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第68話

Author: 大落
彼が行って間もなく、絵里香が店から出てきた。

未央は心拍数が急に早くなり、隣の木の後ろに身を隠した。

絵里香は未央のことには気付かず、ある路地裏に入っていった。

未央は目を細め、石田にメッセージを送ってから、息を殺して後を追った。

路地は非常に狭く、一人がやっと通れる幅だった。彼女はわざと少し待ってから慎重に入って行った。

路地を抜けると、向こうは閑静な住宅地だった。

未央は両手を握り締め、ある予感が頭をよぎった。

ここにはきっと何かの秘密が隠されているに違いない。

未央はコンビニでサングラスとマスクを購入し、身に着けてから落ち着いたふりをして住宅地まで来た。

暫く周りを歩きまわると、すぐにあの見慣れた姿を見つけた。

絵里香はある男と話し合っているようだが、次第に口論になった様子だ。

しかし。

未央は見つかるのを恐れ、近づくことができなかった。

また暫く待っていた。

すると、絵里香は暗い顔をしながら、早足でその場を離れた。

未央は目を輝かせ、さっき彼女がいた場所に近づき、チャイムを鳴らした。

「ピンポーン――」

ドアはすぐ開いた。

顔をあげた未央は雷に打たれたようにその場に凍り付いた。

「誰だ?何か用?」

目の前には少し太った中年男性がいた。話す時は少し訛っていた。

一番重要なことは、未央はこの人を知っていることだ。彼女は確かに白鳥グループで会ったことがあって、管理職についていた男だった。

名前は確か有馬航(ありま わたる)と言ったはず。

絵里香がどうして彼と繋がりがあるのだろうか?

未央の頭にはさまざまな考えが浮かんで、心の中は激しく波立った。

しかし、今は下手に行動してはいけない。

彼女は深呼吸して、声のトーンを低くして口を開いた。「デリバリーです」

航は眉をひそめ、手を振った。

「デリバリーは頼んでないぞ」

「そうですか。すみません、住所を間違えました」

未央は言い終わるとすぐ振り返って、背後から罵られる声も気にせず、急いで立ち去った。

幸いマスクをしておいたおかげで、航には正体がばれなかったようだ。

未央は暗い顔をして、急いでその場を離れると、携帯を取り出し瑠莉に電話をかけた。

相手はすぐに出た。

「もしもし、最近はさぞ忙しかったのよね。ようやく私のことを思い出したの?」

瑠莉はからかうよ
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