Share

第65話

Author: みそ煮
last update publish date: 2026-04-02 09:21:18

「あ……す……すみません……」

瀬奈は何とか声を絞り出した。体格が大きいせいか、恐ろしかった。どうやら瀬奈が盾として彼を使っていたことがバレていたようだ。彼女は何て弁明しようか悩んだ。

(ど、どうしよう……素直に言うべきなのかしら……)

瀬奈が何とか言い訳しようと口を開くと、彼が突然鋭い目を柔らかくした。

「……まぁ、別にいい。好きでもない男から好意を向けられるのは不快だろうからな」

「あ……」

彼は諦めたように再び彼女の前に立った。その姿はまるで、お姫様を男たちから守る騎士のようだった。

「俺のことを盾にした女はお前が初めてだ」

「あ、あはは……」

瀬奈は何も返すことができず、愛想笑いをした。彼女は、前に立つ彼の横顔をじっと見つめた。顔立ちはかなり整っており、ニヒルな雰囲気を漂わせている。

(そういえばこの人の顔……どこかで見たことがあるような……?)

瀬奈は彼の顔に見覚えがあった。どこで見たかはわからない。気になって仕方が無かった瀬奈は、思い切って彼に尋ねた。

「あの、勘違いかもしれないんですが……私たち、どこかで会ったことありませんか?」

「……さぁ、もしかしたら大昔に一度会っ
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Latest chapter

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第304話

    瀬奈が松永の頬を打ったあの日から、彼は彼女にとって良き先輩となった。以前のように変に絡んでくることもなければ、いやらしい視線も感じられない。理由はハッキリしないものの、やはりあの一件がきっかけだろう。それ以外には考えられない。(……一件落着したってことでいいのかしら?)社長が何度注意しても態度を改めなかった男が、突然真面目になった。「松永さん最近大人しくない?何があったか知らないけど助かるわ~」「黙ってればいい男なのよね、彼」どうやら瀬奈だけではなく、他の女性社員に対しても変わったようだ。社員たちは彼の変化を喜んでいるようで、瀬奈は何だか社会貢献をしたような気分になった。ビンタがきっかけになるとは思わなかったが、彼が真面目になったのは良いことだ。手荒な真似を使うことになるかもしれないと思っていたが、案外話のわかる人だったようだ。とにかく、湊斗の手を借りずに済んだようでよかった。(もし、湊斗が彼に目を付けたとしたら……)湊斗が松永に狙いを定めたときのことを想像した瀬奈の顔が、みるみるうちに青くなった。もし湊斗が本気を出せば、彼は絶対にこの世に存在していないだろう。――よかったわね、松永さん!彼が命拾いしたことに、瀬奈は安堵の息を吐いた。***松永の件が一段落ついてしばらく経った頃、瀬奈は同僚たちに退勤の挨拶をした。元々覚えが早い瀬奈はすぐに仕事にも慣れ、平和な日々を送っていた。「神宮司さん、お疲れ様」「お疲れ様です、松永さん」最後に彼女に挨拶をしたのは、少し前まで彼女にアプローチしていた松永だ。彼は軽く手を振りながら、瀬奈に声をかけた。「じゃあ、またね」「は、はい……」アプローチはやめても、フランクで軽い接し方は相変わらずのようだ。(彼もバツイチって聞くし……色々あるのかしらね)瀬奈はそのまま彼の前から立ち去り、外へ出た。ちょうど外は土砂降りの雨だった。こんなにも大雨が降るのは久しぶりだ。カバンを頭にかぶせて大慌てで帰るサラリーマン、レインコートを着て自転車を飛ばす高校生、建物の舌で雨宿りをする若い女性。外に出ている全員が突然の豪雨に困惑しているようだった。(変ねぇ……天気予報では晴れるって言ってたのに……)いくらプロが予測しているとはいえ、たまにくらい外れてしまうのも仕方がないだろう。瀬奈は雨に濡れる人たちに対

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第303話

    次の日、出勤した瀬奈はまたしても松永に絡まれてしまう。人のいない資料室にて、彼女は松永と二人きりで向き合っていた。(困ったわね、二人きりになるつもりなんてなかったのに)たまたま資料室に入った瀬奈の後を、松永がついて入ってきたのである。二人きりになったのは不慮の事故である。「神宮司さん、俺と一緒にどこか行こうよ」「いい加減にしてください、松永さん。私は既婚者で夫がいるんですよ?」「その夫は今頃他の女と遊んでるんじゃないですか?」松永は瀬奈の夫である湊斗の噂をよく知っているのか、彼女を嘲るように口角を上げた。いくら湊斗が不倫をした過去が事実であるとはいえ、夫婦のことに他人がそうやって口出しするものではない。「夫は不倫なんてしていません、勝手なことを言わないでください」昔はたしかに信用していなかったけれど、今は違う。瀬奈は既に湊斗の過去を含め、彼の全てを受け入れた。――彼女が帰る場所は、湊斗の傍。あの日、他でもない瀬奈自身がそう決めたのだ。事情を知りもしない第三者に何を言われようと、彼女の気持ちは変わらない。「神宮司さんって、すっごい純粋なんだな……」「……どういう意味ですか?」瀬奈は眉をひそめ、尋ねた。何だか馬鹿にされているような気がするのは、きっと気のせいではないだろう。だからこそ、余計に腹が立つ。松永は瀬奈の細い手首を掴むと、グッと引き寄せた。「キャッ!」彼は慣れた手つきで彼女の腰を抱き寄せ、その耳元で囁く。「あんなヤツのことを信じているだなんて……神宮司さんは憐れだな。俺ならもっと君を愛することができ……」その瞬間、瀬奈の振り上げた右手が松永の頬にヒットした。「……」頬をぶたれた松永が、目を見開いて固まっている。彼女に殴られたことがよほど衝撃的だったようだ。一方、瀬奈は恐怖で震え上がっていた。(マ、マズい……)まるで故意にやったかのように思うワンシーンだが、実は瀬奈はただ松永を振り払おうとしただけだった。しかし彼の力があまりにも強く、軽く暴れたところ右手が頬にクリーンヒットしてしまったのである。別の場所だったらまだ良かったものの、運悪くちょうど彼の左頬だった。彼女が打ったせいで、彼の頬が真っ赤に腫れ上がっている。とても痛そうだ。(ど、どうしよう……怒っちゃったかしら……?)松永が社内で危険人物と言われている以

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第302話

    湊斗は瀬奈が手に持っていた紙をただじっと眺めていた。「み、湊斗……」瀬奈は何とか誤魔化そうとしたが、湊斗は昔から勘が良いほうだ。一度疑いを抱いた以上、絶対に退かないだろう。そのため、彼女は紙を渡す以外に方法がなかった。てっきり大荒れするかと思ったが、意外にも彼は平然としていた。声を荒らげるようなこともなく、落ち着いている。彼はしばらく見つめていた紙から視線を上げると、彼女に尋ねた。「瀬奈、これはどういうことだ?」「そ、それは……松永さんっていう先輩の社員がいるんだけどね……」彼の問いかけに、瀬奈は正直に答えた。とても怒っているようには見えないし、本当のことを言っても大丈夫なのではないかと。「と、いう経緯で、その人から貰ったのよ……」「そうか」事情を聞き終えてもなお、湊斗の表情は穏やかだった。少し前であれば大騒ぎしていただろうが、大人になったのだろうか。(あれ?意外と何とも思っていないのかしら?)と、思っていたのが間違いだった。湊斗は手に持っていた電話番号が書かれた紙を、グシャリと握りつぶした。先ほどまでの穏やかな表情は一変、額に青筋が浮き出ている。「――消すか」「や、やめて!湊斗!」瀬奈は今にも松永を消しに行きそうな湊斗を、必死で抑え込んだ。冗談を言っているのではないということが、目から伝わってくる。湊斗は自身の背中に抱き着く瀬奈に向けて言い放った。「瀬奈、止めるな。これはお前のためを思って言っているんだ」「私のためを思っているならなおさらやめてちょうだい!」松永を消したところで、瀬奈は嬉しさよりも罪悪感を抱いてしまう。いくらしつこく絡まれたとはいえ、社会的に抹殺するほどの罪ではない。「湊斗、そんなことしたらあなたもただじゃ済まないわ!」「大丈夫、バレないようにやるから」「そういう問題じゃない!」その後、瀬奈は何とか湊斗を宥めることに成功した。暴走状態の彼を抑えることができるのは、きっとこの世で瀬奈だけだろう。「なぜ止めるんだ?」湊斗は納得できないという様子で瀬奈に尋ねた。「言ったでしょう?私はそんなこと望んでいないって。あまりにも酷かったら、きちんと社長に言って解決してもらうから大丈夫よ」「社長よりも俺に言ったほうが早いぞ?」「あなたは何をするかわからないから……」その点で言えば、湊斗より頼りになる人は

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第301話

    仕事が終わり、退勤の時間になった。瀬奈は一応主婦であるため、夜遅くまでは働くことができない。社長も湊斗の妻である瀬奈に残業をさせるわけにはいかないと思っているのか、余分な仕事を押し付けてくることもない。彼女に気を遣っているのは社長だけではなく、他の社員たちも同じだった。瀬奈としてはそのような気遣いなど不要だったが、こればっかりは仕方がない。「お疲れ様でした」「お疲れ様、神宮司さん」瀬奈は荷物をまとめ、挨拶をしてオフィスを出た。既に迎えの車が来ているはずだから、早く外まで行かないと。しかし、そんな彼女の行く手を阻んだ人物がいた。「――神宮司さん、ちょっといいかな?」「…………松永さん?」いつ追いかけてきたのか、松永が帰ろうとする瀬奈を引き留めた。(どうして松永さんがここに……)彼は笑顔で軽く手を振りながら、瀬奈に近づいた。彼女は何かする気なのかと身構えたが、彼はポケットから取り出した一枚の小さな紙を彼女の手に握らせた。「これ、旦那さんと喧嘩したらいつでも連絡しておいで」「……何を」軽くウィンクをすると、松永はそのまま踵を返していった。一人残された瀬奈は、彼から持たされた紙をそっと広げた。中に書かれていたのは、松永の連絡先だった。可愛らしいハートマークまで添えられている。(ちょっと、どういうつもり?)瀬奈は彼の行動を疑問に思いながらも、渡された紙を手に握りしめたまま、会社を出た。彼女が出た頃には、既に迎えの車が到着していた。松永と話していて遅くなった瀬奈は、慌てて車に乗り込んだ。「すみません、遅くなってしまいました―――って、どうしてあなたがここに」大きな車両の後部座席のドアを開けると、先に乗っていた人物がいた。「――別にいついてもいいだろう?俺はお前の夫なんだから」後部座席の右側に乗っていたのは湊斗だった。仕事が早く終わったのだろうか。彼は瀬奈が来るのを待ち続けていたようだ。「そ、それはそうだけど……いると思わなかったからちょっと驚いちゃって」「お前をビックリさせたかったんだ。お前は……俺に会えて嬉しくないのか?」拗ねたようなその言い方に、瀬奈はクスリと笑みを溢した。あの神宮司湊斗が、こんな子供みたいな理由で拗ねるだなんて。「まさか、そんなわけないでしょう?」車に乗り込んだ瀬奈の腰を、湊斗が強く抱いた。瀬奈は彼の

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第300話

    「――神宮司さん、次はこっちを頼むよ」「あ、はい!」翌日、瀬奈は湊斗の紹介で新しく働き始めた職場で仕事をしていた。瀬奈の仕事は事務であるため主にデスクワークだが、それでも大変なことに違いはない。新しい環境、まだ知り合って日が浅い人たちの中で仕事をするというのは当然楽ではなかった。(稲田町のときもそうだったけど……社会に出て働くってすごいことなんだわ……)彼女は元々、仕事をした経験がほとんどない。働かずとも暮らせていけるだけの資金は十分にあるが、それでも瀬奈は仕事をすることを選択した。(……だけど、とっても良い経験になりそうね)里亜のためにも、非常識な母親でいたくはないし。瀬奈は真面目に、業務に取り組んだ。仕事に追われる中で、ある人物に声をかけられた。「――神宮司さん、何か困ったことはない?」「…………松永さん」口元に笑みを浮かべながら瀬奈に話しかけたのは、飲み会で彼女を口説こうとしていた同僚の松永だ。他の社員ならともかく、彼が相手ともなれば何か下心があるのではないかと疑ってしまう。「……いえ、大丈夫です」事を荒立てたくなかった彼女は、やんわりと断りを入れた。しかし、彼もなかなか退かなかった。「何か困ってるんだろ?俺が教えてあげるから」「い、いえ!特に困ったことはありません!」瀬奈は周囲に気付かれないように僅かに語気を強めた。彼が先輩である以上、こんな態度を取るのは失礼かもしれない。しかし、仕事中に後輩に手を出そうとするほうが問題ではないのだろうか。瀬奈と違い、彼は社会人としての経験も長いはずだ。(……どの会社にも、こういう男性が一人はいるわよね)瀬奈は呆れたような目で松永を見た。百歩譲って、彼女が未婚であればアタックするというのも理解できなくはないが、瀬奈は既婚者だ。既婚者に手を出そうとする男なんて、ロクなのがいない。松永は彼女の耳元に顔を近づけると、そっと囁いた。「俺優しいよ?きっと神宮司さんの役にも立てるはずだから……」「い、いい加減にしてください……!」瀬奈はその手を振り払い、目の前の仕事に集中した。彼女にハッキリと拒絶された松永は、落ち込むどころか面白そうに口角を上げた。「こんな女は初めてだ……ますます手に入れたくなる……」その呟きは仕事に夢中になっていた瀬奈の耳には入っていなかった。

  • 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す   第299話

    夜になり、瀬奈はベッドの上でくつろいでいた。横には上半身裸の湊斗が、寝ている彼女の身体を両腕でしっかりと抱きしめていた。「もう夜なのね……」窓から見える暗闇を視界に入れた瀬奈が、ポツリと呟いた。今日、ちょうど里亜は幼稚園のお泊まり保育で家に帰ってこない。つまり、久しぶりに夫婦二人だけで過ごす時間となる。愛する娘がいないのは何だか寂しいけれど、たまにくらい湊斗のために時間を作ってあげないと。「新しく始めた仕事は順調か?」「ええ、とても優しい人たちばかりで……あの会社なら長く続けられそうなの」「当たり前だ、俺がそうなるように仕向けておいたからな」湊斗が瀬奈を丁重に扱うように就職先に圧力をかけていたことは、社長の口から既に聞かされていた。そこまでしなくてもいいと思ったが、そうしないと仕事するのを認めてもらえないような気がして何も言わなかった。湊斗は瀬奈を腕に抱きしめながら、彼女の黒い髪を撫でた。こうやって彼の腕の中にいるのが、未だに信じられないときがある。とても幸せで、夢ではないかと疑ってしまいそうになる。瀬奈は湊斗の身体に手を触れ、目を閉じて幸せを噛みしめた。しかし、いつまでもそうしているわけにはいかない。瀬奈は彼の胸に手を置いて、その身体を押し退けた。「……そろそろ起きないと」「まだ夜の七時だぞ?」「もう夜の七時よ?二時間もここにいるじゃない」湊斗は納得がいっていないようだったが、彼女は何とか彼の腕から脱出した。いくら休みの日とはいえ、いつまでもベッドで寝ているのは良いことではない。瀬奈はベッドから起き上がり、服を着替えた。「起きるって言っても、することもないだろ?」「だからといって、ずっと寝ているわけにもいかないでしょう?」瀬奈は脱ぎ捨てられていた湊斗の白いシャツを拾い上げると、彼に着せた。彼女が手伝ったおかげか、湊斗は素直に服を着替えた。「ところで湊斗、百合子ちゃんと愛斗君に関してなんだけど……」「あの二人がどうした?」湊斗は瀬奈の持ったシャツの袖に腕を通しながら返事をした。「沙織はどうやら、あの二人をネグレクトしているみたいなのよ……」瀬奈は嶋田家の複雑な家庭環境を湊斗に打ち明けた。少し前まで彼女と一緒に暮らしていた湊斗がそのことに気付いていないとは考えづらいが、念のため確認を取っておきたかった。「……そうだ

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status