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ここまでの目次

作者: G3M
last update 公開日: 2026-01-11 21:52:04

§ 第1章 一線を越えた日

  1. 第1話 由紀

  2. 第2話 祥子

  3. 第3話 二人の彼女

  4. 第4話 音楽準備室

§ 第2章 誕生日会

  5. 第5話 校庭のベンチ

  6. 第6話 玲子

  7. 第7話 招待

  8. 第8話 由紀の父親

  9. 第9話 転校の書類

  10. 第10話 拉致

  11. 第11話 誕生日会

  12. 第12話 祥子の家

  13. 第13話 欠席

  14. 第14話 美登里

§ 第3章 引っ越し

  15. 第15話 商店街

  16. 第16話 圭と明

  17. 第17話 新しい家族

  18. 第18話 実母

  19. 第19話 叔母

  20. 第20話 一時帰宅

  21. 第21話 尋問

  22. 第22話 約束

§ 第4章 裁判

  23. 第23話 復学

  24. 第24話 お見舞い

  25. 第25話 寝室

  26. 第26話 相談

  27. 第27話 再会

  28. 第28話 被告人範経

  29. 第29話 麗華の証言(1)

  30. 第30話 麗華の証言(2)

  31. 第31話 弁護

  32. 第32話 就寝

  33. 第33話 朝食

  34. 第34話 登校

§ 第5章 家業

  35. 第35話 親権

  36. 第36話 役員会

  37. 第37話 涼子

  38. 第38話 同居

  39. 第39話 立ち聞き

  40. 第40話 手伝い

  41. 第41話 養子縁組

  42. 第42話 テコ入れ

  43. 第43話 望み

§ 第6章 レイ

  44. 第44話 乗っ取り

  45. 第45話 寛子

  46. 第46話 新アルゴー社

  47. 第47話 零番機

  48. 第48話 自己紹介

  49. 第49話 お披露目

§ 第7章 ヘルマン家

  50. 第50話 訪問

  51. 第51話 ジョン

  52. 第52話 秘書

  53. 第53話 会食

  54. 第54話 四姉妹

  55. 第55話 ホームステイ

  56. 第56話 キス

  57. 第57話 文化祭

  58. 第58話 校長室

  59. 第59話 劇

§ 第8章 アンダーソン家

  60. 第60話 推論

  61. 第61話 開発者

  62. 第62話 トム

  63. 第63話 秘密

  64. 第64話 会話

  65. 第65話 シャーロット

  66. 第66話 格闘

  67. 第67話 特別なとき

  68. 第68話 破損

  69. 第69話 違い

  70. 第70話 本望

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最新チャプター

  • 二人の彼女がいる理由   第139話 お礼

     リリとの交わりのあと、範経はそのまま浅い眠りに落ちていた。体を軽く揺すられて目を開けると、すぐ近くにリリーの顔があった。「どうかなさいましたか?」 その声は柔らかかったが、どこか他人行儀でもあった。範経は思わず目尻に滲んだ涙を指先で拭い取った。「いや、何でもない」 そう言って体を起こし、もう時間かと思いながらベッドの縁に腰を下ろした。リリも静かにその隣に座った。「寂しそうに見えました」 リリは心配そうに範経の顔をのぞき込んだ。ホームシックにかかった少年のように見えたのだろうか。「ああ、以前のことを思い出していた」「今朝、転生なさったと伺いました」「そうだ」「この世界はいかがですか?」「よくわからない。ぼくはなぜここにいるんだ……」「え?」 リリは意外そうに眉を上げた。「リリはいつからこの世界にいるんだ?」「お答えできません」 一瞬、リリの顔に狼狽の色が走った。「この世界のことを知りたいのだが……」「ご質問の意味を、分かりかねます」「お前も、初めから娼婦だったわけではないのだろう?」 リリはすっと立ち上がった。「お茶でもいかがですか?」 リリは冷たく範経を見下ろしながら言った。その声には、先程までの温もりは微塵もなかった。「ぼくは好きでここにいるわけじゃない……」 範経は俯いたまま、独り言のように呟いた。リリははっとしたように目を見開き、何か言いかけた。 範経は今更ながら、娼婦を抱いたことを激しく後悔した。立ち上がり、散らばった服を手に取り、急いで身に着け始めた。「ありがとう。オレは帰るよ」 その一言に、リリは表情を変えた。「お待ちください」「何だ?」「お帰しするわけにはいきません」「なぜだ?」「まだ、ご満足いただいておりません」「十分に礼を受け取った」「これでは、お礼になっているとは思えません」「だが、あんたは十分に尽くしてくれただろう。それで十分だ」 リリは一歩踏み出し、範経の前に立ちふさがった。「もういいんだ。オレはあんたのことが好きじゃない」「どういう意味でしょうか?」「金で女を買うなんて性に合わないんだよ。好きでもない女と向き合う理由が、ぼくにはわからないよ」「娼婦ごときに何をお求めでしょうか?」「あんたは子どもを助けてもらった借りを返すためだけに、オレをもてなしたのだろう?

  • 二人の彼女がいる理由   第138話 接客

     酒場のざわめきは、まだ耳の奥に残っていた。その向かいには、いかにも逢引きに使われそうな宿が、さりげなく、しかし露骨に建っている。ロマネスク風といえば聞こえはいいが、実際にはけばけばしく安っぽい。外壁にはピンクや黄色の光がせわしなく点滅していた。 リリに促されるまま、範経は小さな入口をくぐった。中に入っても空気は変わらない。けばけばしい照明ばかりがやけに目に突き刺さり、妙に落ち着かぬ気配が建物全体に漂っていた。 リリは何も言わず、受付で鍵を受け取ると、黙って階段を上り始めた。範経も無言でその後に従う。二階の廊下を少し進んだところで、彼女は一つのドアを開け、軽く顎で中へ入るよう促した。 それからのリリの動作は無駄が一切なかった。そして、営業用の作り笑いを唇の端に薄く浮かべた。 部屋に入るなり、リリは範経の体に寄り、手早く服を剥ぎ取った。自分もさっさと脱ぎ捨てると、そのまま範経をバスルームへ押し込んだ。たちまちシャワーの湯が、頭から降り注いだ。 リリはタワシとスポンジに石鹸をたっぷりと含ませ、範経の体を丁寧に、しかし事務的に洗い始めた。頭の天辺から足の先まで、まるで順序立ててなぞるように。範経はただ、じっと耐えていた。下ごしらえをされる野菜のような気分だった。 やがて彼女はバスタオルで水気を丹念に拭き取り、範経を大きなベッドのある部屋へと移した。動作は終始淡々としていて、いかにも一連の手続きのようであった。 裸のリリが、媚びるような表情を顔に浮かべ、音もなく彼の前に立った。その体は、どこか現実離れした均衡を保っていた。豊かに張り出した胸、きつく絞り込まれた腰、そしてその下に続く骨盤の大きさが、不思議な均衡を保っている。範経はただ眺めているだけで、内側にじわりと熱が生じるのを覚えた。 リリは何も言わず、作り笑顔をその顔に張り付けたまま、範経をベットへと導いた。仰向けに横たえさせると、その上にまたがった。自然と見下ろす形になる彼女と、見上げるしかない範経。視線の交錯は、ほんの一瞬だった。彼女の股間に、不自然に赤く大きく膨らんでいる大陰唇が範経の目に映じた。その異様な艶は彼の内に潜む欲情を、じわりと、しかし容赦なく掻き立てた。 不気味なほど隆起した大陰唇の間の割れ目がぱっくりと開き、柔らかな襞がはみ出し、内側よりピンク色の粘膜が、ぬめりを帯びて露わ

  • 二人の彼女がいる理由   第137話 用心棒

     範経は兎女の娼婦リリーに導かれるまま「ビストロ・モンストレ」の戸口を離れ、表通りへと歩み出た。外は相も変わらず色とりどりの街灯が明滅し、その光はむしろ不快なほどに眼を刺した。 リリの背丈は、姉の瞳とほぼ同じほどであった。背の低い範経が並べば、その視線はおのずと彼女の首もとに落ちる。そこから漂う香りは乾ききった花の残り香のように、かすかに胸の奥を騒がせた。 だが、がっしりとした体つきの瞳に比べれば、リリの骨格はひどく華奢であった。範経はそっとその腰へ手を回す。胸と尻にはほどよく肉がついているのに、くびれた胴は驚くほど細い。思わず力を入れるのをためらうほどであった。 リリは冷ややかな表情を崩さぬまま、ひと言も発せず歩き続けた。やがて表通りから二筋ほど奥へ入ると、ひっそりとした細い路地に出た。安っぽい酒場の前のテラスには、三人のならず者めいた男たちが、だらしなくたむろしていた。 その中から、頭に牛の角を生やした大柄な男がリリの方へ歩み寄った。「リリ、また客引きか」「そうよ」「子供じゃねえか」「腰抜けのあんたと違って、れっきとした冒険者様よ」「なんだと!」 その言葉を聞くや、範経は思わずリリの肩を押しのけ、男との間へと身を滑り込ませた。「やる気か」 男の声が低く響いた。 範経が身構えるや否や、角を戴いた男は腰の短剣へ手をかけ、ほとんど反射のようにそれを抜き放った。 だが、刃が光ったのとほとんど同時に、範経の足が男の手首をはじいた。短剣は乾いた音を立てて地面に転がった。範経は一歩踏み込み、相手の動きを封じるように距離を詰めた。 その成り行きを眺めていた残りの二人が気怠げに歩み寄って来る。一人は巻いた羊の角を頂き、顔には古傷の走る男。もう一人は血の気を欠いた細面に、鋭い角を突き出した背の高い痩身の男だった。いずれも腰にはサーベルを帯びていた。「リリ、ここで揉め事を起こす気か」 羊角の男が低く言う。「このでくの坊が、先に刃物を抜いたのよ」 リリは淡々と返す。「それは見ていたさ。だが、そのお坊ちゃんはお前の客だろう」と男。「正当防衛よ」 リリの声は夜気よりも冷たかった。「こいつが脅しで小刀を抜くのなんて、いつものことだ。それに人を斬る度胸なんてありゃしない。お前も知ってるはずだ」 羊角の男が、ため息まじりに言った。「バカ犬には、ち

  • 二人の彼女がいる理由   第136話 兎女リリ

     範経とローズは声のした方へ顔を向けた。そこには、ひょろっと背の高い女が一人、いつの間にか立っていた。 胸元の大きく開いたブラウスは今にも張り裂けんばかりの豊かな胸を押し上げ、短いスカートの裾は、かろうじて大きな尻を隠していた。愁いを帯びたその顔は、若くないはずでありながら、なおどこか幼いあどけなさを残していた。つぶらな瞳が、妙に印象的だった。その頭上には不自然なほど大きな兎の耳が、まるで哀しみを嘲笑うかのように載っていた。「少し、お話をさせていただけないでしょうか」 女は控えめながら、拒否を許さぬ響きを帯びた声で言った。「何の用だ?」 ローズは、面倒くさげに答えた。「わたくし、リリと申します。昼間、蛇の目池で、エロリック様に助けていただいた子供――ぺぺとネネの母でございます。本日は、そのお礼を申し上げたく参りました」「なんだ、そんなことか」 ローズは肩の力を抜いた。「本当に、ありがとうございました」 リリーは深く頭を下げた。その仕草は、どこか芝居じみているようだが、しかし真摯でもあった。「別に気にしなくてもいい」 範経は、やや戸惑いながら答えた。「いいえ、そういうわけには参りません」 そう言うと、リリは空いている椅子にためらいなく腰を下ろし、手にしていたハンドバッグを静かにテーブルへ置いた。その一連の動作は、まるで日常の所作のように慣れきったものだった。 ローズはそれを見て、得心したように小さく頷いた。 範経の戸惑いを察したローズは身を寄せ、小声で囁いた。「この女は娼婦だ」「え?」「お代はいただきません」 リリーは、範経の驚きをよそに、穏やかだが断固とした言葉を継いだ。「そんなつもりで助けたわけではない」 範経は思わず言い返した。「承知しております。ですが、それでもお返しがしたいのです」「だが……」 言いかけて、範経は口をつぐんだ。リリの目に、かすかな翳りが差したのを見たからだ。「エロリック、嫌なのか?」 ローズが横から問う。「そうではないが……こういうのは初めてなんだ」「まあ、そうだろうな」 ローズは軽く鼻で笑った。「若いし、女には不自由していなかった顔だ。金で買うなんて経験はなさそうだな」「わたくしでは、ご不満でしょうか」 リリーの声には、わずかな震えがあった。「そういうことではない」「断る

  • 二人の彼女がいる理由   第135話 コーヒー

     来店の折、席へ案内した給仕が、やがてまた静かに顔を現した。「お食事は、お口に合いましたでしょうか」 その声には、どこか慎ましやかな、控えめな気遣いが滲んでいた。「悪くない」 範経が素っ気なく答えると、給仕はほっとしたように、ほのかに微笑んだ。頭の上の不釣り合いな大きな耳を、わずかに震わせながら。彼は手際よく、食後の皿を一枚ずつ重ねていった。「お飲み物をお持ちいたしましょうか」「ああ、バーボンをもう一杯。エロリックはどうする?」「コーヒーをもらえる?」「かしこまりました」 給仕は一礼し、なおもその場に留まって言葉を添えた。「デザートはいかがなさいますか」「アイスクリームはある?」と範経。「ええ、もちろんでございます」 ウエイターは静かに一礼し、立ち去った。 範経はローズと向かい合い、コーヒーを静かにすすった。この異世界へ来て以来、初めて心の奥底がほどけるような、穏やかな気分だった。 彼は普段ほとんど口にしないアイスクリームをスプーンですくい取り、ゆっくりと口へ運んだ。濃厚な甘みが舌の上で溶けゆくのを、はっきりと意識した。これまで味わったことのない不思議な満足感が胸の奥底に、静かに広がっていった。 店内は混み合っていた。酒をあおりながら陽気に騒ぐ冒険者らしい一団。家族連れで静かに食事を楽しむ者たち。店の外の通りからは楽器を奏で歌う声が流れ込み、ざわめきは絶え間なく続いていた。 そんな喧騒の只中にあって範経はむしろ、ゆったりとした気分に深く浸っていた。 先ほどまでこの世界特有の原色の強いきらめき――目に刺さるように感じられたそれが、今ではかえって心地よい刺激へと変わりつつあった。まるで毒々しい色彩が、いつしか優しい光に溶けていくかのように。 ローズはくつろいだ様子で、バーボンを静かにあおっていた。 範経はさらにコーヒーを口へと運びながら、ふとこれまでの自分の生活を思い出した。家では姉妹たちに過保護なほど大切に扱われ、学校では由紀と祥子を除けば、誰にもまともに相手にされない。どこか変人扱いされ、息苦しい日々のことを。 ――いっそ、このままこの世界にいても、いいのではないか。 そんな考えが、ふと頭をよぎる。ここでは誰に気を遣うこともない。ただ、自分のままでいられる気がする。 だが同時に、ここは自分の属する世界ではないという事実

  • 二人の彼女がいる理由   第134話 食欲

     現れたウエイトレスは、前菜を運んできたシャム猫のような女だった。彼女は足音一つ立てず料理を運び、卓上にそれらを静かに並べ始めた。「本当に、この子があなたの相棒なの?」 女はそう言いながら、範経の顔を、まるで店先の野菜を品定めするように、じろじろと眺めた。視線は外さぬまま、ローズに囁きつつ、肉やパンやバターの皿を、無遠慮に置いてゆく。「そうだ」 ローズは短く答えた。「そんなに腕が立つの?」「無論だ。昼間、大蛇を仕留めた」「……そう」 女はわずかに眉を動かした。「誘拐してきたと勘違いされないよう、気をつけなさいよ」 シャム猫の女は、静かに立ち去った。 ローズがナイフとフォークを手に取ると、範経もそれに倣った。 食事は、驚くほど美味であった。 範経はふと、この奇妙な異世界へ来る直前のことを思い出していた。クリスマスパーティーの光景。姉妹やガールフレンドたちに囲まれていた、あの賑やかな時間――それが、今では遥か遠い昔のように思われる。この異世界にいることに気づいてから、まだ一日も経っていない。 もう二度と現実へ戻れないのではないか。そんな考えが胸をよぎり、奥底がじわりと重くなった。不意に、ナイフとフォークを持つ手がかすかに震えた。 その様子に気づいたローズが、声をかけた。「どうした?」 範経は小さく首を振った。「いや、なんでもない。久しぶりの食事だから、少し嬉しくて」「そうか。それはよかった」 ローズは軽くうなずいた。「ああ……こんなに旨いステーキを食べるのは、初めてだよ」 言いながらも、その声にはどこか現実から浮いたような、淡い響きが残っていた。 だが、これは仮想世界のはずだった。それにもかかわらず、なぜこれほどまでに味わいが鮮明なのか――範経は、ふと不思議に思った。 焼けた肉の香り、歯ごたえ、舌触り、そして口中に広がる脂ののった肉汁の旨味。そのどれもが、本来ならば偽物にすぎないはずである。にもかかわらず、それらは疑いようもなく現実の感覚として、彼の内に立ち現れていた。 ……誰が、俺の感覚を操っているのか。 範経は心の中で呟いた。レイはこの異世界のシステムをハッキング中だと言っていた。だとしたら、範経の五感は制御システムが作り出し、彼に感じさせているはずである。 そう考えながらも、範経は肉を頬張り、続けてパンにかじ

  • 二人の彼女がいる理由   第132話 湯船

     湯気の立ちこめる浴場に、かすかな水音が反響していた。白く霞む視界の中で、互いの輪郭だけがやけにくっきりと浮かび上がる。「じろじろ見るなよ。裸が珍しいのか?」 ローズは腕を組み、わずかに視線を逸らしながら言った。その声には、強がりと、どこか落ち着かない響きが混じっている。「ローズ、女性だったんだな」 思わず漏れた言葉に、彼女はすぐさま食ってかかる。「あたしは女だよ! 外見だって言葉だって女だろ!」 湯気の中で頬がわずかに赤らむのが見えた。怒っているはずなのに、どこか照れているようにも見える。「いや、なんていうか、あまり意識していなかった」 正直な返答に、ローズは肩をすくめた。

  • 二人の彼女がいる理由   第131話 銭湯

     銭湯は街の目抜き通りにあり、いかにも古代ローマの公衆浴場の遺跡を思わせる、重苦しい威容をさらしていた。もっとも、その大理石はといえば黄色や桃色や水色といった、妙に軽薄なパステルの光沢を帯びている。いかにも得体の知れぬ気配を漂わせていた。 日が暮れてその建物は、さながら怪しげなネオンの飾り物のようにも見えた。 範経は巨大な柱の脇に穿たれた石の門をくぐり、内部へ足を踏み入れた。番台には、肌もあらわな、腕を四本持つ痩せた女が坐っている。範経とローズは百ビットの金を払った。「いつもの薬をくれ」 ローズはそう言い添えて、追加で小銭を差し出した。「どうぞ」 女は顔も上げず、ひょろ

  • 二人の彼女がいる理由   第123話 魔剣サンダーブリンガー

     女神ペルセポネ像の異変に気付いた他の参拝客たちは、一斉に範経の方に注目した。傍らにいた馬面の老婦人は、腰を抜かしてその場にへたり込み、目を見開いてがくがくと震えていた。 女神ペルセポネは範経の目の前に顕現した。それは神の装いをまとってはいたが、その容姿は紛れもなく開発者の範経を父親と慕う人工知能「電脳一号」の人型端末のレイだった。ピンクの縁取りを施した濃緑の簡素なローブをまとう、そのすらりとした姿は神々しさを帯びていた。プラチナブロンドの髪は銀色の輝きを放ち、まるで冷たい月光を浴びたように妖しくキラキラと瞬いている。「レイ! なぜここに!」と範経が叫んだ。「大声を出さないでください!

  • 二人の彼女がいる理由   第122話 女神ペルセポネ

     範経は冒険者ギルドの青い扉を押し開け、外に出た。 隣の街区に、冷ややかな威容を誇る神殿がそびえ立っていた。範経はその荘厳な影に引き寄せられるように歩を進めた。 それは古代ギリシャの建築を模した、石造りの神殿めいた荘厳な建物であった。しかし、ところどころに教会の尖塔のようなものが不自然にそびえ立ち、全体に奇妙な不調和を漂わせていた。範経には、冷ややかな異形の建造物のように見えた。 太い柱が何本も立ち並び、威圧するように空を突いていた。だが、ただの石ではない。極彩色の輝きが、そこを支配していた。塗料などではなかった。大理石そのものが、黄や赤の妖しい光を内側から滲ませ、まるで生き物の肌のよ

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