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第772話

Author: リンフェイ
姉もここにいるし、七瀬だっているのだ。

このように直接彼女を抱き上げて車から降ろされたら、これでは少し……うん、恥ずかしい。

彼に抱き上げられて降ろされた瞬間、唯花は彼から普段の香りがしてきて、たまらず彼の顔を触った。

ああ、この手触りはやっぱり抜群ね。

理仁「……」

口では優しくしてくれなくていいようなことを言っておきながら、彼に抱きかかえられたら、調子に乗ってきたのだ。

待ってろよ、夜になったら……

理仁はすぐにその考えを断ち切り、妄想するのはやめた。これ以上続けると、もう我慢できなくなってしまう。

唯花を下におろした後、理仁は陽を車から降ろすため抱き上げに行った。

「おいたん」

陽は幼く可愛らしい声でそう呼び、理仁が両手を伸ばして彼を抱き上げようとした瞬間、陽が直接理仁のほうへジャンプした。理仁の動作は早く、軽々と彼を抱き上げて、高い高いをしてあげた。

陽はそのようにあやしてもらってケラケラと大笑いしていた。

暫く陽をあやしてから、高い高いをするのをやめて、理仁は彼を下におろし尋ねた。「陽君、おじさんに会えなくて寂しかったかい?」

陽は頷いた。「うん」

理仁は表情を柔らかくして、陽のほうへ顔を寄せて頬にキスをした。「おじさんも、陽君に会えなくて寂しかったんだよ」

唯月が車から降りてくると、彼は彼女に挨拶をした。

唯月も笑顔でそれに応えた。

「内海さん、お久しぶりです」

七瀬が近寄ってきて、挨拶をした。

唯花は彼のほうを向いて微笑み、尋ねた。「実家に帰ってお正月を過ごさないんですか?」

マンションに住んでいる人も実家に帰る人もいれば、ここ星城に残って年越しする人もいる。

七瀬は笑顔を作って答えた。「帰るのにもお金がかかりますからね。一年ではあまり貯金できないし、正月にもお金を使ってしまいます。一年中余裕がないんですよね。今年は実家で正月を過ごさないことにしました。こうすれば、両親に正月を過ごすために数万円送って、まだ自分の分も残るでしょう」

唯花は笑った。「それもそうですね。それか、ご両親をこっちに呼んでもいいかもしれないですよ」

みんなは平均的に、一年で数十万から百万を超えるくらい貯金しているだろう。正月には何かともの入りでいろいろ出費がかさむので、年越しというのは本当にお金がかかるものだ。

親戚回り、その際の手
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