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第363話

Author: 雪吹(ふぶき)ルリ
逸夫が現れた。

彩たちは昨日、養生薬局ですでに逸夫を見ていたが、再び彼を目にすると、その表情は一変した。

逸夫は真夕のそばまで歩いてきた。「真夕、ちょっと電話を取ってたんだけど、何かあった?なんだか盛り上がってたみたいだね」

真夕は赤い唇を吊り上げて微笑んだ。「ううん、ちょうどいいところよ。みんな、私の彼氏に会いたいって言ってたところなの。つまり、あなたのこと」

真夕は逸夫に軽くウインクを送った。

逸夫はすぐに察し、真夕のか弱い肩を腕で包み込んだ。「この方たちは?」

真夕は一人ずつ紹介した。「こちらが池本家の大奥さんで、そして池本藍さん、池本彩さん、それと池本華さんだ」

そして真夕の視線は司の端正な顔に移った。逸夫が現れた瞬間、司の表情もまた変わっていた。

司は明らかに、真夕の彼氏が逸夫だとは夢にも思わなかった。

真夕は堂々と言った。「この方は、紹介しなくても分かるよね。堀田社長だ」

逸夫は司に視線を向けた。「そうだね。堀田社長とは以前にもお会いしたことがあってね。今日は堀田社長のところにお邪魔させていただくよ、どうぞよろしく」

司は逸夫を見つめ、唇を冷たく引き結んだ。「君が池本の彼氏か?」

逸夫は真夕の肩を抱いたまま言った。「俺たちの関係、見れば分かるだろ?」

彩、華、藍、そして池本家の老婦人は、しばらく呆然として言葉を失った。真夕が「金持ちの彼氏がいる」と言っていたことは、誰も信じていなかった。まさか、あの有名なF国の大物である逸夫が、その彼氏だったとは。

あり得ない。

今日ってエイプリルフールだっけ?

彩は慌てて言った。「島田さん、どうして彼女なんかと付き合ってるの?彼女が結婚してたこと、知ってる?」

逸夫は唇をゆるめて笑った。「もちろん知ってるよ」

「それでも?」

堂々たる島田さんが、まさかバツイチの女を好きになるなんて?

逸夫は司に目を向けた。「真夕の元夫って、堀田社長だよね?やっぱり優秀な男は見る目があるというか……真夕は素晴らしい女性だから。堀田社長が好きだったのも納得だし、俺も同じく彼女が好きだ」

彩「……」

華「島田さんは、彼女が天才少女って言われてるから目をつけたんでしょ?でも言っとくけど、あれは名ばかりの称号だ。今じゃ仕事もなくて、男に寄生して生きてるだけなんだから」

逸夫は疑問の表情で真夕に向き直
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