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第4話

Auteur: 時願
母が食事を終えて寝室に戻るのを見て、私もその後を追ってふわりと入った。

母は焦った様子で、部屋の中を何度も行ったり来たりしていた。

「どうしたんだ?」

続いて入ってきた父が、低い声で尋ねた。

母は眉をひそめたものの、何も言わなかった。

父はしばらく逡巡していたが、ついに決意したように言った。

「ちょっと病院に行こうと思う。美咲の連絡がもう一週間もないし、明日が出産予定日だからな」

母はそれを聞いた途端、激しく怒り出した。

「誰も行かなくていい!あの子、もう七日も経ってるのに、まだ由美に謝りに来ないなんて、どれだけ偉そうにしてるの?」

父は肩をすくめ、小声で言った。

「でも、事故にあってるし、それに妊娠ももう後期だし......」

すると母は、テーブルにあった化粧品を激しく床に叩きつけた。

「由美だって運転手と一緒だったのに大したことなかったでしょ?

美咲は運転もしてなかったんだから、何の問題もないわ。

ただ、あの子は謝る気がないだけ。由美のことが許せないんだわ!」

母は勢いを増し、堂々とした態度で続けた。

「あの子は家の中で火遊びして火事を起こしたせいで、私の弟とその奥さんが、あの子を助けようとして煙に巻かれて死んだのよ!

由美はまだ三歳だったのに両親を失った。なのに、美咲は?

小さい頃からずっと由美に嫉妬してばかりで、由美の心の傷なんて一度も気にかけなかった。

成長してからも悪意が増すばかりで、由美を死なせようとまでした。

美咲がこれまでどれだけのひどいことをしてきたか、あんたにも分かってるでしょ!」

母の言葉を聞いた瞬間、胸に刺さる痛みよりも先に、頭が真っ白になった。

母が言っていることが全く理解できなかった。

私が火遊びをして火事を起こしたって?そんなこと、あり得ない。

体は震え、心の奥底から冷えがじわじわと広がっていく。

当時、私は確かに四、五歳だった。でも、その日のできごとははっきり覚えている。

あの日、私は昼寝を装っておじやおばをだましたんだ。田中由美が私のリボンを欲しがって、それを叱られて泣いていたのを見て、こっそりリボンをあげようとした。それで、私は寝たふりをしていた。

でも、彼らが出て行ってすぐ、急に息苦しくなって、ドアを開けると家の中が炎に包まれていた。私は驚いて舅母と舅を呼んだ。二人が急いで駆けつけてくるのを見た。その後のことは覚えていない。

ただ、風が耳をかすめる音がして、次に目が覚めたのは病院のベッドだった。

舅と舅母は亡くなった。でも私は絶対に火をつけたりなんかしていない。絶対にだ。

「もしもし、何か用?」

母は不機嫌そうに電話を取った。

「まさかまた美咲が何かやらかしたとか言うんじゃないでしょうね!あの子に言ってちょうだい。さっさと家に戻って由美に謝るべきよ!いつも偉そうにして、誰にそんな態度を見せつけてるつもりなの?」

気がつくと、母が病院からの電話に出ていた。

電話の向こうで、しばらくの沈黙の後、やっと苦しそうな声が聞こえた。

「院長、美咲さんは一週間前にお亡くなりになっていました。あのとき、事故の衝撃で血管が破裂し、羊水も破れましたが、院長が医師たちを呼び出したせいで、彼女は難産になり、母子ともに亡くなってしまいました......」
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