Home / 恋愛 / 会社を辞めてから始まる社長との恋 / 第37話 あんたたちは付き合ってるの?

Share

第37話 あんたたちは付き合ってるの?

Author: 花崎紬
 三日連続して、森川晋太郎が仕事から帰ると、松沢初江から入江紀美子が絶食している話を聞いた。

前の数日ならまだ我慢できたが、既に三日が経っていた!

彼女はそこまで他の男の為に自分の健康を犠牲にしてまで自由を手に入れたいのか?!

晋太郎は曇った顔で階段を登り、ボディーガードたちを追い払ってから紀美子の部屋のドアを開けた。

うす暗い寝室の中に、パソコンのモニターだけが光っており、ベッドで体を丸めて寝ている女の姿を照らしていた。

晋太郎は紀美子に近づき、ふと横目でパソコンの前に置いている2本の薬のビンに気づいた。

その薬の瓶を手に取り、ラベルを読んで、晋太郎は眉をきつく寄せた。

胃薬を服用していた彼はよく知っている、その2種類の薬は急性の鎮痛剤だった!

ビンの蓋を開けてみると、残りは数錠しかなく、彼の顔色は益々厳しくなった。

薬を置いて、晋太郎はベッドの近くまで近づき、手で昏睡中の紀美子をすくいあげた。「起きろ!」

飢餓で眩暈がしている紀美子は辛うじて目を覚まし、晋太郎のその俊美な顔を見て、てっきり自分が幻覚をみていると思った。

彼女は腕を振り払い、「夢の中でも彼が出てきてるんだ」と呟いて再び目を閉じた。

その寝言はしっかりと晋太郎の耳に入った。

彼は一瞬動きを止め、まだ思考がついて来ていないようだった。

紀美子が言っている「彼」は、自分のことなのか?

それを思うと、晋太郎の顔色は若干和らげられた。

彼はベッドの縁に座り、低い声で「お前はここを出て母親に会いに行きたいか?」と聞いた。

1度だけ男の声を聞けば、幻覚だと思うかもしれない。

しかし2度も聞いたため、紀美子はそれが幻覚ではないと気づいた。

彼女は急に目が覚め、隣に座っている晋太郎を眺めた。

紀美子は無意識に体を起こそうとするが、如何せん三日も食事をとっていないので、力が入らなかった。

紀美子は唾を飲んで、隣の男を見て驚いた。「いつからいたの?」

晋太郎は冷たい目線で、「あと何日かしたら元旦だ、家に死人が出たら困る」と無理やり言い訳を作った。

「死んだら適当に埋めればいい。どうせ自由がないなら死んだ方がずっとましだわ」紀美子は訴えた。

早く死んだ方が楽だ。

残りの半分の言葉は言い出さなかったが、言わないでおく方がいい言葉もある。

脳裏に彼女が言っていることを思い浮
Continue to read this book for free
Scan code to download App
Locked Chapter

Related chapters

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第38話 勝手な真似はよして

     狛村静恵は真顔になり、慌てて体を起こして「分かったわ!」と返事した。八瀬大樹は帰った。静恵はシャワーを浴び終え、バスローブを着てから一通の電話をかけた。相手が電話を出てから、静恵は「電話をその2人に渡して」と指示した。電話からドアが開く音がして、すぐに養父の罵声が聞こえてきた。「死ね!私は電話など出るもんか!」「狛村さん、話してください」監視役の人が口を開いた。「お父さんお母さん、暫く電話をしていない間に随分と怒りっぽくなったんだね」「黙れ!こうなると分かっていたら、あの時あなたを連れ戻さなきゃよかった!」養母が静恵に怒鳴った。静恵「そう怒らないでよ、あんたたちが考えた答えが聞きたいの」養父「私は人生の半分以上を誠実に過ごしてきた!こんな明らかな嘘をつくことはできん!答えは変わらん!私たち二人が死ぬまで監禁するがいい!お前の為になんか嘘をつくものか!」静恵はワインを一口舐め、「じゃあ、お母さんは?やっぱり同じことを思ってるの?」「あなたの質問に吐き気がするわ!」静恵は淡々「あらら、もう随分長い間祖父母に会いに戻っていないけど、お二人元気にしてるかなまだ健在してるか、それとも……」「あんた、何をする気?!」養母の声が震えていた。「何もしないわよ。ただ、あんたたちの意見が聞きたくて。そのご老人の二人に元気に残りの人生を過ごしてもらうか、それとも苦痛を与えられながら死んでもらう?」「勝手な真似はよして!!」静恵「いいわよ、お二人に最後に1日考える時間を与える。でも時間が過ぎても返事がないなら、責任をお二人でとってね」言い終えると静恵は電話を切った。静恵は残りのワインを飲み干し、晋太郎が自分にキスするシーンを思い出して、体が熱くなってきた。……翌日。入江紀美子は会社に出勤した。数日来ていない間に、秘書室に沢山の仕事が溜まっていた。紀美子は午前中ずっと仕事を片付けていて、昼ご飯まで忘れていた。森川晋太郎はほかの秘書に指示し二人分の昼ご飯を買ってきてもらった。それを紀美子に渡したときでも、彼女はパソコンのモニターを見つめながらキーボードを叩いていた。晋太郎はいつも彼女の仕事に対する態度を称賛していているので、彼女の仕事の邪魔はしなかった。しかし、この前見たあの2

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第39話 貴様に条件を付ける資格はない

     「さっきは何を考えていた?!」入江紀美子はまだ先ほどの襲撃を考えていたが、男の怒鳴りが聞こえてきた。彼女は顔を上げ、唇を動かした。「ごめん、反応が遅れて」紀美子が自責している姿を見て、森川晋太郎は怒気を胸に無理やり押し込んだ。「もういい、車に乗れ」紀美子は無言で頷き、遠くから入院病棟を眺め、晋太郎の車に乗った。車は起動され、紀美子は「ありがとう」と呟いた。晋太郎は汚れた上着を脱ぎ、紀美子の言葉を無視した。俊美な眉間に一抹のイラつきが浮かんだ。彼はさきほどどうしたのだろう。紀美子が危なかったから本能的に飛び出して彼女を救った。彼の命の方がずっと高価なのに!「お前は最近誰かの恨みでも買ったのか?」晋太郎は冷たい口調で聞いた。紀美子は首を振り、「分からないわ、森川佑太以外、誰にも恨まれていないはず」「彼は今でもベッドで寝たきりだぞ!」晋太郎の話は彼女の推測をもみ消した。紀美子はどうしようもなく、「思いつかないわ」と答えた。……二人はそれぞれの考え事をしながらジャルダン・デ・ヴァグに着いた。杉本肇も情報が入っており、「晋様、情報が入りました。あの車の持ち主は柊守という男です」晋太郎はネクタイを引っ張り外し指示した。「そいつを連れてこい!」「はい!」肇は応答して別荘を離れた。30分後、紀美子はまだ松沢初江が作ってくれた栄養スープを飲んでいたが、一人の埃まみれの男が二人のボディーガードに押さえられて入ってきた。男は50代ほどで、晋太郎を見てすぐに怯えながら言い訳し始めた。「私は何も知らなかった!本当に知らなかった!社長さん、私は今日まだ車に触ってもいない!」晋太郎の目つきはハヤブサの如く鋭く、「誰かに車を貸したか?」中年男性は思い切り首を振り、「いや、誰にも貸していない!女房が証明できる!」晋太郎は手で合図したら、隣のボディーガードは中年男性の腹を力強く蹴った。中年男性は悲鳴を上げながら床に倒れ、紀美子はその惨状をみて五臓六腑が震えた。でも彼女は同情してない、なにせ彼女と晋太郎は殺されかけた。「言え、言わないと腕一本を切ってやる!」晋太郎は冷たい声で拷問した。中年男性は冷や汗をかき、「本当に知らないんだよ、社長さん!本当なんだ!」「ふん」晋太郎はあざ笑い、「知ら

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第40話 そのつもりはないわ

     その後の二日間は、入江紀美子はたとえ病院に行くときでも、後ろにボディーガードを二人付けられた。でも彼女にとって迷惑ではない。なにせまだ犯人が誰なのか分からないのだ。唯一困るのは、彼女は産婦人科に妊娠検査に行けないことだった。色々悩んで、杉浦佳世子にメッセージを送ることにした。「杉浦さん、ちょっとお願いがあるんだけど、いい?」佳代子はすぐに返信してきた。「いいよ、何?」紀美子は事情の経緯と自分がこれからしたいことを簡単に説明した。佳代子「今から行く?」紀美子「うん、大丈夫?」「もちろん、大丈夫だよ。じゃ、10時に病院の入り口で会おうね」時間は既に9時過ぎになっていたので、紀美子は着替えてから出かけた。病院の入り口に着くと、佳代子は紀美子の後ろについている筋肉ムキムキのボディーガードを見て、「社長って目が高いわねぇ、これじゃあ誰も近づいてこれないわよ……」紀美子はため息をついて、「入ろう」佳代子の健康診断の付き合いという理由で、紀美子は無事に産婦人科医に会い、エコー検査を受けることができた。昼頃、二人は洋食レストランで食事することにした。ボディーガードたちを入り口に待機させ、二人は会話のチャンスを作った。佳代子は紀美子の腹を見て、「紀美ちゃん、医者さんも言ってたけど、三か月後にお腹が膨らんでくるから、そろそろ社長にうち開けたらどう?」「そのつもりはないわ」紀美子は水を一口飲んだ。佳世子「もしかしたら、社長はこの子に免じて、あんたを選ぶかもしれないよ?あんたが入社してもう何年も経ってるけど、まさか社長のことを全く好きになっていないなんて、言わないよね?」そう言われた紀美子は黙り込んだ。好きになったからって、何の意味があるのだろう。彼女は森川晋太郎が自分を身辺に残すなど望んでおらず、狛村静恵と争うなんてもっと望んでいなかった。それに、彼女は子供を堕ろされる危険を冒してまでこの件を打ち明けることは絶対にできない。「紀美ちゃん!言っておくけど、シングルマザーの子は小さい頃から周りに変な噂を流されるから。子供が大きくなって、他の子の父親からの愛を羨ましくなって、自分のパパはどこって聞かれた時、どう答えるつもりなの?」紀美子「それは…考えたことないわ…」佳世子はため息をつき、「

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第41話 頑張って、取り戻して!

     電話を切った静恵は消防通路から出た。 その時ちょうど資料を抱えてエレベーターに向かっている紀美子と出くわした。 静恵は笑顔で紀美子に近づき、言った。「偶然ね、入江秘書」 紀美子は静恵の挨拶を無視した。 静恵も気にせず、腕を組んで傲慢な態度を取った。「最近体調が悪いって聞いたわ。明日、代わりに晋太郎の酒を飲んであげようか?」 紀美子は依然として無視した。 紀美子が何度も無視するので、静恵は面子が立たなくなった。 彼女は手を下ろし、声を低くして言った。「紀美子、何を偉そうにしてるの?」 紀美子は冷笑して彼女を一瞥し、「これも我慢できないの?」 静恵は歯を食いしばって言った。「あなたは長くは喜べないって言ったでしょ。明日の夜は、私が晋太郎のそばにいる!」 紀美子は不思議の表情で彼女を見た。「自分をそんなに安っぽいキャバ嬢に見せたいの?」 それに、晋太郎は年会でいつもお酒を飲まない。 たとえ飲んでも、静恵が付き添うかどうかは関係ない。 静恵は怒りで顔を真っ赤にして言った。「紀美子、その態度に気を付けなさい。さもないと、後悔することになるわよ!」 その言葉が終わると、目の前のエレベーターが開いた。 紀美子は無表情でエレベーターに乗り込み、階を押した。 エレベーターの扉が閉まる瞬間、静恵の目には陰険な光がますます増した。 彼女はこの女がどれだけ偉そうにできるのかを見てみたいと思った! …… 金曜日の午後5時。 紀美子は暖かいが見栄えの良い服を着て年会に出かけた。 下に降りると、晋太郎はすでにソファに座って待っていた。 彼はいつも通り黒いコートを着ており、その威厳と冷ややかな雰囲気が漂っていた。 紀美子は彼を一瞥し、「準備できた」と言った。 晋太郎は彼女の服装を見て、露出がないことを確認すると、満足して立ち上がった。 紀美子は晋太郎に続いて外に出て、車に乗り込み、スウィルホテルへ向かった。 20分後、車はホテルの前で止まった。 車から降りると、晴と隆一の二人の顔が見えた。 晋太郎は眉をひそめ、紀美子を連れて二人の前に歩み寄った。「何しに来たんだ?」 隆一は笑って言った。「晋様から年会のやり方を学ぼうと思って」 「酒を飲みに来たって言った方が入りやすいぞ」と晴は

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第42話 手間を取らせないほうがいいと思います。

     紀美子は茫然としたまま晋太郎のそばに引き寄せられ、晴が静恵に話しかけるのを聞いた。 「狛村さん、このような心身を使う仕事は入江秘書に任せたほうがいいです」 「?」 なぜ彼女がこんなに苦労して評価されない仕事をしなければならないのか? 紀美子は目を上げて、半時間で酔ってしまった晋太郎を見て、心の中で少し驚いた。 彼らは彼にどれだけの酒を飲ませたのだろうか? 静恵は一瞬驚いたが、田中晴が紀美子を呼び寄せるとは思ってもいなかった。 彼女は心の不快感を抑え、微笑みを引き出した。「田中さん、晋太郎は私にお任せください。入江さんは最近体調が良くないので、彼女にお手間を取らせないほうがいいと思います」 「狛村さん、晋太郎が酒を飲んだ後、気を付けなければならないことがたくさんあります。あなたがその仕事に対応できると確信していますか?」と晴が言った。 「もちろんです」と静恵は答えた 「……」紀美子は無言のままだった。 彼女はなぜ晴が自身にこのようなことをさせたがるのか理解できなかった。 晋太郎と静恵はいずれ結ばれるだろう。自分はただの部外者だ。 晴が再び話す前に、紀美子は口を挟んで、「田中さん!狛村副部長に任せてください。私は先に行きます!」 晴は眉をひそめ、去っていく紀美子を見て、しばらく考えた後に彼女を追った。 「入江さん、晋太郎はガチョウ肉にアレルギーがあることを知ってる?さっき狛村さんが彼に詰め物を食べさせてた! 秘書として、あなたがアレルギー薬を持っていないとは信じられない。医者が来るまでに一錠彼に与えてくれ」 「……」 沈黙の中、晴は続けた。「あなたがしたくないなら、晋太郎の命を気にしない秘書を選んだことを責めるしかないね!」 言い終わると、晴は去って自分の席に戻った。 紀美子はそこに立ち尽くしていた。 彼女は行くべきか? 行かなければ、確かに晋太郎は苦しむだろう。彼がアレルギー反応を起こした時の様子を見たことがあった。あれは本当に苦しかった。しかし、行けば、彼と静恵の付き合いを邪魔するかもしれない。考えた末、紀美子は心配して気になり、なんとか薬を静恵に渡してすぐに去ることにした。急いで去る紀美子を見て、晴は微笑みを浮かべた。酔っ払った隆一は彼の肩にぶら下がって、「なぜ入

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第43話 親不孝娘。

     静恵はハイヒールを履いて、部屋に入った。 ベッドで熟睡している男を見て、彼女は服を脱ぎ、床に投げ捨て、慎重にベッドに上がった。 目を閉じたあと、もう朝の七時だった。胃からの不快感で晋太郎は目を覚ました。自分がホテルにいるのを見て、彼は急に眉をひそめた。「う……晋太郎、目が覚めたの?」 晋太郎は声の方に急いで振り返ったが、静恵が寝ぼけた顔で恥ずかしそうに彼を見ていた。 瞬く間に、昨夜の映像が脳裏に蘇った。 彼が酔って人事不省のとき、誰かがドアベルを押した。 ドアを開けたとき、聞き覚えのある声がして、彼はその人を引っ張り込んだ。 紀美子だと思ったが、実際は静恵だったのだ! 晋太郎はイライラしながら急いで布団をはがしてベッドから降りた。 静恵はすばやく起き上がり、失望した声で言った。「晋太郎!あなたは私を嫌っていて、それで私と寝るのが嫌なの?」 晋太郎は顔を硬く引き締め、冷たい声で言った。「俺をここに連れてきたのは君か?」 静恵は頷いた。「私もお酒を飲んだので、あなたを家に送れなかった。だからここに連れてきたの。 途中であなたの酔いをさますために蜂蜜水を探しに行こうと思ったけど、キッチンはもう閉まってた。 戻ってきたら、あなたが私を引っ張り込んであんなことをしてしまった……。 晋太郎、あなたが私を嫌うなら、私はこのことを忘れてもいいわ」 静恵は監視カメラの映像を思い出しながら、悔しくて嘘をついていた。 晋太郎は拳を握りしめ、「静恵、君にちゃんと説明するが、今じゃない」 その言葉を聞いて、静恵はほっとした。 晋太郎が紀美子の来たことを覚えていないなら、それでいい。 あとは、彼女の要求を聞き入れてくれた養父母が帰国すれば、あるべきものは全部手に入れるだろう!! …… 晋太郎が家に帰ると、紀美子はシャワーを浴びて出てきたばかりだった。 彼に出くわすと、紀美子は彼の頭がまだ痛むかどうかを尋ねたかったが、 言葉を口にする前に、晋太郎は冷たい声で言った。「昨夜、静恵が私を連れて行ったことを知ってるのか?」 紀美子は頷いた。「知ってる」 晋太郎は唇を引き締め、目には失望が浮かんだ。「紀美子、お前は本当にいい仕事をしたんだな!」 そう言って、大股で部屋に入り、ドアを「バン

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第44話 なぜ嘘をつくのか。

     養父はぎこちなく笑いながら、「静恵が来たな、さあ、座ってくれ」と言った。 養母は晋太郎に視線を投げかけ、わざと「静恵、この人は誰かしら?」と尋ねた。 静恵は少し恥ずかしそうに微笑んで、「お母さん、彼は私がよく話している晋太郎よ」と言った。 養母は驚いて連続で頷き、「ああ、森川さんですね、どうぞお座りください」と言った。 晋太郎は空いている席に座り、黒い瞳で前にいる二人の夫婦を淡々と見つめた。 夫婦は彼に水を注ぎ、親切に話しかけた。 そして、ウェイターに料理を運ばせてから席に着いた。 養父は「静恵、森川さんはとても信頼できる人に見えるね。君が森川さんと一緒にいることがわかって安心したよ」と言った。 「本当によかった!」と養母も同意し、晋太郎を見て、「森川さん、静恵といつ関係を確かめるつもりですか?」と尋ねた。 晋太郎はゆっくりとナプキンで手を拭きながら、冷淡に「どのような関係を確かめるのですか?」と答えた。 養母は「もちろん婚約のことです」と答えた。 「まだその段階には達していません。まだ解決しなければならない問題があります」と晋太郎は冷静に答えた。 静恵は気配りをしながら、「そうよ、焦らないでね。晋太郎はとても忙しいし、私たちはまだ付き合い始めたばかりだし」と言った。 静恵のこの言葉を聞いて、晋太郎は急に、紀美子の「第三者にはならない」という言葉を思い出した。 心の中に一瞬の苛立ちを感じ、晋太郎はナプキンを置いて立ち上がり、「用事があるので、先に失礼します」と言った。 それを見て、静恵は慌てて彼を追いかけて、「晋太郎!怒っているの?」と尋ねた。 晋太郎は立ち止まり、冷たく振り返って彼女を見て、「静恵、君にひどいことを言いたくない」と言った。 静恵は目に涙を浮かべ、「私たちはもうあんなことをしてしまったのに、まだ付き合っているとは言えないの?」と聞いた。 「俺の決断を誰にも代わってもらうことはできない」と言って、晋太郎は背を向けて立ち去った。 車に戻ると、晋太郎は運転席にいる杉本に「静恵の養父母のことを調べろ」と指示した。 杉本は疑問を抱き、「狛村さんの幼少期のことですか?」と尋ねた。 晋太郎はネクタイを緩めながら、低い声で「ああ」と答えた。 …… 夜。 紀美子は別荘に戻

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第45話 これから誰にも必要とされない。

     幸子の顔は固くなり、怒って胸が激しく上下した。「ありえない!これは誹謗中傷よ!訴えるわよ!」 静恵は怒ったふりをして立ち上がり、「おばさん、信じないなら紀美子に電話してみてください!ここまで言ったからには、紀美子に自分で考えさせてください」と言って、高いヒールを鳴らして病室を出て行った。恐縮と不安に包まれた幸子の耳には、静恵の言葉が響き続けていた。考えれば考えるほど、彼女の心の中の疑惑と怒りが抑えきれなくなり、ついに携帯を取り出して紀美子に電話をかけた。その頃、別荘の部屋では情熱的な時間が流れていた。携帯の振動が紀美子の目を引き、彼女は無意識にベッドサイドテーブルを見上げた。「電話が……」と晋太郎の胸を叩いた。話はまだ終わっていなかったが、晋太郎は紀美子の魅惑的な唇に身を乗り出してキスをした。仕方なく、紀美子は携帯をしばらく無視した。終わった後、紀美子は急いでベッドを降り、携帯を手に取り浴室に向かった。母親からの複数の不在着信を見て、紀美子は不吉な予感がした。電話をかけ直すと、すぐに繋がった。「紀美子、どうして電話に出なかったの?」幸子の声は厳しかった。紀美子はほっとしたが、まだ体に残る余韻があり、息を切らしながら「お母さん、お風呂に入っていて聞こえなかったの」と答えた。幸子は気配を察し、さらに厳しい声で「今どこにいるの?」と尋ねた。紀美子が答えようとしたその瞬間、浴室のドアが開いた。晋太郎が眉をひそめて入ってきて、「誰からの電話?」と尋ねた。その声が聞こえた瞬間、紀美子は驚いて電話を切った。「母親からの電話だった。次から入ってくる前に一言言ってくれない?」と紀美子は眉をひそめて説明した。晋太郎は彼女を一瞥し、「何を緊張しているんだ?」と尋ねた。紀美子は携帯を握りしめ、晋太郎の質問には答えず、その目には不安が広がっていた。母親が晋太郎の声を聞いたかどうかは分からなかった。「母親に俺と一緒にいるのがばれるのが怖いのか?」と晋太郎は紀美子の心配を見透かしたように尋ねた。「違う」と紀美子は苛立ち気味に答えた。「ただ、男の人がいることがばれるのが嫌なだけ」晋太郎は洗面台に手をつき、紀美子の耳元に顔を近づけて、「それが塚原先生なら、君の母親はあまり気にしないんじゃないか?」と

Latest chapter

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1301話 どうしてここに

    紀美子は箸を握る手の力を徐々に強めながら、優しく言った。「念江、大丈夫よ。本当にママに会いたくなったら、会いに来ればいい」念江はぽかんとした。「でもあそこは……」紀美子は首を振って遮った。「確かにルールはあるけど、抜け道だってあるはずでしょう?」念江はしばらく考え込んでから頷いた。「うん。僕たちが認められれば、きっとすぐにママに会える」紀美子は安堵の表情でうなずいた。子供たちと食事を終えると、彼女は階上へ上がり、荷造りを手伝った。今回は晋太郎の部下に任せず、自ら佑樹と念江の衣類や日用品をスーツケースに詰めていった。一つ一つスーツケースに収める度に、紀美子の胸の痛みと寂しさは募っていった。ついに、彼女は手を止め俯いて声もなく涙をこぼし始めた。部屋の外。晋太郎が階下へ降りようとした時、子供たちの部屋の少し開いた扉から、一人背を向けて座っている紀美子の姿が目に入ってきた。彼女の細い肩が微かに震えているのを見て、晋太郎の表情は暗くなった。しばらく立ち止まった後、彼はドアを押して紀美子の傍へ歩み寄った。足音を聞いて、紀美子は子供たちが来たのかと慌てて涙を拭った。顔を上げ晋太郎を見ると、そっと視線を逸らした。「どうしてここに……」「俺が来なかったら、いつまで泣いてるつもりだったんだ?」晋太郎はしゃがみ込み、子どもたちの荷物をスーツケースに詰めるのを手伝い始めた。「手伝わなくていいわ、私がやるから」「11時のフライトだ。いつまでやてる気だ?」晋太郎は時計を見て言った。「もう8時半だぞ」紀美子は黙ったまま、子供たちの服を畳み続けた。最後になってやっと気付いたが、晋太郎は服のたたみ方すら知らないようだった。ただぐしゃぐしゃに丸めて、スーツケースの隙間に押し込んでいるだけだった。紀美子は思わず笑みを浮かべて彼を見上げた。「あなた、本当に基本的なことさえできないのね」晋太郎の手は止まり、一瞬表情がこわばった。彼は不機嫌そうに顔を上げ、紀美子を見つめて言った。「何か文句でもあるのか?」紀美子は晋太郎が詰めた服を再び取り出しながら言った。「文句を言ったところで直らないだろうから、邪魔しないでくれる?」「この2日間で、弁護士に書類を準備させた。明日届く

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1300話 もう知ってる

    「それは――龍介さんが自分で瑠美とちゃんと話すしかないんじゃない?」紀美子は微笑みながら言った。「紀美子、今夜は瑠美を呼んでくれてありがとう」龍介はグラスを持ち上げた。紀美子もグラスを上げて応じた。「龍介さんにはお世話になりっぱなしなんだから、こんな簡単なことでお礼言われると困るわ」夜、紀美子と晋太郎は子供たちを連れて家に戻った。紀美子が入浴を終えたちょうどその時、ゆみから電話がかかってきた。通話を繋ぐと、ゆみはふさぎ込んだ声で聞いてきた。「ママ、明日お兄ちゃんたち行っちゃうんでしょ?」紀美子はぎょっとした。「ゆみ、それは兄ちゃんたちから聞いたの?」「うん」ゆみが答えた。「ママ、お兄ちゃんたち何時に行くの?」浴室から聞こえる水音に耳を傾けながら、紀美子は言った。「ママも正確な時間わからないの。パパがお風呂から出たら聞いてみるから、ちょっと待っていてくれる?」「わかった」ゆみは言った。「ママ、それまで他の話しよっか」紀美子はゆみと雑談をしながら、十分ほど時間を過ごした。すると、晋太郎がバスローブ姿で現れた。ゆみの元気な声が携帯から聞こえてきたため、晋太郎は髪を拭きながらベッドの側に座った。「もう11時なのに、まだ起きてるのか?」紀美子が体を起こした。「佑樹たち明日何時に出発するのか知ってる?」晋太郎は紀美子の携帯を見て尋ねた。「ゆみはもう知ってるのか?」「知ってるよ!」ゆみは即答した。「パパ、私お兄ちゃんたちを見送りに行きたい」「泣くだろう」晋太郎は困ったように言った。「だから来ない方がいい」「嫌だ!絶対に行くの。だって次に会えるのいつかわからないんだもん」ゆみは強く主張した。その声は次第に震え始め、今にも泣き出しそうな顔になった。晋太郎は胸が締め付けられる思いがした。「分かったよ……専用機を手配して迎えに行かせる」そう言うと彼はベッドサイドの携帯を取り上げ、美月に直ちにヘリコプターを手配するよう指示した。翌日。紀美子は早起きして、子どもたちのために豪華な朝食を用意した。子供たちは、階下に降りてきてテーブルいっぱいに並んだ見慣れた料理を目にすると、驚いたように紀美子を見つめた。「これ全部、ママが一人

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1299話 受け入れてくれるか

    龍介は瑠美に笑いかけて言った。「瑠美、この前は助けてくれてありがとう」彼がアシスタントに目配せすると、用意してあった贈り物が瑠美の前に差し出された。「ささやかものだけど、受け取ってほしい」瑠美は遠慮なく受け取り、龍介に聞いた。「開けていい?」「どうぞ」瑠美は上にかけられていたリボンを解き、丁寧に箱のふたを開けた。中身を目にした瞬間、彼女は驚いて目を見開いた。「えっ!?これどうやって手に入れたの?!瑠璃仙人の作品でしょ!?」「前に君が玉のペンダントしてたから、好きなんだろうと思って」「めっちゃ好き!!」瑠美は興奮して紀美子に言った。「姉さん!これ梵語大師の作品よ!前に兄さんに探させたけど全然ダメだったのに!」紀美子は玉のことには詳しくないため、梵語大師が誰なのかもわからなかった。彼女はただ穏やかに微笑んで言った。「気に入ってくれて良かったわ」一方、晋太郎の視線は龍介に留まった。龍介の目には、かすかな熱意のようなものがある。紀美子を見る時には決して見せたことのない眼差しだ。もしかして、龍介は瑠美に気があるのか?晋太郎は探るように口を開いた。「吉田社長の狙いがこんなに早く変わるとはな」龍介は瑠美の笑顔から視線を外し、晋太郎の目を見つめて言った。「森川社長、それはどういう意味だ?」晋太郎は唇を歪めて冷笑した。「吉田社長、新しい対象ができたのに、なぜまだ紀美子に執着してるんだ?」それを聞いて、瑠美は驚いて顔を上げ、龍介と紀美子を交互に見た。紀美子は瑠美の視線を感じ取って、説明した。「私と吉田社長は何もないから、誤解しないで」「誤解なんてしてないよ」瑠美は言った。「でも晋太郎兄さんが言ってた『吉田社長の狙い』って、私のこと?」紀美子も、晋太郎のその言葉の真意はつかめていなかった。龍介のような、感情を表に出さず落ち着いていて慎重なタイプが、活発で明るい瑠美に興味を持つのだろうか。もしかすると、あの時瑠美が龍介を助けたことがきっかけなのか?二人の年齢差は10歳ほどあるはずだ。でも、性格が正反対なほど惹かれ合うって話もある。もし瑠美が龍介と結婚したら、みんな安心できるだろう。「もしよければ、瑠美さん、連絡先を教えてくれないか?」

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1298話 お見合いする

    そう言うと、晋太郎はさりげなく紀美子から車の鍵を受け取った。佑樹が傍らで晋太郎をじっと見て言った。「パパ、違うよ。ママが誰かとお見合いするわけじゃん」晋太郎は生意気な佑樹を見下ろしながら聞き返した。「じゃあ、何だって言うんだ?」佑樹は笑いながら紀美子を見て言った。「ママみたいな美人、お見合いなんて必要ないじゃん。ママに告白したい人を並ばせたら、地球を一周できるよ」念江も付け加えた。「前におばさんから聞いたけど、ママの会社の重役や課長さんたちもママに気があるらしい」晋太郎の端整な顔に薄ら笑いが浮かんだが、その目には陰りがあった。「ろくでもない奴らだ。君たちのママはそんなやつらに興味ない」重役と課長か……晋太郎は鼻で笑った。計画を早める必要がありそうだな。「そろそろ時間よ。遅れちゃうわ。三人とも、もう出発できる?」紀美子は腕時計を見て言った。一時間後。紀美子と晋太郎は二人の子供を連れてレストランに到着した。龍介が予約した個室に入ると、彼はすでに待っていた。紀美子を見て龍介は笑顔で立ち上がった。「紀美子、来たね」紀美子が前に出て謝った。「龍介さん、ごめん。渋滞でちょっと遅れちゃった」「気にしないで」龍介は晋太郎を見上げて言った。「森川社長、久しぶりだな」晋太郎は鼻で嗤い、皮肉をこめて言った。「永遠に会わなくてもいいんじゃないか」龍介はその言葉を無視し、子供たちにも挨拶してから席に着いた。紀美子が子供たちに飲み物を注いだ後、龍介に尋ねた。「今日は何の用?」「じゃあ単刀直入に言うよ」龍介の表情が急に真剣になった。「紀美子、瑠美は君の従妹だよね?一度彼女に会わせてくれないか?」紀美子は驚き、晋太郎と視線を合わせてから龍介を見た。「この前の件で瑠美に会いたいの?」龍介は頷き、率直に答えた。「ああ、命の恩人に対して、裏でこっそり調べたり連絡するのは失礼だと思ってね」「紹介はできるけど、彼女が会ってくれるかどうかはわからないよ」「頼むよ。あれからずっと、ちゃんとお礼も言えてなかったから」紀美子は頷き、携帯を取り出して瑠美の番号を探し出した。「今連絡してみる」電話がつながると、瑠美の声が聞こえた。「姉さん?どうした?

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1297話 大事

    どっちみち焦っているのは晋太郎の方で、こっちじゃないんだから。これまで長い年月を待ってきたのだから、もう少し待っても構わない。2階の書斎。晋太郎はむしゃくしゃしながらデスクに座っていた。紀美子が龍介と電話で話していた時の口調を思い出すだけで、イライラが募った。たかが龍介ごときに、あんなに優しく対応するなんて。あの違いはなんだ?ちょうどその時、晴から電話がかかってきた。晋太郎は一瞥してすぐに通話ボタンを押した。「大事じゃないならさっさと切れ!」晋太郎はネクタイを緩めながら言った。電話の向こうで晴は一瞬たじろいだ。「晋太郎、家に着いたか?なぜそんなに機嫌が悪いんだ?」晋太郎の胸中は怒りでいっぱいになっており、必然と声も荒くなっていた。「用があるなら早く言え!」「はいはい」晴は慌てて本題に入った。「さっき隆一から電話があってな。出国前にみんなで集まろうってさ。あいつまた海外に行くらしい」「無理だ!」晋太郎は即答した。「夜は予定があるんだ」「午後、少しカフェで会うだけなのに、それも無理か?」午後なら……夜の紀美子と龍介の待ち合わせに間に合う。ついでに、あの件についても聞けるかもしれない「場所を送れ」30分後。晋太郎は晴と隆一と共にカフェで顔を合わせた。隆一は憂鬱そうにコーヒーを前にため息をついた。「お前らはいいよな……好きな人と結婚できて」晴はからかうように言った。「どうした?また父親に、海外に行って外国人とお見合いしろとでも言われたのか?」「今回は外国人じゃない」隆一は言った。「相手は海外にいる軍司令官の娘で、聞くところによると性格が最悪らしい」晴は笑いをこらえながら言った。「それはいいじゃないか。お前みたいな遊び人にはぴったりだろ?」「は?誰が遊び人だって?」隆一はムッとして睨みつけた。「お前みたいなふしだらな男、他に見たことないぞ!」「俺がふしだらだと?!」晴は激しく反論した。「俺、今はめちゃくちゃ真面目だぞ!」隆一は嘲るように声を上げて笑った。「お前が真面目?笑わせんなよ。佳世子がいなかったら、まだ女の間でフラフラしてたに決まってるだろ!」「お前だってそうだったじゃないか!よく俺のことを言える

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1296話 人じゃなくて

    晋太郎は思わず唾を飲み込んだ。言葉に詰まる彼を見て、紀美子は笑いながら頬の髪を耳にかけた。「晋太郎、隠してもね、ふとした瞬間に本心は漏れるものよ。言いたくないなら無理強いはしない。いつかきちんと考えがまとまったら、また話しましょう」そう言うと、紀美子は先を行く子供たちの手を取って笑いながら歩き出した。紀美子の後姿を見ながら、晋太郎は考え込んだ。……翌日。一行は荷物をまとめ、帝都に戻った。別荘に着くとすぐ、紀美子は龍介から電話を受けた。彼女はスピーカーをオンにし、子供たちのためにフルーツを準備しながら応答した。「龍介さん」そう言うと、電話の向こうから龍介の心配そうな声が聞こえてきた。「紀美子、大丈夫か?」ちょうどキッチンに入ってきた晋太郎は、はっきりとその言葉を聞いた。彼は眉をひそめ、テーブルに置かれた紀美子の携帯を不機嫌そうに睨みつけた。「相変わらず情報通だね。大丈夫だよ、心配しないで」「いや、情報通ってわけじゃない」龍介は言った。「今、トレンド一位が悟の件だ。まさか自殺するとは」紀美子はリンゴの皮をむく手を止めた。「もうその話はいいよ。過去のことだし」「悪い。今晩、空いてる?食事でもどうだ?」「無理だ!」突然、晋太郎の声が紀美子の背後から響いた。びっくりして振り向くと、彼はすでに携帯を奪い取っていた。龍介は笑いながら言った。「森川社長、盗み聞きするなんて、よくないね」「陰で俺の女を誘う方がよほど下品だろ」「森川社長、俺と紀美子はビジネスパートナーだ。食事に誘うのに許可が必要か?」晋太郎は冷笑した。「お前みたいなパートナー、認められない」「森川社長と紀美子はまだ何もないはずだ。『俺の女』って言い方、どうかしてるぞ」「……」紀美子は言葉を失った。この二人のやり取り、いつまで続くんだろう……「龍介さん、何か急ぎの用?」紀美子は携帯を取り返し、呆れた様子で晋太郎を一瞥した。「相談したいことがある。家族連れでも構わない」「わかった。後で場所と時間を教えて」「ああ」電話を切ると、紀美子は晋太郎を無視してリンゴの皮むきを続けた。晋太郎は腕を組んでキッチンカウンターに寄りかかり、不機嫌そうに聞いた。「俺とあいつが同

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1295話 会社の合併

    「お前の両親は納得したのか?」晋太郎がさらに尋ねた。「俺はあいつらと縁を切ったのさ。だから何を言われようと、俺は気にしない」晴は肩をすくめた。「子供たちを海外に送りだしたら、準備する」晋太郎は視線を紀美子と子供たちに向けた。「そう言えば、佑樹たちはいつ出発するんだ?」晴はハッと気づいた。「明日、まず彼らを帝都に連れ帰る。明後日には隆久と一緒に出発する予定だ」晋太郎は日数を計算した。「ゆみには言わないのか?兄たちを見送らせてやらなくていいのか?」晴は軽くため息をついた。「必要ない」晋太郎は即答した。「ゆみを泣かせたくない」「お前のゆみへの態度、日に日に親バカ度が上がってるように感じるよ。昨日佳世子と話してたんだ。『もう一人産んで、その子を譲ってくれ』って」晴は眉を上げた。「寝言は寝てから言え」晋太郎は足を止め、不機嫌そうに彼を見た。「お前と紀美子はまだ産めるだろうが、俺は無理なんだよ!」晴は言った。「今の医療技術なら、子供への感染を防ぐ方法も試せる」晋太郎は彼をじっと見た。「『試せる』って言ったろ」晴は落ち込んだ。「もし運が悪くて子供に感染したらどうする?」「たとえお前が俺の子供を自分の子のように育てられても、お前たちには大きな悔いが残るだろう」晋太郎は言った。「もういい。佳世子に毎日苦しみと自責の念を味わわせたくない。病気だけでも十分辛いんだ」晴はため息をついた。「俺は子供をやるつもりもない」そう言うと、晋太郎は紀美子たちの後を追った。「晋太郎!酷いこと言うなよ!金は弾むよ。少しは人情を持てよ!」晴は目を見開いた。晴の見えないところで、晋太郎の唇がかすかに緩んだ。夕食後。紀美子と晋太郎は、二人の子供を連れて外を散歩した。「会社の合併について考えたことはあるか?」しばらく歩くと、晋太郎は傍らの紀美子に尋ねた。「合併ってどういう意味?」紀美子は彼を見上げた。「文字通りの意味だ」晋太郎は、もし紀美子がまた妊娠したら、彼女に産休を取らせるつもりだった。「あんたの力に頼って会社を発展させる気はないわ。全てが無意味になる」「MKを見くびっているのか?」晋太郎は足を止めて彼女を見た。「MKの実力を馬

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1294話 全部終わった

    遠くのスナイパーも急いでライフルの安全装置を外したが、悟は自分のこめかみに銃を向けた。晋太郎は呆然とした。言葉を発する間もなく、悟は笑みを浮かべながら引き金を引いた…………紀美子が目を覚ました時、自分が元の部屋にいないことに気づいた。佳世子が傍らに座り、二人の子供たちと話していた。彼女がゆっくりと体を起こすと、その音に三人が一斉に振り向いた。「紀美子!」佳世子が駆け寄った。「目が覚めたんだね!」「どうやって戻ってきたの?」紀美子は尋ねた。「晋太郎が連れ帰ってくれたの。もう全部終わったわ」佳世子は明るく笑った。「終わったって……?」紀美子は理解できずに聞いた。「悟は?自首したの?」「彼、自殺したの」佳世子の瞳が少し潤んだ。自殺……紀美子は凍りついた。「晋太郎と二言三言交わした後、自分のこめかみに銃を向けて、みんなの目の前で死んだらしいわ。あの時彼があんたを再び部屋に連れ戻した理由が分かる気がする。自分の死に様を見せたくなかったんでしょうね」佳世子は続けて言った。紀美子は、ホテルのロビーで大河が撃たれた後、悟が彼女の目を覆ったことを思い出した。悟の結末を聞いて、紀美子は複雑な心境になった。悲しい?悟は数々の非道なことをしたのに、なぜ悲しいのか分からなかった。少しも嬉しい気持ちになれない。目が次第に赤くなっていく紀美子を見て、佳世子は心の中でそっとため息をついた。二人は、長年共に過ごした仲間だ。たとえ悟がどれほど冷血なことをしたとしても、紀美子は彼が優しくしてくれた日々を思い出さずにはいられないだろう。だって、あの優しさは本物だったから。「晋太郎は?」紀美子は長い沈黙の後、ようやく息をついて話題を変えた。「隣の部屋で会議中よ。会社の用事で、晴も一緒だわ」佳世子は答えた。紀美子は頷き、視線を子供たちに向けた。「この二日間、怖い思いをさせちゃったね」彼女は両手を広げ、微笑みながら言った。二人の子供は母の懐に飛び込んだ。「お母さん、怪我はない?」念江が心配そうに尋ねた。「うん、とくに何もされなかったわ」紀美子は首を振って答えた。「あの悪魔はもういないし、僕と念江も安心して出発できる」「うん、外でしっか

  • 会社を辞めてから始まる社長との恋   第1293話 質問は終わりか

    悟は紀美子をじっと見つめた。まだ語り尽くせない思いは山ほどあったが、全ては言葉にできなかった。長い沈黙の後、悟は紀美子の手を離し、立ち上がってドアに向かった。ドアノブに手をかけた瞬間、彼は再びベッドに横たわる彼女を振り返った。淡い褐色の瞳には純粋で、ただ未練と後悔だけが満ちていた。ゆっくりと視線を戻すと、悟は決然とドアを開けた。ドアの外で、ボディガードは悟が出てくるのを見て一瞬たじろいだ。「お前は私の部下ではない。何もしなくていい。私が自分で行く」悟は彼を見て言った。「悟が降りてきます!」悟の背中を見送りながら、ボディガードは美月に報告した。報告を受け、美月は晋太郎を見た。悟が紀美子にかけた言葉をはっきりと聞いていた晋太郎は、端正な顔を険しくした。次に……彼は唇を強く結び、ドアを開けて車から出た。美月も続いて降りてきた。晋太郎たちがホテルの入り口で立ち止まると、悟が中から出てきた。「あんたと俺は同じ汚れた血が流れている。たとえあんたが認めたくなくても、これが事実だ」悟は平静な笑みを浮かべた。「上で紀美子に何をした?」晋太郎は怒りを抑え、冷たい声で詰め寄った。「私が彼女に本当に何かしたとして、あんたの出番などないだろう」悟は反問した。「だが心配するな。彼女はただ眠っているだけだ」「お前は自分で自首するか、俺がお前をムショに送るか選べ」「刑務所だと?」悟は嘲笑った。「私があの男と同じ場所に行くと思うか?」「それはお前が決めることじゃない!」「降りてきたのは、ただ一つ聞きたいことがあったからだ」悟は一歩踏み出し、ゆっくりと晋太郎に近づいた。二人の距離が縮まるのを見て、美月は慌てて止めに入ろうとした。「来るな」背後からの気配に、晋太郎は軽く振り返って言った。美月は焦りながらもその場で止まった。社長は目の前の悟がどれほど危険か分かっているのか?本当に傲慢で思い上がりも甚だしい!!「最後のチャンスだ。聞きたいことは一度で済ませろ」晋太郎は視線を戻し、悟の目を見据えた。「貞則があんたの母親にあんなことをしたのを知って、彼を殺そうと思ったことはあるか?」「お前があの老害を始末してくれたおかげで、俺は手を汚さずに済んだ。礼を言

Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status