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第1106話

Auteur: 豆々銀錠
夢美が何を求めようとも、紗枝はそれを与える。

彼女には焦りなどなかった。なぜなら、まだ手元に、切り札が一枚残っているからだ。

もし夢美と昂司が本気で自分を追い詰めるつもりなら、紗枝もまた、二人をただでは済ませない。

廊下ですれ違ったとき、夢美は横取りしたプロジェクトの書類を手に、勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。

「あら、前はそんなに強気だったかしら?ねぇ、知ってる?さっきまたいくつかプロジェクトが回ってきたの。聞いたところによると、あなたたち五課がやっとのことで勝ち取った案件らしいじゃない。本当にありがとうね」

少し間を置いて、夢美はわざとらしく微笑みを添えた。

「でも、お返しをしないのも失礼でしょ?だから私もいくつかプロジェクトをあげたわ。私があなたをいじめたって、拓司さんに告げ口しないでね」

紗枝は氷のような視線で彼女を見つめた。

「ご心配なく。告げ口なんていたしません。あなたがくださるプロジェクト?それはご自分の老後の楽しみにでも取っておかれたら?」

言うまでもなく、夢美が与える仕事など、骨折り損で利益の見込めない厄介事に決まっていた。

夢美は一瞬言葉を失ったが、すぐに口元を歪めて嘲る。

「紗枝、何をそんなに調子に乗ってるの?今のあなたは黒木家の犬よ!お腹に黒木家の種を宿していなかったら、綾子さんがあなたをグループに残すと思う?たかが課長になったくらいで偉くなったつもり?本当に笑わせるわ」

紗枝は込み上げる怒りを必死に押し殺し、何も言わなかった。

正面からぶつかっても、彼女たち夫婦の思う壺だとわかっていた。

それに今の紗枝には、綾子という確かな後ろ盾がある。焦る必要はない。

午後、綾子から電話がかかってきた。

「最近、仕事はどう?もし疲れているなら、拓司に言って、しばらく家で休みなさい」

そう言って少し間を置き、「これから毎月一億円あげるから、好きに使っていいわよ」とさらりと続けた。

紗枝は、あの日綾子を助けて以来、ここまで親切にされるとは思ってもみなかった。

月一億円――年にすれば十二億以上。

確かに、それだけあれば、もう働く必要などない。

だが紗枝は丁寧に、しかしはっきりと断った。

「ありがとうございます。でも、今の仕事がとても順調なんです。やはり自分の力で稼ぎたいと思います。ご安心ください、私と子どものこと
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