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第221話

Author: 大落
ある壮大で立派な建物の前に、様々な高級車がずらりと止まっていた。

その時、一台の黒いマイバッハがゆっくりと近づいて止まった。

博人はドアを開け先に降りると、後部座席に向かい、紳士的に手を差し伸べて未央をエスコートした。

二人が並んで立つと、とてもお似合いな美男美女のカップルに見える。

今度のチャリティーパーティーには多くの有名人が招待されているから、レッドカーペットの両側には記者たちが大勢いたのだ。

「カシャカシャ」

シャッターの音と眩しいフラッシュが絶え間なかった。

博人は顔色を一つも変えず、未央の手を取り、ゆっくりとホテルに入った。

西嶋グループの社長を辞任して以来、これは彼が初めて公の場に出た瞬間だった。少しも落ち込んだ様子もなく、それに不仲と噂されていた妻と共に参加している。

この写真が公開されれば間違いなく大きな話題になるだろう。

西嶋グループはこの頃リードする者を失い、管理職についている者たちが争い合う状態が続いていた。

それで、株価は下がる一方だった。

すると、博人の復帰を求める声も出て来たが、彼が戻りたいかどうかは別問題だった。

パーティー会場はとても賑わっていた。ここに来たのはみんな各業界のエリートや大物たちだった。

「西嶋社長、お久しぶりです」

何人かが博人を見つけ、こぞって寄ってきた。なんと言っても大きな西嶋グループを仕切っていた者として、今の博人の身分に関わらず、彼に取り入っておく価値はまだあるのだ。

未央は男の手を離し、笑顔で言った。「行っていいよ。私は一人でも大丈夫だから」

博人は目を細め、彼女から離れたくなかった。

しかし、未央の計画を考えると、彼がここにいれば洋が現れないかもしれないと分かっていた。

暫く沈黙した後。

博人はため息をつき、未央を見つめながら小声で注意した。「気を付けてね。遠くから見守っているから、危険を感じたらすぐに俺を呼んで」

未央は思わず笑った。こんな大勢の前で何か危険だと言うのか。それでも彼女はおとなしく「分かった」と答えた。

博人が去ると、彼女の周りは急に静かになった。

未央は会場を見回して、洋を探して歩き回った。

しかし、なかなか見つからなかった。

突然、ポケットに入れた携帯が震え出した。

それを取り出し画面を確認すると、覚からのメッセージだった。

「どう
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