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第8話

Author: 冷たい花火
悠斗が笑顔で部屋に入ってきて、みんなに気さくに挨拶した。ふと視線を移すと、そこに明美がいるのを見て、思わずその場で立ち尽くした。

「明美?どうしてここにいるの?」

その場にいた全員が呆気にとられた不思議な顔になった。

「いるに決まってるじゃん。私たち高校の同級生だよ?しかも同じクラスだったし。

まさか中島さん、そんなことも忘れたの?」

高校の同級生?

しかも同じクラス?

その短い言葉は、まるで晴天の霹靂のように悠斗に衝撃を与えた。

彼は呆然と明美を見つめ、薄く開いた唇がわずかに震えていた。顔には複雑な感情が次々と浮かんでいた。

自分が忘れていたことへの罪悪感なのか、それとも明美がこれまで何も言わなかった理由が理解できないのか、自分でもよく分からなかった。

女子数人が異様な雰囲気を察し、好奇心を抑えきれずに二人を見つめた。

「『明美』って?ずいぶん親しげに呼ぶんだね、中島さん。二人って何?何かあるの?」

明美が「ただの同級生」と言おうと口を開きかけたその瞬間、悠斗が先に口を開いた。

「明美は俺の彼女だ。付き合って、もう6年になるよ」

その言葉を聞いて、会場の雰囲気は一気に盛り上がった。

みんなが興奮しながら二人の恋愛話を掘り起こし始めた。

悠斗は、まさか彼女と自分が高校時代から同じクラスだったとは夢にも思っていなかった。

一方、明美も、彼がこんなにあっさりと二人の関係を公表するとは予想だにしていなかった。

大勢に囲まれ、質問攻めにされる状況に、二人は少しばかり気まずそうだった。

悠斗はひたすら酒を飲んで話題を逸らそうとし、明美は隙を見てトイレへ逃げ込んだ。

酒に弱いクラス委員長は、3杯飲んだだけで酔いが回り、悠斗の手を掴んでしつこく話し続けた。

「二人が一緒になって、本当に嬉しいよ。これで明美もやっと報われたね。

知らなかっただろう?彼女、高校の頃からずっとお前のこと好きだったんだ。

ある日の体育の授業で、お前が教室で寝てた時、私がたまたま物を取りに戻ったら、彼女が日差しを遮ってやってるのを見たんだよ。それで気づいたんだ。

当時、お前を好きな女子なんて数え切れないくらいいたけど、明美が一番印象に残ってる。

お前がバスケで足を捻挫した時の掃除当番、全部彼女が代わりにやってたし、不良に絡まれて路地裏でピンチになった時も、授業抜け出して助けを呼びに行ったのも彼女だった。

学校の外で悪口言われてる時だって、あんな気弱な子が必死に庇って、顔真っ赤にして言い返してたよ。

……

若い頃の恋って、本当に純粋だよな。二人がこうやって結ばれて、俺は心から嬉しいよ。

あんな良い子、絶対に大事にしろよ。じゃないと、絶対後悔するからな」

初めて聞く話に、悠斗の身体が一瞬固まった。

自分たちは大学で偶然知り合っただけの関係だと思っていた。それが実は高校時代からの同級生で、彼女は10年もの間、自分を想い続けていたなんて思いもよらなかった。

ある約束のために軽い気持ちで彼女と付き合い始めて6年、彼女はまだ真実を知らない。

そんなことを考えると、心の奥から酸っぱくて苦い感情が溢れ出し、胸が締め付けられるようだった。

もう彼女と目を合わせる勇気すらなくなり、ただ黙々と酒を煽るしかなかった。

飲み会が終わり、明美は酔い潰れた悠斗を支えて家に帰った。

温かいタオルを持ってきて顔を拭いてやろうとすると、悠斗は彼女の手を掴んだまま離さず、顔には痛ましげな表情が浮かんでいた。

「バカだな……なんで教えてくれない?」

明美には、彼が同窓会で何か聞いたのだろうと察しがついていた。でも、今となってはどうでもいいことだった。

そっと手を引き抜いて、小さく呟いた。

「好きになったのは私の勝手なんだから、あなたには関係ないわ」

まだわずかに意識の残る悠斗は、その言葉に胸の内で言い表せない不安が渦巻いた。

何か伝えたい。けれど、何をどう話せばいいか分からない。

結局、沈黙が二人を包んだ。

部屋に静けさが満ち、眩しい照明を避けようと腕を上げた時、腰の辺りにタトゥーが覗いた。

『YUME』

親密な夜、彼女が腕の中でそのタトゥーを見るたび、いつもその意味を聞いてきた。

悠斗は少し間を置いて、視線を落とし、懐かしさと愛おしさが滲む声で呟いた。

「信仰だよ……俺の命より大切なもの」

当時、明美は『YUME』が木村夢乃の名前を指してるとは知らず、彼の言葉を純粋に信じた。

そして、彼女は彼の夢を自分の夢とし、彼の信仰を自分の信仰として、同じタトゥーを彫ったほどだった。

今となっては、そんな過去の日々を思い返しても、痛みはなく、むしろ滑稽さすら感じるようになった。

若さゆえに、誰もが一度は愛する人と心を通わせ、共に人生を歩む未来を夢見るものだ。

けれど、壁にぶつかり、道を見失い、振り返った時、出会った瞬間から別れが決まっていた縁もあると気づく。

自分と悠斗は、もう別々の道に進む分岐点に来てしまった。

そろそろ、別れを告げる時が来たのだろう。

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