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第327話

Author: 北野 艾
余計なことは喋るなという警告か?

詩織がその真意を探ろうと睨み返した時には、彼はもう興味を失ったように視線を外していた。

そして、自分の腕に愛おしそうにしがみつく志帆に向き直ると、先ほどとは打って変わった穏やかな声色で囁く。「ヒールで立ちっぱなしは辛いだろう。あっちで少し座ろうか」

「うん、ありがとう」

二人は見せつけるように寄り添い合い、人混みの中へと消えていった。

詩織はふと視線を落とし、自らの足を包むハイヒールを見つめた。口元に、自嘲めいた笑みが浮かぶ。

学生時代、親友のミキによく愚痴をこぼしていたものだ。

「ハイヒールなんて、現代の拷問器具よ!」

けれど社会に出れば、嫌でも『大人の女性』の仮面を被らなければならない。

秘書として働き始めた最初の1年は、足の傷が癒える暇もなかった。

救急箱の中身は、絆創膏と鎮痛テープの山。捻挫や靴擦れなど日常茶飯事だった。

一番ひどかったのは、足の指を骨折した時だ。

激痛が走っていたのに、単に靴が合わないだけだと思い込み、一日中柊也の視察に同行して歩き回ったのだ。限界が来て病院へ駆け込んだ時には、すでに手遅れの状態だった。
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