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温度差―呼び出し(3)―

Author: 鷹槻れん
last update Huling Na-update: 2026-01-19 04:55:00

「……帰れ」

俺は忠成ただなりを振り返らないままに何とか一言、それだけを告げる。

「で、でも……」

俺の言葉が信じられないという風に、忠成が言葉を連ねる。恋愛感情で迫られるのは勘弁して欲しいけれど、俺に背を向けられるのは怖い。そんな雰囲気がまざまざと感じられて、忠成はずるい、と思った。

「……聞こえなかったのか? 帰れ、と言ったんだ」

忠成に背を向けたまま。怒っているのか悲しんでいるのか自分でも良く分からなかったけれど、心が千々ちぢに乱れて肩が震えた。

俺は我知らず、両の拳をぐっと力を入れて握っていた。

俺からの完全な拒絶に、忠成ただなりが背後で息を呑むのが分かった。

背中を向けているから見えないけれど、多分今、忠成は泣きそうな顔をしてるんだろう。

こんな状況下にあってもそんなことをつい考えてしまう俺は、相当重症だと思う。

「……秋連あきつら、ごめん。……俺、そんなつもりじゃ、なかったんだ……」

ややして、忠成がすがるような声音で一言一言区切るようにそう言った。だが、俺はあえて無反応を貫く。

「お、俺、秋連にあんなことされて……どうしたらいいか分からなくてっ。自分のことじゃないって思って逃げ出したかったんだ……。ホント、ごめん!」

そこまで言ってから、小さな声でしゅん……としたように「自分のことばっかで、秋連や結衣ゆいの気持ち、考えていなかった」とつぶやく。

その声の感じから、俺の後ろで泣きそうになっている忠成の姿が目に浮かんできて……俺は我慢できなくなって振り返っていた。

案の定、子犬のような潤んだ目をして……両手を胸前でギュッと握り締めた忠成がそこにいた。その姿を見た瞬間、俺の中で氷付いていた気持ちが急速に氷解し始める。

「そこで謝るってことは……逃げるのをやめた、ってことだぞ? 分かってるのか?」

忠成を真正面からじっと見据える。さっきまでとは違って、冷たい目ではなく、俺のほうがどこか彼に救いを求めているような……そんな表情になっていたと思う。

「……っ!」

俺の言葉に、忠成が一瞬瞳を見開いて逡巡しゅんじゅんしたのが分かった。ああ、また進展なしで有耶無耶うやむやになりそうだな、と心の片隅で溜息をついたとき、「……うん」と、いう声がした。

刹那、その真意が理解できなくて、俺は思わず忠成をじっと見てしまう。

「……俺、もう、お前の気持ちから逃げないよ」

が、今度ははっきりと、忠成は俺の目を真っ直ぐに見返してそう言ってきた。さっきまでの躊躇ためらうような、戸惑うような瞳の揺れはそこにはなくて……俺は忠成が覚悟を決めてくれたことを理解した。

「そうか……」

忠成の言葉を噛み締めるように……俺はやっとそれだけを返す。

恐らく表面的にはいつも通りのポーカーフェイスで――。

でも、実際心の中は全然穏やかじゃなくて……。

今すぐにでも忠成を押し倒してしまいたい衝動を、理性を総動員して押さえつけている真っ最中だ。

しばらく自分の感情と闘った後、俺は忠成を見据えてふと思い出したていを装って、言わなくてはいけないと思っていたことを口の端に載せた。

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