LOGIN俺はそのまま凛花を連れて空港へ直行した。俺たちのハネムーンはまだ始まったばかりだ。俺たち自身の結婚式は、半年後に挙げることにした。この半年間は、すべての面倒事を過去に置き去りにして、水入らずの時間を存分に楽しむつもりだ。俺は凛花と共に旅へ出た。この半年、俺たちは一緒に山に登り、海を眺め、朝日に黄金色に染まる山々を見た。数え切れないほどの場所を巡り、二人の絆はますます深まっていった。人生のどん底のような最悪の時期だったかもしれないが、そこで最高の相手に出会えた俺は本当に幸運だった。ハネムーンから帰国した後、俺と凛花は非の打ちどころのない最高の結婚式を挙げた。今度はもう、誰にも邪魔されることはない。俺たちはしっかりと手を取り合い、集まってくれたゲストたちと笑顔でグラスを交わした。再び雪乃の噂を耳にしたのは、式が終わった後に親友たちと飲みに行った時のことだ。彼らが呆れたように教えてくれた。「いやあ陽斗、マジであの女と結婚しなくて大正解だったな。お前の10年間、本当に無駄だったよな」聞くところによると、あの日の披露宴は結局お流れになったが、雪乃は意地になってあの出来損ないの栄太とすでに入籍を済ませていたらしい。だがその直後、栄太にボコボコに殴られた雪乃は下半身から出血し、そこで妊娠3ヶ月だったことが発覚したというのだ。俺は雪乃と一度も関係を持っていなかったから、俺の子ではないのは確実だ。そして当時の栄太の様子からして、どうやらあいつの子でもなかったらしい。哀れなことに、そのお腹の子供は無残にも激しく腹を蹴りつけられて流産させられてしまったそうだ。思わず吐き気がこみ上げてきた。俺はそこから先の顛末もすべて知ることになった。栄太はギャンブルで両親の財産を食いつぶし、闇金から多額の借金を作っており、それをずっと雪乃が肩代わりして返済していた。そして度重なるDVの末、栄太は雪乃と両親の手によって、ついに精神病院へ強制入院させられた。そんな話をしていると、店の入り口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。「陽斗……もう一度だけ、私にチャンスをくれない?」振り返ると、そこには見る影もなくボロボロになった雪乃が立っていた。その声は惨めな哀願に満ちている。だが、隣にいた凛花がすかさず歩み寄り、雪乃の頬を思い
雪乃はすべての矛先を俺に向けた。一瞬にして様々な憶測が飛び交い、俺への誹謗中傷コメントが追いつかないほど溢れかえった。俺が自ら表に出て反論しようとした時、凛花が俺を引き止めた。彼女は「待って」と言ったのだ。やけに自信満々なその様子を見て、俺は口を出すのをやめ、すべて彼女に任せることにした。その後、この炎上騒ぎの世論に乗っかるようにして、雪乃と栄太は結婚式を挙げることになった。誰も予想だにしなかった電撃結婚だ。俺はスマホに別の番号から送られてきたメッセージを見つめながら呆れ果てていた。雪乃からのメッセージだ。そこには【あなたが式場に乗り込んで私を連れ去ってくれるなら、ついていく】と書かれていた。俺と凛花も招待客のリストに入っており、翌日、俺たちは正装して式場へと足を運んだ。栄太は得意満面の笑みを浮かべていたが、対照的に雪乃の顔には、コンシーラーでも隠しきれない青痣が浮かんでいた。親族席に座る両親は顔をほころばせ、隠しきれない上機嫌ぶりを見せていた。「陽斗、とびきりのサプライズを楽しみにしててね」凛花が耳元で囁いたが、俺には何のことかさっぱりわからなかった。今日の彼女はオートクチュールのマーメイドドレスを身に纏い、ひときわ目を引く美しさだった。俺の視線は最初から最後まで凛花に釘付けになっていた。両親は終始俺の存在を無視していたが、俺も全く気にしなかった。その間、雪乃が何度もこちらに視線を送ってきたが、俺は気づかないふりをした。気のせいかもしれないが、その目は俺に助けを求めているように見えた。あんなに栄太を愛していたのではなかったのか?今の顔はどう見ても、ちっとも幸せそうには見えない。披露宴が半ばに差し掛かった頃、ハプニングは起きた。おそらくこれが凛花の言っていた「サプライズ」なのだろう。司会者が二人に誓いの言葉を問いかけたその瞬間、ウェディングフォトを映し出していた巨大スクリーンが突然切り替わり、複数人の男たちとの淫らな行為の映像が流れ出したのだ。その映像の中心にいるのは、他でもない雪乃だった。会場は水を打ったように静まり返った。映像の中で奔放に腰を振る雪乃を見て、俺も思わず開いた口が塞がらなかった。「あああああ!」雪乃の悲痛な絶叫が響き渡る。全参列者の前で派手に寝取られ
雪乃は目を真っ赤に血走らせ、俺を問い詰めてきた。「ちょっと陽斗、どういうことかちゃんと説明しなさい!私がいつ結婚相手を変えていいなんて言ったの!?どうして私をポイ捨てするような真似ができるのよ!どうせ私の気を引きたくて、わざと怒らせようとしてるんでしょ?ええ、そうよ。あなたの思惑通りよ、大成功だわ!だから、私のところに戻ってきなさい。そして結婚するのよ。そうすれば、また昔みたいに戻れるわ。今すぐそうしないと、もう二度とよりを戻してあげないからね!」声を嗄らして叫ぶ雪乃の胸元は、激しい興奮のあまり荒く上下していた。俺を見つめるその瞳には、落胆と痛切な苦しみが色濃く滲んでいる。「ふっ。悪いけど白石さん、俺たちはもう別れたんだよ。それに、お前は以前、得意げに言ってたじゃないか。俺は『都合のいい犬』で、『いくら振り払ってもへばりついてくる鬱陶しい男』だって。だから、もうお前には付きまとわず、自分の幸せを見つけることにしたんだ。これで満足だろ?」その言葉を聞いた瞬間、雪乃の顔が強張った。そして次の瞬間には、ひどく傷ついたような、悲痛な表情へと変わった。10年もの間一緒にいたが、彼女が俺にこんな顔を見せることなどほとんどなかった。「うそ、そんなはずない……私たち、10年間も一緒にいたのよ?別れるなんてありえないわ」雪乃はますます取り乱し、真っ赤になった目からは大粒の涙がボロボロとこぼれ落ち始めた。「全部、栄太のせいなんでしょ!?だったら彼を精神病院にでもぶち込んでやるわ、それでいいでしょ!?戻ってきてよ、もう怒らないで……また昔みたいにやり直そう?彼にはもう二度と会わないって、私、約束するから!」「はっ。あれだけうちの弟を大事にしておいて、本当に精神病院に送れるのか?」遠くから血相を変えて駆け寄ってくる栄太の姿を見つけ、俺はあえてそう口にした。「違うの、陽斗!誤解しないで、私が愛しているのはあなただけよ!栄太のことはただ可哀想だったし、あなたの弟だから気を利かせて面倒を見てあげていただけよ!私から見れば、あんな人ただのイカれた精神異常者よ!陽斗、お願いだからもう私を困らせないで……私のそばに戻ってきて、ね?」かつてはあれほど高飛車にふんぞり返っていた雪乃が、俺の前で顔をくしゃくしゃにして泣きすがっている。こんな姿を
雪乃の両親からも何度か着信が入っていた。だが、俺は電話には出なかった。そして、あの夜、彼女の友人から送られてきた例の動画をご両親に転送しておいた。そして、結婚式は「延期」ではなく「キャンセル」であること、今後一切雪乃と関わるつもりはないことも書き添えた。ご両親は話のわかる人たちだった。事の顛末を理解すると、ばつが悪そうに俺へ謝罪のメッセージを送ってきた。母親の方は【あの子はいつか必ず後悔するわ】と言っていたが、彼女が後悔しようがしまいが、もう俺の知ったことではない。すべてが順調に進み、俺と凛花の関係も日に日に深まっていった。俺たちは言うなれば、「結婚から始まる恋愛」というやつなのだろう。お互いがお互いのために少しずつ歩み寄り、変わっていく。互いを尊重し合える関係だからこそ、この先もずっと共に歩んでいける。翌日、俺はSNSのタイムラインに結婚式の招待状をアップした。するとほぼ同時に、あのろくでなしの栄太から挑発するようなメッセージが送られてきた。【お兄さん、そんなことして雪乃が戻ってくると思ってる?大馬鹿だね】【昔からそうだけど、僕がお兄さんから奪おうと思って、手に入らなかったものなんて一つもないんだ】【お父さんやお母さんのことを大事にしてたよね?ならば僕が奪ってやったんだ】【雪乃のことを一番愛してたんでしょ?じゃあ僕のそばに縛り付けてやったんだ】【お兄さんも僕と同じように、欲しいものが永遠に手に入らない惨めさを味わえばいいんだよ】呆れて鼻で笑ってしまった。昔から事あるごとに突っかかってきていたが、俺がいつあいつの恨みを買うような真似をしたというのか。まあいい。今の俺は、もうすべてに見切りをつけている。あいつが欲しいと言うなら、くれてやればいい。【お兄さん、他の女と結婚しようが寝ようが、雪乃は痛くも痒くもないんだよ。だって、彼女にとってお兄さんはただの都合のいい犬なんだから】【彼女が本当に心から愛しているのは、この僕だけなんだ】【じゃなきゃ、僕のために何度もお兄さんを放り出したりしないだろ?】俺が無視していると、あいつはマウントを取るようなメッセージを一方的に次々と送りつけてきた。ただただ滑稽だった。俺は一瞥もくれず、そのままあいつのアカウントをブロックした。すると今度は、雪乃からビデ
俺はSNSのタイムラインに凛花とのツーショットを投稿し、堂々と結婚を公表した。殺到したおびただしい数のコメントに一つひとつ返信することはせず、ただ【既婚。心に決めた最愛の人がいます】とだけコメントを残しておいた。凛花のスタジオ設立を二人でお祝いしている最中、雪乃から何度も電話がかかってきた。無視していても、雪乃は嫌がらせのように執拗に鳴らし続けた。「あの写真、どういう意味?」開口一番のその問い詰めに、俺は思わず吹き出しそうになった。なんて見覚えのある光景だろうか。以前は俺の方が雪乃をこうやって問い詰めていたのだ。「見た通りだけど」彼女も当時そう返してきた。だから今、その言葉をそっくりそのまま返してやった。「いいわ。SNSの件は不問に付してあげる。結婚式のこと、もう一度最初から準備して。あの時は急だったし、命に関わることだったから放っておけなかったの。相手はあなたの弟なんだし。今回も山あいでのウェディングがいいわ。前回と同じくらい盛大にしてね。前回はタイムラインに載せてたその女の人に頼んでデザインしてもらったんでしょ?今回も彼女にお願いしなさいよ。あと指輪とかも、前のお古は嫌だから、新しいのを買い直してね。準備が全部整ったら私に連絡して。その時に親戚や友達にまとめて報告しましょう」突然、雪乃は冗談でも言っているのかと思えてきた。彼女は高飛車に命令だけを並べ立てると、こちらが口を挟む隙すら与えずに一方的に電話を切った。昔と変わらないそのふんぞり返った態度。俺が自分の思い通りに、呼べばすぐに尻尾を振って飛んでくる都合のいい男だとでも思っているのだ。残念だったな。勝手に都合のいい夢でも見ていればいい。今回ばかりはもう二度と準備するつもりはない。俺にはもう自分の帰るべき家庭があり、籍を入れた妻がいるのだ。彼女なんてもう、とっくに終わった過去の存在にすぎない。俺がいらない以上、誰が相手をしようと知ったことじゃない。かつて俺は、愛する女性を妻に迎える日を何度も夢見てきた。彼女を思い切り甘やかし、一緒に愛を誓い、一緒に婚姻届を出す光景を思い描いていた。結局、すべては俺の想像通りにはいかなかったが、今の俺は最高に幸せだ。凛花に惨めな思いはさせたくない。だから俺は今、凛花との結婚式を自分自身の手
俺はこの家には、とうの昔に愛想を尽かしている。実家や店舗の不動産名義を、俺に内緒ですべて栄太に変えられた時、俺は悟ったのだ。両親のこの偏愛は、一生変わることはないのだと。弟を支えるための道具として、人生を搾取されるつもりなど毛頭ない。だから、断ち切るべき縁はここで断ち切る。一方、雪乃は俺に直接連絡してきこそしなかったが、大人しくしていたわけでもなかった。SNSのタイムラインで、あの結婚式での騒動について悪びれもせず堂々と釈明していた。栄太の病状を気遣い、「兄嫁は母親代わり」という思いからあんな行動をとってしまったのだ、と。俺は鼻で笑い、そのまま彼女のアカウントを削除してブロックした。雪乃がいなくなってから、俺の自由な時間は格段に増えた。会社では毎日死ぬほど忙しく立ち回っているが、仕事から帰った後、あのワガママなお姫様の機嫌を取る必要もなければ、飯を作る必要も、皿を洗う必要もないからだ。凛花との生活は驚くほど快適だった。あんなサバサバした性格だが、意外にも料理を作るのが好きらしく、本人が言うには「精神修養になるから」だそうだ。料理の腕は抜群で、毎回俺の好物ばかりを作ってくれた。「もしかして、わざと俺の好みを調べたのか?」と冗談めかしてからかったことがある。すると彼女は誤魔化すこともなく、あっけらかんと言い放った。「ええ、その通り。10年前にはもう調べ尽くしてたわよ。10年経ったとはいえ、あれでも私がずっと心の底から片思いしてた相手なんだから、忘れるわけないじゃない。でも、今はもう片思いじゃないわ。晴れて私の旦那様になったんだから、これからは堂々と尽くさせてもらうわよ」俺は胸が熱くなった。俺が雪乃に貴重な10年を費やしているその裏で、誰かが同じだけの歳月を、こうして10年もの間ひたむきに想い続けてくれていたなんて、思いもしなかったのだ。ただ、学生時代を思い返してみても、凛花は俺と話すたびに顔を真っ赤にしていて、むしろ俺のことを怖がっているように見えた。俺が近づくだけで、いつも逃げるように離れていってしまったのだ。それでも、俺が授業中に居眠りしている時は先生がこっちを見ていないか見張ってくれたし、普段から俺の代わりにノートを取ってくれたり、女の子が好むようなお菓子をこっそり分けてくれたりもした。記憶の