LOGIN「なんだ?なんか不満でもあんのか?
「……わ、私を食べるってことは、つまり……」
そういうこと……だよね?
「なんだよ?」
「つまり、私を……殺すってこと?」
私がそう聞くと、桜木は「はあ?バカ言うな、殺さねぇよ。 殺すわけねぇだろ」と私に言った。
「でも今、私のこと食べるって……」
「あのな、今のはそういう意味じゃねぇよ。 今のは噛み殺すじゃなくて、お前の血を"吸う"って意味だっての」
「……へっ?」
血を吸う……? な、なんだ……。
私殺されないんだ、よかった……。ほんとに殺されるんじゃないかって思ったからビックリした。
「なんだ。殺されるとでも思ったのか?」
「……な、なわけないでしょ。 もし私を殺すとしたら、絶対私の意識失わせてから殺すでしょ?」
「あのな、俺は確かに吸血鬼だ。 けどな、そんな殺し方はしない」
「じゃあどういう殺し方するの?」
「……それは秘密だ」
秘密……? なんで秘密なの?
「なにそれ」
「安心しろ。すぐにお前を殺したりはしない。 まあ俺がヴァンパイアだってことを誰かに喋ったら、その時は殺すかもだけどな」
「……わかってるわよ。別にそんなこと、誰にも言うつもりはない。ていうか言えないでしょ」
そんなこと言ったら、瞬く間に噂が広がって大変なことになる。
「とりあえず今の話は全部、内密にする。だから私を殺したりなんてしないでよね」
「わかってる。まあお前が約束を守るならな」
「だから守るわよ!」
そんな私に、桜木は「よし、じゃあそんなお前に褒美をやる」と私の顔に近付く。
「はっ?ーーーんっ!?」
それはほんの一瞬の出来事だった。
「なっ、なにす……なにすんのよっ!」
「だから言ったろ。"ご褒美をやる"って」
「……っ!」
なっ……なななっ……!
わ、私……。あんな吸血鬼男とき、キスしてしまった……!「さっ……サイテー!」
ひ、人の唇を勝手に奪うなんて、信じられない! 人としてサイテーよ!ありえないっ!
「なんだ。もしかしで初めでだったのか?」
「う、うるさいっ!……いい?それ以上言うと、アンタの秘密バラすからねっ!」
「……わかった、なにも言わない。 ただこれだけは言わせろ」
「な、なによ」
「お前のファーストキス、ごちそうさまでした」
「なっ……!」
こ、コイツ……! 私のことからかうなんて、百年早いんだけど!
「なーんてな」
「……アンタほんとに殺してやろうか」
「悪かった。ちょっと調子乗りすぎた」
「わかればいいわ。 あと、今度私の唇奪ったら、アンタほんとに殺すからね」
「わかった、もうしない。約束する」
「……ふん。もう帰る」
「はっ?」
「安心して。アンタのことはぜーったいに誰にも言わない。言うつもりもないから。……じゃあね」
私はそのまま家へと帰った。
それにしても、まさかアイツが吸血鬼だったとは……。見た目は人間のくせにやることは卑怯だ。
アイツが吸血鬼じゃなかったら、即ぶっ殺してた。 ていうか吸血鬼って、アニメやマンガだけの話かと思ってたけど、違ったのね。
まさかほんとにいるなんて……。最初は信じてなかったけど、あれは信じざるを得ない。
だってあれだけ"吸血鬼(ヴァンパイア)"だって言い張ってるわけだし。 まあでも、見た目は完璧に人間だし……。
はあ……今日のことは全部聞かなかったことにしよう。アイツがヴァンパイアだってことも、アイツと不注意でキスしちゃったことも。 全部なかったことにしよう。……うん。「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
翌日、また今日もいつも通りに学校へと向かう。
「……はあ」
なんか昨日のことが全然頭から離れない……。できることなら、夢なんじゃないかと思いたい。
だって私、昨日アイツの秘密知っちゃったし。それにアイツと"キス"までしちゃったし……。
夢であってほしいよ、すごく。 でも秘密を守るって約束したから、自然に接してあげないとヤバイよね……?不自然に思われたくないし、疑われたくない。
「おはよう、金森さん」
「……っ!」
今私、背筋が凍るんじゃないかって思うくらいビックリした。
「ちょっと、いきなり話しかけないで! ていうか馴れ馴れしいから、学校ではなるべく話しかけないで。……わかった?」
「なんで?俺どキズまでした仲なのに?」
っ……! こ、コイツっ!
「……それ以上言うと、どうなっても知らないわよ」
「わかった。ごめんね」
もう……なんか色々と面倒くさい。
どんな時も俺は、この子の父親として、真琴に寄り添っていきたいと思う。例えこの子が吸血鬼(ヴァンパイア)の子供だったとしても、この子の未来を俺たちならきっと変えていけると、そう信じている。そう信じて、二人で歩き始めたいんだ。「……俺、真琴も子供も幸せにしたい。 三人で、幸せになりたい」「うん。幸せになろう、絶対にさ」「……ああ、なろう。必ず」これが俺が決めた道だ。 俺はこの先、吸血鬼としてではなぐ人間゙として生きていく。例え俺が吸血鬼だとしても、俺はこの世界では人間として生きている。 この世界にいる限り、これからも人間として生きていきたい。この子がもし大人になって、吸血鬼になってしまったとしても……必ず俺が助けてやりたい。人間の母親と、吸血鬼である父親の元へと生まれてきてくれたこの小さな命。 もしこの子に吸血鬼の血が流れていたとしても、必ず俺は人間として育ててみせる。この子には絶対、辛い思いはさせたくない。「……ねえ、ユズル?」「ん?」「この子の名前……私決めたよ」真琴が嬉しそうに俺に微笑みかける。「……実は俺も、この子の名前、考えてきたんだ」「え? ユズルも……?」色々と調べてみたりして、いい名前がないかを考えてみた。 よく考えると悩んでしまい、すごく大変だったけど。でもどうしても、俺は子供に付ける名前をこの名前にしたかった。真琴が気に入ってくれると、いいんだけど……。「ウソ……考えてくれたの?」「……ああ。俺たちの子供だから、俺も一緒に考えたかった」真琴は「ユズル、ありがとう」と言ってくれた。「私が考えた名前は……これだよ」真琴が見せてくれた紙には、子供の名前が書いてあった。その名前にはーーー。「……え? 一緒だ」「えっ?」それは俺が考えた名前と、同じ名前だった。まさか、同じ名前を考えているなんて……。「俺も、同じ名前にしたんだ」「ウソ……?」「本当だ」まさか真琴も、同じ名前にしていたなんて……。こんな奇跡はないな。 そんな、この子の名前は……。「……歩夢(あゆむ)」「いいな、歩夢か。……桜木、歩夢」 明るい未来へと真っ直ぐ歩いていってほしいと願いを込めて、歩夢(あゆむ)と名付けた。桜木歩夢(あゆむ)。 これが、俺たちの子供の名前だ。とても素敵な名前だ。この子にぴったりな名前だ
【sideユズル⑩】 「ユズルくん!? 大変!真琴が産まれそうなの!」 「えっ!? 真琴が……?!」昼休みに屋上で寝転がっていると、真琴のお母さんから電話がかかってきた。「すぐ行きますっ!」 俺は急いで屋上を飛び出し、先生の元へと走った。「先生……!」「桜木? そんなに慌ててどうした?」俺は先生に「俺早退します! 真琴が赤ちゃん、産まれそうなんです!」と話すと急いで走り出す。「えっ!? あ、おい、桜木!廊下は走るなっ!」待ってろよ、真琴! 今行くからな……!俺は急いで病院まで走った。 ✱ ✱ ✱ 「ユズルくん!こっちよ!」「お母さん! あの、真琴は……!?」「今、産まれたわよ」「えっ……産まれた?」病院に着いた時にはすでに、真琴は出産したばかりだった。「本当……ですか?」「あ、お父さんですか?」看護師さんらしき人が分娩室から出てきた。「あ、はい……」「おめでとうございます。元気な男の子ですよ!」第一子は、元気な男の子だ。 待ち望んでいた子供が、ようやく産まれた。 俺は今とても、嬉しい気持ちでいっぱいだった。「ユズルくん、おめでとう」「……ありがとう、ございます」まだ信じられない。……でも、俺たちの子供は確かにここにいるんだよな。 なぜだかわからないけど、自然と涙がこぼれた。 「っ……俺、本当に父親になったんだ……」きっと嬉しい気持ちと、ホッとした気持ちが入り混じっているのかもしれない。「ユズルくん、真琴すごく頑張ってたのよ」真琴のお母さんは優しく微笑んでくれた。「っ……真琴、ありがとう」真琴が頑張ってくれたおかげで、俺にも大切な宝物が増えた。 すごく嬉しい。……俺、父親として頑張らないと。「母子ともに健康だって。良かったわね」「はい……良かったです」 その後俺は、初めて自分の子供に対面した。「この子が……俺たちの子供」「そうだよ。……可愛いよね」「ああ……可愛いな」俺たちとの子供は……フニフニしていて、とても柔らかくて、温かかった。 そんな子供の寝顔を見て、とても愛おしかった。 こんなにも愛おしいんだな……子供って。スヤスヤと眠っている子供を見て、とても微笑ましかった。 とにかく、可愛いんだ。目は真琴に、似てる気がする。 鼻は……俺なのかな? 口元は真琴に似て
あれから時は流れ、臨月を迎えたある日のことだった。ソファから立ち上がろうとすると、急にお腹が痛くなり動けなくなってしまった。「……い、たいっ………痛いよ……っ」あまりにも痛すぎて泣きそうになった。 座り込んでても痛くて、どうしようもなかった。「ただいまー。……え、真琴、大丈夫っ!?」帰ってきたばかりのお母さんが、しゃがみこむ私に駆け寄る。「お母さん、お腹が、痛いっ……」「大変……! 陣痛が始まったのね。 すぐ病院へ行きましょう!」お母さんは慌てて準備を始める。 「っ……痛いっ……」そっか。これが、陣痛なんだ……。ということはつまり……もうすぐ産まれるってことなの?「い、痛いよお……。お母さん、どうしよう……」「大丈夫よ。すぐに病院へ行きましょう。 恐らく陣痛が始まってるから、出産準備に入るかもしれないわね」「痛いっ……お母さん、痛いっ!」お母さんは「大丈夫よ、真琴。お母さんがついてるから」と手を握ってくれる。「お母さん、どうしよう!……う、産まれそう、かもっ……!」「いきんじゃダメよ、真琴! 力を抜いてっ!」「そ、そんなこと言われても……。お母さん、もうダメかもっ!」いきんじゃダメだと言われたのに、いきんでしまって、急に産まれそうな感覚になってしまう。このままだと、本当に産まれてしまう気がした。「真琴、落ち着いて。深呼吸しなさい」「う、うん……」 病院に着いてすぐ分娩室へと運ばれた。 産科の先生が優しく手引きしてくれる。 「桜木さーん、子宮口開いてるから、出産準備始めますからねえ」看護師さんの言葉が聞こえるけど、痛みに耐えることに精一杯でどうしたらいいのかわからない。「桜木さーん、ごめんね。今はまだ力抜いててね」 「ううっ……!!」 「ごめんね、痛いよね。 でももう少し頑張ってっ!」 力の抜き方もわからない。え、 どうすればいいのだろうか……。 もう少しって、どのくらい……!? 痛みに耐えながら、そんなことを考えてしまう。「はい!いいよー、いきんで!」 助産師さんの言う通りに、いきんだり力を抜いたりしていく。「桜木さん、はい!もう一回いきんで!」これを何度繰り返すのかわからないまま、時間だけが過ぎていく。「そうそう。上手だよ! そのまま頑張って!」「桜木さん、赤ちゃんの頭見えてきたよー!」先
「おかえり、桜木」「真琴、これもらってきた」「えっ?」桜木が帰ってきてそうそう、先生のサインが書かれた婚姻届を私に見せてきた。「え……先生!?」桜木ってば、先生に頼んだの!?「先生に、書いてほしいって頼んだ」「……先生、よくOKしてくれたね」ビックリした。まさか先生に頼むなんて……。「俺たちの幸せのためならって、書いてくれた」「それは、ありがたいけど……」でも先生がまさか、書いてくれるなんて……。「真琴、日にちを決めて、これ一緒に出しに行こう」「うん」桜木と私は、もうすぐ夫婦になる。 まだ十八歳と若い夫婦だけど、私たちには家族になる理由がある。だからこそ私は、子供のために、桜木のために頑張る。「桜木、アイス買ってきたの。食べよう」「ああ。 俺着替えてくる」「うん」私は桜木と一緒に、ソファに座ってアイスを食べた。✱ ✱ ✱それから数日が経ち、私たちは役所へ行って婚姻届を提出した。私は金森真琴から桜木真琴となり、桜木と夫婦になった。十八歳という若い夫婦だと思うけど、私たちはこれから夫婦としての人生(みらい)を進んでいく。「ねえ、桜木」「真琴、お前も今日から桜木だろ?」そう言われて「あ、確かに……」と思った。「そっか、私も桜木……なんだよね」「そうだよ。お前は今日から゙桜木真琴゙。俺の妻だ」「桜木……真琴」すごく言い慣れない。いつか慣れるのかな……「なあ、真琴……?」桜木と手を繋いで歩いていく。「うん、なに?」「夫婦になったんだから、俺のことはユズルって名前で呼べよ」「え……?」確かによく考えたら、私は桜木のことを下の名前で呼んだこと、一度もなかった。お母さんはユズルくんと呼んでいるけど、私はずっと桜木と呼んでいたので、呼ぶのに少し照れがある。「今日からユズルって、呼んでほしい」「え? は、恥ずかしい……!」ものすごく照れる。 ユズルという名前を呼ぶのにちょっと抵抗がある。「ほら、ユズルって呼んでみろ」「ゆ、ユズ、ル……」は、恥ずかしい……。「もう一回言って」「ゆ……ユズル……」照れるけれど、ユズルと呼んでみる。「もう一回」「ええっ、もう、恥ずかしいから無理っ!」私は桜木の手を離すと、恥ずかしさから手で顔を覆う。「名前で呼ばれるって……いいな」「……え?」「やっぱり真琴
俺も真琴が切迫早産になりかけて入院している間に誕生日を迎え、人間の年齢で言う十八歳になっていた。 俺はこの時をずっと待っていた。 ようやく、その夢が叶って嬉しいんだ。「真琴、婚姻届……書いてくれるか?」俺は婚姻届を取り出し、真琴に見せる。「……うん」真琴とこうして家族になることが、俺にとってどれだけ幸せなことなのか。「お母さん……婚姻届の証人の欄、書いてほしい」「もちろん、いいわよ」真琴のお母さんが、婚姻届の証人の欄にサインを書いてくれる。「桜木は……婚姻届の証人、誰にするの?」「俺? 俺は、もう頼んであるから大丈夫」「え……?」俺はとある人に、婚姻届の証人をお願いしていた。「俺も書いてもらう。 そしたら、一緒に出しに行こう」真琴は嬉しそうに「うん、わかった」と微笑む。「さ、今日は真琴の好きなものを用意したの。たくさん食べましょう」「うん」真琴の誕生日をこうして祝えるのは、本当に嬉しい。 「いただきます」「いただきます」「……ん、美味しい」 真琴のこの美味しそうに食べる姿も、俺は好きだ。 ✱ ✱ ✱ 俺は翌日の放課後、担任である片倉先生を呼ぶ。「あの、先生」「桜木? どうした?」俺は先生に「俺、先生にお願いがあるんですけど」と告げると、先生は「お願い? なんだ?」と俺を見る。「あの……これにサインをください」「え、サイン? なんのだ?」 俺は先生に婚姻届を見せる。「桜木、お前、これって……」 先生は俺を見つめる。 そんな先生に俺は「お願いします。……先生、俺の結婚の証人になってください」とお願いした。「桜木……本気か?」俺はそう聞かれて「はい。もう、真琴にプロポーズもしました」と即答した。「俺は、先生に見届けてほしいんです。……俺と真琴の幸せを、見届けてほしいです」先生は迷っているみたいだった。 だけど「……わかった。俺が、お前たちの証人になるよ」と言ってくれた。「本当ですか……?」「お前も金森も、俺にとって大事な生徒だ。 お前たちが幸せになれるなら、それを願うのが……担任である俺の教師としての願いだ」先生は俺に「桜木……金森のこと、守ってやるんだぞ。子供も、ちゃんと守ってやるんだぞ」と言ってくれた。「……はい」俺にとって先生は、最高の先生だと思った。「桜木、貸してみろ」先
【sideユズル⑨】それから数週間が経ったある日。「真琴、お誕生日おめでとう」「お誕生日、おめでとう真琴」「ありがとう、二人とも」今日は真琴の十八歳の誕生日だ。 真琴がようやく、十八歳になった。「真琴、これ……誕生日プレゼント」「え?……いいの?」 俺は真琴に誕生日プレゼントを渡した。「これは俺とお母さんからの、誕生日プレゼント」「えーなんだろう」真琴は「開けてみてもいい?」と聞くので「ああ、開けてみ」と返した。 真琴は「開けてみようかな」とラッピングを解いていく。「これ、なに……?」 真琴はそのプレゼントを見て、驚いている。「ん? 誕生日プレゼント」「いや、そうじゃなくてっ……」真琴は「そうじゃなくて……これって、どういう意味?」と俺に問いかける。 俺は真琴のそばへ歩み寄ると、「こういう意味」と真琴の左手を手に取る。「えっ……?」俺は真琴の左手の薬指にそっと触れると、その薬指にそっと指輪をはめる。「え、え……えっ?」真琴は驚いているのか、目をクリクリとさせている。「真琴……俺と結婚してくれる?」「……え?」実は真琴が十八歳の誕生日を迎えたその日、俺は真琴にプロポーズすることをずっと前から考えていた。 それは真琴のお母さんにもひっそりと相談していて、真琴のお母さんにも協力してもらっていた。 真琴にはバレないかハラハラしていたが、なんとか当日までバレなかったので安心した。「真琴、俺と……家族、になってほしい」真琴はそんな目を見つめると、涙目で微笑む。「家族……?」「そう、家族」俺は、真琴と家族になりたい。 本気で、そう思ってるから。真琴は静かに俺の手を取り「……はい。 こちらこそ、家族にしてください」と笑ってくれた。「もう。ずるいよ、こういうの……」真琴はボロボロと涙を流し始める。「真琴、おめでとう」真琴のお母さんが真琴を優しく抱きしめる。「お母さん、もしかして、このこと知ってた……?」「ええ。ユズルくんから、前々から相談されてたからね」「ええ……。知らなかったの、私だけ……?」真琴は「もう、こういうサプライズ……ずるい」とふてくされているけど、「でも……すっごく嬉しい」と笑っていた。「ちなみにその指輪……安物なんだ」本当はもっといいものを買ってやりたかっ
「うん、美味しかった」「よかった。 ユズルくんが、どうしても作りたいから教えてほしいって言ってくれてね。お母さん、張り切っちゃった」「そうなんだね」お母さんも以外と、可愛いんだな。 「お母さん、ありがとう」「なによ、お礼なんていいわよ」お母さんは嬉しそうに微笑んでいる。 きっと、お母さんも嬉しいんだと思う。「そうだ。 お母さん、赤ちゃんの名前、何がいいと思う?」「名前? そうねぇ……。真琴が付けたい名前にすればいいんじゃない?」「うーん……付けたい名前か」そう言われると、結構悩む。「まあお母さんの場合、お母さんは男の子でも女の子でもどっちでもいいような名前にしたかった
「ごめんね、桜木にも迷惑かけて」「そんなこと、気にすんな」桜木は私の頭を撫でてくれる。「だって……私とは別れたってことにしてるんでしょ?」「ん? ああ」「別れた理由とか、聞かれなかった?」桜木は「もちろん、聞かれてはいるけど……フラレたってことにしてるから、それ以外は何も聞かれないかな」と言ってくれた。「……そっか。 なら、いいんだけど」「真琴が気にすることじゃない」「だって……別れたってことにさせないといけないなんて、心が痛むし」本当はこうして一緒にいれるのに、別れたということにしないとならないなんて……。なんていう胸が痛むことなのだろう。「真琴はそんなこと、考えな
最近では桜木のことを「ユズルくん」と名前呼びをしていて、驚いている。すっかり我が家の一員となった桜木は、私たちといると楽しいと言ってくれている。✱ ✱ ✱そんなある日のこと、家に担任の片倉先生が私の様子を見に来てくれた。「おう、金森。 体調は大丈夫か?」「……つわりで死んでます」片倉先生は「桜木から聞いてる。グレープフルーツを食べてるんだろ?」と言ってくる。「はい……むしろグレープフルーツしか食べれません」先生は「そうか。 てことで持ってきたぞ、グレープフルーツ」と私にグレープフルーツを見せてくれた。「グレープフルーツだ……」グレープフルーツを見ると、なんか嬉しくなる。
大好きな食べ物を受け付けられないって、とてもキツイ。 最近はなんだかグレープフルーツが、特に食べたくなる。 グレープフルーツは苦手なのに。 妊娠すると好みが変わるって言うけど、本当なのかな。グレープフルーツだけ、今は食べられる。それで乗り切る訳にもいかないのだけど……。「っ……気持ち、悪い……」そんな私に「真琴、大丈夫か……?」と桜木が寄り添ってくれる。「無理っ……」最近はつわりがひどすぎて、なにも出来なくなってしまった。「辛いよな、つわり」横になっていることすらも、しんどくて……。「ん……ちょっと、しんどいかも……」「ムリしなくていい。休んでろ」「うん……」桜木は、







