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第230話

Author: 北野 艾
詩織が目を覚ました時には、夜は随分と更けていた。

運転席はもぬけの殻だ。

一瞬、彼が自分を置き去りにして帰ったのかと思い、怒りがこみ上げる。

いや、車ごと置かれているのだから違うか。喉元まで出かかった罵倒を飲み込み、彼女は車を降りた。

挨拶などする気もない。そのままエントランスへ向かって歩き出す。

「……また俺を運転手扱いか。礼くらい言えないのかよ」数歩進んだところで、皮肉っぽい声が降ってきた。

足を止めて振り返る。

街路樹の陰に隠れていて気づかなかったが、彼はそこでタバコを吹かしていたらしい。

近くの吸い殻入れには、山盛りの吸い殻が捨てられている。

それを見て、詩織は思わず眉をひそめた。

昔なら、「体に悪いから」と吸い殻を取り上げ、禁煙を勧めていただろう。

だが今の彼女は、ただ煙たそうに半歩下がっただけだ。

服に臭いがつくのは御免だ。

「……お礼が欲しいなら、あなたが私に借りてる分を先に返してちょうだい」

この七年間、彼を送り迎えしたのは自分のほうだ。その回数は数え切れない。

柊也は紫煙を深く吸い込み、吐き出した煙のスクリーン越しに彼女を見た。その瞳に浮
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