LOGIN「落ち着いた日はそう続かず、また自分の出生に関する件が浮き上がってきたわ。そしてまた長い時間をかけて調べないといけないの。唯花ちゃん、私たちって神様に弄ばれているのかしらね?どうしていつもいつも傷つけられないといけないの」唯花はそれを聞いて詩乃を慰めた。「伯母様、そんなふうに言わないでください。誰だって生まれてから死ぬまで順風満帆な人はいません。必ず挫折を味わうものです。理仁さんに一緒に調査してほしいって頼みました。人が多ければ少しは証拠が見つかるかもしれません」「ええ」詩乃はただ一時的にもやもやして、姪に辛気臭い言葉を吐いてしまったのだ。「お姉さんは来てる?」「さっき到着したところです。お姉ちゃんはここにいますよ。何か伝えたいことがありますか?」詩乃は言った。「電話をかわってもらえるかしら、ちょっと話したいことがあるの」唯花は携帯を姉に渡した。「もしもし、伯母様、お電話かわりました」詩乃は返事をした後、唯月に言った。「唯月さん、最近ちょっと時間をつくれない?」「ええ、大丈夫ですよ。何か話したいことがあるなら、気兼ねなくなんでも言ってください」「じゃ、一週間時間をつくれるかしら?私と一緒にちょっと柏浜まで行って、黛家の当主に会ってもらいたいのよ」詩乃は唯花を連れて行くつもりはない。唯月も忙しくはあるが妹と比べるとそこまでではないと思ったからだ。それに、姫華が言っていた話を考慮し、詩乃はよく考えてみると、娘の話も一理あると思った。前任の黛家当主が次女である妹に殺され、詩乃と彼女の亡くなった妹が前任の実の娘だと証明されたら、詩乃は黛家当主の座を奪還するつもりだ。しかし、詩乃はもう年だから当主になる気はない。自分も娘にはその重責が担える力がないことは、詩乃もよくわかっていた。唯花は現在結城家の長男である理仁の妻だ。処世術に長けていてその責任を負うのに適しているが、今はすでに大きなプレッシャーを負っているのだ。だから、唯月が一番適している。唯月は詩乃の妹の長女である。詩乃はもし、彼女の両親が生きていればきっと唯月を後継者に選んだだろうと思った。それで詩乃は唯月と一緒に柏浜に赴いて、黛一族に会わせようと考えた。「わかりました」唯月は妹から亡くなった母親の出身を聞いていた。母親は十数年前に若
陽が来ると、家の中は賑やかになった。叔母である唯花ですらも陽に近づくことができないくらい陽はみんなに囲まれてしまった。それで唯花は姉を連れて琴ヶ丘の山を散策し美しい景色を楽しんだ。琴ヶ丘は一年四季がはっきりしていて、季節によって違う顔を見せる。春になると、全体が鮮やかな春色に変わり非常に見ごたえがある。夏には蓮の花が咲き、それも違う美しさを見せてくれる。秋には紅葉狩りを楽しめる。冬は雪の季節だが、星城では滅多に雪は降らない。それで雪景色は楽しめないが、雪がなくてもここの景色が綺麗であることに変わりはない。「あの男の様子は?」唯花は姉に俊介の状況について尋ねた。「回復に向かってるみたいよ。今日行った時は目を覚ましたばかりの時よりもだいぶ元気が出てたわ。だけど、ベッドからおりて歩いたりはできない。成瀬莉奈は彼を殺す気で致命傷になるところを狙って刺していたからね。それでも生きているのだから、お医者さんは運がいいって言ってたわ」唯花は少しだけ黙っていてから口を開いた。「あいつが生きているってことは、陽ちゃんは父親を失わずに済んだってことね。どのみちあいつもお姉ちゃんの邪魔になることは今後ないだろうし。たまに陽ちゃんを父親に会わせてあげるくらいでいいと思う」唯月は頷いた。「私があの人と大喧嘩して離婚することになったけど、結局は陽の父親であることに変わりないからね。別に死ねばいいのにとまでは思ってなかったの。あの人たち、週末は陽を病院で過ごさせてくれないかって言ってたけど、陽が嫌がったのよ」唯花は皮肉そうに笑った。「あいつら、以前は陽ちゃんのことをおもちゃみたいに扱ってたくせに。気が向いたら遊んであげて、気分が乗らないと陽ちゃんを見ることもしなかった。陽ちゃんの祖父母だって佐々木英子の子供ばかり可愛がってさ。だから陽ちゃんはあっちの家族とは親しみを持ってないのよ。お姉ちゃんがいないなら、陽ちゃんも病院に残って父親と一緒にいるわけないわ」家族や親戚であっても、親しみの心は育てていく必要がある。祖父母であっても、孫と交流していなかったり、世話をすることがなければ、孫も祖父母に懐くことはない。それは当たり前の事だ。「東社長も一緒に来たの」唯月が言った。唯花は納得した。「それで陽ちゃんを病院にって言ったのね、陽
唯月は頷いた。彼女は直接中心にある広場まで車を移動させた。そしてすぐに理仁の実家の屋敷に到着した。車を駐車したところに麗華が中から出迎えに出てきた。麗華は段差をおりて、車の前まで来ると唯月に尋ねた。「お久しぶりですね。陽ちゃんも一緒にいらっしゃったの?」唯月は笑って言った。「おば様、何度もお電話をもらったのに、陽を連れてこないわけにはいきませんよ。後ろにいます。今はまだ寝ているんです」「寝ていても問題ないですよ。今はお昼寝の時間だし、私も少し前までゆったりしていましたから」陽が後部座席にいると聞き、麗華が後ろのドアを開けようとしたら、息子の理仁が中から開けて陽を抱き上げ降りようとした。それを見た麗華は急いで両手を伸ばして言った。「私が抱っこするわ。ちょっと気をつけてよ、陽ちゃんの頭をぶつけないようにね」理仁は低い声で言った。「母さんは俺が頭をぶつけないか心配じゃないのか」「あんたは皮が分厚いでしょ。ぶつけたって問題ないわ。ちょっと擦りむく程度でしょうが」麗華は息子の手から優しく陽を抱き上げた。陽を抱き上げると、彼女は残りの三人は放っておいて、そのまま家の中に入っていった。唯花はおかしくなって言った。「お義母さんったら、私たちはどうでもいいんですね」「あなた達には足というものがあって、自分で歩けるじゃないの。ここはあなた達にとって実家と同じようなものよ。勝手は知っているでしょ。私が客人を案内するように接しないといけないわけ?」唯花は笑って姉に言った。「お姉ちゃん、昨日の夜ね、理仁さんと帰ってきた時に、お義父さんとお義母さんが私たちの車の周りでちらちら見てきたの。陽ちゃんがいないか確認してきたのよ。車にまで乗って探したけど陽ちゃんが見当たらないから、尋ねてきたの。陽ちゃんは一緒に来てないって教えたら、陽ちゃんを連れてきてないのにあんた達だけ帰って来て何してるの?みたいな目つきで見られたんだからね」唯月も笑った。「陽は本当に幸せ者ね。こんなにたくさんの人から可愛がってもらって」どこに行っても、陽はみんなから好かれる。姉妹は一緒に家に入った。唯月は理仁に買って来た手土産が車に置いてあるから、それを持ってきてほしいと頼んだ。理仁は言われる前に気づいていた。「お姉ちゃん、こんなにいろいろと買ってくる必要なん
唯月は琴ヶ丘邸の門の前で停車した。「陽、起きて、おばちゃんの家についたわよ」唯月は後ろを振り向いて息子に声をかけた。陽は車の中で到着するまでずっと寝ていた。熟睡していて、母親に呼ばれてもまだ目を覚まさなかった。それで唯月も先に車を降りるしかなかった。「お姉ちゃん」唯月はキラキラと輝く太陽のような笑みを浮かべた。理仁も歩いていきながら唯月に挨拶をした。「こんなに暑いのに、二人ともここで私を待っていたの?暑かったでしょう、早く入ってください。私車を中に移動させますから」理仁は微笑んで言った。「妹さんが義姉さんが来ると聞いて、到着する時間を計算してもうすぐ到着すると思い、ここで待つって言ってきかなかったんですよ」唯月は軽く妹に注意した。「外で待つなら日傘くらい持ってきなさい」「大丈夫、さっき警備員の方の小屋でちょっと待ってたの。あそこにはエアコンがあるから。そろそろ来るかなって思って理仁さんと一緒に出てきて見てたら、お姉ちゃんの車が見えたから」唯花は尋ねた。「陽ちゃんは?」「車で寝ちゃって、起こしても起きないのよ」「寝かせておいて、お姉ちゃん、車を敷地内に停めてね」そう言うと、唯花は助手席のドアを開けて車に乗った。理仁は後部座席に乗り込んだ。陽が椅子にもたれかかってぐっすり寝ているのを見て、陽を抱っこして懐で寝かせようと思い、触った瞬間、彼はすぐに目を覚ました。目を開けると理仁の顔がそこにあり、陽はにっこりと微笑むと、可愛らしい声で理仁を呼んだ。「りひとおじちゃん」「ああ、陽君、目が覚めたんだね。まだ眠い?もうちょっと寝てていいよ。おじさんが抱っこしていてあげるから」陽は頭を理仁の胸元にあてると、目を閉じた。その可愛らしい様子に、理仁は心がやわらいだ。彼は思わず顔を陽の小さな顔に近づけてキスをした。こんなに可愛いのだから、両親らが理仁たちが週末帰ってきても陽の姿がないので、みんな揃って不満をぶつけてくるわけだ。唯花は裏でこっそり夫に言った。「これから陽ちゃんを連れて一緒に帰ってこないと、お義父さんとお義母さんは私たちをここへ入れてくれないかもしれないわよ。陽ちゃんは通行証みたいなものだわ。陽ちゃんがいないと私たちだけ帰っても温かく迎えてくれないわね」理仁自身も苦笑いするしかなかった
姉がもうすぐ到着するという連絡を受けて、唯花は琴ヶ丘邸の門の前で待っていた。もちろん理仁も彼女と一緒だ。しかし、この時の唯花は頻繁にあくびをしていた。理仁は彼女に文句をもらした。「市内からここまで遠いから、昼寝しろって言ったんだ。起きたらちょうど義姉さんが到着する頃だろう。それなのに言うことを聞かないんだから。今になってあくびしまくってるだろ」すると唯花はまた一度あくびをしてから言った。「だって横になったらもう起き上がれなくなるって思ったんだもん。こんな天気でエアコンをつけた部屋にいると、寝れば寝るほどだるくなってきて、だるくなると寝たくなって起きたくなくなるわ」彼女を起こしてあげなければ、午後ずっと寝ているはずだ。「季節も変わり目だからだろ。この時期はみんなそうなるんだよ」理仁は唯花の手を握りしめ高く上げ、手の甲にキスをして彼女を見つめた。愛情のこもった甘い雰囲気で唯花を見つめ言った。「唯花、もうすぐ結婚記念日だろう。俺にどんな贈り物をしてくれるのかな?」唯花は手を引っ込め、わざと彼の顔をつねって言った。「まだ思いついてないの。あと半月はあるでしょ。今は遥さんの双子の赤ちゃんへのプレゼントを考えているところよ。もうすぐ百日祝いだからね」理仁は自分は可哀想だという顔つきで言った。「あの子たちは蒼真さんのお子さんたちだぞ。なのに俺よりも上位に来ているのか?唯花、俺が悲しむのを見ても傷つかないのか?」結婚記念日に妻から心のこもったプレゼントをもらえないと、理仁は一年ずっと沈んでいるだろう。その言葉に唯花は笑った。「私は本当にまだ思いついてないの。だったら何が欲しいか言ってよ。それをあなたにあげるから」彼女が今思っているのは記念日は休んで一日中彼と一緒に過ごすことだった。彼への贈り物は服、ネクタイ、時計以外なら、男性用のネックレスや、結婚一周年を記念した指輪など思いつくのはそれくらいだった。その日は彼女自ら三食手料理をふるまうつもりでいる。特に夕食はロマンチックなキャンドルディナーにしようと思っている。理仁は彼女の肩を抱き寄せた。「君からもらう物はなんだって好きだよ。俺から何がほしいかは言わずにおくよ。だって、それじゃなんだか味気ないじゃないか。双子ちゃんたちの百日祝いなら、おもちゃや服を買うことにしよう」ま
美乃里が隼翔に答えた。「佐々木さんが目を覚ましたのもそれはそれで良かったじゃない。陽ちゃんは父親をなくさずに済んだんだから。まだあんなに小さいのに、父親を失うのはやっぱり可哀想だわ」隼翔は言った。「陽君は父親とあまり仲を深めてはない。あの男は以前子供を唯月さん姉妹に押し付けていた。彼は何もしないで人任せにし、気が向いたら子供と遊んで、よく泣かせていたそうだ。あいつの両親も同じだ。陽君には外面だけ良くしていて、心から大切にしていたわけじゃない。子どもは誰が自分を面倒見てくれて心から接してくれるか本能的に感じ取る。陽君は叔母さんである唯花さんにもまるで実の親子のような感情を持っているぞ。それなのに血の繋がる祖父母や伯母たちとは全く家族のような仲ではない。それに唯月さんが陽君の親権を取ることができてよかった。陽君は彼女といたほうがいいに決まっている」美乃里は頷いた。「今、佐々木家の奴らは懸命に陽君と関係を良くしようとしている。確かにまだ間に合うとはいえ、見ているほうはあいつらに皮肉を言いたくなるぞ」隼翔は佐々木家に対して、実際かなり不満を抱いている。彼は本気であの一家を嫌っている。特にあの佐々木英子とかいう女だ。道徳よりも損得勘定にしか関心がいかないし、厚かましい。以前、彼女は唯月にひどい態度をとっていたというのに、今唯月の商売が繁盛すると、がらりと態度を変えて近寄り、利益を吸い取ろうとしている。「陽君の伯母の佐々木英子とかいう女は、俺が今まで見てきた中で一番恥を知らない人間だ」隼翔は思わず母親に英子の悪口をもらした。そして、彼が俊介が入院している病室で見たもの、聞いたこと、全て母親に話した。「本当に恥知らずね。あの一家は本当に最低だわ。唯月さんはあの人たちから離れて正解ね。このレベルのクズとはできるだけ遠ざかったほうがいいわ。それに唯月さんが優しい人だから、陽ちゃんと父親側の家族をまだ会わせてあげてるのよ。他の人だったら、離婚してさっさと子どもを連れて二度と会わないように遠ざかるわ」隼翔は少し黙ってから言った。「あの二人は離婚する時に、佐々木家は陽君に会いたい時にはいつでも会えると取り決めている。佐々木俊介も養育費を出したし、子供にはなんの罪もない。唯月さんがこのようにするのも全て陽君のためだな」俊介と陽は親子とし
電話を切った後、理仁はすぐに悟に連絡して義姉が抱えている疑問を悟に伝えた。悟は言った。「俺もさっき知らせを受けたばかりなんだ。ちょうど君に伝えようと電話をかけるところだったさ」「どんな知らせだ?」理仁は低い声で尋ねた。「陽君が誘拐されそうになったのに関係していることか?」「その通り。弦さんから教えてもらったことなんだけど、柴尾夫人は二十数年前にあるヤクザの親分を実の父親のように慕っていたと調べがついた。だけど、その男は警察に捕まり、死刑判決を受けたんだって。その親分の子分たちの中には警察の網をすり抜けて罪を免れた奴らがいるとか。一部はその行方がわかっていない。その子分たちを
「結城さん?」咲は状況がよく理解できず口を開いた。「俺は別に花束を受け取る趣味もないし、彼女もいませんから。あなたにここまで持って来てもらったのは、俺のいる場所へのルートに慣れてもらうためだったんです。そうすれば今後は何かと便利でしょう」辰巳は笑いながら説明した。「だけど、さっきのあなたのバカみたいにポカンとした様子ときたら、おかしかったですよ。楽しませてもらったお礼に今日はご馳走します。行きましょう」それを聞いた咲は心の中で、バカはそっちのほうだ!と罵っていた。彼のよくわからないやり方のせいで、アホのようにポカンとさせられてしまったのだ。しかし咲はその表情をあの淡々とした
結城家がA市の桐生家よりもさらに女の子が生まれにくいことを考え、理仁は心の中で誓った。絶対に凄腕の占い師か祈祷師を探し出し、何か祟りや呪いでもあって女の子が生まれなくなってしまったのかどうか、それを見てもらうのだ。「理仁、辰巳君と咲さんって、今どんな感じ?辰巳君なんだか自分で自分の首を絞め始めているような気がするのだけれど」この時、唯花は話題を変えた。夫がいつもいつも娘が欲しいと考えるのをやめさせるのだ。これは彼女もかなりのプレッシャーを感じてしまう。「まあお似合いではあるんじゃないかな。柴尾さんの目がまた光を取り戻したら、もっと二人はお似合いだろうけどね。辰巳がどうして自分の
唯花はこの時、自分は本当に恵まれた人間だと改めて感じていた。結婚した男性はたまに小さなことで腹を立てるが、彼女のことをとても大切にしてくれている。絶対に彼女に暴力を振るうようなこともないし、浮気される心配も全くない。それに彼は教養を重んじる家庭出身である。結城家のように開放的な考えを持ち、嫁の家柄にもこだわならい名家というのは、上流階級の家柄の中でも異端児のような存在だった。当初、おばあさんが唯花に、命の恩人に悪い孫など絶対に紹介しないと言っていた。実際、結城おばあさんの孫はみんなよくできた男たちばかりである。理仁は一番年上だから、一番最初に考えて決めただけだ。「東夫人はも







