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第638話

Author: 北野 艾
ただ、今の詩織にとって「ロマンチック」という言葉は、アレルギー反応を起こす劇薬のようなものだ。彼女は早々に窓の外への興味を失い、視線を戻した。

とはいえ、誕生日の記念は残しておきたい。

給仕のスタッフに頼んで三人での記念撮影をしてもらい、それをSNSにアップロードした。添えた言葉は飾り気なく、シンプルに。

【私へ、お誕生日おめでとう】

投稿が完了した直後、タイムラインに新しい投稿が表示された。

ふと見れば、あの『chill』というハンドネームの人物の投稿が、自分のすぐ下に並んでいた。

添付された写真は、夜空に咲く大輪の花火。

そして、その一言。

【誕生日おめでとう】

奇遇だ。この人も今日が誕生日なのだろうか。

まあ、世界中に同じ誕生日の人間など五万といる。さして珍しいことではない。

詩織はそれ以上深く考えることなくスマートフォンの画面を消し、テーブルに向き直った。

今日は母に誓ったのだ。仕事もスマホも忘れて、ただひたすら家族との時間を楽しむと。

……

舞台は、江ノ本市へ移る。

志帆は、鉄格子の中でただひたすらに時を数えていた。

拘置所での暮らしは、想像を
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