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九年という名の、偽りの愛
九年という名の、偽りの愛
作者: 塩梅

第1話

作者: 塩梅
誕生日の日、私・竹村静子 (たけむら しずこ)のスマホにあるスレッドが流れてきた。

【本当の「愛の献身」って何だと思う?】

そのスレッドには、すぐにスレ主の自問自答が続く。

【この質問なら私が答えられるわ。あるチョロ男が、私に近づくために、親友の彼氏になったの。

大学時代、私がブランドバッグを買うお金がなくて困っていた時、クラス委員長だった彼は私の親友の奨学金申請書をこっそり取り下げて、代わりに私を推薦してくれたわ。私が奨学金をゲットした時、そのお馬鹿な親友は「自分がどこか条件を満たしてなかったのかな」なんて悩んでたっけ(笑)。

その後、親友が大学院の推薦枠を取ったことが公示された。私が「悔しい」って一言漏らしたら、彼がすぐに「彼女は推薦の条件を満たしていない」と大学に通報してくれたの。結局、親友は二回も試験を受ける羽目になって、やっと合格できたってわけ】

行間から滲み出る「偏愛されている自分」への優越感に、コメント欄は批判の炎上となっていた。

しかし、スレ主は恥じるどころかそれを誇りに思っているようで、傲慢にもダイヤの指輪の写真をアップした。

【あんたたちがいくら妬んでも無駄よ。今日は親友の誕生日なんだけど、彼は私にダイヤの指輪をプレゼントしてくれたわ。で、親友がもらったのは私の「おまけ」の指輪ってわけ。

ていうか、私の一言で彼、彼女の誕生日祝いを後回しにしちゃったし】

スマホが突然振動し、彼氏である今井亮平(いまい りょうへい)からLINEが届いた。

【静子、仕事でトラブルが起きちゃってさ。遅刻お許し券を使わせてくれ】

【誕生日プレゼントはベッドサイドに置いてあるよ。気に入ってくれるといいな】

私はプレゼントボックスを開けた。中には銀色のシンプルなプレーンリングが静かに横たわっていた。

私は何かに操られるようにQRコードスキャナーを起動し、箱についているコードを読み込んだ。画面には「景品」の二文字と、さっきのスレッドにあったものと全く同じダイヤの指輪が表示された。

奨学金、大学院試験、誕生日、そして景品の指輪。

私は全てを悟った。スレッドに書かれている「大馬鹿者の親友」とは、私のことだったのだ。

【スレ主:私が酷い? どこがよ?

私達の厚い友情に免じて、彼氏と別れさせてないだけ感謝してほしいくらいだわ。

今に至るまで二人の関係を壊してないんだから、私って十分優しいでしょ?】

ネットユーザーたちの追求に対し、スレ主は相変わらずそのチョロくんからの愛を大言壮語していた。

その恥知らずな態度に、ネット民たちは胸糞悪さを隠せないようだった。

次々と「拡散希望、必ず被害者の目に届くまで」の声が上がる。

だが彼らは知らない。

被害者である私は、最初からこのスレを見ていたのだ。

そして、スレッドがリアルタイムで更新されていく様を、冷ややかな目で見守っていた。

思うに、神様も私が一生騙され続けるのを見るに堪えなかったのかしら。

だからこそ、亮平と付き合って九年、入籍を目前に控えたこのタイミングで、私に真実を見せてくれたのだ。

【スレ主:ふん、あんたたちみたいなモテない負け組と話しても時間の無駄ね。

これからチョロくんとキャンドルディナーに行ってくるわ。

親友ちゃんには悪いけど、今夜、あんたの男は私が予約済みだから。うふふ】

新たな批判の嵐に対し、スレ主は煽るようにレストランの写真をアップした。

写真に写っているのは、高級感あふれる内装のフレンチレストランだ。

私は画像を保存し、画像検索にかけた。

すぐにレストランの正式名称が表示された。横には「客単価:数十万円」という注釈がついている。

「本当に愛しているなら、できる限りの最良を尽くす」と人は言う。

亮平と付き合って九年。

一番多く食べたのは、マンションの下にあるチェーン店のラーメンだった。

一番高かった食事は、市街地のファミレスで食べた一人二千円のセットメニュー。

二十八歳の誕生日である今日でさえ。

彼は杉本奈月(すぎもと なつき)にダイヤの指輪を買い、客単価数万円のレストランへ連れて行っている。

その一方で、私には「残業で帰れない」と言い放った。

昔の人はよく言ったものだ。

お金の使い道こそが、愛の在処なのだと。

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