Masukこいつが欲しいのは、“彼女“というステータスと、性欲を処理する相手。俺に惚れてるわけではない。彼女は俺の見た目しか褒めないもんな。便利だった。れいなちゃんにもう近づくことすら許されない俺は、れいなちゃんで満たされていた性欲の紛らわせ方に困っていた。最初は、れいなちゃんが望んでいたであろう、受験勉強に集中して誤魔化していた。でもな。性欲って人間の3大生理欲なんだよ。そう簡単に、紛れるものではなかった。律樹に誘われて仕方なく参加した、有志ステージ。その練習で俺にやたらと近づいてきたのが、彼女だった。文化祭の後、告られた。断る理由は無かった。れいなちゃんを失った俺は、その彼女で何かを補給出来るかもしれないと思ったからだ。彼女は俺が思っていたよりも性欲が強かった。付き合って3日目に処女を差し出されたときは驚いた。食べたけど。この彼女は便利だった。俺がれいなちゃんを未練がましく見つめているのに気づいても、抱いてやれば大体機嫌が直る。キス落として胸揉むだけ。あとは俺の性欲次第。無料のソープ嬢。そんなの口に出したら殺されるな。彼女はそこそこいい身体をしている。でも、俺史上、最高の身体はやっぱりれいなちゃんだ。れいなちゃんの、身体が恋しい。便利で顔は可愛い、俺の彼女。今日も、俺は彼女の目の前で、れいなちゃんに視線も心も奪われていた。彼女の視線に気付き、微笑みを浮かべる。──ん?何か機嫌悪い?彼女、俺の指見た。リング見た。「それ、私とつけたやつだよね?」「うん」「それつけて、れいなちゃんって呼ぶの、無理」“無理”。その二文字って、めっちゃ強い。反論できない。「俺、別に…」「別にじゃない。顔がもう、れいな先生のとこ行ってる」ムカついた。何だよこいつ。彼女のくせに。黙って俺に抱かれて機嫌直してれば、それでいいんだよ。自分でもびっくりした。ムカつくとか思う資格ないのに。俺何様?「俺だってちゃんと…」ちゃんと何?言葉出てこない。ちゃんとしてるフリはしてる。でもちゃんとしてない。彼女、静かに言った。「別れよ」「え、待って」声が裏返った。だっさ。俺、だっさ。「待てない。私、れいな先生と競争したくない」競争って言葉、マジで痛い。れいなちゃんは競争とかじゃない。お前なんかとれいなちゃんは並べられない。勝負にならない。オハナシにならな
「全部ってなんだよ」「……俺、やばい。俺がやばい」言ったら、律樹が一回だけ息吐いた。「お前、今日ずっと顔死んでたもんな」その一言で、俺の中で何か崩れた。死んでたんだ、俺。周りから見ても分かるくらい。俺の世界から、れいなちゃんが消えた。それは死刑宣告と同じだ。れいなちゃんがいないだけで、息を吸うことすらままならない。俺、ずっとこのままなのか?俺は笑おうとして、失敗した。笑う筋肉が動かない。律樹が肩を軽くぶつけてきた。「帰ろ。寒いし」「……うん」歩き出した瞬間、また後ろ見そうになって、やめた。れいなちゃんの方、見たら終わる気がしたから。律樹が、歩きながらぼそっと言う。「まあ、無理な日は無理だろ。でもお前、明日にはちょっとマシな顔しろよ。檀先生にバレるぞ」“檀先生にバレるぞ”。その言葉が急に現実だった。俺はポケットのリングを握りしめた。握ったら痛い。痛いから、やめた。「……無理だわ」もう一回だけ言った。今度は相手に向けてじゃなくて、自分に向けて。律樹は返事しなかった。でも隣を歩いてくれた。それだけで、ちょっとだけ息ができた。リング、つけてると落ち着いた。彼女が「つけよ」って言ったやつ。俺、ちゃんとしてるって感じする。ちゃんと彼女がいる、ちゃんとした彼氏。でもな。廊下でれいなちゃんが見えた瞬間、全部どうでもよくなる。ほんと、やばい。心臓が先に走る。俺の身体、俺のじゃないみたいに勝手に動く。(見ない)(今日は見ない)(絶対、近づかない)って思ったのに、気づいたら歩く速さ上がってた。何してんの、俺。れいなちゃん、前から来た。ただ歩いてるだけ。なのに俺だけ世界がうるさくなる。(れいなちゃん)呼びたい。呼んだらダメ。でも呼びたい。意味わかんない。俺。「絢斗」後ろから呼ばれて、止まった。二年の彼女。顔は、可愛いと思う。身体も出るとこ出てた。処女を捨てたがっていたこの彼女は、付き合って早々に俺に身体を差し出した。据え膳食わぬは男の恥じゃん?俺だって健康な18歳の男。食べれるもんは、食べるんだよ。もうれいなちゃんの身体を味わうことは叶わないからな。──え?美味しかったよ?れいなちゃんの次にな。そうだ呼ばれてたんだ。最悪のタイミング。ほんと最悪。「どこ行くの?」「どこって…別に」「
「おめでとうございます。妊娠されてますよ」診察台のカーテン越しに聞こえる産婦人科のお医者さまの声。壁に設置されたモニター画面は、私の子宮の中に小さな袋を映していた。それは私のお腹に、また新たな命を授かったことを意味していた。今度こそ、100%嵐の子だ。瑠岳を産んで以来、嵐としかしていなかった。次回の予約をして、産婦人科の1階にある託児室に向かう。この産婦人科で瑠岳を取り上げてもらった。ふたり目のこの子も、この産院でお世話になるつもりだ。入院中はずっとこの託児室で瑠岳を預かってもらえる。一般的な保育園と同じ時間に開所して、同じ時間に閉所するそうだ。ありがたい。生理が来ていなかったこと。尿検査が陽性だったこと。もう既に悪阻のような症状があって、産婦人科医の太鼓判も出た。頭の中から、岳のことはすっ飛んでいた。ふたり目を妊娠したとわかった途端にこれだ。母親の本能というものだろうか。あれ以来、あのショッピングモールに近付いていない。岳に会う危険性があるからだ。我が家から反対方向に同じぐらいの距離にショッピングモールがあるから、必要な買い物や気晴らしはそちらですれば良い。悪阻と闘いながら、家事と瑠岳の育児の両立は大変だ。私の支えになっていたのは嵐と瑠岳と、SNSを通じて再会した地元の友達だ。その友達も時を同じくして妊娠していた。それもふたり目。同じ境遇の友と愚痴を言い合って励まし合っていた。それから数ヶ月の後。私は男の子、湊《みなと》を出産した。嵐にも私にも、どちらにも似ているもう既に相当なやんちゃ坊主だ。絶賛イヤイヤ期の瑠岳の世話と湊の世話。そして家事。日々時間に追われていく。岳からはあれから何度かLINEが来ていた。ブロックした。そもそもブロックしていなかったから、岳に希望を持たせてしまった。岳はまだやり直せる。あの若さで弁護士になっていた。モテないわけがない。だって私も惚れてしまったぐらいなのだから。湊を授かったおかげで、私は岳を解放する決心がついた。変わらないままだったら、きっと修羅場になっていただろう。岳は望まない結果だったと思うけど、私に関わる全員が、湊の存在に救われたんだと思う。岳、どうか、私のことなんて忘れてください。私はもう、岳に何もしてあげられない。どうか岳が私のことなんか早く忘れて、違う誰かと幸せになれますように。fin.
遺伝子が、俺たちを祝福している。『あなた達は、結ばれる運命なんだ』また超時空的な声が聞こえた。俺、今日は飲み過ぎたな。レッドブルは冷蔵庫に冷やしておこう。プリンだけ家で食べて、シャワー浴びてさっさと寝よう。真夜中は人間の思考は偏るという。理性が効かずに男女の事件が多々起きるのはそのせいだ。そうか。麻子さんの理性を失わせればいいのか。でもどうやって?何とかして、また麻子さんを抱いてみようか?俺無しではいられない身体に、彼女の身体を教育すればいい。しかしその最中、あの子はどうしようか。麻子さんのえろい声って結構大きいんだよな。折角寝かせていても起きてしまうかもしれないから、麻子さんの口は優しく塞ぐか。何で塞ぐかって?決まってる。俺の唇だ。身体の中心に血液が集まる。この硬さ、すぐに麻子さんに味わわせて彼女を骨抜きにしたいのに。今、俺の目の前に彼女はいない。不便だな。やっぱり麻子さんを家に呼び寄せよう。小さな娘は早いところ寝かしつけて、麻子さんをとろとろに抱いてしまえ。あの小さな子でも、何度か会えば俺の顔を覚えるだろう。ああ、楽しみだな。麻子さんの身体。あれからどの女を抱いても、あの高揚感は無かった。麻子さんの肌、柔らかさ、膣内《なか》の締めつけ。あの極上の身体は、俺専用でなければいけない。──来ない。何故だ。麻子さんから、連絡が来ない。おかしい。彼女は俺に会いたくてたまらなかったはずだ。何故言い切れるのかって?だって俺の子産んでるじゃん?旦那よりも俺と一緒にあの子を育てたかったはずだ。それが生き物の本能だろう?俺から麻子さんにLINE送ってみるか。麻子さんが俺をブロックしているわけが無い、何故かって?あの子は俺の子だからだ。ブロックなんてしたら俺と連絡取れなくなるからな。そんなの、麻子さんの身体の疼きも我慢できないだろう。『麻子さん。連絡ずっと待ってます。俺と一緒に子育てしましょう』LINEの文章を作った。あとは送るだけだが、少々重たいか?『麻子さん。俺はいつでも会えます。今の俺なら、麻子さんを守れます』おっ。守るっていいじゃないか。このセンで行くか。『麻子さんを全力で守ります。精神的にも経済的にも、俺に頼ってください』精神的にも経済的にもって、何か失礼?『麻子さんと子どもを、俺に守らせてください』ほぼプロポーズ
「──は?」「だから、例の人妻。俺の子、産んでた」中学からの悪ガキ仲間で今は商社勤務の蓮。その蓮が、バーボン片手に固まった。「岳の、子?人妻?人妻が産んだ?えっ?えっと?」俺たちのブレーン、学力オバケの蓮ですら、俺の今置かれた状況を理解するのに苦しんでいる。そうか。やはり理解し難い状況か。「大学生のときの、不倫か」「不倫って言うなよ」「いや不倫だろ。受け入れろよ」わかっている。俺たちの恋には、いや愛には、被害者がいる。麻子さんの旦那だ。麻子さんの旦那よりも早く麻子さんに出会えなかったのが、俺たちの罪だ。もっと早く出会っていれば、その旦那を傷つけることも無かっただろう。「元不倫相手が、岳の子を産んでた。そうだな」「そう」さすが蓮。理解が早い。「どうやってわかった?連絡取ってなかっただろう?」「ショッピングモールでベビーカー押してる彼女が俺見て固まってた」「まじか。んであれか。あなたの子よ、とか言われたってか」「言われてない。でも彼女の娘は……俺の妹にそっくりだった」蓮が本日2度目の石化だ。よく固まるな。「妹、そっくり?岳の、妹……海《うみ》ちゃんに?」「そう。時空がそこだけおかしいのかと思ったよ」蓮が黙り込んだ。何か、考えてるのだろう。それとも、思考停止してるだろうか。「……で、お前、どうすんの」「取り返す」「取り返す?」怪訝そうな顔をしているが、俺は何か変な事を言ったのだろうか。「取り返すのは、奪われた側、だよな?」「ああ」「お前さ」わかっている。奪われた側は、麻子さんの旦那だ。「俺が言いたいこと、わかる?」「わかるよ。でも、麻子さんの子が俺の子なら、麻子さんは俺とともに、その子を育てるべきだ」「べきって。それって本当に正
──連絡なんて、出来るわけない。名刺だけ渡して、岳は去っていった。そのまま呆然と立ち尽くしていた私を、瑠岳が急かした。その後は瑠岳の服を見ても、私の服を見ても。化粧品を見ても私はうわの空だった。プレイマットで遊ぶ瑠岳をぼんやりと見ながら、岳の言葉が頭の中でずっとぐるぐる回っていた。瑠岳が、岳の妹さんの幼少期にそっくりだという事実。そして、嵐には全く似ておらず、私にも似ていない。それは岳が瑠岳の父親であることを意味していた。話し合いを……求めるよね。私達、別れたくて別れたんじゃない。強引に、一方的に、私から岳に対して冷たくして終わらせた。瑠岳の父親が岳であったとしても、岳には伝えずに、ひっそりと生きていくつもりだった。瑠岳から父親を奪うことにはなるけど、嵐は本当に瑠岳を可愛がっているから、問題無いと思っていた。ああ、つくづく私って身勝手だ。でも身勝手にならないと瑠岳を育てていくことが私には出来なかった。嵐にとって、私は最早妻ではなく、ただの害悪なんだろうな。でも言えない。瑠岳が、嵐の娘じゃなくて、違う男の娘だっただなんて。そんな台詞、死んでも言えない。私が天国に行けないことは確定したな。──side.岳麻子さんが、俺の子を産んでいた。あの子は、俺の娘なんだ。家電量販店での用事を終えて駐車場へと急いでいた。ふと視線を右に向けた。向けたというより、吸い込まれたという方が相応しい。ベビーカーを押したまま、俺を見て立ち尽くす彼女がそこに立っていた。ずっと、会いたかった。会いたくて会いたくて。でも会えなくて。他の女がどうしても視界に入らなかった。仕方なくそのもやもやを司法試験の勉強に向けたら、まさかの一発合格。俺の麻子さんへの執念は、司法試験一発合格レベルだったらしい。今なら──。俺を選んでくれないだろうか。あの小さな子は、どう見ても俺の娘だ。妹の幼少期にそっくりなのが、その証拠だ。そこだけ時空がおかしくなったのかと思ったぐらいだ。







