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第1246話 最高のハッカー

Author: 花崎紬
晋太郎は驚きのあまり、ただ俊介を見つめた。

なぜ彼は母さんのことを白芷と呼ぶのだろう?

なぜ母さんがあの和菓子を好んでいたことを知っている?

息子である自分さえ知らなかったことを、俊介はどこで……

その口ぶりから察するに、二人は旧知の仲だったに違いない。

ただ、どの程度の関係だったのかはわからない。

俊介は続けて墓石に語りかけた。

「白芷、俺も歳を取った。これまで築き上げた事業や勢力を今までと変わらず管理することはもうできない。君の息子にすべて託そうと思うが……いいだろう?君の息子は優秀だ。能力も胆力もあり、決断力も抜群だ。時には俺を越えてくることもある。ずっと見てきたが、彼は貞則とはまるで違う。性格も考え方も、君そっくりだ。だからこそ、彼になら任せられる。俺は、すべての手続きを終えたらこの近くに家を買うつもりだ。暇な時にはよく君に会いに来るからな。君は花が大好きだっただろう?墓の周りに美しい花を植えてあげよう」

そう言った後、俊介の声が少し震えた。

「白芷……会いたかった……どうして一度も現れてくれないんだ?」

彼の目は赤く潤んでいた。

「死に顔を見せたくなかったのか?それとも……貞則から救えなかったことを責めているのか?白芷……あの時は悪かった。許してくれないか?夢でもいいから、一度会いにきてくれないか?」

俊介が母に宛てた言葉の一つ一つから、晋太郎は彼の正体を悟った。

しかし、彼は途中で遮ることはせず、最後まで聞き終えた後、車に戻ってから静かに口を開いた。

「お前と俺の母親……昔、何か関係があったのか?」

俊介は無言でうなずいた。

「ああ……お前の父に引き裂かれなければ、別れることはなかった」

「あの日、一体何が起こったんだ?」

晋太郎は眉をひそめて尋ねた。

「お前はどうしてこんな風になったんだ?」

「昔な、お前の母さんと俺は大学で出会い、恋に落ちた。四年間、一度も喧嘩などしなかったよ。卒業後、彼女は家が貧しかったから、高給のグラビアモデルの仕事をすぐに引き受けた。美しかったから、数回撮影しただけで人気が爆発した。だが、それが裏目に出たんだ。彼女が身体を売って金持ちに取り入った──そんな噂が流れ始めたんだ」

「そしてあるパーティーで……お前の父は彼女に酒を飲ませ、酔わせた。そして、そのまま無理やり……」

「その夜のせ
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