞬間。澪士は塞がれた彼女の掌の真ん中を、舌先で生温かく、艶かしく舐め上げた。「ひゃっ……!」まるで火傷でもしたかのように、ミキは慌てて手を引っ込めた。「あ、あんたねぇ!犬じゃないんだから、すぐ人に噛みついたり舐めたりしないでよ!」「……あぁ」怒鳴りつけるミキに対し、澪士はどこか酷く愉しげに目を細め、悪びれもせずに低く囁いた。「俺はお前の犬だからな。お前だけの、飼い犬だ」この男……っ!言葉責めと大人の余裕にかけては、どう足掻いてもこの男には勝てない。彼は息を吐くように、平然と甘く危険な言葉を口にする。ミキはいたたまれなくなり、プイッと顔を背けて誤魔化すように声を荒らげた。「で、なんで水シャワーなんか浴びたのよ!風邪も治りきってないのに、馬鹿じゃないの!?」そもそも、さっきの「火照りを鎮めるため」なんていう言い訳を信じる気にはなれない。一晩中、私をあんなにドロドロになるまで食べ尽くしておいて、まだ火が残ってるなんてありえないでしょ!何度も「もう無理」「壊れちゃう」と泣いて懇願したのに、このケダモノは「うん、わかった。お前の言う通りにするよ」と優しい声で囁きながら、その手と腰の動きは一回戦目よりもさらに激しく、深く、容赦なく彼女の奥底を突いてきたのだ。「俺が全部動いてやってるのに、お前が疲れる要素なんてないだろ?」そんな理不尽極まりない言葉を耳元で囁きながら。「本当に火照りを鎮めるためだって。……嘘だと思うなら、確かめてみるか?」澪士は彼女の首筋に顔を埋めたまま、その熱く硬い変化を、下腹部へとわざとらしく押し当ててきた。「…………っ」ミキは顔を真っ赤にして口を噤んだ。…

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1238話

    「……いや。お前自身が、俺の特効薬なんだ」澪士の体温は、恐ろしいほどに熱かった。ミキは自分までその熱に感染してしまったかのように、視界がぐらぐらと揺れるのを感じた。先ほどまでの甘いキスは一変し、すべてを剥き出しにした圧倒的な侵略の色を帯びていく。大きな手が彼女の身体の曲線をなぞり、焦らすように、時には力強く、敏感な場所だけを的確に責め立てていく。いとも簡単に身体の奥底から甘い痺れを引き出され、ミキはついに完全な敗北を悟り、彼がもたらす激しく濃密な快楽の波へと溺れていった。この身を焼き尽くすかのような業火は、果てのない夜の闇を溶かしながら、朝方まで絶え間なく燃え続けた。ついに全てが終わった時、ミキは鉛のように重い瞼を開く気力すら残っていなかった。澪士は背後から彼女の体をすっぽりと包み込み、まるで世界で最も尊い宝物を囲い込むように、力強く、そして狂おしいほど大切に抱きしめている。あまりの密着感と熱さに、ミキは不快感を訴えるように鼻を鳴らして身を捩った。しかし男の腕は緩むどころか、さらに深く彼女を己の懐へと引き摺り込む。澪士は彼女のうなじに顔を埋め、耳の裏の最も柔らかく敏感な肌に、何度も何度も甘く唇を擦り寄せた。「……可愛い子ちゃん。すごく、いい匂いがする」「どうして、こんなに甘い匂いがするんだ……?」耳元に落ちる吐息は、熱を帯びたまま酷く甘い。「んっ……暑い、離して……汗でベタベタしてるし……」ミキは掠れた声で抗議した。すぐにでもシャワーを浴びてスッキリしたかったが、指一本動かす体力すら残っていない。しかし、澪士は彼女をベッドから降ろす気など毛頭なかった。彼は、この事後の気怠い温もりがたまらなく好きだった。彼女の白い肌が己の匂いと痕跡で赤く染まり上がり、互いの熱がドロドロに混ざり合う、この背徳的なまでの密着感。彼女の心身の奥深くにまで自分の印を刻み込み、彼女が完全に、血の最後の一滴まで「自分だけのもの」になったと錯覚できる、この至福の瞬間を手放したくなかったのだ。とはいえ、腕の中でミキがあまりにも気持ち悪そうにぐずり始めたため、澪士は折れて彼女を抱き上げ、バスルームへと向かった。手早く、けれど極上の優しさで彼女の身体を洗い清め、ふかふかのタオルで包み込んでから、真新しいシーツの敷かれ

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1237話

    その後、額に冷却シートを貼ってやろうとすると、澪士は大人しく上目遣いで顔を向けた。その姿はまるで、ご主人様に頭を撫でられるのを待っている従順な大型犬のようだ。……調子が狂うわね。ミキは呆れたように息を吐いた。普段、投資界隈で冷酷無比に敵を叩き潰している絶対的な捕食者の顔と、目の前で大人しく熱を出しているこの男が、どうしても結びつかない。無事にシートを貼り終え、ベッドから離れようとした瞬間――ガシッ。彼女の細い腰に、逞しい腕が巻き付いた。逃げられないようにしっかりと、けれど決して彼女を傷つけない絶妙な力加減で抱き寄せられる。澪士は熱を帯びた、酷く真剣で重い眼差しで彼女を見上げ、低く問うた。「……可愛い子ちゃん。お前はいつになったら、あいつと完全に縁を切るんだ?」あいつ、とは言うまでもなく元夫の白彦のことだ。澪士はこの日を、狂おしいほど待ち望んでいた。彼は、ミキが戸籍上はすでに白彦と完全に離婚し、法的には赤の他人になっていることは知っている。しかし、あのクズな元夫は事あるごとにミキに付き纏い、彼女の行く先々にストーカーのように現れていた。澪士はその光景を見るたびに、「ミキはまだ元夫を完全に拒絶しきれていない。心の中ではまだあいつに未練があり、いつでも復縁するつもりなのだ」と激しく誤解し、ドロドロとした嫉妬をこじらせていたのだ。だからこそ、彼は今までずっと己の暗い欲望を押し殺し、耐え忍んできた。唯一の例外は、彼女がひどく落ち込んで酒を飲み、「誰でもいいからキスしたい」と自暴自棄に笑ったあの夜だけ。彼は理性を吹き飛ばし、その誘いに乗ってしまった。あの一夜を境に、心の底に封じ込めていた熱い渇望はもう抑えきれなくなっていた。そして極め付けは、彼女がバーで若い男たちを大勢侍らせていると耳にしたあの日だ。限界を超えた澪士は彼女をドアに押し付け、「俺を、お前の間男にしろ」と強引に迫ったのだ。名分などなくてもいい。彼女の心がまだ元夫にあったとしても、日陰の男で構わないから彼女を俺だけのものに染め上げたかった。だが、人間の欲望というものは底なしだ。だが、人間の欲望というものは底なしだ。一度手にしてしまえば、次はもっと多くを望んでしまう。今では、彼女が他の男――特にあの元夫と少しでも関わりを

  • 七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した   第1236話

    ミキはいたたまれなくなり、逃げるようにバスルームへと駆け込んだ。蛇口をひねり、冷たい水で何度も顔を洗って、ようやく激しく波打つ心臓を落ち着かせる。手早く着替えを済ませてリビングへ戻った彼女は、ベッドの上の男に一切視線を合わせることなく、そのまま無言で部屋のドアを叩き閉めて外へ出た。完全に怒らせてしまったらしい。一人残された澪士は、ベッドの上で困ったように前髪を掻き上げた。……朝から少し、からかい過ぎたか。数十分後、ミキが朝食を買って部屋に戻ってくると、澪士はすでにベッドから出て、リビングのソファに背筋を伸ばしてちょこんと座っていた。その姿は、主人の機嫌を損ねて反省している大型犬のようだ。ミキは買ってきた朝食の入った紙袋を彼の目の前のテーブルにドンと置き、何も言わずに自分はデスクに向かって台本を開いた。表情は氷のように冷たく、一切口を利く気がないことを全身で示している。ここで下手にちょっかいを出せば、今度こそ本当に部屋から叩き出されるだろう。本能でそれを察知した澪士は、大人しく彼女が買ってきた朝食に手をつけていた。しばらく静寂が続いた後、台本から目を離さないまま、ミキが唐突に冷ややかな声で命じた。「……熱、測って」「…………」澪士は素直に非接触型の体温計を自分の額に向け、ピッとボタンを押した。「39.7度だ」その律儀な報告を聞いて、ミキの眉間がわずかに寄った。まだあんなに熱があるじゃない。どうして解熱剤が効かないのよ……内心の心配を悟られないよう、ミキはわざと厳しく、突き放すような声を出した。「……さっさと薬飲んで」そのあまりにも冷ややかな響きに、澪士は怒るどころか、ゆっくりと口角を吊り上げた。どんなに冷たい態度をとって怒って見せても、彼女は決して俺を見捨てず、俺の体を気遣っている。その事実が、彼の胸の奥で燻る重く歪んだ愛執を、どこまでも甘く満たしていくのだった。朝の一件で完全にミキを怒らせてしまったため、その日一日、澪士は驚くほど大人しくしていた。機嫌を損ねた彼女の逆鱗にこれ以上触れないよう、静かに息を潜めている。夕食後、ミキが体温を測ると、液晶には「38.5度」の数字が表示された。ピーク時から見れば、熱は随分と下がり始めている。それでも澪士の体調は優れな

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status