「ずっと我慢してたけど……忠成君の、獣臭いニオイが苦手だったの」 その言葉とともに、俺は半月付き合った彼女に呆気なく振られた。 正直、ショックだった。 だって、俺の家に来てそのニオイの元と戯れていた彼女はとても幸せそうで……。 まさかそんなに嫌がっているだなんて思いもよらなかったんだ。 人間、慣れというものがある。だから長年親しんだ自分のニオイには疎くなる。 それは十分承知しているつもりだった。 普段から母親に「あんたの部屋は何とも言えん臭いがするねぇ」と言われていた俺は、彼女に会う前は極力身だしなみに気をつけるようにしていた。 当然、汗をかいたらシャワーを浴びるぐらいの配慮はしてデートに臨んでいたのだ。 それなのに――。 俺は残念ながら自分の汗臭さには気付けても、一緒に暮らしているフェレット――イタチ科の小動物――のニオイにはかなりのところ鈍感になっていたらしい。 フェレットって生き物は、一応に独特なにおいがするから、気をつけていたつもりだったんだけど。 可愛くて堪らないから、かな? 俺には愛フェレ――ニョロ豆――のニオイが全く感じ取れないんだ。 いや、確かにニョロ豆に鼻を押し付けて嗅げば彼の発する体臭は感じ取れるけれど、それだってどちらかといえば「良いにおい」として認識されてしまうのだ。 彼女の言うように「獣臭い」においだと認識されることは皆無で。 俺がニョロのニオイを嗅ぐときは、臭いかどうかを確認するためではなく、そこにニョロがいることを感じたいからに他ならない。 それで、なのかも知れない。 衣服についたぐらいの微かな(?)ニョロのニオイでは、俺の鼻は察知してくれなくなっていた。 己の嗅覚が感じ取れないニオイの有無を判別することは、正直至難の業だ。 彼女に振られて、長いこと失意のどん底に落ち込んだ俺だったけれど、その間、何だかんだと理由をつけては俺の様子を見に来てくれた、向かい家の幼馴染み――秋連――に、事の顛末を全てぶちまけてみることにした。 思慮深い秋連なら、この先俺がどうしたらいいか、的確に導いてくれそうな気がしたからだ。 このまま青春真っ盛りの高校時代を、色恋沙汰無しで過ごす羽目になるのは何としても避けたかった。
最終更新日 : 2026-01-17 続きを読む