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第0682話

Author: 十一
風通しの良いあずまやの中で、陽一と時也は地面に座り、凛を二人で囲むように真ん中に座らせている。

時也はうたた寝をして、頭を少し垂らしている。海斗の角度から見ると、まるで凛の肩にもたれかかっているように見える。

陽一も目を閉じているが、姿勢は時也よりきちんとしていて、片手で頭を支えながら、肩は凛とくっついている。

これは決してずるいことをしているわけではなく、眠っている凛を支えられるようにするためだ。

だから、陽一は眠っていても肩の力は緩めることができず、ずっと同じ姿勢を保っている。

夜更けに、時也は見かねて、メンバーチェンジを提案した。

「いいよ、凛は軽いから」

……この野郎、恨みをすぐ討ち返すやつめ!

三人はきちんと服を着ていて、過激な身体接触もないのに、なぜか言いようのない曖昧な雰囲気が漂っている。

凛の熱は下がっていたが、頬にはまだ少し紅みが残っていて、それなのにぐっすりと眠っている……

これはいわゆる、嫉妬で頭に血が上った男には、何を見ても浮気に見えてしまうのだろう。

海斗の頭にガーンと音が鳴り、何かに強く叩かれたように、しばらく呆然としている。

その後から着いた職員や早起きして騒ぎを見に来た学生たちも、この光景を見ると、思わず固まってしまう。

こ、これは何という修羅場なの?

二人の男……いや、この「入江社長」の反応を見る限り、本当は三人の男なの?

早苗はドアが開くとすぐに飛び込んできて、出発時間は海斗とほぼ同じだったが、体が重いせいで追いつけなかった。

学而は後から来たのに、早苗を追い越したくらいだ。

その時、早苗は必死にほかの学生たちをかき分け、次の瞬間、目を丸くしてしまう。こ、これは……どういう状況?

でも、この三人は美形なんだから、一緒に寝ていても別にいいんじゃない?

自分の考えが脱線していることに気づき、早苗は慌てて頭を振った。一晩中の心配が一気に爆発して、凛に向かって全力で走り出した。

しかし、早苗よりも速い者がいる。

海斗は目を赤くして、昏睡状態の凛を二人の間からぐいと引き離し、自分の胸に抱きしめた。「凛!目を覚ませ!凛?!黙っていないで!」

時也と陽一は深い眠りについていたわけではないから、海斗の足音が近づくとすぐに目を覚ました。

しかし、それでも止めるには間に合わなかった。

海斗が凛を引きずる
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