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第5話

Penulis: 誤字ラ
翌朝、美空が目を覚ますと、元同僚からメッセージが届いていた。

【吉沢さんの席の下からネックレスを拾ったんだけど、届けましょうか?】

続けて送られてきた写真を開き、美空は思わず目を見開いた。

それは、一昨年の誕生日に母からもらったネックレスだった。とても気に入っていて、ずっと大切にしていたものだ。

退職するとき、急いで荷物をまとめたせいで置き忘れてしまったのだろう。

美空はすぐに元同僚に返事を送り、受け取るついでに食事をする約束をした。

食事の場所は出勤していた頃によく通っていたレストラン。約束の時間より早く店に着いた美空は、先に注文を済ませた。

ところが、料理を待っていると、入り口から別の人物――玲奈が入ってきた。

いつもの愛らしい笑顔は消え、冷たい表情を浮かべている彼女は、そのまままっすぐ美空のもとへやってきた。

美空は眉をひそめる。

「白川さん?どうして……」

言い終わる前に、玲奈がいきなり手を振り上げた。

パシンッ!

乾いた音が店内に響き、美空の頬が横へ弾かれた。

「この泥棒猫!会社を追い出されたくせに、まだ私の婚約者に付きまとうなんて、どういうつもり?」

周囲に聞こえるよう、玲奈はわざと声を張り上げた。

店内は一瞬にして静まり返った。食事をしていた客たちが、驚いた顔で2人を振り返る。

美空は頬を押さえたまま、ようやく状況を理解した。昨夜のことを知った玲奈が、腹いせに来たのだ。

打たれた頬が、じんじんと熱を持っている。

その間にも、周囲からひそひそと声が上がり始めた。

「えっ、婚約者の浮気相手をぶったの?すごい修羅場……」

「やられて当然でしょ。あの人、あんなに綺麗なのに、なんで人の婚約者に手を出すのよ」

「あの2人って、白川さんと、篠原社長の秘書だった吉沢さんじゃない?吉沢さん、何年も篠原社長と付き合ってたらしいけど、最近捨てられちゃったんですって。それどころか、白川さんにあそこまで責め立てられて……ほんと、気の毒よねえ」

「どこが気の毒なのよ?相手は白川家のお嬢様よ?自分の立場もわきまえずに張り合おうとするなんて、身の程知らずにもほどがあるわ」

好き勝手な言葉が、容赦なく美空に浴びせられる。

悔しさと屈辱で、全身が小刻みに震えた。

それでも、美空は何も言い返さなかった。玲奈の悪意に満ちた視線を浴びながら、唇をぎゅっと噛みしめ、ただ耐えていた。

もう、ここにはいたくない。

そう思った美空は、腰をかがめて足元のバッグをつかみ、その場を立ち去ろうとした。

「ちょっと。誰が帰っていいと言ったの?」

玲奈の鋭い声が飛んだ。

「吉沢美空、あなたみたいな女、私の周りには掃いて捨てるほどいるのよ。雅人と7年も付き合っていたからって、自分が特別な存在にでもなったつもり?あなたなんて、せいぜい雅人の身の回りの世話をするメイドがお似合いだったくせに!」

美空が黙ったままでいると、玲奈の目がいっそう険しくなった。

「いい?もう二度と、私と雅人の前に現れないで。篠原グループをクビになったんだから、さっさとこの街から出ていきなさい。それとも、私に追い出してほしいの?あなた一人を京浜市から追い出すくらい、私には簡単なことよ」

その言葉を聞いた瞬間、美空の表情からも、とうとう感情が消えた。

彼女はゆっくりと玲奈へ向き直った。

「私と篠原さんは、もう別れていますので、その点はご安心ください。それに、両親との約束もあって、故郷に帰ってお見合いをすることになっています。

私を脅している暇があるのでしたら、ご自分の婚約者をもう少しきちんと見ていらしたほうがよろしいのでは?これ以上、篠原さんに付きまとわれても、私も困りますので」

その言葉に、玲奈の顔から笑みが消えた。

まるで、雅人のほうが追いかけているのだと、美空に余裕たっぷりに告げられたように感じたのだ。

玲奈の目には、隠しきれない悪意が滲む。

「実家に帰ってお見合い?どうせ、お母さんから男を誘惑する方法でも教わりに行くんでしょう?」

玲奈は鼻で笑った。

「あなたのお父さん、昔、交通事故に遭って片足が不自由になったんですってね。それって、働けないただのお荷物ってことでしょ?

お母さん一人で、どうやってあなたを育てたのかしら?自分の身体を売って稼いでいたんじゃないの?だから、あなたもそんな恥知らずなことができたのね?人の婚約者に色目を使うなんて、親子そろってどうしようもない泥棒猫よ!」

耳障りな声が、美空の神経を逆撫でした。

もう、聞いていられなかった。

「……いい加減にしてください!」

美空は目の前のコーヒーカップをつかむと、玲奈の顔めがけて一気に浴びせた。

「きゃあっ!」

コーヒーが顔から服へと流れ落ち、玲奈は目を大きく見開き、美空を見つめた。

やがて怒りで全身を震わせ、甲高い声を上げる。

「吉沢美空!私になんてことをしてくれたの?絶対に許さないんだから!」

美空は冷ややかな目で玲奈を見返した。

「これ以上私の家族を侮辱するつもりなら、容赦しませんから」

言い終えた、そのときだった。

レストランの入口に、雅人の姿が現れた。

店内の騒ぎに気づいた彼は、迷うことなく2人のもとへ歩いてくる。

玲奈は雅人の姿を見るなり、たちまち涙ぐみ、訴えかけた。

「雅人!私、吉沢さんと少し話していただけなのに、いきなりコーヒーをかけられたの!」

美空は怒りで顔を強張らせた。

「嘘はやめてください!先に私の家族を侮辱したのは――」

言い終える前に、雅人がそばを通りかかった店員から、氷水の入ったグラスを受け取った。

そして、ためらいもなくその水を美空の頭にかけた。

冷たい水が髪を濡らし、頬を伝い、服までびしょ濡れにしていく。

美空の言葉は遮られ、彼女の中にわずかに残っていた雅人への愛情も、音もなく冷めていった。

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