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第170話

Author: 十一
注意深いネットユーザーの観察によって、動画を投稿したアカウントがB大学の公式アカウントであることが判明した。

その裏には大学側の関与があり、事実上、凛への擁護と釈明の姿勢を示すものだった。

動画の中では、陽一が最後の面接官として登場し、凛に質問を投げかける。

【えっ、まさかの英語!】

【これが手加減?どう見てもその場で難易度上げてるじゃん】

【正直、あの英語の問いが飛び出した瞬間、全身に電流走った】

【面接で学生にその場で問題解かせるの、初めて見たわ】

【庄司先生、ホワイトボードまで用意させてたってマジ?泣ける】

【ねえ、庄司先生ってめっちゃカッコよくない?うぅ……】

【なんか、研究者のイメージ完全に覆されたんだけど】

【あの金縁メガネ、心臓にぶっ刺さった。インテリ系の悪い男、永遠に推せる】

もちろん、コメント欄には批判もあった。「動画は捏造だ」「明らかに業者の火消しだ」といったような、悪意ある投稿も少なからず並んでいた。

だが、そうしたネガティブな意見も――熱意と事実をもとにした前向きなコメントの圧力の前に、次第に目立たなくなっていった。

真相が明らかになると、野次馬たちは即座に態度を翻し、怒りの声を一斉に爆発させた――

【私たちをバカにしてるの?】

【ふざけんな、俺たちを利用するつもりか?】

【ぶっ潰せ!】

すみれはずっとネットの動きを追っていた。世論が凛の味方へと大きく傾いたのを見て、急いでLINEを開き、凛にメッセージを送った。

その頃、外の空気もすっかり春めいていた。凛の家の鉢植えからは、小さな新芽が顔を出している。だが彼女の心はまだ落ち着かず、読書にも集中できずにいた。代わりに彼女はハサミを手に取り、黄色く枯れた葉を丁寧にひとつひとつ剪定していた。

そんな時、LINEの通知音が部屋に響いた。凛は顔を少し傾けてスマホの画面を確認する。そこには、すみれから送られてきたリンクが表示されていた。

彼女は手袋を外し、手を丁寧に洗ってからメッセージを開いた。

リンクを開くと、馴染み深い声が流れ出した。

自分の面接を第三者の視点で見るのはこれが初めてだったが、凛の注意はむしろ陽一に向いていた。

彼が質問を投げかけ、途中で「諦めるか」と尋ね、最後に彼女が回答を終えるまで──男の口元に浮かぶ、あるかないかの微笑。その一連の流れ
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