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第1087話

Author: 星柚子
「だが、この数千億規模の実体を伴う非公開株は、国税局が調べても一点の落ち度も見つけられないほど綺麗なものだ。

なぜなら、道を塞いでいた障害物はすべて消えたからだ。

この金は、今朝の取引再開の最初の一分間で、自動的に『本来の所有者へ返還する』相続プログラムを発動した。

だからこそ、システムがこの水戸グループの遺産を清算している最中に、水戸健司の名前を共同トリガー者として認識し、強制的にこの特別刑務所の画面に表示したんだ!」

正修の心臓が、一瞬だけ鼓動を止めた。

数千億規模の事業系非公開株。

これは単なる名誉回復などではない。巨大なクジラが市場に打ち上げられたようなものだ。

内陸部の一見穏やかに見える経済界において、この金が再び世間の目に晒されれば、表舞台の陰に潜んでいた飢えた狼たちを、すべて白日の下へ引きずり出すには十分すぎる。

「だが、親父は狂人だった。誰のことも信用していなかったんだ」北斗は突然声を落とした。

受話器越しに届くその声には、凍りつくような冷気が混じっていた。

「だから、あの相続プログラムに物理ロックを仕込んだ。奈穂の左手に刻まれた認証印、君・九条正修
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    「だが、この数千億規模の実体を伴う非公開株は、国税局が調べても一点の落ち度も見つけられないほど綺麗なものだ。なぜなら、道を塞いでいた障害物はすべて消えたからだ。この金は、今朝の取引再開の最初の一分間で、自動的に『本来の所有者へ返還する』相続プログラムを発動した。だからこそ、システムがこの水戸グループの遺産を清算している最中に、水戸健司の名前を共同トリガー者として認識し、強制的にこの特別刑務所の画面に表示したんだ!」正修の心臓が、一瞬だけ鼓動を止めた。数千億規模の事業系非公開株。これは単なる名誉回復などではない。巨大なクジラが市場に打ち上げられたようなものだ。内陸部の一見穏やかに見える経済界において、この金が再び世間の目に晒されれば、表舞台の陰に潜んでいた飢えた狼たちを、すべて白日の下へ引きずり出すには十分すぎる。「だが、親父は狂人だった。誰のことも信用していなかったんだ」北斗は突然声を落とした。受話器越しに届くその声には、凍りつくような冷気が混じっていた。「だから、あの相続プログラムに物理ロックを仕込んだ。奈穂の左手に刻まれた認証印、君・九条正修の右手にある当主印、そして俺が舌の裏に隠していた大西洋銀行が旧時代に採用していたモールス式物理コード。この三つを同時に内陸の窓口閉鎖前に認証しなければ、この巨額の非公開株が誰かに強制的に悪意ある空売りを仕掛けられるのを止められない」「誰か?」正修が聞き返した。「はっ……面白いことを言う。まさか内陸で慈善団体の資格を掲げ、上等なスーツを着た国家資本系の民間ファンドが、本当に水戸グループのために善意で動いていると思っているのか?人の骨までしゃぶり尽くすような資本家の目から見れば、右手を失った奈穂も、左肩を潰された君も、ただ手術台の上で死を待つだけの、好きに切り刻める病弱な猫にすぎないんだ」面会室の蛍光灯が、不気味に二度ほど明滅した。耳障りな「ジジジ……」という音が響く。正修はその場に立ち尽くし、足元から冷気が一気に頭の頂点まで駆け上がるような感覚に襲われた。彼は内陸資本のやり方を、誰よりも理解していた。海外ならば、銃や爆薬、最も原始的な物理的排除によって問題を解決することもできる。だが、内陸の陽光の下では違う。あの者たちは、手に合法的で正当な公文書を

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    その赤いシステムエラーコードの一列が、最後に一度だけ明滅した。そして、すべての電子信号と共に、完全に西郊の工場地下に埋められた鉄の中へと沈んでいった。……奈穂が再び目を開けた時、視界に広がったのは、混じり気のない真っ白な世界だった。空気の中に、塩気を含んだ海水の臭いはない。鼻を刺す硝煙の臭いも、錆びた鉄の臭いもない。残っているのは、病院特有の、何度も薄められた消毒液とアルコールの匂いだけだった。窓の外から差し込む陽射しは穏やかだった。二重の防音ガラスを通り抜けた光が、ベッドの足元に敷かれた真っ白なシーツに降り注ぎ、そこには小さな金色の埃が幾重もの輪を描くように舞っていた。京市の初夏は、ランシア国よりもずっと澄んでいた。「目が覚めたの?動かないで。抗炎症剤の点滴を刺したばかりだわ」安芸の声は、まるで粗い紙やすりの上を何度も転がしたように掠れていた。目には濃い血走りが浮かんでいる。彼女は手にリンゴを持って皮を剥いていたが、フルーツナイフの刃先は、震える手によって空中で歪んだ軌跡を描いた。そして手の震えのせいで、厚みのある果肉を皮ごと大きく削ぎ落としてしまい、ステンレスの皿の上に落ちる。「カン」鈍い音が病室に響いた。奈穂は何も言わなかった。ただ、頑なに視線を自分の右側に向けた。高熱はもう下がっていた。半月近く彼女を苦しめ、頭の奥の神経をすべて引きちぎられるのではないかと思うほどだった幻痛はこの瞬間、奇跡のように消えていた。消えても当然だ。なぜなら、その腕はもう存在しないのだから。高圧電流によって焼き尽くされ、そのうえ旧工場の大型機械の歯車に巻き込まれて完全に粉砕された手首から先だけでなく、壊死した前腕組織の大部分も、半月前に行われた大手術によって切除され、最終的には肘から下を失う結果となった。今の右袖の中は空っぽだった。そこには何重にも清潔な白いガーゼが巻かれているだけ。まるで枯れた木の枝のように、淡い青色の入院着と布団の横に、不自然なほど静かに置かれていた。片腕と引き換えに、秦家を内陸から完全に消し去った。健司が十五年前に犯した資金洗浄の罪を、公式に完全な形で晴らした。奈穂は心の中で、その代償を静かに計算した。――ふん、計算できない。損だったのか、得だ

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