로그인咲はもう長い間目が見えず、裕子と一緒にいたるところに医者を訪ねに行っていた。しかし、毎回期待していた結果は得られず、落ち込む回数が増えていくほどに、希望を抱くことができなくなるほどだった。そして、依茉がみんなの最後の希望になっている。もし、結果が以前と同じであっても、咲はもう慣れてしまっているから一人で落ち込むのは怖くない。でも、今は大勢が一緒にいるからみんなまで失望させてしまうことになる。「大丈夫だから」辰巳はそう言うと両手を広げて力強く咲を抱きしめた。そしてその手を離すと、また彼女の額にそっとキスをした。「俺がいるんだから、何も不安に感じなくていいんだよ」咲は顔をあげて辰巳のほうを向き、懸命に彼の顔を見ようとしてみたが、やはり視界はぼやけるだけで、はっきりと見ることはできなかった。彼のその言葉と抱擁、キスが暖かい風になって彼女の心をなでていった。彼女の心はその瞬間、ふっと軽くなった。そして咲は小さく頷いた。そして辰巳は彼女の手を繋いで、実家のほうへ歩いていった。「プルプルプル……」この時、辰巳の携帯が鳴り出した。家族からの催促の電話かと思い、辰巳はこう言った。「きっと、母さんが今どこにいるのか知りたくてかけてきたんだ」彼が携帯を取り出して見てみると、それは母親からではなく、流星からだった。咲の弟だ。辰巳はかなり意外だった。流星は大学に入学する前、咲と大喧嘩をしてしまった。結局流星はあの性悪なおば二人の側につくことはなかったが、姉と弟の仲は以前のようには戻っていない。咲が流星の両親と鈴を警察送りにしたことが根っこにあって引っかかっている。流星は姉の婚約者である辰巳に対する態度はまあまあだが、連絡先を教えてほしいと言ってきたことはない。辰巳は流星の携帯番号を知っているが、流星は辰巳の番号を知らないはずだ。それがどうして電話がかかってきたのか、辰巳はわからなかった。その理由は今はどうでもいい。流星が辰巳と連絡したいと思えば、浩司に聞けばすぐわかる話だ。流星が大学に通い始めて時間が経ったが、家族に連絡することは一度もなかった。咲は口には出さなかったが、心の中では弟のことを考えていた。辰巳は流星からの電話に出た。「もしもし、流星君」辰巳が流星の名前を呼んだので、咲は急いで尋
「おばあ様は本当にお元気そうですね」依茉は結城おばあさんを褒めるようにそう言った。おばあさんが音濱岳にいた時、依茉はおばあさんを軽く診察していた。年を取っているが体はまだまだ健康で、きっとあと十年以上はずっと元気で過ごせるはずだ。それは依茉の先生であるあの名医と同じだ。彼は漢方薬の中でも貴重な薬草を使い、自分の体の状態を保っているので、とても健康だ。そして彼はもっとこの世に残っていたいと強く思うようになったらしい。百歳過ぎても生きて、依茉の息子の泰晟が結婚するのを見届けると言っていた。泰晟はまだ赤ん坊なのに、だ。おばあさんは笑いながら依茉の手をとった。「依茉さん、もしあなたの先生のところに長寿の薬でもあるのなら、二つほど私にプレゼントしてくれないかしら?もっともっと健康で、百歳まで、できれば百二十歳まで生きられるようにね。現代では百歳近くまで生きるのもそう珍しいことではなくなっているし。だって今はまだいつになったら次の世代に女の子が生まれるかわからないから。私はなにがなんでも女の子のひ孫に会いたいのよ。じゃないと、あの人のところに行っても未練タラタラだわ。可愛らしくて優しい女の子の赤ちゃんを抱っこしたいわ。芽衣ちゃんみたいなあんなに可愛らしいひ孫なら、何人増えても全然構わないわ」依茉は笑って言った。「先生なら今は私にかわって子供の世話をしてくれています。帰ったらおばあ様に何か良い薬を贈るよう聞いてみましょう。彼と同じく、百二十歳まで生きられるように。おばあ様が女の子のひ孫さんに会いたいなら、確かにまだ待っていないといけないですよね。でも、おばあ様にはお孫さんが九人もいらっしゃるでしょ?たくさんいるから、お孫さんたちが結婚すれば、きっと一人は女の子が生まれるのでは?」でも、依茉もそれは保証がなかった。結城家では女の子が生まれないという噂を依茉も聞いたことがある。ネットでたまに「産み分け」というものを見るが、その生まれてくる子供の性別をコントロールするための方法を試してみても、結果はやはり息子しか生まれてこなかった。もちろん現代の医療技術は発展しており、本気で人工的に女の子を産みたいと思えば体外受精をすることもできる。しかし、そんなことをしなくても妊娠ができる体であれば、依茉は医者としてそれを推奨していない。男
「先生、お茶をどうぞ」 依茉は薫子から出された温かいお茶を受け取った。「ありがとうございます」「こちらこそ先生にお礼を言わなければいけません。先生は出産してからそう時間が経っていないというのに、うちの息子に連れて来られてしまって、私も本当に申し訳ないと思っているんです。うちの子にはきつく言っておきましたので」依茉は喉が乾いていたらしくお茶を半分飲んだ。「大丈夫ですよ。産後一カ月ほど何もできずに家にいて、もう嫌になっていたところです。早く外に出かけたいと思っていましたが、うちの旦那が許してくれなくって。どうしても家でできるだけ休むようにって言うんです。でも、私は医者ですから、産後どうやって自分の体のケアをすればいいのかは、彼よりも詳しいんです。息子さんは婚約者さんにとても優しく、心から気遣ってあげているみたいですね。婚約者のために目を治療しようと、うちの旦那に嫌われようとも、何回も私に頼みに来ました。それには私もすごく心が動かされましたよ。だから、よろこんで柴尾さんを診ようと今日は来たんです。目が見えるようになって、自分の婚約者である将来の旦那さんが、どんな方なのか見られるといいですね」咲は辰巳と婚約したが、彼がどんな顔をしているかすら知らない。それには依茉もとても可哀想に感じていた。そして結城家と桐生家にはビジネス上の付き合いがあるし、依茉は辰巳の面子も考慮して、喜んで咲の目を治療するためにやって来たのだ。「本当にありがとうございます、先生!」薫子は心から感謝していた。薫子も息子の嫁の目が回復することを期待している。薫子は外では将来嫁となる咲のことを強気で守っていた。しかし、自分も人の親として、心を痛めていないわけがない。薫子の息子、辰巳はとても優秀だし、その婚約者も同じように素晴らしい女性だ。ただ目が見えないことだけが残念だった。彼女は心の中では息子のことを気遣っていて、咲の目を治療する機会が巡ってきたことに、彼女自身とても喜んでいた。「奥様、結城おばあ様と唯花様がいらっしゃいました」使用人が入ってきて、薫子にそう告げた。そしてすぐに結城おばあさんと唯花が入ってきた。「おばあ様、ご無沙汰しております」結城おばあさんが入ってきたのを見ると、依茉はすぐにコップを置き、立ち上がって笑顔で迎えた
「まだそんなこと言って何になるってんだ!」この時、俊介が姉に怒鳴った。英子は口を尖らせた。これには父親も娘にしっかり注意するしかなかった。「英子、もうバカな事を考えるんじゃないぞ。もし、また何かおかしな真似でもしてみろ、今度は絶対に許さんからな!」この娘は自分を変えることができないタイプの人間だ。動物園で唯花に助けてもらって感動した気持ちをこの時にはすっかり忘れ、貪欲な本性がまたあらわれてきた。父親はそんな娘がまた余計な事をして物事を複雑にさせるのではないか心配だった。英子は急いで言った。「お父さん、おかしな真似なんてするわけないでしょ。それは自分から火に飛び込むようなものじゃないの。今の唯月さんはもう一般人の私たちとは違うもの。そんな彼女に手を出したら、うちの店まで潰されちゃうわ。私にだって余計な事に気力を割くような時間はないよ。ただちょっと嫉妬しただけよ。唯月さんの成功は、少なからず私たちのおかげでもあるでしょ。私たちの存在がなかったら彼女がキレて強い女になってさ、今みたいに事業を興すなんてできてなかったはずでしょ?」英子は恥知らず中の恥知らずだ。彼女の言葉には父親も母親も、はたまた弟ですらも彼女のことを恥ずかしいと思ってしまった。他人の成功をあたかも自分の功労のように話している。「俊介、さっさとあのクソ女なんかと離婚してさ、それから唯月さんと……」「だまれ!」父親は娘に一喝した。「今後は帰ってきても、弟の事には関わるんじゃない。お前が大黒柱にでもなったつもりか?」「お父さん、別に私は何も言ってないでしょ。全部俊介のためなんだからね。唯月さんとあの東社長がもっと距離を縮めたら、うちの陽ちゃんは『東』って名字になっちゃうわよ。その時、孫がよその子になったとしても泣きついてこないでよね」英子はまたそのような理屈をこねて、自分が利益を得るために弟と唯月をどうにかして復縁させようと諦めない。「陽君の名字が何であれ、私のことを『おじいちゃん』と呼ぶのは変わらん。俊介が父親なんだから、血縁関係は名字が変わったくらいで消えるものでない」俊介は淡々とした口調で冷たく言った。「俺は莉奈と離婚する気はないぞ。あちらの両親が俺に減刑嘆願書を書いてほしいって言ってきたから書いたよ。いくらでも構わないから彼女の刑期が減るといい。何年
隼翔は唯月がまた元夫の見舞いに病院まで行ったのかと思ってしまった。「そうだったんだね。妹さんの調子は?」「とても良いですよ。結城さんが妹は酸っぱいものと甘いものを食べるとすごく吐くと言っていましたけど」隼翔は微笑んで言った。「そういうこともあるんだね。理仁はそれなら絶対に彼女に食べさせないだろう。もし彼女が吐きでもしたら、あいつのことだ、心配でたまらず仕事に集中できないよ。会社にいたとしても、心は彼女のところに飛んでいってるのさ」それは隼翔も同じだ。今、彼は仕事に復帰しているが、退勤時刻になると、心はもう唯月のほうへと飛んでいっている。隼翔はたまに会社に戻り、会社で少し処理をすると、昼は必ず唯月の新店舗に赴いて新作の料理を味見していた。唯月は隼翔の昼食と夕食をまかなっているのだった。「社長、店を出る時にはスタッフにお願いしておきました。昼食があるのでゆっくり食べてください。もう少ししたら私も店に戻りますので」隼翔は笑った。「うん、わかったよ」「じゃあ、他に何もなければ、お昼ごはんに戻りますね」「うん」通話を終わると、隼翔は安心してボディーガードに言った。「押して中に入ってくれ。唯月さんが昼食を用意してくれているらしい」するとボディーガードは急いで彼の車椅子を押して、唯月のレストランに入った。新店舗の名前は「ビストロピエナ」に決めた。唯月は他にも多くの飲食店をオープンしてから、ピエナグループという会社を立ち上げようと考えていた。そして飲食業界で高級レストランとしての地位を築かせたいと思っている。これと同時刻の病院。病室で食事をし、お腹いっぱいになった俊介は両親に体を支えれながらベッドからおりて、少し食後の軽い散歩をしていた。彼の回復はなかなか早い。しかし、生と死の堺を彷徨った彼だから、ここ数日でようやくベッドからおりて歩けるくらいだった。傷口が開くとまた激痛が走るので、彼は足の速度を上げることはできなかった。「俊介、歩けるようになったんだね」英子がりんごの入った袋を提げて来て、弟が病室から出てゆっくり歩いているのを見ると、彼女は歓喜の声をあげた。母親は緊張した面持ちで息子を見ていた。動くことで傷口が開いて痛みに転んでしまうのではないかと心配だったのだ。「ここ数日の話だ。先生もゆ
唯花は姉がわざわざ味見させようと持ってきてくれた新作料理を食べると、キラキラと瞳を輝かせた。それはおばあさんも同じだった。彼女は食べると唯月に尋ねた。「唯月さん、私、新店舗の会員カードを作って、毎日お店を応援しに行くわ。この腕前、またすごく上達しているじゃないの!」唯花はもぐもぐと食べながら同意し頷いていた。「唯花、ゆっくり食べなさいよ、詰まらせないようにね」妹がかなり気に入っているのを見て、唯月は笑って言った。「料理教室に通ってるの。それから家では自分でもいろいろと工夫を加えて、東社長が味をみてくれたのよ。美味しいって言ってたから、みんなにも試してもらおうと思って。おばあ様からそう言っていただけて、安心しました」「お姉ちゃんの料理の腕は世界一よ!」唯花は姉に向かって親指を立てた。姉はどんどん才能を伸ばし、できる女になっていく。もともと姉はとても能力の高い人だった。昔は恋心のせいですっかり物事の判断ができなくなってしまい、あのようにすんなりと仕事を辞めて専業主婦になってしまった。毎日家事や育児に追われて、社会との関りをなくしてしまっていたのだ。今は社会復帰した。しかも姉は今責任者となり、ビジネス界に果敢に挑戦しているところだ。もともと優秀な人物だったから、あとはその感覚を取り戻すための時間の問題だ。昔も今も変わらずに優れた人である。唯月は顔を少し赤くさせた。「まだまだ努力しなくっちゃ、明日は新店オープンで私も作るわ。二人シェフとして雇っていて、どちらが作った料理も美味しいの。私を含めた三人の腕で、きっとお客様にご満足いただけるわ」彼女の目標は大きなレストランを経営することだ。チェーン店をまずは星城に展開し、それから全国まで広げていきたい。彼女ならいつかきっと自分の夢を叶えられるだろう。「プルプルプル……」唯月の携帯が鳴った。彼女は携帯を取り出して着信表示を見た。隼翔からの電話だ。「東社長からだわ」唯月は隠すこともなく、みんなに電話をかけてきたのは隼翔だと教えた。あの日、結城おばあさんと彼のことについて話してから、唯月も隼翔との将来を考え始めていた。隼翔を受け入れるべきか、今はまだ迷っているところだが、唯月が隼翔に関心を寄せていることは紛れもない事実だった。隼翔が唯月のことも、
唯月は未だ弱っていて、すぐにまた眠ってしまった。陽でさえも唯花の懐の中で眠った。唯花は甥を病室にある簡易ベッドに寝かせ、薄いブランケットをかけてやった。そして姉の点滴剤がもうすぐなくなるのを見て、ベッドにあるナースコールを押し、看護師に換えに来てもらった。点滴剤を新しいものに換えてもらった後、唯花はまた数分間見つめていてから、振り返ってそっと音を立てないように離れていった。この時、理仁が部屋に入ってきた。するとソファの上で唯花がぼうっとしていた。彼は彼女に近づいてきて、唯花の隣に座り、肩に手を回して優しく尋ねた。「どうしたの?義姉さんは寝てしまった?」「お姉ちゃんも
咲は、警察がこんなに早く、伯父が当時、彼女の父親を殺したという証拠を掴んだわけではないとわかっていた。伯父が勾留されたのは、母親の件に絡んで、彼も関係しているという証拠を理仁が持っていたからだ。弦が手に入れた証拠は、そのほとんどが表面上は加奈子に罪があるような内容だった。正一は妻を隠れ蓑として使うことができると考えていたが、弦がそれを逃すはずもなく、次々と新たな証拠を見つけ出したのだ。それで正一は自由を失ってしまった。加奈子の件は、星城で大きな話題となった。各メディアがこの事件を報道し、星城だけでなく、他の都市でもニュースを見る人は皆知っていた。だから、柴尾グループの社員たちも
隼翔は黙って琴音を見つめ、暫くしてから淡々とこう言った。「樋口さん、それは君が決めることだ。君がどうするかは君の勝手だからな。だが、俺は君の気持ちに応えることはない。母さんの前で演技しておくと言ったことに感謝して君の気持ちを受け入れることもないからな」琴音が彼にはまだ愛が芽生える一歩前の段階だから、さっきあのように彼に返事をされても、気が狂うこともなく理性を保っていられるのだ。そして淡々と唯月に負けたと認めることすらできるわけだ。たとえ琴音が今そうであっても、やはり先に彼女が聞きたくない話をしておいたほうがいい。この先、琴音が何をしようとも、彼は彼女を受け入れるつもりは全くないのだ
「ばあちゃんは、写真に映る女性が、俺に選んできた嫁候補だと言ったんだ。一年以内に、その写真の女性と結婚しないと、この孫である俺を結城家から破門にするってね」咲「……」どうしてこんな答えなんだろう。結城おばあさんはどうして咲を気に入り、結城辰巳の妻にさせたいと思ったのだろうか。咲は目が不自由だというのに。「もう四月だから、俺にはあと数カ月時間がある。ゆっくり君に好きになってもらうよう頑張るさ。そして俺たちは順番通りにやっていこう。恋愛して、婚約、それから結婚で、終わり。あ、いや、それで俺はばあちゃんから追い出される心配をしなくてよくなる。これも違うか、うーん……今はどう言って