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第312話
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元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第312話
凛と時也が石のテーブルについて、何かを話しているようだ。二人はとても近い距離で寄り添っていた。女の子は真剣な顔で、男は熱心に耳を傾け、時々うなずいていた。陽一は時也の口元に浮かんだかすかな笑みを見逃さなかった。こんなに離れていても、その「求愛」するようなホルモンが感じられるほどだった。陽一の瞳の色は思わず深くなった。次の瞬間、彼はスマホを取り出し、朝日に電話をかけた。「もしもし、陽一、どうした？」「タピオカを飲みたいか？」「え？」朝日はスマホを見て、陽一からの電話だともう一度確認した。「どういう意味？なんで急にタピオカの話？」「飲みたいか？おごるから。他の人にも聞いておいて」朝日はすぐ大声で叫び出した——「庄司先生がタピオカをおごってくれるぞ！飲まない人は手を挙げて！よし、いない。じゃあ、全員飲むだって」「わかった。僕が買いに行く」「いや……出前を頼めばいいじゃん、楽なのに。なんでわざわざお店に行くのよ？」「ちょうど外にいるから、ついでに行く。何味がいい？」「どこの店で買う？」陽一はあるタピオカミルクティーの店の名前を言った。「俺は定番のオレオタピオカ、生乳ベースに変更、タロウイモ追加、砂糖30%で氷なし、それとたっぷりクリームチーズを乗せてほしい。真奈美は……」陽一は額に手を当てた。「君たち……注文が複雑すぎて覚えられない」朝日は呆れた。『冗談じゃないぞ！庄司先生は一目を見ただけで忘れないじゃなかったっけ。普段はあんな複雑な実験データだって一度見ただけで頭に入ってるくせに、これのどこが難しいって？』「それを雨宮さんに送ってくれ。下で彼女を見かけたから、ちょうど一緒に買いに行く」「わかった！いい考えだな！今凛に送る……」通話を終えると、朝日は素早くメッセージを打った。「やった！送信済み！」そして、音声メッセージを添えた。「凛ちゃん、よろしくね～」それを発送した後、彼の笑みが急に固まって——『違うぞ！陽一がタピオカを買いに行くなら、彼のスマホに送った方がもっと便利なのに、なぜ凛に送るんだ？わざと簡単なことを複雑にしてない？どういうこと？』……「雨宮さん」あずまやにいる二人は同時に顔を上げて、こっちを見た。「庄司先生？どうしてここに
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第311話
7時半、凛は研究室に到着した。他の人はまだ来ていないようだった。急に、休憩室から物音がした。足音と共に、陽一は中から出てきた。視線が合わせ、二人ともその場で固まった。陽一は昨日、自分が逃げ出したことを思い出し、少し不自然だった。凛は仮寝の後ろめたさと、偶然目にしたあの光景を思い出して……やはり落ち着かないようだった。「おはよう」男が先に口を開いた。凛はすこし頷いて返答した。「おはようございます」そう言って、すぐ自分の実験台に逃げるように向かい、作業に没頭し始めた。おかげで持ってきた昼ご飯を冷蔵庫に入れるのを忘れてしまった。「ちょうど休憩室に行くところだったから、僕が入れておくよ」「……ありがとうございます、先生」昼休み、凛は実験室を離れた。研究館を出た途端、時也がポケットに手を突っ込み、少し離れた所に立っているのが見えた。男はシャツをだらしなくも気ままに着こなし、襟元は少し開いて、スラックスと合わせても見苦しくなく、むしろ独特の洒脱さがあった。「ごめん、待ってた？」「今来たところ」「高橋先生はどうしたの？」男はあるファイルを取り出し、彼女に渡した。「これは高橋先生が専門科目の期末試験用に出した問題だ。自分で書くのが面倒だから、俺が一度解いて、参考用の解答を作ったら、その解答に沿って院生に採点させようだって」あのじじい、ほんとに仕事一切したくないんだな！全部自分に押し付けてきた！でも、これでもまだマシで、一番ひどいのは——「問題は解いたし、参考用の解答も作ったけど。渡しに行ったら、あのじじい、信用できないから、お前にチェックして、間違いないか確認してくれって言い出したんだよ！」その試験の問題は、全て前回凛からただで貰ったものだ。「彼女にチェックしてもらって何か問題でも？」なんてずる賢い人なんだ！「先生がチェックすればいいじゃないですか？」明和は考えてみた。確かに、秋恵からの話だと、あの子は最近実験や論文で忙しくて、時間がないらしい。提案を受け入れようとした時、時也は何かを思い出したように、急に前言を取り消した。彼はまず真面目に頷きながら言った。「先生の言う通り、凛にチェックしてもらうのが一番良いです」そして隙を見て提案した。「先生はお忙しいでしょ
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第310話
「君のお母さんはここ数年、ひどい目に遭わされてきたね」「ひどい目」という言葉に、凛の心は急に沈んだ。泉海は敏子と面談したいと考えていた。しかし凛は、母が臨市にいることと、文香との契約がまだ終わっていないことを理由にした。本当は何も決まっていない時期に、母の心を乱し、創作に影響を与えたくないからだ。泉海は契約の話を聞くと、すぐに凛に電子データを請求した。「急がなくていい。まずは君のお母さんの契約内容を研究するから、何かあればすぐ連絡するよ。僕が必ず君のお母さんと契約するぞ！」最後の言葉は、凛ははっきりと聞こえなかった。相手はそう言ったようだが、泉海は作者ではなく、作品しか契約しないじゃなかったの？凛は相手の言い間違いか、自分の聞き間違いだと思った。とくに気に留めなかった。慎吾は娘が急に真剣な表情へ変わったのを見て、手を止めて聞いた。「どうしたんだ、凛？お母さんとあの編集の間に何かあったのか？」「ちょっとした問題があるの。大したことじゃないから、解決策を考えている。とりあえずお母さんには言わないで。彼女の性格だと、すぐに影響を受けてしまうから」「わかった、気をつけておくよ」ビデオ通話の終わりにつき、食事も済んだ。凛はキッチンを片付けて、ゴミを捨てに下へ降りた。時間はまだ早かったから、消化のために、近所で一人散歩した。夕暮れの風は初夏の湿り気を帯びていて、顔に柔らかく当たり、とても気持ちよかった。日が暮れるにつれ、前は変態に尾行されたことを思い出すと、凛は外に長く過ごさず、すぐに家に帰った。お風呂に入ってから、机に向かい、凛は論文を読みながらノートを取った。寝る前の「日課」で、毎日欠かせないのだ。突然、携帯からLINEの通知が鳴った。凛は開いてみると——。【まだ忙しい？】【用事はある？】【用事がないなら連絡しちゃダメ？】凛はどう返信すべきかを2秒くらい躊躇った。ところが、男は彼女の返答を全く気にせず、すぐに次のメッセージを送ってきた——。【電話で話せる？】凛は思わず真剣になった。【いいよ】すぐに、男から電話がかかってきた——。冗談や戯れもなく、挨拶すら省かれて、いきなり本題に入った——。「この前、お前をストーキングしてた変態は、もう捕まったよ。証拠も
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第309話
「まあ、お前は毎日学長よりも忙しいみたいだね……」「じゃあ、先に失礼する」「あ、そうだ。聞き忘れてたけど、何を取りに戻ってきた？」朝日が彼の後ろ姿に向かって叫んだ。「質問が多すぎるのだ」「……」陽一が去った後、凛はもう少し眠った。仕方ない。昼寝しないと午後は集中力が続かず、仕事の効率に影響するから。14時になると、凛は起きて、簡単に顔を洗ってから、実験区域に戻った。真奈美たちも続々と昼休みを終えて、仕事に戻ってきた。「凛、顔が赤いよ。どうしたの？暑かったか？」え？凛は自分の頬を触った。「赤い？そうかもですね……」「奥の部屋はエアコンつけてたじゃない？なんでこんなに暑かったの？」「今日はつけ忘れたみたいです……」「そうか、お前も陽一と同じ、暑がりなんだね。さっき休憩室の外で彼に会ったけど、彼も顔を真っ赤にしてたよ」真奈美は思わず笑い出した。「そんなに大げさなの？顔を真っ赤にしてなんて……あれ、凛、さっきよりさらに赤くなってない？博文、エアコンの温度を下げて……」凛は絶句した。赤いかな？そんなことないよね！……また忙しい一日が終わり、今日も残業しなくていいから、凛は定時に研究室を出た。凛は帰り道でスーパーに寄った。この時間だと市場にはもう野菜が残っていないから、スーパーで買うしかない。食材を選び、家に帰り、30分をかけてお品二品とスープを作った。凛はスマホをスタンドに立て、食事をしながら慎吾とビデオ通話をした——。「お父さん、なんでこんな夜中に、まだ花の手入れしてるの？お母さんは何も言わないの？」「あの人ね、キーボードを叩くのに忙しくて、俺にかまう暇ないぞ」「最近、そんなにインスピレーションが湧いてくるの？」凛は眉を上げた。「編集と喧嘩さえしなければ、機嫌がいいんだ。機嫌がよくなると、自然とインスピレーションも湧くらしい」慎吾はここまで言うと、少し間を置いた。「そういえばあの編集、鈴木なんとかっての、最近電話してこないみたいね。前に気をつけるって言われたから気にしてたんだけど。前はあんなに喧嘩してたのに、最近は静かで不思議だな」「で、結局どうなったと思う？」凛は興味深そうな顔を浮かべた。「どうなったの？」「一昨日母さんの携帯を見たら、なんとあの編集
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第308話
ちょうど昼休みの時間で、実験室が静かだった。陽一は自分の休憩室のドアを押し開け、まずは洗面台で手を洗い、顔を拭いてから奥の部屋へと進んだ。彼の着替えは全部奥の部屋に置いてある。ドアを開けてクロゼットの前に立ち、シャツのボタンを外しながら清潔な服を取り出した。凛は男がドアを押した瞬間に目を覚ました。折りたたみベッドはドアの後ろに置いてあるから、ドアが開くとちょうど彼女を隠すように見え、自然な隠れ場所となっていた。しかし、隠れているからといっても、閉鎖されているわけではない。ただ見つかりにくいだけで、本当に何も見えないわけではなかった。だから、彼女が目を開いた瞬間、男がシャツを脱いでる最中で、すでに肩まで下げているところを見てしまった。凛は茫然とした。彼女がここに人がいることを伝えるべきかどうかを悩んでいるうちに、男は上半身の服をすっかり脱いでしまった。もう悩む必要もなくなった。こんな状況で声をかけてもただ気まずくなるだけだ。そこで凛は……目を閉じて、寝たふりをすることを選んだ。しかしそれでも、目を閉じる前に見た光景——男の裸の背中、ちゃんと整えた筋肉のライン、広い肩幅と引き締まった腰——が頭から離れようとしなかった。その画面はとても鮮明だった。凛は急に、泥棒になったような気分だった。陽一は清潔なシャツに着替えて、脱いだものをきちんと畳んでから出ようとした。振り返った瞬間、彼はふとドアの後ろからはみ出した折りたたみベッドの一角に気づいた。何かを思い出したように、彼は息をのんで全身が硬直した。足音を忍ばせてドアのそばまで行き、ゆっくりとドアを引き寄せたが……案の定――凛は折りたたみベッドで昼寝をしているようだ。しかし、どうやら凛はまだ起きていないようで、陽一はようやくほっとした。少女はぐっすり眠っていて、閉じたまぶたに、長いまつげは小さな扇子のようだった。ただし……体にかけている毛布がずれ落ちていた。陽一はそれを拾い上げ、そっと掛け直した。少女の寝顔を見つめると、少し放心状態になった。気がつくと、彼はほとんど慌てたように視線を逸らし、急ぎ足で奥の部屋を後にした。幸い、彼自身以外には、その時の狼狽ぶりや……鼓動の速さを知る者はいなかった。凛は寝たふりをすること
元カレのことを絶対に許さない雨宮さん 第307話
晴香は悔しくて涙をこぼしながら、かすれた声で怒鳴った。「お金がないって言ってるでしょ！お金がないんだよ！本当にないのよ！殺したってお金がないわ、これ以上どうしろっていうの？！」理子は他の言葉は聞き流し、「お金がない」だけを拾い上げた。「ないなら男と寝ればいいじゃない！寝たらお金をもらえるでしょ？！小さい頃から教えているのに、どうして覚えられないのよ？！」「どこに男がいるの？私なんか相手にしてくれないわ！誰と寝るっていうの？！」と晴香は叫んだ。理子は目をきょろきょろさせながら、ようやく娘の話に違和感を覚えた。この穀潰しから金を絞り取れるかどうかに関わることもあって、ついに麻雀卓から離れ、静かな場所へ移動した。「相手にしないってどういうこと？あのお金持ちの彼氏はどうしたの？この前はもうすぐ名門に嫁ぐって言ってたじゃない？一体何があった？」「もしかして彼らの気が変わったの？」晴香は母親の高ぶった口調に、自分を心配してくれているのだと勘違いし、一気に悔しさが込み上げてきた。泣きながら最近の出来事を全て話した。理子は聞いているうちにカンカンに怒った。「入江なんとかの一家は本当にけしからん！人の娘と寝て、子供まで孕ませたのに、簡単に捨てられるなんて？」慰謝料もなしなんて、ひどすぎるよ！そう思うと、女の目が鋭く光った。「いい子、待ってて。お母さんと弟が今すぐチケット取ってそっちに行くから。あなたの味方よ！この件は絶対にこんなんじゃ終わらせない！」……凛の論文は最後の仕上げ段階に入っていた。そのため、彼女はここ最近、ほとんど実験室にいた。真奈美も思わず感嘆の声を漏らした。「あなたって本当に頑張り屋だね！」凛はため息をついた。彼女にはアシスタントもいなければ、チームメイトもいない。頑張らなければどうする？昼ごはんを取った後、凛はいつものように休憩室で昼寝をすることにした。どんなに忙しくても、休息の時間は必ず確保する。しっかり休めば、午後の仕事効率も上がるからだ。陽一は今日一日中授業があって、研究室には来ない。だから休憩室を独り占めできる凛は、気持ちよく背伸びをした。彼女は横になり、昼寝の時間を楽しみ始めた。他の四人にもそれぞれの休憩室がある。凛が後から来たから、研究室には五つの休憩室だけがあり、彼女専
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