FAZER LOGIN「どうも、ですが結構です。酔っていないなら、車を降りてもらえませんか」玲は奏汰からの夜食の誘いは断わった。さっき彼女は長い時間寝ていたが、お腹は空いていない。夕食をとってからあまり時間が経っていないように感じる。夕食は奏汰自ら腕をふるった。バーベキューにしろ、他の料理にしろ、すべて奏汰一人で作った。玲は、確かに奏汰の料理の腕はピカイチだと認めている。彼女はその味にとても満足していた。「それじゃ、ちょっと夜の街でもぶらつきませんか?」「興味ないです。結城社長、車を降りてください。もう父から言われたとおり、ホテルまでお送りしましたので」しかし、奏汰は座ったまま動こうとしない。「結城奏汰さん、車を降りてもらえませんか!」奏汰はやはりそのまま動かず、図々しくもこう言った。「俺はお腹が空きました。夜食を食べに行きたいので、付き合ってください。夕食の時はあなたのお父さんの酒に付き合ったから、あまり食べてなかったので、もうお腹が空いちゃったんですよ」すると玲はすぐに反論した。「あんたは、スープ二杯に、茶碗半分のご飯、酒四杯に、焼き魚、唐揚げ、ラム肉の串、イカの刺身と結構食べていたでしょうが。それに他の料理も食べてないって言い切れます?あんたは大食い大会の選手ですか?」「おや、そんな真剣に見てくれていたんですね。俺が何をどれだけ食べたかまで覚えているなんて。俺自身、自分が何をどれだけ食べたかなんて覚えてないですよ。玲さん、もしかしてこっそり俺を見つめていたんですか?」奏汰が知らないと思ったら大間違いだ。彼は酔って寝ているふりをしている時、彼女がずっと自分を見つめていることを知っていた。寝ているのをいいことにキスをしてくるんじゃないかと期待までしていたのだが、このようなことを玲がするわけがない。玲は言った。「……車から降りないというなら、空が明るくなるまでこのままどうぞ」こいつが降りないというなら、自分が降りるまでだ。玲は車のドアを開けて降りた。降りると、すぐにラグジュリゾートホテルの正面にぶら下がっている、あの愛の垂れ幕が目に飛び込んできた。奏汰はあれをまだ外していなかった。あそこにずっとあると、ホテルに出入りする人や通りすがりの人たちに見られてしまう。芸能記者がこのゴシップニュースをネットにア
玲は少しの間奏汰を見つめていてから、やっと視線を戻し、目を瞑って頭を休ませた。「玲様、先にラグジュリゾートへ向かいますか?」運転手が運転しながら、丁寧な口調で玲に尋ねた。「ああ」玲は低い声でそう答えた。茂の話を運転手もボディーガードも聞いていた。運転手はそれ以上は何も話さなかった。助手席に座っているボディーガードがこっそりと後ろを向いて玲と奏汰を見た。玲は目を閉じて休んでいて、奏汰のほうは眠っているので、全く交流など一切ない。もちろん、奏汰が酔っているので交流のしようもないのだ。ボディーガードはすぐに前に向き直った。この時、彼は心の中で自分の主人に同情していた。主人はこんなに優れた人物で、昔から高潔で、恋愛関係のもつれなど一切ない。それがなぜか、星城から来た結城家の御曹司に目をつけられてしまい、同性愛者だという噂までされるようになってしまった。そしてボディーガードたちが解せないのは、玲の父親と母親の反応だった。普通の親であれば、結城家の御曹司が自分の息子につきまとっていると知ったら、どうにかして二人を引き剥がそうとするはずだ。しかし、逆に結城奏汰のことを気に入り、よく彼を食事に招いている。そして毎回、息子の玲に彼をホテルまで送らせるのだ。あの二人は、息子が一向に恋愛しないから、女ではなく男のほうが好きなのだと思い始めたのだろうか?玲は目を閉じて頭を休めようと思っていただけだったが、いつの間にか寝てしまっていた。彼女が目を覚ました時、奏汰の肩にもたれかかっていることに気がついた。しかも、奏汰は片手を彼女の肩に回していた。それに気づくと、玲はすぐに奏汰を押しのけて姿勢を正した。自分たちはまだ車の中にいるのがわかり、玲は気づかれないようにホッと息をついた。「起きたんですね」奏汰は優しい眼差しで彼女を見つめた。「あなたは酔ってないんでしょう」玲は奏汰に聞き返した。奏汰は冴えた目をしていて、にこにこ笑っていた。どこも酔っていた様子などない。玲は奏汰がただ酔っぱらったふりをしているのがわかっていた。彼女の両親だけが、馬鹿みたいに騙されたのだ。「少し酔っていたんですが、今は酔いが醒めました。昼間仕事に忙しいせいで、俺の肩によりかかって暫く寝ていましたよ。彼らにはあなたを
碧にも会社を管理する能力はあるが、彼は玲ほど、どっしりと構えてはいない。「だんだん好きになっていけばいいじゃないか」「嫌だね、俺は彼には何も感じないから。どんな男にもドキッとしたりしたことないんだ。だって、自分のことは男だって思ってるから」弥和は言った。「玲、あなたは男じゃなくて、女なのよ!」当時、娘にずっと男装を続けさせるべきじゃなかったと弥和はつくづく思った。「みんなは俺のことを白山家の『御曹司』とか『坊ちゃん』とは呼ぶけど、『お嬢様』なんて言われないぞ」「玲、それはただ自分を騙しているだけよ。奏汰さんのどこがいけないの?結城家はうちとはちょうど良い家柄だし、確かに別の都市だけど、今では交通は便利になってるでしょ。飛行機に乗ればあっという間よ。それに、彼は能力が高くて優れた人だわ、あなたと差は全然ない、それに金持ち家の道楽坊ちゃんではないんだから」弥和は口を酸っぱくして娘を説き伏せようとした。「あなただってもう二十八歳で、いい年じゃないの。来年には二十九歳になって、三十路は目の前よ。このままでいたら、私もお父さんも死んでも死にきれないわ。それとも、あなたは同性のほうが好きなの?なんだか、黛家の本物のご令嬢のほうをとても気に入っているみたいじゃないの」玲は厳しい口調で言った。「母さん、別に同性が好きなんじゃないよ。ただ、黛凪さんを高く評価しているだけだ。なあ、もういいだろ。俺はもう帰るよ。この人は……ああ、もう、俺がホテルまで送ってくるよ。二人が心配するといけないから」玲は立ち上がって帰ろうと思い、同時に奏汰の体を揺さぶり起こそうとした。しかし、奏汰はテーブルの上でピクリとも動かなかった。また彼を押してみたが、やっぱり動かないので、彼を肩に担いで支えながら行くしかなかった。「父さん、母さん、じゃあ、帰るね」「きちんとホテルまでお送りするんだぞ。絶対に途中で放置したりしたらだめだ。こんなイイ男が道端に倒れていたら、誰かに持って行かれてしまう」茂は娘にそう注意すると、安心できず外まで見送りに行った。玲は笑いたくなった。この男が誰かに持って行かれる心配だと?こいつが柏浜ではどんな人間だと知られていると思っているのか?玲のボディーガードは彼女が奏汰を支えながら出てきたのを見て、急いで近寄り、奏汰を玲の車に
茂は真剣な表情で玲に言った。「玲、周りが何を言おうが、自分がやるべきことをやっていればいいんだから。奏汰君はお前に合っていると思うぞ。二人はお似合いだ」玲はそのまま下を向いてスープを飲んでいた。父親の説得などまったく聞こえていないようだった。奏汰は必死に玲を口説いてきているが、彼女は奏汰のことをなんとも思っていない。奏汰のために、女性の姿に戻ろうという考えすら持っていない。玲が黙っているので、茂もそれ以上言うのはやめておいた。気持ちというものはゆっくり育てていかなければならないものだ。玲も奏汰も互いに一目惚れするということは絶対にない。奏汰は結局最後には「酔って」しまった。しかも、足元もおぼつかないくらいにだ。「玲、帰るなら奏汰君をホテルまで送り届けてあげてくれ。彼の家はリフォーム中らしいし、いつ終わるかもわからないからな」茂はとても自然な口調で、娘に奏汰をラグジュリゾートまで送り届けるように言った。奏汰が大見原に購入したあの家は今リフォームの途中だから、ホテルにいまだ滞在している。玲はテーブルの上に伏せている奏汰を見て、唇を噛みしめた後言った。「酔ったふりをしているんじゃないか。彼はたった数杯しか飲んでないんだぞ。それで歩けないほど酔ってしまうか?」「玲」弥和が軽く娘を叱った。「奏汰さんは本当に酔っているのよ。あなたが送っていかないって言うなら、今日はここで一晩過ごしてもらうわ。外で変な噂が流れても怒らないでね」「母さん、それに父さんも、この人を私の結婚相手として見るのはやめてくれ。俺は彼にはいかなる感情も持ち合わせていない。彼のために女性の姿に戻る気もさらさらないんだから」弥和が言った。「だったら、そのまま男の格好で彼と結婚すればいいじゃないの。どのみちあなたは結局女性よ。白山家の御曹司として彼と結婚しても、別に構わないわ」玲は言った。「……母さん、もし彼のおばあ様が知ったら……」弥和は娘の言葉を遮って言った。「結城家のおばあ様だったら、少し前に連絡してきて、奏汰さんの結婚相手として選んだのはあなただって教えてくれたわよ」玲は言葉を失ってしまった。おばあさんもひとことも玲には教えてくれていなかった。なのにこっそり母親のほうに教えていたのか。茂は妻を見て、訝しく思い尋ねた。「弥和、
それに、奏汰が酒をたくさん飲んで酔ってしまったら、玲は両親から彼をホテルまで送れと言いつけられるに決まっている。「父さんだって、そんなに飲んでないよ。奏汰君がわざわざうちまで来てくれて、しかもこんなにたくさん作ってくれたんだぞ。父さんも彼とはちょっと飲んでるくらいで、そんなにたくさん飲んでないさ。だったら、お前が彼の酒に付き合ったらどうだ?」玲は淡々と冷たい声で言った。「俺は夜、酒は控えているんだ」奏汰は玲に向かって微笑んだ。「玲さん、そうじゃなくて、俺にたくさん飲ませるのが嫌なんでしょう。俺に直接言うのは申し訳ないから、茂さんにそんなふうに言ってるんだ。安心して、俺は酒を飲み過ぎたって、胃を壊したりしないからさ」「だから、そう呼ぶなって言ってるし、なれなれしくするな!」「玲!」弥和が厳しい口調で娘を一喝した。「別に呼び方なんて気にする必要ないでしょ、何か問題でもあるわけ?」「母さん、彼は『白山社長』とか『白山さん』って呼ぶので十分だろ。俺と彼もそんなに仲良い間柄じゃないんだし、あまりなれなれしくタメ口だって使われたくないんだよ」玲はもはやどうしようもなくなり言った。「一体父さんと母さんは彼から何を吹き込まれたのか知らないけど、まるで実の子供は彼のほうみたいじゃないか。俺は拾われっ子のようだ」弥和はおかしくなって言った。「はいはい、あなたは拾ってきた子よ。奏汰さんのほうが実の子なの。これでいいでしょ。奏汰さんが本当に私たちの子供だったのなら、私たちだって白髪が出るほど悩むことはなかったわ」玲はすぐに黙ってしまった。玲は両親が自分の結婚について頭を抱えているとわかっている。それに、両親は明らかに奏汰を気に入っている。両親はまだ結城おばあさんが彼に与えた嫁候補が玲であるとは知らない。しかし、奏汰の選択を彼の家族が支持し、また、父親が奏汰と一緒にいる時に玲は女だという話をされたこともあり、両親はすでにわざわざ隠す気がなくなっているようだ。それですでに奏汰を娘の婿として見ているのだ。世間に玲と奏汰の噂話がいくら流れていようとも、両親は気にしていない。なるべく玲と奏汰が二人っきりになる機会を作りだし、玲が奏汰の告白を受け入れることを望んでいた。両親に気づかれないように、玲はきつく奏汰を睨みつけた。奏汰はすぐに酒の入っ
「母さんだって、うちに来てくれるお嫁さんは何か能力を持っている必要はないって言ってただろ。ただ何も心配せず、金を使っていればいいんだって。仕事が忙しく、結構な金を稼いではいるけど、使う暇がないんだ。結婚して、奥さんができたら、稼いだ金を一生懸命使ってもらわないでどうする?」咲は笑った。「別に私だってお金に困ってないけど」現在、彼女はしっかりと柴尾グループを管理している。彼女の貯金はすでにかなりの額になっているのだ。今の咲は、もう以前の彼女ではない。彼女はもう本来の能力を存分に発揮することができる。「金には困ってないだろうけど、俺が稼いだ金も使ってもらいたいよ。妻のために働いて稼いでるんだからな。それに、将来子供ができたら、養育費は俺が出す。君は何も構う必要はないんだ。ただいつまでも綺麗な君でいて、金を使っていればいいんだ」咲は辰巳の言葉に指摘した。「誰があなたの奥さんなの?私たちまだ結婚してないのよ。子供のことまで言いだすなんて、のんきなこと」「別にいいだろ、もう婚約はしてるんだし、遅かれ早かれ結婚して君は俺の奥さんになるんだから」咲は少しの間笑っていてから、また口を開いた。「先に結婚手続きをして、目が治ってから結婚式を挙げても構わないわよ」理仁と唯花の結婚式もまだだ。あの二人が結婚手続きをしてから今に至る時間は更に長い。「いや、こんなに長い時間待ったんだから、あと少しくらい問題ないさ。君の目が見えるようになって、俺の顔をしっかり見てもらってから、本当に一生俺と一緒に過ごしたいか確認してもらわないと。それから手続きに行って、結婚式だ」辰巳は自分に自信があるが、咲はまだ彼の顔を知らない。だから、まずは咲に自分がどんな顔をしているのか見てもらい、結婚相手はどんな男なのか知ってもらってから、結婚手続きをしたいと思っている。「私が好きになったのはあなた自身よ。別に顔を好きになったわけじゃないわ。あなたがどんな顔をしていても、私は変わらないから」結城家の男は揃いも揃ってイケメンばかりだという。彼女は何度もそのセリフを聞いてきた。咲も花屋の店員に、辰巳がどんな顔をしているのか尋ねてみたことがある。店員は咲と辰巳が一緒にいるとお似合いの美男美女だと言っていた。でも、辰巳は咲の目が治ってから結婚したいと譲らなかった。
「店長、結城さんと食事に行って来てください。お店は私が見ていますから」店員は笑顔で咲が辰巳と一緒に花屋を出て行くのを見送った。辰巳は車で咲が来るのを待っていた。彼女が慣れた環境では自由に行動しているのを見ると、目が不自由な人のようには全く思えない。咲はこの時初めて辰巳の車に乗ったわけではない。彼女は慣れたように助手席に手探りで乗り込んで座ると、白杖を傍に置いてシートベルトを締めた。彼女は後部座席に座らなかった。彼女がそうしたくないわけではなくて、辰巳が彼女を後ろに座らせないのだ。そうしてしまうと、まるで辰巳が彼女の運転手になったみたいだと言ったのだ。咲も、辰巳を運転手のよう
「兄さん」辰巳は理仁に一声かけた。その時、理仁は咲とその手に抱かれている花束に目をやり、それから辰巳のほうへ視線を向けた。彼は静かに「ああ」とひとこと返すと、唯花の腰に手を回して「唯花さんと先に失礼するぞ」と言葉を残した。辰巳からその返事がかえってくる前に、彼はそのままの姿勢でその場を去っていった。唯花は歩きながら後ろを振り向いて見た。理仁はそんな彼女を前に向き直させて、低い声で言った。「俺のほうが辰巳なんかよりカッコイイだろう」「別に辰巳君を見てたわけじゃなくて、咲さんを見ていたのよ。いえ、あなたその言い方、なんだかまたヤキモチを焼く匂いがしてきたんだけど」「君が
辰巳は豪華な個室を取った。辰巳と咲の二人はテーブルにつくと、辰巳に顔を向けられたスタッフが素早く反応し、すぐにメニューを手渡した。スタッフは心の中で、辰巳坊ちゃんが食事に来てメニューなど見る必要があるのか?と疑問に思っていた。辰巳は心の中でそう思っているスタッフのことなど気にもせず、メニューを開いて料理名と価格を咲に伝え、彼女に注文してもらった。「結城さんが召し上がりたいものを注文されてください」咲はそう言ってこちらがご馳走をするのだという姿勢で、辰巳に注文を促した。「柴尾さんは数千円しか持っていないって言っていましたよね。俺が注文した料理の値段が高くなるんじゃないかと
副社長はどうして目の不自由な彼女に花を配達に来させたのだろうか?と、受付は心の中でひとこと愚痴をこぼし、表情は依然として微笑みを保ちながら咲に言った。「柴尾様、お手伝いいたしましょうか?」「ありがとうございます。でも大丈夫ですから」咲はすでにエレベーターまでどのくらいの距離があるのか把握しているので、受付に面倒をかける必要はなかった。「柴尾様、もし何かありましたら、わたくしどもにお申しつけください」受付は微笑んでそう言った。彼女は咲が花束を抱えて、杖をつきながらゆっくりと進んで行くのを見ていた。咲が遠くまで行ってから、彼女はまた自分の席へと戻った。そして同僚に話しかけた。「







