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第10話

Author: クリスタル白菜
――安田洋 番外編――

俺は片山亜希のことが好きだったのか。愛していたのか。

その問いに、今でもはっきり答えることはできない。

付き合い始めた頃の俺は、ただ一つだけ思っていた。こいつは、本当によくできた彼女だ、と。

俺が外で何をしても、責めない。泣いて縋ることも、ヒステリックに騒ぐこともない。

ただ静かに、俺のそばにいてくれた。

そんな彼女がいる生活は、居心地がよかった。

家に帰れば、自分のことを気にかけてくれる誰かが待っていてくれる。

日常生活の面倒を全部見てくれる。それだけで十分だった。

しかも、俺の交友関係に口を出すこともなければ、自由を縛ろうともしない。

俺はそんな生活を、当たり前のように享受していた。

亜希は毎日、俺の世話をしてくれた。

酔って帰れば、必ず酔い覚ましの味噌汁を作ってくれる。翌朝になれば、温かい朝食が食卓に並んでいる。

そんな毎日が、ずっと続くものだと思っていた。

亜希が結婚したがっていることにも気づいていた。

何度も遠回しに伝えてきたし、時にははっきり口にしたこともある。

ペアリングを買いに行こうと言われたときも、断らなかった。
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  • 元カレくんごめん、私、結婚した!   第10話

    ――安田洋 番外編――俺は片山亜希のことが好きだったのか。愛していたのか。その問いに、今でもはっきり答えることはできない。付き合い始めた頃の俺は、ただ一つだけ思っていた。こいつは、本当によくできた彼女だ、と。俺が外で何をしても、責めない。泣いて縋ることも、ヒステリックに騒ぐこともない。ただ静かに、俺のそばにいてくれた。そんな彼女がいる生活は、居心地がよかった。家に帰れば、自分のことを気にかけてくれる誰かが待っていてくれる。日常生活の面倒を全部見てくれる。それだけで十分だった。しかも、俺の交友関係に口を出すこともなければ、自由を縛ろうともしない。俺はそんな生活を、当たり前のように享受していた。亜希は毎日、俺の世話をしてくれた。酔って帰れば、必ず酔い覚ましの味噌汁を作ってくれる。翌朝になれば、温かい朝食が食卓に並んでいる。そんな毎日が、ずっと続くものだと思っていた。亜希が結婚したがっていることにも気づいていた。何度も遠回しに伝えてきたし、時にははっきり口にしたこともある。ペアリングを買いに行こうと言われたときも、断らなかった。そんなのただの指輪だ。何かを意味するわけじゃない。彼女がそれで喜ぶなら、それでいいと思った。ウェディングフォトを撮りたいと言われたときも同じだ。着替えて写真を撮るくらい、大したことじゃない。だから付き合った。俺なりに、亜希の気持ちを受け入れているつもりだった。なのに、彼女はどこか満たされないままだった。そしてある日の喧嘩を境に、彼女は家を出て行った。荷物を全部持って。俺は追いかけなかった。その必要はないと思っていたからだ。それまでだって何度も喧嘩をした。そのたびに放っておけば、数日後には何事もなかったように戻ってきた。今回も同じだと信じていた。―――けれど違った。何日経っても、何週間経っても、亜希は戻ってこない。電話もない。連絡もない。まるで俺の人生から本気で消え去ろうとしているかのように、姿を消した。その頃の俺は、自分を麻痺させたく、毎日のように酒を飲んでいた。そんなある日、事故に遭った。病院のベッドで連絡先を開いてみても、呼べる相手なんて亜希以外に一人もいなかった。だけど、自分から連絡するのは癪だった。だから晴也に電話

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    そう言って電話を切り、私はホテルのエントランスへ向かった。遠くからでも、洋の姿はすぐに分かった。私が近づくと、彼はじっとこちらを見つめている。私は彼の前で立ち止まり、声を潜めた。「今日は私の結婚式なの。お願いだから、邪魔だけはしないで」「亜希」洋は私の手首を強くつかんだ。「帰るぞ。俺がお前を連れて帰る」私は手を振りほどこうともがく。「放して。私には、もう帰る家があるの。お願いだから放して」その瞬間だった。「手を離せ」低く落ち着いた声が割って入る。洸太だった。彼は足早に私たちのもとへ駆け寄ると、私を自分の後ろへかばい、洋の手を払いのけた。「安田さん、これ以上、私の妻につきまとわないでください」その一言で、洋の表情が一変する。「亜希はお前の妻じゃない。俺のだ」洸太は表情一つ変えなかった。「今日は私たちの結婚式です。お祝いに来てくださったのであれば歓迎します。でも、邪魔をするつもりなら、お引き取りください。容赦はしません」二人の間に張りつめた空気が流れる。今にも殴り合いになりそうな気配に、私は慌てて洸太の腕をつかんだ。「洸太、今日は私たちの大切な日だから、落ち着いて」彼は私の言葉を聞き、やがて冷静になった。「……分かったよ。亜希、ここは俺に任せて、控室へ戻ってて」「ううん、私が話す」そう言って私は一歩前へ出る。洋の前で足を止め、静かに口を開いた。「私はずっと、あなたと結婚する日を夢見てた。一緒に指輪を買ってもらったのも、ウェディングフォトを撮ったのも、そのためだった。でも洋、あなたは、一度でも私と結婚したいと思ったことがあった?」その問いに、洋は顔を強張らせた。「亜希、俺は……」「あなたは私を愛していたんじゃない。ただ、私がいる生活に慣れていただけ」私は俯き、苦笑いがこぼれた。「今さら私を取り戻そうとしているのも、失って初めて不便だと感じたからでしょう?でも私は、あなたが慣れているからという理由だけで、一生その場に立ち止まって待ち続けることはできない。洋、もし少しでも私を大切に思ってくれたことがあるなら、もう私の前には現れないで」洋は黙って私を見つめ続けた。やがて小さく息を吐く。「……悪かった。今までお前をない

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    晴也は招待状を受け取ると、真っ先に洋のもとを訪れた。「亜希が結婚する。式は3日後だ」その言葉を聞いた瞬間、洋は晴也のスマートフォンをひったくった。画面に表示された招待状を見た途端、その顔色が変わる。次の瞬間、スマートフォンは床へ叩きつけられていた。「片山亜希……俺に隠れて、ほかの男と連む気か!」晴也は眉をひそめる。「洋。友達として言わせてもらうけど、今回、お前は亜希を本当に傷つけた。覚悟しておいたほうがいい。彼女はもう、お前のところへは戻ってこないかもしれない」「そんなわけない」洋は即座に言い返した。「片山亜希は俺のものだ。ほかの男と結婚なんて、俺が認めるわけない」……私は、もう一度洋と会うことがあるとすれば、何年も先、またあの都市を訪れたときだと思っていた。まさか、結婚式の前日に彼が私の地元まで来るなんて、想像もつかなかった。母と話をしていると、スマートフォンが鳴った。画面に表示された名前は――安田洋。まさか彼から電話してくるなんて。洋はプライドが高く、自分から折れるような人ではない。だからこそ、家を出るときも、私は彼をブロックしなかった。どうせ、電話なんてかかってこないと思っていたから。少しためらったあと、私はベランダへ出て電話に出た。「もしもし」「今、お前んちの前にいる。降りてこい」私は思わず身を乗り出した。見下ろすと、本当に洋の車が家の前に停まっている。「……どうして実家の場所を知ってるの?」「いいから降りてこい」低く抑えた声だった。怒りを必死に押し殺しているのが伝わってくる。以前の私なら、きっと何も考えずに駆け下りていただろう。でも、もう違う。私は彼との関係に、自分で終止符を打った。もう、彼の言葉に従う理由はない。「安田さん」私は静かに言った。「私たちは、とっくに別れています。それに明日は私の結婚式です。今さら二人で会うのは適切じゃありません。用件があるなら、このまま電話でお願いします」その言葉が洋を不快にさせた。「片山亜希、俺はわざわざ頭を下げに来たんだ。今すぐ降りてこい。そうしたら全部元どおりだ。お前はこれまでどおり、俺の彼女でいれる」私は思わず笑いそうになった。この人は、今でも本気でそう思っている。自分さえ折れれば、

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  • 元カレくんごめん、私、結婚した!   第5話

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