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第26話

Author: 無敵で一番カッコいい
気持ちを整えて、月島明日香は食卓に戻って席に着いた。

月島康生は滅多に見せない関心を示し、「江口先生によれば、最近成績が良くなったそうだな。前回よりも進歩があったと言っていた。何か欲しいものがあれば言ってみろ」と聞いた。

普段、彼は厳格で、食事中もほとんど話すことがなかった。

しかし、江口真理の存在で彼の機嫌が良いことが見て取れた。

それを見た明日香は、この機会を逃さず、「この次の大学受験が終わったら、友達と一緒に海市へ旅行に行きたいです。お父さん、いいですか?」とお願いした。

「うん、行く時は運転手を連れていけ。一人で出歩くのは危ない」

明日香はその言葉にあまり大げさに喜びは見せず、控えめに口元を上げ、「ありがとう、お父さん」と言った。

すると江口が話しかけてきた。「明日香さん、海市に行くの?景色がきれいだって聞くわ。大学受験が終わったら、リフレッシュするのもいいわね」

明日香は曖昧に答えた。「久しぶりに遊びに行きたいなって思っただけです」

その時、召使いが江口にフルーツジュースを注いだ。江口は続けて、「どこの大学を志望しているの?教育大学なら、今の成績で最後の追い込みをかければ、チャンスはあるわよ」と言った。

帝都教育大学は、中位の大学で、競争もそれほど激しくない。月島明日香は文系科目が得意なので、合格の可能性は十分にある。

だが、佐倉遼一は病院で彼女の答案を見ており、今の彼女の実力なら、

国内最高峰の学府である帝都大学に合格することも難しくないと分かっていた。

月島明日香はご飯を数口食べ、淡々とした表情で言った。「まだ決めていないから、もう少し考えるわ」

「そうね。決まったら、先生が学習計画を手伝ってあげるわ。勉強に遅れないように、しっかり頑張ってね」江口真理は、まるで月島明日香のことを本当に心配しているかのように優しい声をかけた。前世では、彼女のこの優しい言葉に騙されていた明日香だが、今は違う。

明日香はすでに帝都には残らないと決めていた。

留学するか、三流の地方大学に進学するか、いずれにせよ、自分の選択次第だ。

この食事の時間、彼女はどこか上の空だった。

佐倉遼一が話しかけてきても、適当に返事をし、話を流していた。

月島康生は江口真理に夢中で、佐倉遼一の心は白川珠子に向いている......

食事の途中で、明日香はそれ
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