LOGIN「お前が何をしたか分からない俺だと思うか?」
そればかりか、---------------------【選択肢】---------------------「俺を選ぶか、失うか。選択肢は一つだけだ。妥協は許さない」 幼いころから俺に依存しまくりの忠成の性格を知り尽くした上で、俺は彼が絶対に逃げられないであろう言葉を告げた。 こう言われれば忠成が俺を選ばないはずがない、と確たる自信があるからこそ言えたセリフ。 でも……心の片隅でほんの少しだけ恐れている。「じゃあ……もう、秋連とは話さない」 そう、言われるんじゃないかと――。 End・・・---------------------【もくろみ】---------------------「チョコってうまいよな」 まるで熱に浮かされ、うわ言を口走るようにことある毎にそんなアピールをしてみる。「え? 秋連ってチョコ好きだったっけ?」 しかし、鈍感な幼なじみは俺の意図に気付くこともなく、あっけらかんとそんなことを言い放つ。(いや、そうじゃなくて……) 少しは俺の目論見に気付けよ。 そんなことを思ってみても、通じるはずもなく……。 あと1ヶ月余りでバレンタインデー。 別に今までそれがそんなに重要な日に思えたことはなかったけれど、今年は少しだけ期待してみよう。 もしかしたら忠成が、種類豊富なチョコレートの山を見て、俺の言葉を思い出してくれるかもしれないから……。 End・・・---------------------【時計】---
「あ、ちょっ、やめっ……」 薄い胸の突起に唇を寄せてついばむように口に含むと、目尻に涙を浮かべて嫌々をする。 いつもは快活に笑うその口が紡ぐ力ない抵抗の声が愛しくて、俺はますます彼を苛めてみたくなる。「イヤ、じゃないだろ?」 耳元に唇を寄せて囁けば、本当にイヤなのだ、と言わんばかりに自由を奪われた身体を精一杯強張らせて抵抗を試みる。 そんな彼の意志などお構いなしに、俺は俺がしたいように相手を蹂躙していく。***「……ッ」 余りにも強く心に思いすぎているからだろうか? ここのところ、毎晩のように忠成の夢を見る。 それも決まって彼を陵辱する夢を――。 そうして、目覚めた後決まって下着を洗う羽目になる自分が情けなくて、俺を宙ぶらりんの状態にしたままの幼なじみが憎らしく思えてしまう。 いっそ夢の中でそうするように忠成を押さえつけられたなら。 ふとそんな危険な思考までが頭を過《よ》ぎって、俺はその考えに苦笑した。(んなことしたら――) きっと忠成は一生俺を許してはくれないだろう。 でも……。 もしかしたら、流されるようにその状況を甘受してくれる可能性もあるんじゃないだろうか? そんな期待もしてしまって……俺は自分の浅はかさに溜め息を落とす。 日ごと強くなっていく想いを抑制して今まで通り幼なじみを演じているから、夢にはけ口を求めてしまうんだろうか? 俺はこんなにも忠成が欲しいのに、当の本人が何とも思ってない風なのがまた腹立たしくて――。 そう思ってはある一定の距離まで忠成を追い詰めて見るくせに、最後の一歩で詰めが甘いのは俺が臆病だからだ。 余り詰め寄ってしまったら、彼に嫌われるんじゃないか、と。
祖母が亡くなったときみたいにどん底まで落ち込んで、両親の手を患わせるような真似は出来ないのだと言って口ごもる忠成に、俺は言葉を失った。 子供だ、子供だと思っていた忠成の、意外な苦悩に虚を突かれて呆然としたのだ。 忠成は忠成なりに考えて頑張っていた。 例えそれが傍目には無謀な虚勢であったとしても――。 忠成の気持ちも分からないではない。 俺にだって、無理は承知で頑張りたいと思ってしまうときがままあるし。 でも、忠成ほど真っ直ぐじゃない分、適度に力を抜くことも知っている俺は、どうすれば自分の中に溜めずに済むかも計算付くなのだ。 不器用なぐらいに裏表のない忠成の頑張りは、逃げ場が無いだけに見ていて痛々しい。「お前の言いたいことはよく分かった。……けど、家族の前では無理しなくちゃいけないとしても、せめて俺の前でぐらいは素直になれないか?」 自分で逃げ道を作ることが出来ないのなら、俺が作ってやればいい。「……っ!?」 その言葉に、ビックリしたように瞳を見開く忠成を、俺は恐る恐る抱き寄せた。 どうか心臓のドキドキを見破られませんように。 そう願いながら。 嫌がって俺を突っぱねるかと思っていた忠成が、予想に反しておとなしくしていることに、俺の心臓はますます喧しくなる。 でも、そんな俺の懸念は、意味のないものだとすぐに分かった。 俺の腕の中で、忠成が盛大に泣き始めたから。 今までずっと我慢していた感情を一気に放出したようなその号泣に、柄にもなく俺までもらい泣きしてしまった。「……有難う」 だから、ややあって忠成がぽつんとつぶやいたそのセリフが、俺にはハッキリと聞こえなかったのだ。「……え?」 それで、間の抜けた声を出してしまった俺に、泣きはらした目をした忠成が、顔を上げてもう一度礼を言う。 目は腫れてしまっているけ
「……どう、いう……意味?」 薄らぼんやりとした明かりの中、忠成が不安そうに俺を見つめる。 ベッドに座り込んだ忠成と、その傍に片膝を付いて、ほんの少し彼を見下ろす格好になっている俺。 また、だ。 上目遣いで見上げる忠成のその表情に、俺はそんな場合じゃない、と分かっていながらドキドキしてしまう。 場違いに騒ぐ心臓を落ち着けようとしたら、自然、手に力が入った。 立てた膝の上に載せた拳を力強く握り締める俺に、気付いているのか居ないのか。 忠成が、不安そうな顔をして俺を見つめている。 その視線にとうとう耐え切れなくなって、俺は彼から目を逸らした。「秋連?」 俺が忠成を追い詰めていたはずなのに、いつの間にか立場が逆転してないか? そう思う焦りからか、背筋を冷たい汗が伝った。 忠成を押し倒してしまいたい、という衝動を押し殺すのは存外骨の折れる作業だった。 心を落ち着けるためにゆっくりと深呼吸をすると、俺は忠成の目をしっかりと見つめ返しながら言葉を紡ぐ。「忠成。チュウが死んで……本当は寂しいんだろう?」 意を決して告げた言葉に、忠成が瞳を見開いた。 それから、不自然な態度で視線を逸らす。「そ、んな、ことない……。俺、思ってた以上に平気……だったし」 しどろもどろにそう言って「現に……チュウが死んだとき、俺が泣かなかったの、お前だって知ってる、だろ……?」 切り札のようにそう付け加えた。「ああ。知ってるさ」 だから問題なんじゃないか! こいつ、俺がそんなに鈍感な奴だと思っているんだろうか? そう思ったら、無性に腹が立ってきた。「知ってるから心配してるんじゃないか…&hell
しっかり抱いているように見えたが、握り締めていたわけではなかったらしい。 思いのほか簡単に抜けた枕を、俺はベッド横の床に置いた。 その途端、眉間にしわを寄せてうなされる忠成。 無意識に両手を伸ばして枕を探す仕草をする。 俺は、黙ってそれを見つめていた。 いつもなら、眠っている忠成から枕を奪うような真似はしない。 したとしても、今みたいになったら迷わず自分の手を差し出していた。 忠成は、とりあえず何かを抱いていれば落ち着くことを知っていたから。 でも、今夜は何も差し伸べてやるつもりはない。 一生懸命何かを掴もうと宙を掻く忠成の両腕を見つめながら、俺は「冷淡になれ」と自分に言い聞かせた。 本当は、こんなに辛そうな忠成の顔を見るのは耐えられない。 今すぐにでもその手を取って、自分の腕の中にきつく抱きしめてしまいたい。 そうすれば、忠成がホッとした顔をして眠り続けることを知っているのだから。「……んっ!」 しばらくそのままにしていたら、忠成が苦しそうに吐息をついてゆっくりとまぶたを上げた。 そうして自分の両腕に枕が握られていないことに気付くと、ハッとして起き上がった。 そこで、すぐ傍にいる俺に気付く。「秋、連……?」 きょとんとして俺を見つめてから、「枕は?」と恐る恐る口を開く。 まさか俺がわざと取り上げただなんて思いもしないんだろう。 純粋に問いかけてくるその視線に、俺は視線を逸らしたいような衝動に駆られる。 でも、ここで逃げては駄目だ。 そう言い聞かせると、一呼吸置いて、「俺が取り上げた」 淡々とそう告げた。 その台詞に、忠成が瞳を見開いたのが分かる。「……な、んで……そんな……こと?」 解せな
机に向かっていても、勉強なんてはかどるはずがない。 後ろで忠成が眠っている気配がするからだ。 スースーという規則正しい寝息が、エアコンのモーター音より遥かに大きく聞こえてしまう。 これで気にするな、というほうが無理だ。 一応俺だって健全な男。気になる存在が、すぐ傍で無防備にしているのを知っていて平常心で居られるはずがない。 落ち着け落ち着け、と強く心に念じるけれど、そうしていること自体、気にしている証拠だ。 壁の時計を見ると、さっき見てから五分しか経っていない。 数分おきに時計を見上げては、一向に落ち着きを取り戻せない心臓に舌打ちをする。 そんなことを、さっきから何十回続けただろう。「11時過ぎか」 忠成が「おやすみ」を告げてから、優に2時間以上が経過していた。 そろそろいいだろう。 忠成が眠りについてすぐ、部屋の電気自体は落としてある。それで、机に付随している小さな蛍光灯の明かりだけが部屋内を照らす全てだった。 頼りない明るさの中、恐る恐る後ろを振り返ると、俺の影が重なるところに、薄っすらと忠成のシルエットが見えた。 やっぱり今日も枕を抱きしめているみたいだ。 音を立てないよう細心の注意を払いながらベッドサイドに歩み寄ると、俺は苦々しい気分でその寝姿を見下ろす。「俺の前でぐらい素直になれよ」 まるで何かにすがりつくように枕を抱いて眠る忠成に、胸の奥がズキズキと痛んだ。 俺はこの幼馴染みが、一度寝入ってしまえば少々のことでは起きないことを知っている。 ベッドの傍らに腰を下ろすと、無防備に眠る忠成の頭をそっと撫でる。髪の毛に触れるか触れないかという、ソフトなタッチだ。このくらいで起きるはずがない。 そう思っていて、こんなにも胸がドキドキするのは、別の部分で反応しているからに他ならない。 ライトを後ろに背負う格好になっているせいで、俺が覆い被さると忠成の寝顔は影に沈んで見えにくくなる。