INICIAR SESIÓN桐生くんは瞬く間に前菜の皿を空にした。私、まだ1皿目をもぐもぐしてるんですけど。もしかして、アフタヌーンティーって女同士じゃないと成り立たないのか?そういえば健次郎をアフタヌーンティーに誘ったら渋い顔をされたことがある。お腹がいっぱいにならないかも疑惑か。「ええと。桐生さんは壇さんとは……」「俺が高校の生徒で、れいなちゃんが家庭科の先生」今回の対象者、桐生絢斗さんのお相手は壇れいなさんという方で、高校の教師と生徒。うわー、またドラマ出来そうなやつ。てか、れいなちゃんって呼んでるのね。でも相手が高校生って、淫行扱いされるよね?「桐生さんは高校生ですか、もう少し小さい声で言われた方が」「俺が、一昨日誕生日だったから18。18ならセーフでしょ?」18。淫行疑惑。セーフ……なのか?慌ててスマホでググる。『18歳との性行為は同意があれば基本的に犯罪ではない。成人を迎えた18歳との性行為は、基本的に犯罪にはならない』そうか、成人は18歳になったからか。ん?誕生日が一昨日……。そのふたりは一昨日より前に身体の関係が……あった……のか?うーん、追及するのはやめておこう。私、警察でも弁護士でもないし。しかし、迫ったのが桐生さんからだったらセーフなのか?「れいなちゃんは、4月に先生になったばかりでさ。家庭科の先生なんだけど、何か舐められててさ」新卒の先生か。大学出たて。高校生の扱いなんて出来るものなのか?ストレートで採用されてて、誕生日来てれば23歳。で、この桐生さんが18歳。え?5つしか変わらないじゃん。そりゃ舐められるわ。「桐生さんとは、5歳差、ということでいいですか?」「はい。もうね、皆全然れいなちゃんの話聞かなくてさ。泣きそうになってたからちょっとシメてやったんだよ」シ、シメる、だと……?発言怖いんですけど。「シメる、とは……?」恐る恐る尋ねる私に桐生さんはわかりやすいドヤ顔で私に言った。
とはいえ。二人目の育児って思った程しんどくない。ひと通り経験してるからかな。そう気付いた途端、私の中の野次馬根性が出てきた。私の第二子・博樹《ひろき》はもう6ヶ月になった。麻子さんももう出産終わったかな?ライティングぐらいなら、もう仕事復帰してもいいかも。そうすれば、二人とも保育園に入れてもらえる。私の住む地域は幸いにも、保育園の待機児童ゼロを目指しているところだった。出版社に交渉すれば、保育園に入るための必要な書類はすぐに揃うだろう。『お世話になっております。インタビューの案件を担当する準備ができました。つきましては詳細を教えて頂きたいです』はい、新規のインタビュー案件、他の人に取られてない前提ね。インタビュー案件は人気なので本来取り合いだ。本当にご指名案件だったら生きてるはず。『里崎様。育児、順調そうで何よりです。詳細添付致しましたのでご一読ください』返信はやっ。やきもきしないで済むから助かるけどね。ええと、添付ファイルは……。うわー。またしても禁断の愛シリーズじゃん。私ドロドロ担当班なの?『男子高校生と女性教師の恋。両方にアポ可能』また女性が年上パターンか。禁断の愛は年上女性が多いのか?違うか。男性教師と女子高校生だと記事が平凡になりがちだから?みんな刺激、欲しいのねえ……。久しぶりのホテルのラウンジ。うん、熱いぜ。家事と育児だけの世界から飛び出たこの感じ。解放感最高!……じゃなくて。仕事仕事。今回もラウンジの個室でアフタヌーンティーだ。しかし今回の取材対象者は男子高校生。甘いものなんて食べられるのだろうか?「予約した里崎です」スタッフに伝えてラウンジのテーブル席に通される。まだ例の男子高校生は来ていないようだ。男子高校生ってDKとかいうのだろうか?女子高生がJKっていうじゃん?どうでもいいけど。……まだかな?約束の時間から20分が過ぎている。個人のスマホの番号なんて知らないしな。
肯定も否定もしてはいけない。だって私はインタビュアーだから。一度その境界線の向こうに片足だけでも突っ込んでしまったら、私も関係者になってしまう。不倫のインタビューって、こんなに難しかったのか。麻子さんは、きっと今でも岳さんを想ってる。それでも麻子さんが離婚しないのは、岳さんの立場を守るためでもあるけど、旦那さんへの忠誠心もあるのかもしれない。あのとき麻子さんは旦那さんとの回数が増えたと話していた。それは、旦那さんの防衛本能というか、麻子さんを手元に置く為の奪還行為だったのかもしれない。麻子さんも岳さんも神妙な顔してるけどさ。一番の被害者、麻子さんの旦那さんだからね?みんな、そこ忘れちゃダメなやつよ?あ。だからお墓の中まで持ってく話なのか。しかしなあ……。不倫モノのドラマって、大抵最後どっちか死ぬか心中だ。でも現実の当事者は案外たくましい。厚かましいと言った方が合ってるのかもしれない。現実、だもんな。ドラマは最後、誰か死なないと収まりがつかない。でも私達が生きているのは現実なわけで。だからといって、ふたりがしたことは許されることではないのだけど。麻子さんのお腹の子の父親が本当に旦那さんでありますように。岳さんが立ち直って前に進めますように。私に出来ることは、ただ祈るだけだ。「人妻と大学生の背徳LINEに“妊娠疑惑”──禁断愛が迎える最悪のシナリオ」「まさか、私が……」──28歳人妻Tさんの震える声に、年下大学生Yさん(21)との背徳の恋が新たな局面を迎えた。M市内の喫茶チェーンRで出会ったふたり。ショップカードの裏に書かれたLINEから始まった関係は、夫が知らぬ間に燃え上がり、ついにはYさんの部屋で逢瀬を重ねるようになった。だが先月、Tさんに“妊娠疑惑”が浮上。つわりのような症状に苦しみ、夫と姑は「新しい命かもしれない」と彼女を労った。罪悪感に押し潰されそうになりながら、Tさんは産婦人科を訪れる。結果は「妊娠していない」。想像妊娠だった。だがこの騒動で、Yさん
「なかなかお会い出来なくて申し訳ありませんでした」「会いたかったのは私の我儘ですから。里崎さん、今は体調は?」麻子さんからアポがあったと編集部から話は受けていた。しかしその当時、私はふたり目のつわりに苦しんでいた。家事と美空の相手をするだけで精一杯で、麻子さんと岳さんの不倫記事は頭からすっ飛んでいた。「だいぶ落ち着きました。……あの、麻子さんも、もしかして?」私が遅い安定期に入り、やっとこさ麻子さんと会うことができた。麻子さんのバッグには、私と同じキーホルダーがついていた。「ええ。私もやっとつわりが治《おさま》りました」微笑みを浮かべる麻子さんは、ただ幸せそう、というよりも、何かを乗り越えた感じがあった。頼りなさげなふわふわとした雰囲気は消えて、どこかキリッとした、意志を感じさせる強さを持っているように見えた。「あの……その、聞いても」「岳の子である可能性は、あります」わー!わー!わー!マジっすか⁈あの妊娠騒動は結局想像妊娠で済んだけど、今度は現実よ?命がそこにいるのよ?「最後に岳としたあたりから、夫との回数が増えたんです。だから、可能性はどちらにもあって。どちらかというと、夫の子である可能性の方が大きいかもしれない」「うん、ご主人の子、ということにしておきましょう!」生まれてくる命に罪は無い。親の都合で振り回す確率は可能な限り低くした方がいい。ああ、気が進まない。『第二稿を出すなら、片方だけでなく、相手にもしっかり話を聞いてから書くべきだ』という至極当然な話が編集部からあった。それはつまり、岳さんにも話を聞いてから書きなさいと。大丈夫かな?麻子さんは岳さんとの連絡は断ったと話していた。岳さんが吹っ切れていればいいのだけど、あの熱量はそう簡単に冷めるとは思えない。覚悟を決めて、私は岳さんにアポを取った。「──お久しぶりです」「どうも」久しぶりに対面した岳さんは、以前熱弁していたときよりも精悍な顔付きになっていた。麻子さんといい、岳さんといい。不倫じゃなかったら幸せになっていたでしょうに。「あれから、どうですか?」念の為今日もホテルの和食屋の個室だ。万が一岳さんに号泣されても、ここなら人目を避けられる。「……聞いているんでしょう?麻子さんから」「はい」嘘をついてもすぐバレちゃうからね。面倒な展開になりそうな予感はあるけ
駄目。優しくしちゃ、駄目だ。岳にこんな冷たい言葉なんて投げつけたくない。岳と終わりになんてしたくない。もっと優しい言葉を打ちたくなる衝動を、辛うじて抑える。本当は会いたい。会って岳の胸に飛び込みたい。目尻から涙が溢れた。嗚咽を噛み殺して堪える。嵐がいびきをかいて寝ててくれて良かった。今の私の姿を、嵐に見せるわけにはいかない。スマホの電源を落とした。触っちゃ駄目。スマホを触ったら、また岳と繋がりたくなる。繋がったら、顔が見たくなる。声が聞きたくなる。あの体温に包まれたくなる。ああ……。幸せ、だったな。岳といるとき、岳に抱かれているとき、本当に、私は幸せだった。でも続けちゃいけない。だって私は結婚してる。離婚するつもりは無い。夫として、きちんと向き合ってくれる嵐に対して、私はこれから一生報いるんだ。人生最後の恋だった。そう思うことにしよう。きっと私は一生引きずる。岳が他の人と出会って幸せになる頃、私はそれでもまだ引きずるんだろうな。それもいい。それが私の罰だ。一生抱えて生きていく。嵐には悟らせないように。一生、私は嵐の良き妻を演じよう。それが私の贖罪だ。でもね。こんな嘘だらけの妻から嵐を解放してあげた方が、本当は一番いいのかもしれない。最近、嵐が私を抱くとき、前よりも激しく抱く。あんなに淡白だったのに。義務のように、仕方なく私を抱いてる感じだったのに。新婚の頃や結婚前の付き合ってるときよりも濃厚かもしれない。嵐なりに、何かを感じていたのかもしれない。彼は言葉にはしなかったけど、第六感みたいなのが働いたのだろう。私の声が枯れるほど、嵐は私を求めるようになった。岳とは会ってない。LINEは来てたけど、単語ばかりで返して、返しにくい内容でしか応じなかった。最後に送った私のメッセージにはリアクションスタンプしか無かった。そこで私たちのやり取りは途切れた。岳は、お別れを受け入れたのだろう。そこから程なくして、私は鈍い腰痛と貧血に悩まされるようになった。そういえば、先月も、その前も生理が来てない。もしかして、と前の騒ぎで購入しておいた検査キットで確かめた。結果は陽性だった。嵐との行為が以前と比べて格段に増えていた。ちゃんと、嵐の子だろう。でも。最後に岳を落ち着かせるために抱かれた後から生理は来ていない。あの日は外に出していた。それでも、もし、あ
「──それで、引越、したんですか?」「駅から結構歩くマンションにね。主人は通勤が大変そうだけど」またもや麻子さんに呼び出された。結構呼ぶ人なんだな。プライベートで友達だったら、頻繁にLINEや電話があっただろう。ビジネスの関係だけど、深入りしないようにするって難しい。「お姑さんは……?」「最初だけ来て、来なくなりました。主人が釘を刺してくれたのもあるけど、駅から20分も歩きたくなかったみたいで」姑襲来問題が解決したのは大きいな。前回に比べて、麻子さんの表情が落ち着いている。「ところで、岳さんとは──?」斜め下を見て、麻子さんは小さくため息をついた。「別れようと思っています」おお。ついに。麻子さん、この不倫を終わらせるのか。「岳は、彼自身の将来に私がいるって言ってくれた。もう、それだけで十分です。このまま不倫の泥沼にはまって、人生を棒に振らせちゃいけないんです」「それで納得してくれたんですか?」「まだ、話してません。ねえ、どうしたら、すんなり諦めてくれますかね?」知らないよ!私、不倫したこと無いしこれからもする予定ないもの。「うーん、最近、岳さんには会いました?」「会ってません。怖くて。妊娠してなかったことがわかった日に会ったのが最後。彼、すごく興奮してたから、別れ話をしたらどうなることか」喫茶ロミオの閉店後、恒例のおしゃべりタイム。本音は帰りたい。帰りたいけど、今日一緒にシフトに入った白雪さんに麻子さんの最近の動向を探る必要がある。俺はコーラにレモンのスライス(俺たちはレスラと呼んでいる)を、白雪さんはアイスミルクコーヒー。速水蒼《そう》もコーラにレスラを入れて当然のように白雪さんの隣に座る。白雪さんと速水は幼馴染で彼氏彼女らしい。早くもアイスコーヒーを半分くらい飲んだ店長の隣に俺は座った。リア充はやっぱり爆発すればいい。いや?俺もリア充に入れてもらえるか?麻子さんが離婚さえしてくれれば、俺はこの2人よりも先に麻子さんと結婚してやる。「そうだ、麻子さん引越したらしいよ」……引越?「麻子さんって桃歌の従姉妹だっけ?」「うん。そうちゃんのシフトの日はあんまり来てなかったっけ?」「2・3回見たことあったような……綺麗な人だよな」「そうちゃん?」白雪さんお得意の上目遣いが発動した。「も、桃歌の方が可愛いに決まってるだろ!







